4 / 61

第4話

「はあ?“また”ですか」 「またって・・まだ二回目じゃん。大学生なら普通のことだと思うけど?」 「入学したばかりのアナタが、何を語っているんですか。だいたい、同じ大学の千里さんが彼氏の亘祐としょっちゅう会っているの羨ましがってたんじゃなかったでしたっけ?」  自分が忙しかったらあんなに文句言っていたのに、と日向哲人は呆れた表情になる。 「だ、だって!亘祐くんと哲人じゃ立場違うじゃん。向こうは部活もやめて時間もあるけど、哲人は生徒会が忙しいってそればっかなんだもん」 「実際そうなんだからしょうがないでしょ。それを理由に成績を落とすわけにもいかないんで、勉強にも必死なんですよ」  入学式の挨拶でも言った通り、哲人は模試でも常に全国で上位に入っている。そして大学入試問題ですらスラスラと説いてしまうのも、恋人で大学生の財前直央は知っている。 「そんな必死に勉強してるとこなんて、見たことないけどね!」  ついつい、嫌味のように言ってしまう。というか一緒に部屋にいるときはたいてい抱き合ってるような気もしてる、と思いながら。ちなみに今は営みを終えシャワーも浴びて、直央は服をラフに着て哲人は半裸状態で、哲人の部屋のベッドの上でくつろいでいるところ。 「せっかく、アナタと一緒にいるのに勉強なんかしてたら時間がもったいないでしょ。・・どうせアナタも文句言うんでしょうし」 「はあ?!そ、そんなこと」  図星を突かれ、直央は一瞬ひるむが、直ぐに反論を試みる。 「お、オレのせいだっていうのかよ!だいたい、T大でも受けるつもりなわけ?頭がイイ人は目標も大きくていいね!」 「一応、学校側からそういう期待はされてますけどね。ウチの学校からもT大にはそれなりに合格者出してますし、毎年。けど・・オレは・・」 と、なぜか哲人は口ごもる。しかも顔を赤くしながら。 「んだよ、いけるんならいけばいいじゃねえか。余裕だろ、オマエなら」 「第一志望は、その・・アナタの大学なんですよ。鈴から聞いてるものだと思ってたんですけど」 「へっ?ま、マジ?」  顔を赤くしたまま、哲人はうなづく。 「や、うちの大学だってそれなりだけど、とても哲人が目指すようなもんじゃ・・。確かに、オマエの学校の卒業生もいるけどさ。でも、オマエは学校の代表みたいなもんだし・・周りが納得しないんじゃないの?」 「嬉しくはないんですか?オレがアナタと同じ大学に行きたいって言うことが」 「う、嬉しいに決まってんじゃん!で、でも・・無理、しているんじゃないよね?本当に自分のために行くんだよね?」  念のため、という感じで直央は聞く。 「アナタと知り合う前から、決めてはいたんですよ。尊敬している教授があの大学にいるもんで」 「へっ?あ・・そうなの。そりゃまた・・」  ただの偶然なのかと直央は少し肩を落とす。 「・・今となっては嬉しい偶然だと思いますけどね」 「えっ?」 「そういうわけで、万が一にも落ちるわけにはいかないんですよ。まあ、それはともかくとして・・」 「?」 「オレのこういう思いは無視して、二週続けて新歓コンパに行くというんですか」  照れた表情だった哲人のソレは一転して、厳しいものになる。 「またそれ?・・別にオレは酒飲むわけじゃないし、コンパっつうかカラオケに行くだけだもん。普通の集まりだよ」 「普通・・ねえ」  哲人は先週の出来事を思い出す。直央の最初の新歓が行われた夜を。 「オレが迎えに行ったときは、あまり普通な様子ではなかったですけどね。正直、志望大学を本気で変えようかと思ったくらいにね」 「あ、あれは!・・つうか、テレビのニュースとかで見るかぎりじゃ、だいたいどこの大学でもあんな感じだよ。先輩も、もうああいう輩は呼ばないって言ってたし・・」 「先輩って、直央さんにいやに馴れ馴れしくしてた茶髪でオレより背が低くて軽薄そうな顔してた、アイツのことですか」  その人物を思い出して 、哲人は顔をしかめる。自分との約束の時間を守らず、帰りが遅くなった直央を無理やりに連れて帰ろうとした哲人に対して、その先輩は嘲笑を口に浮かべ哲人にだけ聞こえる声で囁いたのだ。 