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第2話
「うっそ・・もう朝?なんか・・眠いし、寒いや。・・くしゅん!」
財前直央は、起きて顔を触ってみる。身体は寒いのに顔は熱い。
「・・夕べ、あのまま寝ちゃったわけ?オナニーしながらとか寝落ちって・・オレってヤバすぎじゃん!」
ともかくもと下着を探すために、ベッドからおりる。
「て、その前にシャワー浴びた方がいいよな。自分がやったこととはいえ、下半身がこの状態じゃ流石に気持ち悪いわ・・」
方向転換しようとして、足がもつれる。
「うわっ!やっ・・ふぅ。やっぱ、熱でぼーっとしてんのかな。こういう時ってお湯に当たらない方がいいんだっけ?でも、洗い流さないと・・いいやもう、タオルで拭こう」
新しい下着をつけ、シャツを着る。ズボンを履いたところで立っていられなくなり、ベッドに座り込む。
「やっべえな・・。風邪薬あったっけ。探さなきゃ・・うっ、気持ち悪・・。だめだ、薬飲んでも吐いちゃうな」
病院にいったほうがいいと判断し、財布の中を確認する。
「や、保険証が入ってるわ。母さんが入れたのか。・・やっぱわかってんだな、あの人。子供すぎるわ、オレは。だから・・フラれたの?」
ふと、鏡が目に入りそちらに顔を向ける。
(そりゃ、そうか。こんな子供っぽい顔だもんなあ。だからスキがあるって思われて、変な男に声かけられて・)
大きくくりっとした目。薄い眉に小さめの鼻。耳が隠れるほどの長さの髪の色は少し薄すぎる茶髪。もちろん地毛なのだが、 中学のころは何度か教師に注意を受けた。
「小学生のときには、コレが可愛いんだって周りから言われてたのにな。それで喜んでたオレも馬鹿だけど。大学生になっても身長は170そこそこってなんなんだよ、ったく」
気分が落ち込み、なおさら立てなくなってきた。
「て、ここで倒れてても誰か助けてくれるわけじゃない。母さんに頼るわけにもいかないしな。無理いって一人暮らしさせてもらってんだし。やっぱ、自分で行動しなきゃ・・」
そう思って立ち上がり、玄関までなんとか歩いていく。そしてドアを開け、外に出たところで・・力尽きた。
(嘘・・マジで力はいんない・・。スマホは・・あ、あれ?)
いつもスマートフォンを入れている尻のポケットに手を伸ばすが、その手は自分のソレを撫でるばかり。
「な、無い・・部屋の中か?でも・・もう動けな・・」
「一人でいろいろ持て余してるからって、部屋の前でまで自分で自分を慰めようとかしないでくださいよ。そんなに溜まっているんですか」
「はあ?・・何を言って・・オレにはそんな余裕は今は無・・」
そう言いながら、顔を動かす気力も無い直央には自分に声をかけてきた人物の表情を見ることはできない。が、声で相手が誰かはわかる。
「ひ、日向・・哲人。な・・んで、オマエがこんなとこ・・に」
「一応、夕べの男が来てないか確かめにきたんですよ。まあ、オレの言ったワードを聞いてすぐに逃げる輩が再びここに現れるとは思えませんが、何しろ相手の目的はアナタですからね。チョロイと思っているでしょうから」
「な・・」
哲人の不遜な態度に、直央は反論を試み・・ようとするが、もう口を動かすのもおっくうだった。
「・・・」
「で、いつまでそこで倒れているつもりです?いくら、角部屋だからって共用スペースなんですからね、そこは。占領されても困るし、だいいちみっともないです。琉翔さんに迷惑かけないでもらえます?」
(琉翔・・さん?て誰だっけ・・)
『イラストレーターの財前灯さんでしょう。僕ファンなんですよ。あ、僕の名前は高木琉翔っていいます。こんなとこで、本物の“灯さん”に会えるなんて光栄です。・・息子さんを僕にまかせていただけますか?』
(ああ、あのイケメンのオーナーさんのことか。そっか、あの人に頼れば・ ・。確か電番がスマホに入って・・て、だからそれは手元にないんだってば。・・詰んだ)
自分を嫌っている哲人が助けてくれるはずがない。とりあえず、ここから立ち去ってほしいと思った。夕べのことといい、年下の高校生にこれ以上自分の惨めなところは見せたくない。
「・・もしかして本気でくたばっているんですか?オレ的にはそのまま死んでくれてもかまわないんですけどね。場所がココでなければ」
物騒なことを言いながら、哲人は直央に近づく。彼のその顔が赤く、息も荒いのを確認した哲人は、自分のスマートフォンを取り出してどこかに電話する。
(あ、あれ・・)
自分の身体がふわっと浮いたのを、直央は感じる。
「鍵は開いているんでしょう。とりあえずベッドまで運びますよ。琉翔さんの許可も受けていますから。・・保護者の方にも連絡しますよ」
(!・な、何言ってんだよ、コイツ。つうか、母さんに電話されたら・・)
とんでもないと、拒否しようとする。が、声は出なくて辛うじて微かに首を横に振る。
「・・自分じゃ何もできないくせに、ほんとワガママな人ですね。まあ、とにかく寝ててくれませんか。医者は手配しましたから」
(医者?・・手配?)
