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第20話

(なにあれ、どういうこと!?あれ?オレ逃げたけどいいのか?問い詰めた方が良かったんじゃね?いやでも、無理でしょ。あんなん──無理だろ)  とりあえず全力で走る。自分のコテージには戻れない。左十と右白の3人部屋で、おいしい展開のすぐ後だ。なにをやってるか分かったもんじゃない。だけど周りには海しかない。隠れるとこなんかどこにもない。 (……入っていけるかよ、あんなアダルトな雰囲気に。18禁コーナーかよっっ)  間宮先生も霧谷先生も二人してすごいエロかった。あれが当たり前の世界ならオレなんか太刀打ちできるはずがない。  走っても走っても白い砂浜だ。汐見元気だなーとかクラスメイトに声をかけられる。皆の目には爆走青春野郎に見えている。  オレはただ──ひとりで泣きたいだけのに。 「汐見君!」  後ろから腕を掴まれた。振りほどくと、またすぐに掴まれる。今度は振りほどけなかったから、暴れたら担ぎ上げられた。 「降ろせよ先生っ!」 「駄目です」 「離せって!」 「出来ません。僕に言い訳させてくれませんか」 「ヤダ!」 「そうですか──」  先生は目に見えてしょぼくれた。 「そこは食い下がれよ!」 「引いたつもりはないですよ」  オレを担いだままコテージに歩いていく。オレ達のでも先生達のでもない部屋に連れて行かれたが、先生の権力の濫用にはもう慣れた。  先生は部屋を横切りベッドまで行くと、その上にオレを降ろした。波の音が聞こえる部屋で天蓋付きのベッド。まるでロイヤルスイートルームだった。こんな状況でなければ頭がお花に埋もれてただろう。 「先輩とは何もありません。あれはあの人の(たち)の悪い冗談です。僕は汐見君しか見えていないし、欲しくない」  真っ先にさっきの事を否定する。 (そりゃそう言うしかないよね。じゃあオレが見たものは?その冗談、乗ってたじゃん。言い訳になんか──なってねーよ)  冷めた気持ちで聞き流すが、ふと言葉が引っ掛かる。 「先輩……?」  そんな呼び方をしたのを聞いたことがない。 「言ってませんでしたか、霧谷先生は大学時代の先輩なんです」 「そんな前から?だからあんなに仲がいいんだ──」  その情報は、かえってマイナスポイントだった。 「仲なんて良くないです。付き合いが長いから絡み方が悪質なだけです」  先生が嫌そうな顔をして、それが心を一層ザワザワさせる。 「でも霧谷先生にはオレに見せない顔見せるじゃん。さっきは何もなかったとしても──そういう関係疑ってもしょうがないだろ!」  先生は困った表情になりオレを見つめる。無言で見つめ返すと俯いて小さく息を吐いた。 「昔から先輩は僕に嫌がらせをして楽しむんです。本当にそれだけです。──こういう言い方は卑怯かもしれないけど……君も右白君とは何もないでしょう?それと──同じです」  うっ、と言葉に詰まる。確かにそれもそうだった。右白の告白なんて想定してなかったし、オレが仕向けたわけでもない。 「信じてもらうしかないですけど──僕は君しか欲しくないんです」  繰り返す先生の言葉が少し素直に入ってくる。 「もう、あんな風にじゃれないでよ──」 「はい。勘違いさせてすみません」  先生が頬を撫で、唇で目元に触れる。それでもやっぱり、まだ全部は水に流せない。不信感というより最近の先生の態度のせいで。 「オレしか欲しくないとか──嘘じゃん。先生オレのことなんか触んないじゃん。オレがガキだから、なんも知らないから、だから嫌んなった?」  さっき見た妖艶という言葉にふさわしい二人の姿がチラつく。関係ないにしても、先生があの雰囲気を醸し出せる大人ということに変わりはなくて拗ねたくもなる。 「もちろん違いますよ」 「じゃあなんで!」  先生がオレを抱き上げて、膝の間に座らせた。ぬいぐるみでも抱き締めるように後ろからぎゅっと腕を回す。 「喉から手が出るくらい欲しいですよ。でもね、君が大切なんです」 「オレの為を思ってとか、そういうの要らねえから!子供扱いすんなよ!」  今はそう思われるのが一番堪えるのに。まさか先生の口からそんな当たり前の、普通の大人みたいな言葉が出るとは思いもせず言葉がきつくなった。 「君の為?────それは……全然違います」  先生の声が低く沈む。やっぱり言わないと駄目なんですね……そう聞こえてきて、もう一度強く抱き締められる。 