『アンタ、財前に惚れまくりだな。・・年下のオトコのくせに!』 (くそっ!わかったふうにくだらねえこと言いやがって!オレは・・ただ直央を守ろうとしているだけで。だって、そうじゃないとオレが安心できない・・から)  なのに、好きだという気持ちをはっきりと自分でも確認できない。直央はいつでも自分に愛の言葉を囁いてくれるのに、自分は欲望のままに抱くことしかできない。それは、自分のキャラではなかったはずなのに。直央に対してはどうしても・・ (離れようという気になれない。いろんなことを諦めてきたのに。直央だけは・・どうしても) 「馴れなれしくってって。それは他の人たちからオレを守って・・というか隔離しようとしてくれただけだよ。オレ、からかわれてばっかでさ。うまくあしらえなくて。でも、オマエとの約束の時間も過ぎちゃって焦ってたら、先輩が助けてくれて。オマエが迎えにきてくれた時は、そういう状況だったんだ。でも嬉しか・・」 「先輩が助けてくれた・・それがそんなに嬉しかったか?」  冷めた表情で、哲人は問いかける。 「は?・・違うって。オレが嬉しかったのはオマエが迎えにきてくれたことで。オレが新歓に行くのも嫌がってたから・・」 「ええ、嫌でしたよ。たぶん、ああいうことになると思ってましたから。だいたい、どうせ助けてくれるんなら、もっと早くでもよかったはずですよね。アナタはずっと嫌な思いをしてたんしょ?」 「そ、それは・・そう・・だけど」 と、哲人の言葉に直央は口ごもる。確かに、何度も帰りたいと先輩にも告げた。が、そのたびに他の学生が直央にちょっかいをかけてきて、先輩はそっちをなだめるのに必死だった・・気がする。 「お、オレだけじゃなくて、他の・・特に女子たちも帰りたそうにしてて。なのに、男のオレだけを特別扱いにするわけにはいかなかったんだろうと思う。普通に優しい人だからな、あの先輩は」 「優しくされれば、アナタは誰でも好きになるんですか」  自分がどんどん嫌味な言い方になっていくことを哲人は自覚していた。直央の性格を考えれば、ヤバいことだとわかっているのにどうしても止まらない。 「オレが迎えにきたときも、アナタの顔ひきつってましたよね。とても嬉しがっているようには見えませんでしたよ。まるで・・」  浮気現場を見つけられたかのようだった、と直央に告げる。 (オレは、何度もLINEを送って、それに既読もつかなかったから、すっげえ辛くて焦って・・なのに直央のあの態度は) 「だ、だって!哲人が怖い顔してたから・・。それに、哲人のことどう説明していいかもわからなくて。兄弟はいないって言ってあったし・・」 「恋人だって言えばいいじゃないですか!大学生になったら、千里さんにだってカミングアウトするつもりだったんでしょ。それとも、オレが恋人じゃ不満なんですか、恥ずかしいんですか!」 「ふ、不満とかあるわけねえだろ!こんな、カッコイイ人がオレの彼氏だってみんなに自慢したいくらいだよ。でも、オマエが・・だってオレはゲイだけど、オマエは普通の男だし、だから・・」 「ほんとに・・アナタは他人のことにはそうやって気を向けることができるのに、人からのソレには鈍感なんです?ほんとにゲイなんですか?」 「はあ?何をいまさら・・オレはオトコにしか興味もてないもん」 「あの先輩・・それなりにはイイオトコでしたよね。軽薄そうな顔ではありましたけど」 「それ、まだ言う?」  哲人が他人のことで、ここまでつっかってくるのは珍しいなと思いながらも、さすがにげんなりした様子で直央はこたえる。 「確かに、他の男子学生より格段にモテてたけど、オレの好みじゃないもん。でも友達にはなりたい・・かな。頼りになるし。まあ、先輩と後輩だから友達ってわけにはいかないだろうけど。相談相手くらいには・・」 「あんな数時間で、もうアナタをそんな気持ちにさせてしまったんですか。オレでさえ、2か月近くもアナタに敵意持たれていたというのに」  唇を噛みしめる。自分の中にどうしようもない不安が沸き上がるのを感じる。 「やっぱダメです!大学での交友関係にオレが口を挟む権利がないのはわかってますが、あの男だけはアナタに近づけさせたくない!」 