「着替えも自分じゃできないんでしょ、どうせ。オレが脱がせますけど、文句言わないでくださいね。パジャマは・・ああ、やはりここですね。座っててもらえます?」
そして、あれよあれよという間にせっかく着替えた服を脱がされ、どこからか探し出されたパジャマに着替えさせられ る。ほとんど・・ボタンまで哲人が閉めたけど。
「横になっててください。医者がきたら、オレの部屋から冷却シート持ってきますから。それまでは・・一応タオルを濡らしたので・・」
(なんで、コイツがここまでしてくれるわけ?オレのことあんだけ嫌ってて、死ねとさえ言ってたのに。そんな態度されたら・・)
「やっと寝てくれたか、面倒な人だな、相変わらず。同じマンションてだけでもやっかいなのに、ここまでオレの手を煩わせるとか。・・琉翔さんに迷惑かけたくないと言いながら、結局頼っちゃうんだもんな。琉翔さんも何でこんな人を、このマンションに入れたんだか」
哲人は、高校入学直後からこのマンションの最上階に住んでいる。親戚である琉翔の代わりに、 時々であるがマンションの雑用をするという条件のもとで。が、高2の時から名門校で首席をはり、生徒会長までやっている哲人にそんな余裕があるはずもなく。
「本家がどう判断するかわかんねえけどな、今回のことも」
「・・あれ?またオレ・・寝てたの?確か朝起きて、着替えて外に出て・・そっからどうしたんだっけ?」
まだ頭がすっきりしないが、空腹を覚えてベッドから降りようとして違和感に気づく。
「あれ?何でオレ、またパジャマ着てんの?てか、こんなパジャマ持ってたっけ?」
「たぶん、親が用意して入れたんじゃないんですか。どう見ても新品でしたから。それでも、自分の服くらいは把握しといてくださいよ」
「新品?って・・う、うわっ!な、なんで! 」
突然、自分の部屋で他人に話しかけられ驚く。驚かれた方の哲人は、その反応も予想済みだとばかりに冷たく言い放つ。
「バカですか。バカですよね。オトコに下着まで脱がされたのに、気づいてないとか。ゲイのくせに、お粗末なもんです。・・ああ、アナタのアレもオソマツなモノでした。顔には合っているとは思いますけどね」
「は?下着を脱がしたって・・。え、えええええ!」
思わず叫んでしまう。
「無駄に元気ですね、注射が効きすぎましたか」
顔をしかめながら、哲人は直央の額に手を当てる。
「なっ!」
「まだ、少し熱いですね。食欲はあります?」
「へっ?あ、うん」
気持ち悪さや、ダルさはない。というか、さっきからイイ匂いがしていて、直央の腹が素直に反応する。「くぅ~」
「ちょうどよかったですよ、お粥がいい具合に冷めたところで。よそってはあげますから、自分で食べてくださいね」
と言いながら、哲人は床の上に小さい土鍋を置き、その中のものを茶碗によそう。
「どうぞ。味の好みは知らないので、薄味にはしておきました。気に入らなければ自分で調味料足してくださいね。けれど、刺激物はだめですよ」
「・・・や、ちょうどイイわ。つか旨い。・・これって日向が作ったの?」
「そうですよ。食材が何も無かったので、材料はオレの部屋から持ってきてココで作りました。あ、別に材料費とかは請求しませんので」
「・・なんでそう、一言多いのかな。素直に褒めてんのに」
呆れながらも、直央はお代わりを要求する。
「思ったよりも食欲はあるようですね。医者が言うには普通に風邪だそうです。てなわけで、今日はゆっくり休んでてくださいね」
そう言って空になった土鍋をシンクに持っていこうとする哲人に、直央は慌てて声をかける、
「お、おい!」
「なんですか?まだお代わりがほしいんですか。普通に風邪とは言いましたが、けっこう熱が高かったんですよ。夕飯も用意してあげますから、今はこのまま寝ててください。あ、でも一応着替えたほうがいいですね。今度は自分でやって・・」
「ちげえって。だいたい、何で日向がオレの世話をそこまでやってくれるのかって。や、マジで助かったけど」
「しょうがないでしょう、オレが第一発見者になっちゃったんだから。そうじゃなきゃ、本当に死んでてくれてもよかったんですよ、この建物以外のとこで」
「・・やっぱ、オレのこと嫌ってんじゃねえか」
と、直央は恨めし気な表情で哲人を見る。哲人は肩をすくめて
「それは、財前さんもでしょ。けれど、琉翔さんに迷惑かけてほしくはないのでね。だから、本家の主治医に来てもらったのです。流石に病院まで一人じゃ運べないし、救急車を呼ぶのもはばかられたので」
「本家の主治医?・・ってか、オマエとオーナーさんてどういう関係なの?」
「・・親戚、ですよ。てか、食べ終わったのならさっさと着替えてください。洗濯はしておきますから」
「へっ?う、うん・・」
茶碗を哲人に渡し、代わりにパジャマを受け取る。
「これ以上酷くなったら、問答無用で実家に連絡いれますからね」
「っ!・・な、なんでオマエが・・。ん、なんか眠い」
