10 / 14
第9話
「今日の合コン、数合わせって言っても、よく郁瀬が許したね?」
「あー、モモちゃ…、郁瀬くん合コン嫌いだもんね。」
「ハハ…、"モモちゃん"でいいよ。」
「あ、ごめんね、いつもそう呼んでるから…、なんか恥ずかしいなぁ。」
顔を赤くさせて微笑む彼女。
…俺と同じで、郁瀬に恋してる彼女。
「…郁瀬を…、よろしくね。」
「えっ、あ、はい!」
そんな彼女が、とても綺麗だと思った。
それから数時間が経って合コンがお開きになり、店を出ると外はすっかり暗くなっていた。
「莉乃さん、家どこ?遅いし、送ってくよ。」
郁瀬の彼女だから、余計何かあったら困ると思い、声をかける。
「あ、ありがとう。でも家近いし、友達と帰るから大丈夫だよ!」
「そっか。じゃあ、気を付けて。」
「うん!佐野くんも、気を付けてね!」
断られて少しホッとした自分に気付かないフリをして、帰ろうとした時。
「悠!!」
「…え?」
「あれ、モモちゃん?」
焦ったような郁瀬の声に、ピタリと足を止めて振り向いた。
「こんな遅くまで!連絡しても返事ないし!」
「えっ?あ、ごめん…?」
なんで郁瀬が…?肌寒い時期なのに、うっすら額に汗かいてるし…。連絡つかないから心配して探してくれてたのか…?
…俺を?
「モモちゃん!」
「え、莉乃?なんで…。」
「ほら、数合わせで合コン行くって言ったでしょ?佐野くんも数合わせで来たんだって!」
「数合わせ…?」
莉乃さんの言葉に、少し目を見開いて俺を見る郁瀬。その視線は、俺の弁解を待ってくれているかのようで…。
「杉野に言われて、それで……って、そんなことより、せっかく郁瀬が来たなら莉乃さんと一緒に帰りなよ!」
それが嬉しくて、つい言い訳をしようとしたけど、不意に視界に入った莉乃さんを見て、俺は言葉を切り、二人で帰るように催促した。
郁瀬が俺を心配して探してくれたことは凄く嬉しかったけど、正直、莉乃さんと一緒にいるところを見るのは少し辛い。
よろしくなんて言ったけど、まだ完全に郁瀬の事を諦めれたわけじゃないし、この気持ちは莉乃さんに対して罪悪感もある。
「じゃあ、俺帰るから。また明日~。」
口早にそう言い、ヒラっと手を振って二人に背を向け歩き出す。
「じゃあモモちゃん、私たちも行こっか。」
本当は、ちゃんと誤解を解きたかった。
でも、莉乃さんと知り合って、何も言えなくなった。だって、言ったところで俺は振られる。
嫌な子だったらよかったのかもしれないけど、俺は確信してしまったんだ。…郁瀬は莉乃さんとなら、幸せになれるって。
まぁ俺、男だし。
将来的に子供も出来なければ世間体だってある。そんなリスクを背負うより、普通に家庭を持った方が幸せなんだ。
「モモちゃん?どうし……っえ!?」
…あー…、泣きそう。
「うわ…っ!?」
「帰るよ。」
「…はっ?えっ、ちょ…!?」
郁瀬たちの事を考えて少し泣きそうになってたら、突然腕を掴まれ引っ張られる。
しかも引っ張っているのは何故か郁瀬で、後ろから莉乃さんの声が聞こえていた。
ともだちにシェアしよう!