「そ、それって・・」  哲人の言葉に驚く。 「もしかして、先輩に嫉妬してんの?」 「・・そんなわけないでしょう」  動揺しながらも、哲人は努めて平静気味に答える。自分の気持ちを知られるわけにはいかないのだからと。 「ただ、オレはあの男が気に入らないんです。あいつは絶対・・」 (マトモな人物ではない。直央みたいなヤツは簡単に騙せるだろうが、生憎オレにはそういうわけにはいかないんだよ)  子供のころからの自分の経験を直央に語るわけにはいかないが、あの先輩が危険な人物だということは直央にはわからせたい。 「だいたい、アナタはサークルには入らないって言ってたじゃないですか。そんなアナタをなぜソイツはしつこく誘うんです?何の益もないのに」 「知らねえよ。迷惑かけたお詫びとは言ってたけど・・。なあ、オマエがそんなに嫌だって言うんなら別に無理していきたいわけじゃないから・・」 「散々、オレをイライラさせておいて、結局は『別に無理したいわけじゃない』とか、ふざけてませんか。なら最初から行きたいなんて言わなければいいんです」 「はあ?お、オレだって大学生っぽいことしたいなって思ったから・・。そしたら、オマエが思っていた以上に反対するから、だから思い直してことわろうと」 「どうせ、オレは高校生のガキですからね!アナタが望むような経験もさせてあげれませんよ」  あえて、気にしないでいようと思っていた立場の違い。普段はワガママでまるで危機感を自覚しない子供っぽい直央が、やけに自分が大学生であることを主張し、かつ哲人がダメだというから自分が諦めるしかないんだというような言い方をするため、いつになく苛立ってきた。 「すいませんね、アナタを・・思いやってあげられないで!」  どうしても嫌味な言い方になってしまう。 「なんで・・そんな風に言うのさ。オレはただ・・」 「直央さん?」 「オレの気の使い方が下手なのはわかってる!でも、オレの立場だ・・って・・わかってよ・・」  直央の声が震えているのに気づき、哲人は「えっ?」と直央の顔を見やる。 「直央さん、泣いて・・」 「好きなのに・・なんでわかってくれないんだよ。哲人から、ちゃんと“言葉”をもらってないから、不安なのに。それでも、哲人は抱きしめてはくれるから。だから、それだけを心のよりどころにしてんのにさ。なのに・・」 「!」   いつのまにか身体が離れていることに気づき、哲人は直央を急いで抱きしめようとする。 「 す、すいません!オレ・・」 「嫌っ!」  顔を近づけようとした哲人を、直央は全力で突き飛ばす。 「!・・な、何を・・」 「ミント入りのキャンデーかなんか食べただろ!オマエ」 「キャンデー?・・・ああ、さっき舐めましたよ。その・・学校で1年生の子に貰ったもので」  ある相談事を解決し、そのお礼にと貰ったキャンデーがズボンのポケットに入っていたのを思い出し口に含んだのだ。直央との言い合いに口が疲れたためだったのだが、二舐めほどしてあまりの味のキツサに吐き出していた。 「その1年生って女子なんだろ。入学式の直後からモテてたみたいだもんな」 「なんで女子って・・」  確かにそうだし、入学式後の騒動は既に直央も知っていることだからと、つい軽 い気持ちで哲人は言葉を発してしまう。 「ミント味のキャンデーを持つのは普通に女の子でしょ!だいたい、哲人はオレと違ってノーマルなんだから、普通は女の子とつきあうよね。哲人の学校なら才色兼備が揃ってるだろうからね。オレなんか・・全然敵わないような」  ゲイがノンケのイケメンの男に恋をしたら、絶対に直面する問題。特に哲人はゲイを絶対的に嫌悪していたから、と直央は声を震わせる。 「オレは・・何度も好きだって言ったのに、哲人は言ってくんないじゃん!ただのテレだと思っていたけど、今の様子だとそれも怪しくなってきた!」 「そ、それは・・」  自分で自分の気持ちを量りかねているから。それを言えば、ただの身体目当てだと思われてしまうかもしれない。 「けど、アナタを大事にしたいと思うのは偽りない気持ちで・・」 「なら、今日は近づかないでよ」 「へっ?」  