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21《不安なまま》
その日は、あまり眠れなかったけれど、容赦なく一日は始まる。
「頑張らなきゃ」
オレに巻き込まれて、シィがかわいそうだ。
「水汲み」
朝は一日の飲み水を専用の水場に汲みにいくことから始めるけれど…
小屋を出ようとしても、足が前に進まない。
レイにまた会ったら…
その恐怖が足を縛る。
「みず、くむ」
不意にシィが話し出す。
「え?」
「シィ、いく」
「シィ…独りで行ける?」
「いく、」
「ありがとう、気をつけてな」
いつも一緒に水汲みに行っていたから、やり方を見て覚えていたシィ。
「アサト、みず!」
しばらくして、樽に水を汲んで戻ってくるシィ。
「ありがとうシィ、すごいな」
頭を撫でてやると、シィは嬉しそうにしている。
シィはどんどん出来ることが増えて、森の生活に順応していく。
ラウの保護があれば、シィは独りでもこの群 で生きていけるかもしれない。
どうしても出て行かなきゃならなくなったら、出ていくのは、オレだけで…
発情中に、いっそ、はぐれαとツガイになって群 を出れば…
でも、それは…
「……いやだ」
群 は出たくない、ラウと、シィと離れたくない。
「アサト?」
「…うん、今日は、狩、お休みしようか」
少し弱気になってぽつりと呟いてしまう。
今日は外に出たくない。
「おやす?」
「お休み」
「おやすみ?」
「うん」
「ねる?」
不思議そうに首をかしげる。
「はは、そのおやすみじゃないな、狩をお休みするってこと」
シィと話して少し和んで笑みが零れる。
「?」
「行きたい?」
「かり、いく」
「うーん、じゃ近くだけ」
「みず、みず!」
そう急かすように飛び跳ねる。
「水浴びしたい?」
「みずあび!」
水浴びが大好きなシィ目が輝く。
「じゃ川まで行こうか」
「いく!」
シィに促され、近くの川に水浴びをしにいく。
シィの楽しそうな顔を見ると、嫌なことを少しの間、忘れていられた。
その日は、川で遊んで、そのまま小屋に帰る。
丘には行けなかった。
ラウに逢いたい、けど、逢うのが怖い。
あのことを思い出すと苦しいばかりで…
一歩進む勇気が出ないでいた…。
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