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第4話

「ほらほらシオー、間宮先生だよ」  左十がオレに耳打ちしてきた。階段の下にいる先生のことを言っている。教室移動の途中で姿を見掛けた。  言われるまでもなく左十よりずっと前から気付いている。先生の身体が大きくて目立つからじゃなく、気配だけですぐ分かる。オレの先生探知機は高性能だった。 「シオー声かけなよ。オレが呼んじゃうよ?間宮センセー!」 「ちょ、なに勝手にっ……」  顔を上げた先生が、オレ達に向かってヒラヒラと手を振った。──頭の中にポンポンとお花が咲いていく。 「ちょっと、なに和んでんの。話してきなよー」  ぐいぐいと左十が押し出そうとする。きっとこいつは肉食なんだろう。でも恋愛のペースくらい好きにさせて欲しい。こんな、いかにもな状況で寄って行っても(うつむ)いてモジモジするだけだ。オレが。 「やめろ、押すな。行かねーって」 「照れちゃってー。しおたんかっわ──あ」 「汐見君!」 「うあ?」  身体が──浮いた。揉み合う内に階段を踏み外した。  次の瞬間ドシン、と硬い体が抱き止めた。先生がオレをしっかりと支えている。かなり勢い良く衝突したのによろけもしない。  こんなの……間に合う距離じゃなかった。でもオレが落ちるよりも前に先生は動いた。心配で、見てくれてたんだ。 「階段でふざけたら危ないでしょう」  静かな声で先生が言う。  こんな時でも怒鳴ったりしない。だけど身体全部でオレを包み込んだ、先生の心臓がドキドキしている。大声で怒られるよりずっと、自分が悪かったって気持ちで苦しくなる。 「……ごめんなさい」 「気をつけないと駄目ですよ」 「……うん」 「もうしませんね?」 「……はい」 「汐見君──」  やさしい声で名前を呼んで、胸に頭を引き寄せて──撫でられる。先生の甘い匂いに気が付いた。頭がぽわぽわしてくる。 (……これってホントに心配してるだけ……?) 「──なあ、そろそろ汐見離したら?」   静観していた右白から呆れた声が上がる。右白は左十ほど他人の恋愛に興味がない。 「駄目。今は汐見君にお仕置き中です」 (え?これお仕置きなの!?) 「でも──もう次の授業が始まりますね。遅れてしまうので行って下さい」 「ねーねーオレにはお仕置きしないのー?」  左十がニヤニヤしながらオレと先生を交互に見る。 「して欲しいんですか?」  先生の声が驚いている。その反応にオレも驚く。 (まさか同じこと──するんじゃないよな?)  そんなの嫌だ。左十を抱きしめる先生なんか見たくない。恨んでやる。心の中で左十に呪詛を吐く。 「……じゃあ昆虫を10種類採ってきて下さい。オスとメス一対ずつ」  少し考えてから先生は至って真面目にそう言った。 (昆虫……)  思ったのと違う。もっと斜め上の回答だった。 「えー?シオと違いすぎない!?」 「左十君の方が罪が重いですからね」 「どう見ても、えこひいきじゃん!」 「──そう言ったでしょう?」  先生は意味深に笑ってオレの頭に手を乗せる。 「授業に遅れますよ。汐見君──またね」 「よし、恋愛イベント、無事回収!良かったねシオ」  自分の手柄のように左十が親指を立てる。 「なに考えてんのか分かんねーな、あいつ」  右白が胡散臭そうに先生を目で追った。  オレは「またね」の殺傷力の高さに瀕死寸前だ………。

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