少なくとも、つきあってから初めて言われる言葉に哲人は驚く。 「なんで!」 「ミントはダメなんだよ。アレルギーってほどじゃないけど、近づきたくはないんだわ。・・今日は自分の部屋で一人で考えたい、いろんなこと。」 「すいません、知らなくてその・・」 「いいって!オレもたぶん初めて言ったことだから。でも、今夜は・・一人にしてくんね?ほんと・・いろいろ考えたいんだ。哲人のこと・・本気で愛しているから」 「えっ!愛してるって・・」 「変?・・だってオレはゲイだぜ。こんな素敵な男性が側にいて、他の人に目がいくはずないじゃん。や、ゲイじゃな くても、哲人は十分にかっこいいもの。・・けど哲人のこと好きになっていいのは、オレだけじゃない」 「!・・直央さん・・」 「さようなら」 「直央?・・どうして」  一人になった自室のベッドの上で、哲人は呆然とする。 「オレは・・だって」  確かに、自分は直央のようなゲイではない。初恋の相手だって女性だ。今だって、直央には言ってないが女子生徒からのアプローチはほぼ毎日のようにある。 (潤滑よく学校生活をおくらせるために生徒会がその助言をする・・。そのつもりだったのに、なんでオレ個人に執着するんだよ)  自分はもう人には執着しない。それが役目だと思う以外には。だから、入学式の時に新入生に自分たちを頼ってほしいと言った時にも、もちろん個人的な感情とは一線を引いたところ、でのつもりだった。  ただ、生徒会長としての責任と職務はまっとうする。・・ただ、そこに自分への個人的な感情が混じるとは思っていなかった。自分は好かれるに価しない人間だと思っていたから。 「オレが・・それでも手離したくないって・・思ったのに」  普通なら、ソレは「好き」という思いが揺り動かす感情。生半可な想いでは、自分はここまで彼に干渉すらしないから。  なのに怒らせてしまった。部屋から出ていかせてしまった。彼を守ると決めていたのに。 「バカか、オレは・・」   ピンポーン 「は?なんだよ、今頃・・。直央か?いいですよ!鍵閉めてませんから」 「んじゃ、入るぜ。つうか、誰がくるかわかんねえんだから鍵は閉めとけっつうの」  聞こえたのは恋人の声ではなく、もっとチャラい・・けれど毎日のように聞くボイス。 「り、涼平!なんでオマエが・・」 「哲人の忘れもんを持ってきてやったんだよ。オマエが電話にでねえから」  生徒会副会長の橘涼平にそう言われて、慌てて自分のスマートフォンを手に取る。 「っ!気づかなかった・・」 「だろうな」 と、ベッドの上を見ながら涼平は呆れたように言う。 「完全に“事後”じゃねえか。さっき、ここから出ていったのがオマエの彼氏なんだろ。で、誰がきたか確認もしないで部屋に迎え入れようとしたってことは、次の約束があったわけ?どんだけ肉食系なんだよ、オマエ」 「そ、そんなわけないだろ!て、てか忘れものって・・」 「うん、これ。オマエの大事なものだろうがよ」  そう言いながら、ポケットから一本の万年筆を取り出す。 「・・オレの大事なものと知っていながら、扱いがぞんざいだな。とにかく助かった、ありがとう」 「忙しいのは側で見てっからわかってるけど、コレをわざわざ学校に持ってきて、しかも忘れるとか。うっかりにも程があるというか・・おかしいというか」 「夢を・・見たんだよ。彼女あの人の。それでつい・・」  初恋の女性は夢の中で自分に優しく微笑んでくれた。とっくに気持ちのケジメはつけているし、今は会えば普通に話している。 「直央さんと付き合ってからは、ほとんど意識から抜けていたんだけどな」 「先週から、オマエのイライラが顕著になってたからな。そのせいだと思うぜ?」 「・・・そんなに・・だったか?」  自覚が無かったわけではない。その原因もわかっている。が、公私の区別はつけていたつもりだった。 「そんでもって今夜は、その彼氏ともケンカしちまったわけだろ?ったく・・何やってんだよ」 「な、なんでわかる?」  思わず驚く。 「泣いてたぜ、オマエの彼氏」 「えっ!」 「って、追いかけようとかすんなよ。どういう経緯でこうなったんかは知らねえけど、今のオマエが行っても事態は悪くなるだけだって」  とにかくパジャマを着ろよ、と涼平は哲人の肩を叩く。 