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「で、昴が洗ってくれるんだろ?」
目をつぶったままの状態で亜鷹が振り向こうとしてくる。
それをさりげなく阻止しながら昴は眉を顰めた。
「何で僕が…」
「目つぶってたら洗えない。開けていいのか」
閉じた瞼が震え、今にも鋭い眼が覗きそうになる。
昴は慌てて答えた。
「だ、だめ!!わかった、洗うから目は開けないで」
昴は仕方なく亜鷹の髪を湿らせると、シャンプーを手に取り泡立てはじめた。
しっかり泡だてて、ふわふわの泡を襟足からこめかみ、額の方までまんべんなく馴染ませていく。
人の髪を洗うのはなかなか難しい。
亜鷹の髪は細く柔らかいので、あまり強く洗うと指に引っかかって引っ張ってしまいそうで余計に神経を使った。
ぎこちない手つきながら何とか洗いおえると、それまで俯いていた亜鷹が突然顔をあげた。
「何?!」
「いや、体も洗ってほしいなと思って」
亜鷹は目をつぶりながら口元に笑みを浮かべると、身体の方を指差してくる。
「自分で洗えるだろ」言いそうになったが、また目を開けるぞと脅されかねない。
「…わかった」
昴は渋々答えると髪の泡を流し、今度は石鹸でボディタオルに泡を立てていく。
十分泡立ったところでタオルを背中に当てると、亜鷹がびくりと身体を震わせた。
「それは嫌だ。羽根が傷つく」
亜鷹の要望という名の我儘に、昴は青筋を立てながら溜め息をついた。
「じゃあどうやって洗えばいいわけ」
「手で洗えばいいだろ」
「はぁ?!どこの変態オヤジだよ」
「オヤジじゃない。まだ成鳥(長)中だ。昴がやらないなら自分で洗う、目を開けてな」
そう言われてはぐうの音も出ない。
「…っ、わかったよ、やる」
ピキピキと顔を引きつらせながら、昴は亜鷹の肌に泡を乗せた。
裸の亜鷹はこれまで何度も見ているが、こんな風に明るい光の下で触れながらまじまじと見るのは初めてかもしれない。
肩から上腕二頭筋にかけての隆起した筋肉、大胸筋からその下で薄っすらと割れた腹筋まで。
無駄な肉が全くなく、かといって過剰なほど隆起しているわけではない。
亜鷹の肉体が逞しさと美しさを均等に保ったバランスのいい身体だという事を改めて知る。
いつもこんな身体に抱かれているのか。
昴の腕よりも引き締まった腕に触れながら、何となくそう思ってしまった。
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