「ほんと、何でオレがここまでこの人の面倒みなきゃいけねんだよ。オレだってそんなにヒマってわけじゃねえんだぞ」
再び直央が眠りに入ったのを確認して、哲人は布団をかけなおす。
『真島先生に頼んでおいたから、後は哲人が面倒みてもらえるかな。悪いね、締め切りがヤバくてさ』
「琉翔さんにそう言われたら、嫌だなんて言えないけどさ。・・つうか、平和な顔で寝てんじゃねえっつうの、この人も」
直央の寝顔を見ながら、哲人は彼を殴りたい衝動にかられる。
「確かに、加納さんもこの人も中学のときからあんまし変わってない気はするわな。この写真を見る限り」
視線の先にはフォトフレームがあった。中には男子二人の写真。すぐに自分の親友の恋人の千里せんりと直央だとわかる。
「一番平和なのは千里さんか。あの人は何も知らないまま亘祐こうすけと恋仲になって、そして過ごしていくんだろうな。いつまで続くかわかんないけど」
近年、日本でも同性同士のカップルに対してのの法的な整備が進み、普通の正式な夫婦のソレに近い権利をえられるようには、わずかな地域でではあるがなっている。が、あくまで『パートナー』であって、『正式な夫婦』ではない。
「二人とも、別にオトコが好きってわけじゃなくて、たまたま好きになったのが男だったってわけだから、別に将来のこととかも考えてなくて、今はただ一緒にいられればいいんだろうけど」
それでも、自分には絶対に理解できない世界だと思う。直央を着替えさせるときに全裸にはしたが、自分と同じなただの男の裸だとしか感じなかった。直視したいとも、触りたいとも 思わなかった。
「まあ、ベビーフェイスの割には身体は締まってた気はしたけど」
抱きあげたときはただ痩せてるなと思った。が、脱がしたときにその肉体がそれなりに鍛えられたものだとわかった。同時に、複数の傷跡も目についた。
「アメリカでいろいろあったとは言っていたな。そんときは、ただ粋がっているだけかと思ったけど。まあ、下手な医者に診せるよりかはよかったというわけか」
ともかく、自分がこれ以上彼を詮索する必要もないのだと思い直し、食事の後片付けに入る。洗濯機のスイッチを入れ、夕飯の下ごしらえをし、ホッと息をついだ。
「なんで、オレがここまえやらなきゃいけねえんだっつうの。ほんと、最初からこの
人には迷惑をかけられっぱな・・って電話が鳴ってるな。オレのスマホか、くそっ」
「明日はオレが必ずやるから、まとめられるとこまでは進めといてくれないか。ああ、無理のない範囲でかまわない。悪いな、迷惑かけてしまって。・・わかってるよ、今度奢る」
「あ・・れ?お客さんなの?」
電話を切った時、直央の声が聞こえた。
「起きたんですか。お客じゃなくて、オレの電話です。声は抑えていたつもりだったんですけど・・」
「あ、そうなの。てか、もう夕方?・・ずっと、ここにいたの?」
目が覚めたとき、哲人の声が聞こえたことになぜかホッとした。同時に、自分自身が情けなくなる。
(なんで、オレがこいつに助けられてんだよ。嫌いなのに・・なんで・・)
「今日は学校に行くつもりだったんですよ。春休みですが、生徒会の仕事があったもので。で、副会長から電話があったというわけです。気にしないでください」
「するわ!他の人にも迷惑かけたってことじゃん!。もしかして、佐伯も知ってんのか?」
「オレが亘祐に気を使わせることを言うわけないじゃないですか。だいたい、亘祐に言えば加納さんにもバレちゃいますからね。・・もしかして、加納さんに心配されたかったんんですか?人の彼氏に?」
「なっ!・・そういうわけじゃねえよ。つうか、恋人としか会話しちゃいけないわけじゃないだろ。オマエだって、佐伯としょっちゅう学校の外でも会ってるじゃねえか、昨夜だってさ」
「新学期に入ってから行うレクリエーションに必要なものの発注にいってきたんですよ。まあ、亘祐とはたまたま会っただけですけどね。オレ自身はけっこう忙しいんです」
肩をすくめながら、哲人は浴室に行こうとする。
「えっ?」
「洗濯はもうすぐ終わります。乾燥機つきで助かりましたよ。風呂にお湯を入れますから、夕飯の前に入ってください。もう、熱も下がったでしょう」
「うん、だいぶ楽になった。・・ごめん、ほんと」
自分がおもいっきり相手に迷惑をかけて、かついろいろさせていたことに気づき、直央は頭を下げる。
「オレは、もう帰りますから。自分の部屋でできる限りの作業をしたいので」
「えっ?あ、ああ・・そう」
その言葉に、つい寂しげな声を出してしまう。
「なんですか?夕飯までオレに食べさせてほしいんですか?それとも、風呂までつきあってほしいと?」
「はっ?ふ、風呂って・・」
その言葉で 、昨夜の自分の痴態が思い出される。
『や、挿れ・・あ、かきまわされ・・た・・ん・・ん』
「なっ!そ、そんなこと・・ばっ、バカ!」
「何を慌てているんです?もしかして、本当にオレをオカズにしたことがあるんですか。変態ですね、散々オレのことが嫌いだって言っておきながら」