「けど、オレは・・」 「まあ、初めて付き合う相手がオトコってことで、いろいろ上手くいかないことがあるんだろうけどさ。けど、仲良くはやってたんだろ?何があったんだよ」 「わからないんだよ、直央さんにどう伝えていいのか」 「へっ?」 「あんなにお互いに嫌いあってたのに、いきなり恋人になって・・。でも、それは別に嫌なことではなかったんだ。だから・・抱けるんだと」  相手の真剣な気持ちはわかっている。だから、その身体だけを目的に付きあうわけじゃない。けれど・・ 『好きなのに・・なんでわかってくれな いんだよ。哲人から、ちゃんと“言葉”をもらってないから、不安なのに。それでも、哲人は抱きしめてはくれるから。だから、それだけを心のよりどころにしてんのにさ。なのに・・』 『オレは・・何度も好きだって言ったのに、哲人は言ってくんないじゃん!ただのテレだと思っていたけど、今の様子だとそれも怪しくなってきた!』 「直央さんは言ってくれたんだ。オレのこと・・愛してるって」 「あ、愛してる?・・それはまた・・」 と、涼平もつい顔を赤くする。 「てか、そう言われてオマエはどう思ったんだよ」 「正直嬉しか・・った。けれど、その前に戸惑いの方が先に顔に出ちゃったみたいで。それも直央さんには気に入らなかったみたいだ」 『・・けど哲人のこと好きになっていいのは、オレだけじゃない』 「なんでそんなこと言わせちゃうかなあ。バッカじゃねえのオマエ」 「・・返す言葉もない」 「あれ?」  思いがけない反応に涼平も考え込む。 「とりあえず、何があったか話せ。あ、セックスのくだりはいらないかんな!その布団の乱れ方だけで、オレはもう現実逃避したい気分なんだから」 「ヒドイ言い方だな。もしかしてオマエもBL否定派?」 「ちげえわ!目の前で普通に話してるオマエのそーゆー姿を想像したくないだけだよ!つうか、さっさと話せ!」 「つまり、彼氏が明日他の男とデートすっから嫉妬したと」  アホらしい、と涼平はため息をつく。 「デートじゃなくてカラオケ!他にも人がいるって言ってた」 「でも、行くなって言ったんだろ。大学生には大学生なりの日常があるのもわかっていて、そんでも彼を独占したいって、どんだけ惚れてんだよ、オマエ」 「そうじゃ・・ないよ。ただ、オレが安心できないだけだ。まあ、それもオレの勝手な想いではあるんだけど」 「先日のことを言ってんのか?オマエらが車に轢かれそうになったってヤツ」  その言葉を聞いて、哲人の表情が曇る。 「ああ。オヤジさんでも車の持ち主は突き止められなかったからな。でも、あれは確かにオレらを狙っていた。 「“狩犬”を動かすか?ヤツらの役目はオマエを守ることだからな」 「まだ、その段階じゃない。言っとくが、オマエも余計なことするなよ」 「・・わかってるよ」  念のため、という感じのニュアンスだと涼平は薄く笑う。狩犬の名前を自分が生半可な気持ちで出すことがないのは、哲人も知っているはずだからと。 「明日、彼氏が行くことになっているカラオケ屋って、レンガ通りを抜けたとこにあるアソコか?」 「ああ。それがどうかしたか?確か高校生や大学生が主な客層の店だと聞いているが・・」 「・・や、いい評判は聞かないからさ。って、オマエこそ余計なことすんじゃねえぞ。下手すりゃ、彼氏とジ・エンドだからな」  涼平が帰り、一人になった哲人はスマートフォンを見つめ思案する。 「電話しても、たぶん出ないだろうな、直央は。もしかしたら寝てるかもしれないし」 が、自分はなかなか寝付けない。疲れてはいるが、直央の言葉と明日のことが気になって仕方がない。 「しょうがねえな。見ないかもしれないけど、一応LINEは入れておくか。・・すいませんでした、おやすみなさい・・と」  そのメッセージにはすぐに既読がついた。が、レスはこなかった。 「見てはくれるんだ。・・今はそれだけでも良しとしとこうか。つうか、涼平のやつ・・」 『・・や、いい評判は聞かないからさ。って、オマエこそ余計なことすんじゃねえぞ。