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第19話

 教員用のコテージも生徒達と同じく、室内は天井が高く広い造りになっている。フロアは一つで、開放感を出すため壁はなく、代わりに所々に仕切りが置かれる。玄関を入ってすぐにある、籐で編んだ衝立(ついたて)の向こう側に間宮を押し出して霧谷は息をついた。 「おまえなあ、欲求不満も大概にしろよ」  間宮は面白くなさそうに、部屋から見える海へと顔を背けている。水面(みなも)からの陽光が室内まで乱反射して眩しいほどだった。光の加減か衝立の裏側で影が揺らぐのを目の端で捉えて、霧谷が口元を歪ませた。 「お前は一応でも先生なの、先生。いくらなんでも立場ってもんがあんだろうが」 「よけいなお世話です」 「余計じゃねえよ、周りに当たんなつってんの」  霧谷は歩み寄り、胸ぐらを掴んで間宮を見上げる。 「……お前まさかまだヤッてねえのか。それで悶々としてんのか」 「──関係ないでしょう」  硬い声で間宮が答えた。 「おいおい柄じゃねえだろ?お前が、いまさら自制することに何の意味があるんだよ。とっくに手は出してたんだろ」 「だから、関係ないでしょう先輩には」  声のトーンに今さっきよりも温度を感じる。苛立つ間宮をさらに煽るよう、少し踵を上げた霧谷が首を仰向け猫のように目を細める。 「関係、ねえか?本当に?なあ──間宮」  小さく舌打ちをした間宮が壁に両手を叩きつけた。壁と身体で囲い込み、至近距離で見下ろす影が霧谷に落ちる。 「さっきから何ですか。欲求不満は先輩でしょう。そんなに僕に抱いて欲しいんですか」 「お前こそオレに抱かれたいんじゃねえの」  霧谷は嘲るように笑って、胸倉を掴み引き寄せた。 「溜まってんだろ。せっかくイイトコ来てんだし、たまには楽しもうぜ」  好色者(スキモノ)じみた仕草で唇を舐め上げて見せ、持ち上げた片足を間宮の太ももに巻き付けて腰を密着させる。  つかのま時が止まり、天井に取り付けられた大きなファンだけがゆっくりと回転を続ける。  小さな物音に気付いた間宮が、怪訝そうな顔をして霧谷を押し返した。 「何を企んでるんですか先輩。冗談でもやりすぎじゃ──」  霧谷がしてやったりという面持ちで邪悪に笑う。 「────ちょっと──あんたまさか──」  間宮は険しい表情になり、物音のした玄関に目を向けた。 「クックッ──今なあ、そこで汐見が覗いてたぞ。正念場だな。頑張ってフォローして来いや」  それを聞いた間宮が青くなった。身を翻して部屋を出る背中に霧谷の声が追う。 「それからなあー、おまえ、怖えぞ」 「言われなくても分かってます!」  バタバタと慌ただしい音が去り、室内に霧谷の笑い声が響いた。

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