蔑むような相手の表情に、直央も流石にムッとする。
「ん、んなわけないだろ。・・オレは、オマエなんか大っ嫌いだ。助けてくれたことには素直に感謝するけど、もうオレにかまわないでいいから」
「そう・・ですか。まあ、オレはそう言ってもらえれば気は楽ですけどね。夕飯は、卵野菜スープと豚丼作ってあるので食べれるだけ食べてください。明日の朝食用に、おにぎりを冷凍しておいたのでチンして食べてください」
「って、本当に帰らなくたっていいじゃねえか!そんなときだけ素直になるなっつうの。・・マジで上手いな、アイツの料理。今度レシピ教わろうかな」
直央が風呂に入っている間に、哲人は部屋を出たようだ。もちろん着替えはちゃんと用意されていたけど。
「くそっ、顔がいいわ料理ができるわ手際がいいわって・・ただのクソイケメンじゃねえか。性格はクソ以下だけど」
知り合ってから二か月近く。二人ともお互いが嫌いだというわりには、なぜかよく顔を合わす。それは、お互いの親友が恋人同士とうこともあるかもしれないけど、だからって住むマンションまで一緒なのは話が出来すぎな気がする。
「・・って、オレの裸勝手に見といて、貧弱とか言うなっての!佐伯だって、言うほどのアレじゃないように思えるんだけど!・・まさか、千里の方が攻めじゃねえよな。佐伯の方が年下だけど20㎝は大きいはずなのに。・・っ」
こんなことばかり考えているから風邪をひくことになるんだと思い直し、食事に専念することにする。
「デカい図体のわりに器用なんだよな、日向って。ちゃんと食べやすい大きさと形に野菜が切ってあるし、この豚丼もヤバいわ」
朝は、あんなに吐き気があったのに直ぐに完食してしまった。
「もっと食べたいけど・・無理しない方がいいんだろうな。・・最初からこんな調子で、これから一人でやってけんのか、オレ」
母親が一人暮らしをすることに反対した理由が、家賃云々のことだけじゃないのもわかっている。だからこそ、大丈夫だってことをアピールしたかったのに。
「日向が言ってた本家の主治医って、オーナーの高木さんも関係してんのかな、親戚ってことは。なら、あの人にもお礼を言っておいた方がいいよな。そんで、母さんにこのことは言わないように頼んでおかなきゃ」
そしてスマホに入っている番号に電話してみる。
「あ、高木さんですか。突然すいません、財前です。えっ?ああ、もう大丈夫です。おかげさまで、もう夕飯も食べて・・ええそうです、哲人・・くんにいろいろしてもらって・・助かりました。高木さんにもいろいろと・・」
「ふふ、僕は電話を入れただけですよ。まあ、無理しないで何かあったら連絡してくださいね。哲人も、君にとってかなり頼りになる存在だと思うし」
あの時聞いた色気の混じる優しく爽やかな声音で、マンションオーナーの高木琉翔たかぎりゅうとは軽やかな笑いを交え答える。
「で、でも・・」
『オレは、オマエなんか大っ嫌いだ。助けてくれたことには素直に感謝するけど、もうオレにかまわないでいいから』
『そう・・ですか。まあ、オレはそう言ってもらえれば気は楽ですけどね』
(そんな会話したなんて、とても高木さんには言えないよ・・な)
そう思って躊躇していると、電話の向こうから琉翔の笑い声が聞こえた。
「高木さん?」
「哲人はツンデレですからね、素直な感情を君に向けないかもしれないけど、少なくとも僕よりは器用なんで。安心してよりかかって大丈夫ですよ」
「・・どういう意味なんだ?高木さんは何が言いたいんだよ。あの人も顔はいいけど、性格はつかみどころのない人だよな、けっこう。つか、日向がツンデレって。あいつのデレたとこなんて想像もできないっての」
そう思いながら布団の中で目を瞑る。
「まあ、母さんにも話さないって言ってくれたし・・今度直接お礼に行かなきゃな」
「こんな近くに、行列ができるラーメン屋があるとは思わなかったな。美味しいものためなら、オレは労力を惜しまないんだ」
数日後、直央の姿は行列の最後尾にあった。彼の前には20人ほどが並んでいる。が、回転率もいいようで行列の進み具合も思ったより早い。
(でも、出てくる人はみな満足げな表情しているから、不味いってわけじゃないんだろうな。どういう工夫してんのか。まあ、細麺の店だから茹で時間とかは短いんだろうけど)
「会長ってば!早く来ないと、替え玉3杯の刑ですよぉ」
「何ぶりっ子な喋り方しているんだ、気持ち悪い。だいたい、学校でもないのに会長とか言うな。普通に、名前を呼べば・・」
「お、オマエ・・日向!なんでここに・・」
思いがけない再会に、直央の顔が強ばる。
「・・コイツに奢る約束してたんですよ、“あの日”。で、ラーメン好きなんでここに連れてきただけですよ」
『悪いな、迷惑かけてしまって。・・わかってるよ、今度奢る』
(あっ、あの時の会話・・。相手はこの子だったのか。この・・女の子?)