下手すりゃ、彼氏とジ・エンドだからな』 「思わせぶりなこといいやがって!結局はオレを煽っているんじゃねえか。ハウンド・ドッグの名前まで出して・・。けど、そんなこと直央には言えないからな。アイツには縁のない話だ」  仕方なく横になって目を瞑る。 (くそっ!明日は・・) 「標的ターゲットは確認したな。ああ、明日は二手に別れろ。どちらが本命かわからないからな。が、例のブツはおそらくどちらにもあるはずだ。手筈どおりやっとけよ。オマエは引き続きターゲットを見張れ」  電話を終えて、涼平は深くため息をつく。 「マジで狩犬を動かすことにならなきゃいいんだけどな。彼氏に対して、哲人に下手な感情を持ってほしくはないし・・。せいぜい黒猫で済んでほしいぜ」 「悪いね、こっちの指定した待ち合わせ場所まで来てもらっちゃって。あ、他の人は先に行ってもらったから」 「ああ、そうなんですか。でも、オレだけなんで・・」  カラオケの約束の日、直央は件の先輩と共にいた。 「キミの歓迎会のやり直しのようなものだからさ。みんなには準備してもらうことになっているんだよ」 「歓迎会って・・。オレはサークルには入らないと言ったはずですよ。無理やり勧誘するというなら、今すぐ帰ります」  身構えながら、直央は答える。多少ではあるが直央も身体は鍛えている。アメリカで普通に生き抜いていくために必要だったから。もう一つ、理由はあるのだけれど・・ 「はは、わかってるよ。や、ほんと残念だけどね。てか、思ったよりもはっきり意思表示するんだな。ちょっと印象が変わったよ」  直央より10㎝以上背の高い先輩は、歩きながら直央をじっと見つめる。 「顔はそんなに可愛いのにね」 「なっ!・・お、オレをバカにしているんですか」  顔を赤くしながらそう答える直央に、先輩は柔和な笑顔を見せながら話しかける。 「人を馬鹿にできるほど、オレも自分に自信があるわけじゃないからねえ。キミのその素直さが羨ましくもあるし。よっぽど周りから大事にされてるんだなとは思う」 「えっ?」 「ちょっと遅くなったくらいで、彼氏が迎えにくるんだもの。あれは本気で驚いたよ」 「!・・なんで、そんなことがわか・・あ!」  思わず口を押える直央の様子に、先輩は今度は声を上げて笑う。 「あははは!やっぱ、財前くんは可愛いよ。そりゃあ、彼氏も心配になるよね。今日はちゃんと早めに帰すからさ」 「す、すいません・・ほんと」 「いいって、いいって。オレは別にゲイじゃないけど、先に知り合ってたらヤバかったな」 「!」 「彼氏・・年下でしょ?身体は確かに大きいけど、キミはやっぱ年上が守ってあげなきゃいけないんじゃないかな。いざというとき、高校生じゃ頼れないときも多いだろうし」 「そ、それは・・でも・・」  どもりながら答える直央を見て、先輩はニヤリと笑う。 「あの彼氏はゲイなの?」 「ち、違います!アイツはそんなんじゃ・・」 「そんなん・・て。財前くんはゲイだよね?自分を卑下するようなことを言っちゃダメだよ。少なくとも、オレのキミへの好意は変わらないよ」 「は?好意って・・」 「嘘、じょーだん。でも、本当に気に入ってたんだよね。だからさ、個人的に仲良くはしてほしいんだよね」 「それは・・」  この先輩は最初からこういう感じだったと、直央は思い出す。馴れ馴れしくもあり、けれどあまり気を使わせないタイプだと思う。 (哲人にも言っちゃったけど、友達にはなれる人だとは思うんだよな。まあ、好みじゃないけど顔は良いし。確かに、同じ大学の方が何かと頼りにはできるし・・)  やがて、目的のカラオケ店に着いた。 「ほら、ここ。ウチの大学の学生もよく利用しているんだよね。これからも時々、一緒に来れたらいいなあ」 「あっ、オレ・・そんなに歌とか上手くないんで・・」 「じゃあ、オレの歌聞いてよ。けっこう自信あんの」 「ターゲットはAの方に入りました。やはり、こちらが本命だったようです」 「わーった。やはりリストに入っていた人物だったな。例のブツは変えただろうな」 「大丈夫です。ではBの方はどうします?」 「こっちを潰してからじゃないと、向こうに連絡がいっても困るからな。タイミングは中のヤツが合図する。