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第4話
すぐさま医療センターへ行くと、そこでも様々な検査をされた。一日だけでは終わらず、何日も検査に通ってようやく結果が出た。
そこで優吾は初めて、自分の身体が普通の人々とは違うことを知らされたのだった。
「オメガ……バース? どういう病気ですか」
聞きなれない言葉に戸惑った。医師は穏やかだが感情の見えない顔で「病気ではありません」と答える。
「性分化疾患の一つと捉えられていますが、まだはっきりしたことはわかりません。ただ、適切な処置をすれば命に別状はありませんし、普通に生活することができます。抑制剤がありますから、むしろ以前よりは楽になると思いますよ」
医師としてはまず、患者を安心させたかったのだろう。命に別状はないと言われてホッとしたが、しかしやはりよくわからなかった。そもそも、性分化疾患、という言葉すら聞きなれない。
「性分化疾患というのは、性の形が生まれつき、普通とは少し違うことを指した言葉です。しかし、オメガバース症候群は、ここ最近になってようやく認知されてきたもので、まだ何が要因でそうなるのか、わかっていないんです」
「俺……私のこの症状は治るんですか」
要領を得ない説明に、焦れて言った。毎月のように体調不良になるのでは、仕事にだって差しさわりが出る。
(いや、もう今の仕事は辞めなくちゃならないかもしれないけど)
命に別状がない、と聞いて心に余裕が出たのか、また思い出してしまった。そんな優吾の感情に追い打ちをかけるように、医師はこともなげに告げる。
「治る、ということはありません。先ほども言ったように、病気ではないのでね。でも、薬を飲んで適切な行動をしていれば、問題はありませんよ」
「でも実際、日常生活に問題が出てるんです。それも毎月のように」
「女性の生理と同じですね。いや比喩ではなく、女性の月経前症候群と同様に考えていただければわかりやすいでしょう」
中年の男性医師が微笑みさえ浮かべるのに、何を言ってるんだと憤慨しそうになった。
優吾の怒りを感じ取ったのか、医師は少し表情を引き締めて「あのね、水野さん」と口調を変えて語りかける。
「これからもっと重要なことを言います。先ほど性分化疾患と言ったように、水野さんの身体……とくに生殖器官に関しては、普通の男性と少し違うんです。もちろん、女性と結婚して子供を作ることもできますよ」
だったらなんなのだ、と叫びそうになった。医師の話は、何か話の核心を避けてその周りをぐるぐる回っているように感じる。
男性医師は半身を捻ってカルテの置かれた机に向き直り、「いくつか確認をさせていただきます」と前置きした。
「水野さんはこの半年の間に、同性と性交渉をされましたか」
その質問に、ガツンと頭を殴られたような衝撃を受けた。あの夜のことと、今回の症状に何か関係があるのか。
心臓がドキドキと激しく脈打つのを感じながら、何も答えられずにいると、医師は「されましたね」と確信を持った声で言った。
「では、まず間違いないですね。尿検査の結果も出ていますし」
「先生……」
縋るように見る優吾の前で、医師は机の上に広げられたいくつかの検査結果の中から、エコーの画像を引っ張り出して優吾に見える位置に置いた。
荒い砂のような画像の中の、白っぽい塊をボールペンで示す。
「ここ。これが赤ちゃんです」
「は?」
思わず笑ってしまった。だが医師は、その笑いを咎めるようにじっと見つめ返す。
「赤ちゃん、胎児ね。水野さん、あなたは妊娠しています」
優吾の表情から、笑いが滑り落ちた。
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