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第4話
ピアニストと言っても、世界を飛び歩くほどの規模ではなく、オメガの体力に見合う範囲内で、赤ちゃんとお母さんのためのコンサートや、お昼のロビーコンサート、結婚披露宴の生演奏、レストランやバーのライブ演奏などの仕事を請け負っている。
今日は小学校でのミニコンサートで、子どもたちが飽きないよう、途中で楽しく歌ったり、踊ったり、手拍子したりする曲もプログラムに組み込んだ。
学校でのコンサートのあとは給食をごちそうになれるのも楽しみの一つで、今回は三年生の教室へ案内されて、あらためて自己紹介をする。
「ピアニストのウサギといいます。みんなと同じようにちゃんと人間らしい名前もあるんだけど、一緒に住んでいる黒豹に、毎朝毎晩本当の名前を忘れそうになるくらい『ウサギ!』って呼ばれているので、ウサギって名乗っています」
ニコニコ挨拶をして「4班の席へどうぞ」と案内してもらい、子どもたちを見渡す。獣人の子が一人いて、つい親しみのこもった眼差しを向けつつ、子どもたちに声を掛ける。
「ピアノって習ったことある? 楽器のお稽古に通う人って、今は少ないのかな?」
「僕、三味線習ってる!」
「お三味線? かっこいいねぇ!」
最初はこちらのペースで会話できるが、すぐに子どもたちから質問が飛ぶ。
「先生、何歳?」
「二四歳。先生じゃないけど」
「結婚してる?」
「してないよ」
「オメガなのに、アルファがいないの?」
「い、いないねぇ」
「いい匂いしないの?」
「どうなんだろう? 自分ではわからないから」
「早く結婚したほうがいいのにね。赤ちゃん産むのも育てるのも体力が必要だから、若いほうがいいんだよ!」
「そっか。そうかもしれないねー」
ウサギは笑顔で牛乳パックのストローを噛み潰した。
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