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第10話

「ちょっ、なんで…っ!郁瀬!離せよ、おいっ!莉乃さんが呼んでるぞ!」 「………。」 「おいって…、なぁ…っ!」 突然のことでテンパりながら、必死で郁瀬に声をかけるが無視される。何気に郁瀬の力が強くて振りほどけない俺にできることは、大人しく引っ張られることだけだった。 しばらくしてついたのは、郁瀬の家。 無言で靴を脱ぎ、部屋に入るまでその手が離されることはなかった。 「い、くせ…?」 「………。」 部屋に入ると俺の手をパッと離し、俺を見つめる郁瀬。その瞳は、怒っているのか何なのか、俺にはわからない。 「………。」 「………。」 沈黙が重く、郁瀬の視線が痛くて下を向く。 郁瀬、怒ってる?なんで?俺が連絡しなかったからか…?確かに今まで帰りは一緒で、郁瀬の家に寄るのは日課だったし、連絡も来ればすぐ返してたけど…。一応今日は合コンって知ってたのに、そんなに心配することか?…って、いやいや、それなら普通俺より莉乃さんだろ! 「はぁ…。」 「い、郁瀬…?」 ため息を吐かれ、ビクリと肩を揺らしながら、オズオズと顔を上げる。 怒っているというか、不機嫌そうな顔の郁瀬を見て、俺はやっと気が付いた。 「…悠。」 「ごっ、ごめん!郁瀬の彼女が来るなんて知らなかったから!!わざとじゃ…っ!でも本当に何もないしっ!お互い数合わせってだけで世間話を少ししただけっつーか!いや、ほんと彼女は郁瀬の事しか見てないから!俺なんて空気だしっ!?」 名前を呼ばれたところで、怒られる前に全力で謝り、言い訳をする。 彼女と仲良さげに話したのが、郁瀬にとっての地雷だったんだと思ったから。 「だ、から…、次から気をつける…から…。」 今までどんなにゲームで不正行為をしようと、お菓子を取ろうと怒らなかった郁瀬が、彼女の事で怒るなんて…、俺からしたら自爆もいいとこだ。 こんな郁瀬は初めてで、なんだか悲しみで溢れてきた俺は、再び俯いた。 「…次も誘われたら行くの?」 「…え…?」 シュンとなってたら唐突に質問されて、パッと郁瀬を見る。 「数合わせでも、誘われたら行くの?って聞いてんの。」 「あ、いや…。断るつもり…だけど…。」 「ふーん。」 俺の答えを聞いて、不機嫌な顔ではなく、いつもの穏やかさが戻った郁瀬。 その切り替えの引き金がよくわからなくて、機嫌が直った今、帰った方がいいのでは?と自分の中で結論が出た。 「えっと…、じゃあ俺、帰…、」 「悠。」 「はい。」 「そこに座って。」 「…はい。」 が、すぐに言葉を遮られ阻止されてしまい、郁瀬が指をさしたベッドに上がって正座すると、郁瀬もギシッと音を立てながら俺の前に来る。 「…?郁瀬?ベッドで何す…っうわっ!?」 …え? 「いく…せ…?」 視界が反転した後、目の前には郁瀬の顔があり、数秒かかって押し倒されたと理解した。

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