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30《兄様の為》

「ふふ、兄様、あの人間に何を吹き込まれたか分からないですけど、獣人と人間は交わり合えない、それが常識なんですよ?それに人間の連れている半獣、交わればあんな気持ち悪いものが産まれるかもしれないのに」 レイはため息をつくようにさらりと話す。 「レイ、シィは気持ち悪くなんかない」 レイがそんな風に思っていたことに驚きながらも、否定して言い聞かすが… 「気持ち悪いよ!あんなまばらに毛の生えた生き物!…ふ、でも、大丈夫、兄様は僕が守るから、人間は(むれ)を出ていく、だから兄様、いつものように僕を抱いてください…」 感情的になるレイだが、不意に余裕の笑みを浮かべる。 「レイ、アサトは出て行かせない」 「出ていきますよ、前もそうだったでしょ」 前連れ帰った人間と同じ様に、今日アイツは噛まれて(むれ)を出る。 「…いや、アサトは…」 確か、前に連れ帰った人間も発情初日にツガイとなって出ていった。 しかしアサトはそんなことはしない…αを寄せ付けないよう考えて準備をしていたから…。 手引きでもされない限りは…。 「あの人間も今日発情期に入ったみたいだし、黒狼と子どもが出来たら祝ってやらないと」 意味深に呟くレイ… 「……!レイ何かしたのか!?」 ハッとして問いつめる。 「別に何も?ただ、単体の発情は可哀想だから相手をみつけてあげただけ、北の黒狼に人間に興味がある奴がいたんです。まあ、人間なんか飽きるまでのおもちゃでしょうけど」 「レイ!!お前ッ」 レイに対して怒りが沸き起こるが、それより何よりアサトの身に危険が迫っている… 大きな身体を翻し、脇目も振らずアサトのもとへ急ぐ。 「兄様!行っても無駄ですよ!あいつらはもう繋がってる、兄様っ!これは兄様の為なんです!」 投げかけてくるレイの言葉も無視して…猛スピードで木を駆け下りる。 「ッ!」 間に合ってくれ! アサトッ!! 出来うる限りの力を出して一心不乱にアサトたちのいる小屋を目指すラウだった。

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