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9《発情の不安》
「ありがと、オレもそろそろ限界かなって思ってる、もうすぐ発情期だし、どうなるか不安」
発情すれば手近なαを引き寄せてしまう。
ラウ以外とは考えられないけれど、意思とは反してαを欲してしまうのが発情だから…
「アサト、発情の兆候があればすぐ俺の住処に来い、匿うから」
そっと柔らかい赤髪を撫でながら優しく囁く。
「ん、シィも」
「あぁ、もちろん」
「オレが発情していても、ラウは大丈夫?」
「……」
「近くに発情したΩがいたら獣人のαはどうなるんだ?」
「……Ωのフェロモンはαを誘うためのものだ、俺でも惑わされる。嗅覚が鋭い分、強力で、理性より上回るから交尾を誘発される。けれど、嗅覚を麻痺させてフェロモンを嗅がないようにすることはできるんだ」
「え、そうなんだ」
「刺激性の薬草を嗅げば、一定時間嗅覚が麻痺して匂いが分からなくなる」
「……麻痺」
「ただ、皆、それはしたがらない、俺たちにとって嗅覚は視覚と同じくらい大切な器官だから、あえて嗅覚を狂わすことはしない」
「そっか、」
「フリーの獣人は発情期の交尾は自由なんだ、人間はどうなのか分からないが…アサトが気になるなら俺は外でも何処でも寝れるから」
「…じゃ、分かった、その薬草を沢山持って来てくれる?発情期近くなったら、この小屋に塗って匂いが漏れないようにして、発情一週間は極力小屋の中で過ごすから、その方がラウにも迷惑かけないし」
ラウの所に行けば、ラウに迷惑をかけてしまう。シィだけラウの所に匿ってもらって、この小屋で発情期が過ぎるまでじっとしていれば…
少し考えて、安全策を伝えてみる。
「……アサト、どうしても俺とツガイにはなれないのか?」
「……」
「俺とツガイになれば、そんなことをせずとも守ってやれるし、辛い発情期も無くしてやれる」
真剣な眼で見つめながら伝える。
「なりたいよ、でも、今日もレイに言われたんだ『お前達のせいで、ようやくまとまりかけた群 がまたバラバラになる』って、確かにそうだなって、オレたちが不穏の原因だから」
ラウ達やその親達が築きあげた群をオレのせいで壊すことは出来ない。
「違う、それは俺にみんなを纏める資質がないからだ、俺は種族の垣根を越えて共に生きていけると思っている、けれどそれに同調する者は悲しいが少ない。だがお前たちを助けた事は後悔していない、だから、俺は俺の考えを理解してくれる者だけを連れて新たな土地を探して群 を出ることを真剣に考えている」
「ラウ、」
「アサトは今の群 を壊したくないと言ってくれるけれど、そんなに気を回さなくても大丈夫なんだ」
「でも、お前が抜けたら、この群 はどうなるんだよ」
「俺の群 は全員で四十二人、そのうちαは俺を外せば四人、その四人がそれぞれ十人前後のコロニーを組んで群 をまとめている」
「その四人はみんなツガイになってる?」
「あぁ、今、この群 でフリーのαは俺だけだ」
「そっか、ならひとまず安心だな。それで長 は?」
発情してこの群 のαを引き寄せることはないから。
「その四人で決闘を行い一番強い者が次の長 となるんだ、だから長 不在になることはない」
アサトの不安を拭おうと肩を抱き寄せ伝える。
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