11 / 14
第10話
「ちょっ、なんで…っ!郁瀬!離せよ、おいっ!莉乃さんが呼んでるぞ!」
「………。」
「おいって…、なぁ…っ!」
突然のことでテンパりながら、必死で郁瀬に声をかけるが無視される。何気に郁瀬の力が強くて振りほどけない俺にできることは、大人しく引っ張られることだけだった。
しばらくしてついたのは、郁瀬の家。
無言で靴を脱ぎ、部屋に入るまでその手が離されることはなかった。
「い、くせ…?」
「………。」
部屋に入ると俺の手をパッと離し、俺を見つめる郁瀬。その瞳は、怒っているのか何なのか、俺にはわからない。
「………。」
「………。」
沈黙が重く、郁瀬の視線が痛くて下を向く。
郁瀬、怒ってる?なんで?俺が連絡しなかったからか…?確かに今まで帰りは一緒で、郁瀬の家に寄るのは日課だったし、連絡も来ればすぐ返してたけど…。一応今日は合コンって知ってたのに、そんなに心配することか?…って、いやいや、それなら普通俺より莉乃さんだろ!
「はぁ…。」
「い、郁瀬…?」
ため息を吐かれ、ビクリと肩を揺らしながら、オズオズと顔を上げる。
怒っているというか、不機嫌そうな顔の郁瀬を見て、俺はやっと気が付いた。
「…悠。」
「ごっ、ごめん!郁瀬の彼女が来るなんて知らなかったから!!わざとじゃ…っ!でも本当に何もないしっ!お互い数合わせってだけで世間話を少ししただけっつーか!いや、ほんと彼女は郁瀬の事しか見てないから!俺なんて空気だしっ!?」
名前を呼ばれたところで、怒られる前に全力で謝り、言い訳をする。
彼女と仲良さげに話したのが、郁瀬にとっての地雷だったんだと思ったから。
「だ、から…、次から気をつける…から…。」
今までどんなにゲームで不正行為をしようと、お菓子を取ろうと怒らなかった郁瀬が、彼女の事で怒るなんて…、俺からしたら自爆もいいとこだ。
こんな郁瀬は初めてで、なんだか悲しみで溢れてきた俺は、再び俯いた。
「…次も誘われたら行くの?」
「…え…?」
シュンとなってたら唐突に質問されて、パッと郁瀬を見る。
「数合わせでも、誘われたら行くの?って聞いてんの。」
「あ、いや…。断るつもり…だけど…。」
「ふーん。」
俺の答えを聞いて、不機嫌な顔ではなく、いつもの穏やかさが戻った郁瀬。
その切り替えの引き金がよくわからなくて、機嫌が直った今、帰った方がいいのでは?と自分の中で結論が出た。
「えっと…、じゃあ俺、帰…、」
「悠。」
「はい。」
「そこに座って。」
「…はい。」
が、すぐに言葉を遮られ阻止されてしまい、郁瀬が指をさしたベッドに上がって正座すると、郁瀬もギシッと音を立てながら俺の前に来る。
「…?郁瀬?ベッドで何す…っうわっ!?」
…え?
「いく…せ…?」
視界が反転した後、目の前には郁瀬の顔があり、数秒かかって押し倒されたと理解した。
ともだちにシェアしよう!