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第6話

「見合い、ですか?」 「ベータのお嬢さんなんだけどね、ご実家が病院を経営なさってて、悪い話じゃないと思うんだ。先生の腕前なら独立してもやっていけると思うし、いい匂いがするオメガさんと出会っているようでもないしね」 「はあ。結婚には向いてないと思うんですよね、俺」 「それはないでしょう。真面目で、仕事熱心で、派手に遊ぶでもなく、家庭的だとお見受けしますよ」 「休みの日は家事をこなして、寝るくらいしかやることがないので」 「結婚すれば家事は奥さんがやってくれますよ」 「そうだといいですけど」 曖昧に笑ったのが裏目に出て見合い写真と釣書の入った封筒を押しつけられた。 「返すからな、汚すなよ」  帰宅するなり、ウサギが封筒に飛びついた。 「わーお。めっちゃ清楚! 紺のワンピース、ハーフアップ、優雅な微笑み。幼稚園から大学まで一貫校。これは結婚しなきゃ嘘でしょ。ってか、黒豹まで話が回ってくること自体奇跡! よくまぁほかの方のところへ行かずに!」 「もったいなさすぎて、釣り合いが取れないってことじゃないのか」 「あー、それはウチの黒豹も一緒だけどねー。まぁよろしいんですかぁ? こんな黒豹で! 今ならもう一匹黒豹をおつけして、たったの二九八〇円!」 「安すぎる上に、もう一匹はどこにいる? ドッペルゲンガーはゴメンだ」 「弟も黒豹じゃなかったっけ?」 「なんで兄弟でどんぶりしなきゃならねぇんだよ」 「一人じゃ足りないなら、二人かなって」 「てめぇ、一人でたりなかったら、二人とヤるのか」 「やーん。うさぎちゃんのお腹はちっちゃくて、すぐにいっぱいになっちゃうから、一度にそんなにお相手できないけどー」 「けっ」 互いにあっかんべーと舌を出し合って、階段を挟んだそれぞれの部屋に引っ込んだまま、何となくすれ違ってそのまま見合いの日を迎えてしまった。  黒豹はダークカラーのビジネススーツを着て、ネクタイを締める。  防音室のドアを開けると激しいピアノの音色が土石流のように流れ出てきた。 「行ってくる」 「行ってらっしゃい」

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