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58《兆候》※Ω男子の出産描写入ります地雷の方はご注意ください
そのうちシィが木の実を採って帰って来た。
「アサト!…み!」
「お、すごいな、山葡萄?」
「おいし」
葡萄を手渡しながら微笑むシィ。
「ふふ、もう食べたのか?」
「アサト、はんぶん!」
「ありがと、危ないところは行ってない?」
「うん」
「川より向こうは危ないから駄目だよ」
「うん、うん!」
シィは早く食べたくてウズウズしている。
「じゃ、半分こ、いただきます」
そんな素直な様子に微笑んで、シィと半分ずつ分けて、葡萄を食べ始める。
「シィも!…ます!」
そう嬉しそうにぶどうを頬張るシィ。
シィは随分と元気になって、言葉もだいぶ理解出来るようになってきたけど、相変わらず長文を話すことは出来ない様子。
このままシィが適齢期になれば、シィも発情してしまう。未だに群の獣人に慣れていない状態は良くないよな…
出来ればシィも好きな相手とツガイにならせてあげたいから。
葡萄を食べた後、シィと寄り添って休んでいると、わずかに下腹部の痛みが…
「ん?さっきの葡萄があたったかな…」
森の食べ物は時には腹を下してしまうこともあって…
トイレに行ってみようかと立ち上がって、2、3歩、歩いた時、不意に違和感…
「え?あ…」
股から水のようなものが…
「もしかして、これが破水…?」
「けど、陣痛らしいものはきてないけど…」
ベテラン獣人の奥さんは、破水は陣痛きて産まれる時にって言ってたような…
とりあえずトイレに座ってみるが、汁のようなもの以外何も出ず、産まれる気配もない為、またラウの毛に覆われた寝床に戻る。
もうすぐ産まれるってことかな?
ラウ、まだ帰って来ないよな…
帰宅予定の夕方までにはまだ時間がある。
腹はなんだか便秘の時のようなチリチリする痛みが出たり消えたり…でも、これは陣痛じゃないだろうし…
聞いていた話と少し違って、不安になるアサトだが、お産が始まったわけではないので、狩中のラウの邪魔はしたくなくて、しばらく様子を見ることにする。
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