身長は自分より低いが、少しハスキーな声のせいで性別が一見不明に見える。が、可愛いほうの部類に入る顔だ。
「はっはっは。ボクは正真正銘の女の子でーす。会長・・哲人の知り合い?あ、笠松鈴かさまつりんていいます、ボク。哲人と同じ高校で生徒会の副会長やってんですよ。よろしくデス!」
デス!と言いながら、鈴は手を横向きしてピースサインを作る。
「あ、えっ、その・・オレの考えてることわかったの?あっ、オレは財前直央っていうんだけど。ひ、日向とはその・・」
鈴の言動にどういう反応をしていいのかわからず、思わず哲人の方を見つめる。
「オレとは全くの赤の他人。強いて言えば、亘祐の彼氏の親友というある意味どうでもいい存在だ」
仕方なしにという感じで、哲人はそう説明する。
「へっ?や、まあそうなんだけど・・つか、オマエそんなこと」
彼氏とか言っていいのかと、直央は慌てる。
「コイツは特別ですから。あっ、そういう意味じゃなくて、イタイやつだってことですよ。ボクっ子なせいもあって、こいつを女子とか意識したこともありません」
「あっ、ひどっ!こんな可愛いボクをつかまえてさ。ていうか、この人と話す態度がボクとは違うんだねえ。・・哲人もやっと“こっち側”に来たってワケ?」
ニヤニヤしながら、鈴が哲人に聞く。
「こう見えても、財前さんはオレらより年上だからな。だから敬語を使う。当たり前だろ?」
「こう見えてもって何だよ!」
「うーん・・そういう意味じゃないんだけどな。だいたい、亘祐の彼氏の親友ってさっき聞いたしね。・・まあ、いいや」
「?」
(一応、これってデートってことになるんじゃね?男と女なんだしさ。邪魔しちゃ悪いよな・・)
「あっ、3人いっぺんに出てきたから、次はボクたち3人が一緒に入れるね、よかったね」
「へっ?だ、だって・・」
が、果たして直央たち3人が店内に呼び込まれてしまう。
「お、お邪魔じゃないの?オレ・・」
「邪魔は邪魔ですけどね。けれど、コイツをアナタが考えているような意味で意識したことはないですから。できれば、アナタに押し付けたいくらいですけど、アナタに御しきれるような人間でもないんで・・」
「は?」
「んもう!ボクはけっこう誰とでも合わせられるよ?・・だいたい財前さんて・・」
「鈴!」
鈴が言いかけた言葉を、哲人がするどく制す。
「・・ほんとに、哲人は頭固いんだからあ。亘祐を見習いなよぉ」
「はは、哲人は相変わらずだね。鈴ちゃんはバリカタでいいかい?」
「うん、いいよぉ。ねえ、大将も言ってやってよ、このままだと哲人の高校生活は勉強と生徒会だけで終わっちゃうよって」
「あ、の・・日向も笠松さんも大将さんと親しいワケ?」
ただの客と店の主人という感じではない会話を聞いて、直央はつい口を挟む。
「この店をプロデュースしたのボクと哲人だもん。哲人が味を、ボクが内装をってね」
「へっ?ま、マジ!?」
「そうそう。二人のおかげで人気店になれたようなもんだよ。二人にはほんと感謝してる・・はいバリカタ三丁」
主人の言葉と同時に、直央の前にもラーメンが置かれる。
「ふふ、早く食べてみてよぉ、財前さん」
「あ、うん。いただきます・・」
最初にスープを飲んでみる。見た目ほどはトンコツの臭みを感じない。飲みやすいと思って、つい3杯4杯と飲んでしまう。
「うまっ!麺もバリカタって初めてだったんだけど、こんなに食べやすいなんて・・」
「でしょでしょ。その麺の配合も哲人が計算したんだよ」
「へえー、本職でもないのに凄いんだな」
「オレは計算しただけです。後は大将の努力ですよ」
そう淡々と話す哲人の前にある丼の中のラーメンは残り三分の二ほど。そして、鈴の方は麺を平らげ替え玉を注文していた。
「笠松さんて食べるの早いんだね」
「お腹すいてたしねえ。あ、できたら鈴ちゃんて呼んでくれたら嬉しいな」
「へっ?」
「鈴、バカなことを言ってないで・・」
「だって、哲人にもそう頼んだのに言ってくれなかったじゃん」
ぷくっと膨れる鈴の頭を、哲人が軽く小突く。
「いったあ!」
「大げさに痛がるな。だいたい、何でこの人を巻き込む・・」
「亘祐の彼氏の親友なんでしょ?ボクだって、亘祐の友達だしね。それに・・ねえ」
と、店の主人のを見て同意を求める。
「そうだね、せっかくなら哲人も世界を広げた方がいいな。頑なになっていると、俺みたく回り道しちまう。理解してくれる人がいるうちに、な」
「?」
(って、頭コツンて・・なんなんだよ!日向がこんなことするなんて・・なんて羨ましいシチュエーション・・)
