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4《来訪者》

しばらく水浴びをしていると… 「ッ!!フーッ!!」 突然岩場の奥の林に向かってシィが威嚇し始める。 「誰かいるのか!?」 オレには分からないけれど、シィは半獣人だからか気配に敏感だ。 シィの警戒する方へ強めに呼びかけると… 「こんな森奥に人間とは珍しい」 林から黒色の毛並みの体格のいい狼獣人が出てきた。 「お前は、はぐれα?β?」 警戒しながら呼びかける。 「しかもΩか?」 「ここはラウの縄張りだ、よそ者は出て行けよ」 一応牽制するが… 「知っている、だから偵察に来ているんだ」 そう答えると… 一飛びで目の前まで来る獣人。 ばしゃりと足元の水が跳ね上がる。 「ッ、」 襲われるのかと身体を強張らせた。 「アサト!」 シィが驚いたように名前を呼んでこっちへ来ようとするが… 「シィ、来るな!」 それを制止しながら、目の前に来た獣人を見上げる。 デカイ…ラウまでとは言わないけれど、それに近い身長はありそうだ。 狼獣人のαだな… 「半端者もいるのか?しかし変わった匂いがするな、人間は…」 その獣人は腕を掴み、鼻先を近づけて身体の匂いを嗅いでくる。 「…離せッ何の用だよ」 「Ωのくせに威勢がいいな」 そのまま首筋をペロリと舐め上げてくる。 「っ…やめろッ」 掴まれた腕を無理やり外そうともがくが全く歯が立たない。 「フーーッ!!」 シィが毛を逆立てて怒りをあらわにしている。それをなだめながら、こいつを追い払う方法を考える。 その間も獣人は興味深そうに近づき、 今度は赤髪を鋭い爪で触れ、そのまま右の頬をなぞる。 尖った爪が皮膚へ簡単に傷をつけ、スーと一筋、血が滲む。 「なんと脆い」 「ッ、ラウの縄張りから出て行け!」 恐怖心に震えながらも、心を奮い立たせ獣人を追い払おうとする。

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