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第8話
明日、郁瀬に何て言おうかな…。言い訳みたいだけど、数合わせで仕方なく…って誤解を解きたいなぁ。でも、郁瀬は俺の話を聞いてくれるのだろうか……。
「佐野くん?だよね?隣いい?」
「え、あ…、どぞ。」
どう誤解を解こうか考えていたら、俺の隣に女の子が座ってきた。
茶髪で毛先だけ巻いて、可愛いと言うより綺麗系美人。
「ね、佐野くんて本当に彼女いないの?」
「…いない。」
「そうなんだ!じゃあさ、番号教えてよ!」
「あー、ごめん。俺、数合わせで来ただけだから、そういうのは…。」
「えー、ノリ悪ー。」
「ご、ごめん…。」
かわし方がわからなかった俺は、つい馬鹿正直に答えてしまい、相手の子を不機嫌にさせてしまった。
ジト目でこちらを見られ、その視線が痛い。
「ナナちゃん、そんなこと言っちゃダメだよ。数合わせなら仕方ないし、私もそうだから席代わろう?」
不意に背後から声がして、俺たちに流れていた気まずい空気が断ち切られる。
「あ、莉乃…。わかった、佐野くんもごめんね。」
「あ…、いえ、こちらこそ…。」
そう言ってナナと呼ばれた子は、ペコと頭を下げて他の席に行き、代わりに莉乃と呼ばれた子が隣に座った。
「さっきはナナちゃんがごめんね。でも、悪気はないから許してあげて?」
「あぁ、うん、わかってるから。…ありがとう。」
「よかった。私も数合わせで来たんだ。」
「そうなんだ。てかお互い数合わせなら、来る必要なかったよね。」
「あははっ、たしかに!」
莉乃さんの印象は、友達思いの優しい子。
小顔でショートボブがよく似合ってる。
数合わせと可愛い顔からして、彼氏がいるんだろうなと思った。
「あ、申し遅れました。高坂莉乃です。」
「あっ、ご丁寧にどうも。佐野悠です、よろしく。」
「悠…?…あっ!」
「…?」
俺のフルネームを聞いて一瞬考え込んだ後、何かを思い出したように、パッと顔を上げる。
「あの、私…っ!モモちゃんの…、郁瀬桃くんの…そのっ!」
「郁瀬の、彼女…?」
「うん!佐野くんの話はよく聞くんだぁ!」
衝撃的な事実の後に、嬉しそうな表情を向けられ、俺は思わずフリーズしてしまった。
だってまさか、こんな所で会うなんて…誰が想像しただろうか…。
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