「大将・・オヤジさんが余裕が出てきたのは嬉しいけど、余計なことは言わないでほしいな」
「ほんと、哲人は頭固いんだからあ」
「二人って仲いいんだね・・あ、オレは食べ終わったから出るよ」
「ふぅ、もう3月も終わるってのに何でこんなに寒いんだ?せっかくラーメンで温まったと思ったのに」
「風邪が治ったばかりなのに、こんな日に行列に並ぶからでしょう。店内で倒られたら、無理やりにでも連れ出すつもりだったのですがね」
「ひ、日向!・・鈴ちゃんは?」
「別れましたよ。他に用事もないもんで」
そう言うと、哲人は歩き始める。慌てて、直央もそれに続いた。
「なんでついてくるんです?」
「なんでって・・オレも家に帰るからだよ。同じ方向だもん、当たり前だろ」
「買い物はしていかなくていいんですか」
尚も哲人は聞いてくる。
「んだよ、そんなにオレが一緒にいるのが嫌なわけ?」
「アナタが嫌いだって言ってるでしょう。けれど、ここでアナタに倒られたら、あの店にも迷惑がかかりますからね」
「オマエがプロデュースしたんだって?高校生のくせに、やってることも言動もオジサンくさいんだよ。そんなんで・・」
「うるせえな」
「えっ?」
哲人の雰囲気が突然変わった。
「他人の苦労はアンタにはわかんねんだろ!いろいろ理由があんだよ!オレにも、オヤジさんにも、鈴にも」
「日向・・」
『少し・・いやだいぶ身の程をわきまえた方がいいぜ、おっさんよォ。無事でいたいんならな』
『うっせえての。“レイラ”・・わかんだろ?この辺りでゲイでいるんならこの名前をオレが出す意味が』
(また。言葉遣いが変わった。これが本当のコイツ・・なのか)
「お、オレはただ・・そんなんで疲れないかって思っただけで。オレにできないことができるオマエは凄いなって、単純に思っただけで。でも、ごめん。オレの考えが足りなくてその・・」
「・・こちらこそ、すいません。鈴の言動があまりに度が過ぎてる気がして、ちょっとイラついていたんです。アナタは何も知らないのですから、そういう反応にはなりますよね」
再び敬語に戻った哲人は、少し赤くなった顔を直央に向ける。
「!」
「さっきのことは忘れてくれます?無意識にスイッチが入っちゃったみたいで・・」
「スイッチ?や、まあ・・だって声が・・」
普段より、遥かに低い声。高校生とは思えないほど渋い声だと思う。
(やっぱ、カッコイイ!)
そして、今はかなりテレたような、まさに高校生の素顔を見せている気がする。
(ギャップ萌えというか・・マジでツンデレなのね。やばいじゃん、こんなの・・)
「声・・ですか?たぶん、これが地声だと思いますけど」
今の声は若干高めであるが、その不遜な態度と表情のせいか無感情なソレに感じる。
「そ、そうなの?今の方が楽なの?」
「は?何を言って・・ばっ、止まれって!」
「へっ、また・・って、うわっ!」
瞬間、二人の鼻先をかすめるように車が猛スピードで通り過ぎていく。
「大丈夫ですか!・・痛っ」
倒れた哲人のさらに下に直央が横たわっている。
「財前さん!・・くそっ、オレのせいで」
「ちがっ・・ちょっと立ちくらみもあったから。オマエのせいじゃない・・。騒がなくてもいい、歩けるから。ほんと・・」
「・・部屋まで送ります。ただオレの力だけじゃ無理なんで、琉翔さんを呼びますね。少し待っていてください」
そう言ってスマホを取り出す哲人の腕を、直央が押える。
「!・・何をして・・」
「琉翔さんに迷惑かけたくないんだろ!オレだって、そうだ。あの人にも、だけど身内になるべくなら心配かけたくないのはオレも同じだから。それに、歩けるって言ったろ」
「はあ・・しょうがないですね。じゃあ、オレの腰に腕を回してください。肩を貸すには身長差がありすぎるんで」
直央の手を、哲人は自分の腰に導く。
「っ!」
「ちょっと、電話を一本だけ入れさせてもらえますか。や、琉翔さんにじゃありません。さっきの車のことでちょっと・・」
そう言うと、片手でスマホを操作し耳に当てる。
「ええ、ナンバーは・・そう。ええ、車種もそれです。すぐに調べてもらえますか。今回は無関係の人間も巻き込んでいるので。・・そうですよ、さっきのね。忙しいのはわかっていますが、よろしくお願します」
「車種って・・よく覚えてたな、ナンバーも」
直央が感心したように言うと、哲人は顔を伏せた。
「ん?」
「慣れっこなんですよ、こういうのは。・・とにかく、アナタには迷惑かけましたから償いはさせてもらいますよ」
