5 / 64
4《来訪者》
しばらく水浴びをしていると…
「ッ!!フーッ!!」
突然岩場の奥の林に向かってシィが威嚇し始める。
「誰かいるのか!?」
オレには分からないけれど、シィは半獣人だからか気配に敏感だ。
シィの警戒する方へ強めに呼びかけると…
「こんな森奥に人間とは珍しい」
林から黒色の毛並みの体格のいい狼獣人が出てきた。
「お前は、はぐれα?β?」
警戒しながら呼びかける。
「しかもΩか?」
「ここはラウの縄張りだ、よそ者は出て行けよ」
一応牽制するが…
「知っている、だから偵察に来ているんだ」
そう答えると…
一飛びで目の前まで来る獣人。
ばしゃりと足元の水が跳ね上がる。
「ッ、」
襲われるのかと身体を強張らせた。
「アサト!」
シィが驚いたように名前を呼んでこっちへ来ようとするが…
「シィ、来るな!」
それを制止しながら、目の前に来た獣人を見上げる。
デカイ…ラウまでとは言わないけれど、それに近い身長はありそうだ。
狼獣人のαだな…
「半端者もいるのか?しかし変わった匂いがするな、人間は…」
その獣人は腕を掴み、鼻先を近づけて身体の匂いを嗅いでくる。
「…離せッ何の用だよ」
「Ωのくせに威勢がいいな」
そのまま首筋をペロリと舐め上げてくる。
「っ…やめろッ」
掴まれた腕を無理やり外そうともがくが全く歯が立たない。
「フーーッ!!」
シィが毛を逆立てて怒りをあらわにしている。それをなだめながら、こいつを追い払う方法を考える。
その間も獣人は興味深そうに近づき、
今度は赤髪を鋭い爪で触れ、そのまま右の頬をなぞる。
尖った爪が皮膚へ簡単に傷をつけ、スーと一筋、血が滲む。
「なんと脆い」
「ッ、ラウの縄張りから出て行け!」
恐怖心に震えながらも、心を奮い立たせ獣人を追い払おうとする。
ともだちにシェアしよう!