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57《巣づくり》
「あ、ラウ!」
声の方を振り返ると、ぐらりと重心が後ろにずれてバランスを崩してしまう…
「っわわ!ちょッ」
「ッ!!アサトッ危ないッ!!」
言うと同時に土を蹴り、アサトの元まで駆け上がる。
落ちそうになっているアサトの背を支え優しく包み込むよう抱き寄せる。
「はぁ、びっくりした。ありがと」
「ハァ、良かった。アサト、どうした?小屋にいないと危ないだろう」
「ん?だって暇だから、ゴミ捨てようかと思って、ラウ、狩に連れて行ってくれないし」
「身重の体では危ないから、それにいつ出産が始まるか分からない、小屋で休んでいてくれ」
「うーん、近くの池まで魚を釣りに行くくらいは…」
「駄目だ、大事な身体なんだから言うことを聞いてくれ」
「はーい、じゃラウの毛、ちょうだい」
仕方なく返事し、違うお願いをする。
最近無性にラウの毛を集めたくて仕方なくなってる。
ラウに聞くと、出産間近だから巣作り本能が働いているんじゃないかってことらしい。発情期にもあったけど今の方が欲求は強い気がする。
「あぁ、いくらでもやるから」
優しく頷くと、アサトを抱きしめたまま、慎重に小屋へ登り、すでにたくさん集めている毛の束の近くに降ろす。
「ありがとうラウ」
そばに腰を下ろすラウの大きな背中を手で撫でて、ふさふさの抜け毛を集める。
ちょうど冬毛から夏毛に生え変わり時期でたくさん取れる。
「身体は大丈夫か?」
「うん、変わりないよ、狩は順調?」
「あぁ、これからは獲物が増える、アサトには仔どもの分も栄養をつけてもらわないとな」
「ふふ、そうだな、これくらいでいいよありがとう」
ふわふわの毛を両手いっぱいにとり、顔を埋め匂いを嗅ぐ。
「あぁ、早めに戻るから、何かあればすぐ俺を呼んで」
そんな可愛い仕種のアサトを優しく撫でて、安心させるように伝える。
「うん、狩、頑張って」
そう微笑むと…
「あぁ、愛してるアサト」
身体を寄せて、唇を舐めて口付けるラウ。
「オレも、気をつけてな…」
ラウの鼻先にチュッとキスして送り出す。
ラウと離れると心細く感じるけれど、遠吠えの届く範囲にいるのが分かっているから、ラウの毛を匂いながら毎日帰って来るのを心待ちにしている。
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