「償い?って・・」
「今夜一晩、この部屋にいさせてもらえませんか?」
「は?はあああああああ?!何言ってんだよ!だいたい、オマエはオレのこと嫌いなんだろ、構いたくないんだろ。オレだって・・」
無理して関わりたいわけじゃない。なるべくなら・・でも。
「さっきだって、オレを庇ったせいで・・」
「違う・・違うんですよ」
「へっ?」
苦しそうな哲人の表情を見て、直央は息をのむ。
「!・・大丈夫か。辛い・・の?」
「なんで、アナタは・・・」
と、哲人は息をつぐ。
「頼りないくせして、そんなに優しいんです?」
「えっ?な、何を言って・・つうか、優しいのはむしろオマエのほうだろ。オレの面倒を一日見てくれたじゃん、そんでワガママも聞いてくれて・・。なのに、オレは」
『オレは、オマエなんか大っ嫌いだ。助けてくれたことには素直に感謝するけど、もうオレにかまわないでいいから』
「千里のこと、オマエを恨んでもしょうがないこともわかってんだ!最初にオマエに助けられたことも、ほんとに感謝してる。でも、オレのバカさ加減をオマエは笑っているんだろうなって思ってるから。だから・・」
「笑っていますよ。どうしてもアナタを助けてしまう自分のこともね。・・アナタが嫌いですよ。ずっと、千里さんに捉われてぐちぐち言って、オレに敵意を向けてくるアナタが・・とても煩わしかった。なのに、アナタはオレの近くにいつもいる。目に入れたくも名前を聞きたくもないのに、アナタはオレの側を離れてくれない」
「日向・・?」
「死んでほしいと思ったのも本気なんですよ。なのに助けてしまった。・・バカじゃないですか、オレ。嫌いなのに、アナタの前で自分を出してしまう自分が・・バカすぎて、本当は壊したく・・なる」
最初に出会ったあの時に、直央の顔を見たときの想いが脳裏に蘇る。初めて会ったはずなのに、どこか懐かしく感じるその顔。好意的なものではないのに、思い出をたぐりよせたくなって、でも“自分の環境”を考えると躊躇せざるをえなくて。
怖かった。なぜ、自分が直央に意識が向くのか。
「ゲイなんて本当に嫌いなんですよ。でも、羨ましくもある。誰かにそこまで想いを寄せられる素直さと潔さが。オレは・・諦めていたものだから」
「諦めていたって・・だってオマエ、別にノーマルじゃん。顔もいいんだから、オマエと恋したいって女はいっぱいいただろ。オマエのお眼鏡に叶う女がいなかったにしても、オマエの方からいつかは誰かにアプローチすることだって・・」
「・・今日みたいなことがあっても、アナタならオレの側にい・・られるんですか?」
「今日みたいなこと?」
と、直央は聞き返す。
「そうです。・・オレの存在はアナタのためにならない。現に危険な目にあわせた。でも・・せめて今晩だけは一緒にいたいんです。じゃないと、オレは安心できない。や、たぶんずっと安心できないんだろうけど」
「よくわかんねえけど」
と、直央はとまどいながらも笑顔を見せる。本当によくわかってないのだけど、けれど自分の気持ちは・・少しははっきりしつつある。
「側にいていいんなら、オレはいる。このマンションにいたいし、千里との付き合いも一生やめる気はねえ。・・好きだからな」
「・・諦めが悪いですね。だから、オトコ同士の恋愛なんて嫌なんです。・・確かな未来なんてソレには無いですから」
「でも、今夜のオレが必要なんだろ?諦めの悪いオレが・・」
「!」
一途に思うのも確かに恋愛ではあるけれど、確かな想いの先に自分が望む確かな未来が永遠にあるわけじゃない。むしろ、ソレが足枷になる場合のことの方が顕著だ。
「・・オレはたぶんオマエが思っているようなオレじゃない。確かに守ってもらってばっかだけど、でもオレはオレの知らなかったアンタを見つけられた。それは・・その・・オレをときめかせた」
「!・・財前さん」
「オマエの目的がなんであれ、オレと一緒にいたいと思うなら、その・・少しでもいいから・・抱きしめてほしい。だって、オマエはいいオトコで、オレはゲイなんだからさ」
「っ!・・まさか、アナタに口説かれるとは思わなかったのですけれど」
しょうがないですね、と哲人は苦笑する。
「抱きしめるだけでいいのですか?・・ゲイのくせに」
「えっ?だ、だって・・」
思いがけない哲人の言葉に、直央の顔の赤さは頂点に達する。
「き、嫌いなんだろ。男同士のソレって」
「嫌いというか・・でも知識はありますよ、だから・・・」
「なに・・!」