「ねえ汐見君、僕の気持ちは清らかで慈愛に満ちた良心的な愛だとでも思いますか?真逆です。霧谷先生の言うことにも一理あるんですよ。僕には常識的な何かが欠如している部分がある。君は僕を、怖いと言った。そして僕も……怖くなった──普通では無いために、本当に君を壊してしまうかもしれないから。君が大切、とは壊して無くなるのが嫌だということですよ。君の為を思ってる訳じゃない。むしろ利己的な打算です」  こんなに長く喋る先生を見たのは初めてかもしれない。オレはそこに感動した。 「オレが怖いって言っちゃったせいなんだ。ごめん、そんな意味じゃなかった。でもさ先生……」 「はい」 「難しすぎる」  一大決心で懺悔したみたいな先生には悪いけど、言ってる意味はよく分からなかった。 「えぇ?」  先生は間の抜けた声を出した。こんなのも初めて聞いた。 「つまり自分は変態だからオレが引くかも知んないって思ってんの?」 「変……態……」 「あ、そうじゃねーのか」  先生は落ち込んでいる。変態は言い過ぎたらしい。 「ねえ先生大丈夫だよ。先生が寸止めするから、オレもうずーっっと頭ん中エロいことで埋まってんだよ。朝昼晩、そればっかだから。多分見たら先生でも引くから」  先生の手に自分の手を重ねて握る。 「でもそれって、先生を大好きだからじゃん。先生だっていま言った小難しいこと、オレが好きって意味だろ?」  なんでも食べさせたがるのも、喜ばせようとするのも、守ってくれようとするのもみんな好きだから。 (そう思って、いいんでしょ──?)  先生はオレの背中に額を当ててずっと唸っている。 「好きじゃないの?」  長考すぎるので邪魔してやった。違うんじゃないかと不安になる。 「好きです」  即答だ。だったらそれだけでいいのに。まだなにか考えている。  そして長い長い沈黙の末、ポツリポツリと先生が言葉を紡いでいく。 「僕は………よく……人に、ガッカリ、されるから──」 (あ、さっきより全然意味が分かりやすい) 「………僕の全てを……君が、知って────嫌われるのが……怖い」  ぎゅう、としがみついてくる。 (なにこれ……信じらんないくらいかわいいんだけど……)  先生が子供みたいだ。こんなに脆くて自分勝手でかわいい人を放っておけない。すごく安心させてあげたいけど、いまいち不安の根っこがよく分からない。 「オレはガッカリなんかしない。先生の全てをオレに見せてよ」 「僕には失望される理由が分からないんです……。これですと言って見せられない。親しくなりすぎたら、気付かないところで君の心が離れるかもしれない」 「──待って、だから急に触ってこなくなったの?」 「そうです」 「そんな事されたら逆に不安になるだろ」  ガッカリとまでは行かないけど確かに先生の思考回路は分かり辛い。あんなに触り放題触っといてそれはない。もう強硬手段に出るしかない。 「セックスしよ先生」  先生を解放するために必要だ。一番内面に近くて、深く理解できるはず。それでもオレが離れていかないって分かって欲しい。 「それで君が変わってしまうかもしれないのに……」  ぶつぶつと先生は往生際が悪い。 「先生が変えるなら良い方にしか変わらない」 「……後悔するかもしれませんよ」 「しない」 「途中で()めたり出来ませんよ」 「泣いても嫌がっても()めなくていい」 「本当に?」 「本当に!」  オレの背後でずっと俯いていた先生が顔を上げる気配がした。 「分かりました……君を信じます──それなら」  先生が易々(やすやす)とオレを持ち上げベッドに寝かす。あっという間にオレの上にまたがると、眼鏡を外して髪を掻き上げる。 「────しようか、眞尋」 (あれ?なんかスイッチ入った?) 「──好きだよ」  先生の手が首筋を撫でる。 (敬語やめちゃうの?全部見せろって言ったから?心の壁を取っ払ったの?そんなのずるくない?) 「かわいい。ものすごく──欲しかった」  指が触れていた所にキスされる。吸いながら舌をねっとりと押し付けられて、急激に恥ずかしくなる。 「怖い?ごめんね。でも遅い。眞尋が、いいって言った──僕に好き勝手されちゃうよ」  先生の指が乳首の先端を引っ掻く。誂うように何度も指先を往復させる。ビリビリした快感が全身に広がって背中が反り返った。 「覚悟して──」  舌を出して唇を舐める先生がフルスロットルでエロい。

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