「そうやってすぐに無防備になるから、簡単に脱がされてしまうんです。で、こうやってちょっと触っただけなのに、反応してしまうんですから・・困ったものです」
「ちょ・・や・・あん。い・・いきな・・」
「ああ・・やはりキスから始めた方がいいですね。じゃ、目を瞑ってください」
言われた通り目を閉じる。すると、自分の口の中に何かが入ってきた。
「う・・うん・・あ」
それが哲人の舌だと気づいた時には、すでに自分の舌はそれなりに蹂躙された後だった。知らず知らずのうちに、相手の舌の動きに合わせ、なまめかしく自分もソレを動かしていく。
「・・」
「あっ・・あ」
「アナタのアソコの先っぽから、ぬめっとしたものが垂れているんですけど?オレは、ここからどうすればいいんです?」
「あ・・触って・・や・・舐め・・て」
「舐めてほしいんですか、ココを?それだけ?咥えたりしなくていいんですか?上のほうとか・・首筋とか乳首とか舐めてほしいんじゃないですか」
「ぜ・・全部舐め・・て。い、いっぱい感じた・・あっ、あっ・・」
右手で性器を上下され、左手はもう指を何本も尻の穴に入れられている。舌は上から内股まで舐めつくされ、全ての性感帯が悲鳴を上げていた。
「あ・・あん・・あっ・・いい」
「本当に後悔はないのですか?嫌いなオトコに犯されているっていうのに」
「ち、違う。オレは愛されて・・だって・・」
今はもしダメでも、いつかはあの声を聞きたくて。
「好きだって思ったから・・哲人にときめいた・・から」
千里への想いも消えないけど、今は哲人に愛されたいから。
「好き!大好き・・だから、もう・・」
欲しいと思う態度をしめすべく、自分の尻を哲人のソレに押し付ける。
「お願い・・はや・・く」
「・・本当に初めてなんですよ、オレも」
苦笑しながらも、哲人は自分の指でかき回してぐちょぐちょになった直央のソコに、自分のモノをあてがい一気に挿入する。
「うっ」
「ひっ!あ・・あん・・」
初めて異物を受け入れたはずのソレは、けれど離さないというように哲人のソレを包み込んで締め付ける。
「き・・っつ」
「や・・擦らない・・で」
「気持ち・・いいんでしょ。アナタの中が凄く・・」
自分と同様にノーマルだったはずの親友も同じことをしているのかと思うと、少し複雑な気持ちになる。が、自分のソレが肉壁に当たるたび、どうしようもない快感が自分を襲うのを否定する気にもなれなかった。
「奥まで当たって気持ちいいんでしょう?アナタのコレも、もうドロドロですよ。オレ・・も」
夢中になって腰を振り続ける。オトコ同士のセックスなんて、考えるのも身震いするくらい嫌だったのに、自分はいったい何を求めているのだろうかと考える。
「い、イク!あっ・・や・・もう・・イクぅ!」
「オレのことどう思っているんです、今は」
布団に並んで横になって、哲人は相手の髪を撫でる。年上だからだと怒るかなと思いきや、直央はニコッとしながら黙ってソレを受け入れていた。
「言ったじゃん、大好きだって。別に、セックスのためのリップサービスじゃないぜ。ただ、カッコイイってのは本当は最初に出会った時から思ってた。千里のことがなければ、最初から好きになってたと思う」
これが今の偽らざる想い。千里とどっちが上とは正直答えられないけど、でも自分の“初めて”を捧げた人だから。
「好きになったから・・その・・付き合ってもらえたらなって思う。千里と佐伯みたく」
つまり、恋人になってほしいと。真っ赤になって言う直央に、哲人は何度めかの口づけをする。
「!・・あ、あの・・」
「オレのこと、名前で呼んでもらえます?その名字は好きじゃないので。・・さっきは、哲人って言ってくれたでしょ、無意識でしょうけど」
「!・・てつ・・哲人のことがオレは・・好き。だから、オレのことも・・」
名前で呼んでほしいと。
「直央・・さん」
「な、なんで呼び捨てじゃないわけ?いっこしか年齢違わないし、哲人の方が身体大きいし・・その方がしっくりくると」
「それでも、オレは永遠に年下ですしね。それに、直央さんにはもう少し大学生らしくしっかりしてもらわないと」
「・・ちえっ!でも、いつかは・・」
「ずっと待っていますよ、その時を」
たぶん、終わりは彼が思っているより早く来る。哲人は心の中で、直央に詫びる。
(アナタが・・オレを好きになったことを後悔する日がきても・・それでも・・)
「今夜は側にいてよね」
To Be Continued
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