それを待て」  スマートフォンを手に持ちながら、涼平は店の方に顔を向ける。直央たちが入った後も、数名の客の入店があった。ほとんどは若い人たちだったが、中には中年の姿もあった。 「これ以上、人が増えても困るんだよな。黒猫だけで済ませたいんだからさ。てか、こん中にどんだけ中毒者がいるんだっての。もっと早くに手を打てればよかったんだけどな」  この界隈のきな臭い噂を涼平が知ったのが、今年の初め頃。警察の介入も期待できないことを確認し、自分が率いる黒猫に調べさせていた。 「もう少し秘密裡に動きたかったんだけどな。哲人の彼氏がまさか関係しているとは・・。哲人にも、できたら知られたくなかったんだけど」  哲人を守る立場の自分が、哲人を危険な目に遭わせるわけにはいかない。 「でも、あの様子からすると哲人来てるよな。見張りはつけといたけど。でも、これでアイツらの関係にも変化があるかもな」 「本当に、上手いですね。オレもそれくらい歌えればなあ。音楽はよく聞くんですけどね」  直央は本当に感心したようで、まだ手を叩いている。 「財前くんだって、うまく盛り上げてくれるじゃん。だから気持ちよく歌えたんだよ。他の子もありがとね」  にこやかな笑顔を見せながら、先輩はドリンクを一気に飲み干す。 「流石に喉乾いちゃったよ。て、お代わり頼まなきゃね。・・みんなも頼む?」 「あ、はい」  直央は立って電話の受話器を取り、ドリンクを注文する。 「あ、注文してくれてありがとう。財前くんも、これ食べる?ドリンクくる前に一舐めしなよ」 「一舐め?キャンディーかなんかですか?」  見ると、同じ部屋にいた全員が口の中に何かを入れている様子だった。 「キャンディー・・か」 「あれ?財前くんてこういうの嫌い?」 「や、そうじゃないんですけど・・。ちょっと、昨日キャンディーのことで嫌な思いはしたんですよ。だから・・」  昨夜のことを思い出して、直央は苦い顔になる。 (哲人・・あれから連絡もないけど、やっぱ怒ってんのかな。LINE返しときゃよかった・・) 「彼氏と何かあったんだね」 「えっ・・何でわかる・・」 「言ったろ、オレもキミに好意を持ってるって。ぶっちゃけ一目ぼれだったんだよね」  ニヤついた表情で、先輩が直央に近づく。 「さ、さっきは冗談だって・・。それにゲイでもないって」  驚いて、直央は後ずさりする。入り口に近づこうとするが、先輩が素早く背後に回りこむ。 「別に、無理して迫る気はないよ。ゲイじゃないっての本当さ。バイだから、オレ」 「ば、バイ?!」 「そ、どっちもイケる口。だから、嘘はついてない。まさか、あんな彼氏がいるとは思ってなかったけど、そんなに嫌なことがあったっていうなら、オレにもワンチャンあるんじゃないかって思ってるとこさ」 「あ・・あ」 「オレなら、彼よりキミの近くにいつもいられるし、キミに嫌な思いはさせないよ」  顔がどんどん近づいてきて、思わず直央は目を閉じる。 「・・まいったな、そこまで拒絶されるとは思わなかった。少しは自分に自信あったんだけどな」 「へっ?」 「今だって、キスできるチャンスだったんだけど、流石に好きな人に無理やりのキスはできないよ。残念だけど・・」  先輩が申し訳なさそうな顔をするのを見て、直央も似たような表情になる。 「ご、ごめんんさい。先輩ってカッコいいとは思うけど・・」 「でも、彼氏の方が好きなの?いいなあ、キミにそこまで思われて。けど、オレをカッコいいって言ってくれて嬉しいな」 「あ、はい。けど、先輩は女子にもモテるから・・」 「まあ、そりゃあどっちかっていうと女の子の方が好きかな。でも、キミは特別なんだよね。ちょっと・・抱きしめてもいい?」 「へっ・・はあ・・」  思いがけない先輩の言葉に、つい頷いてしまった。 「やったね!じゃあ、ハグっちゃう」 (オレ・・なんで哲人じゃない人に抱きしめられてんの?だめだよ、こんなの。でも・・なんか優しい感じで)  いい匂いもすると、直央はついボーっとなってしまう。 「好きだよ、直央」 「えっ?」  耳元でそう囁かれ、直央は顔を赤くする。 「お、オレ・・」 「キスしてもいい?」  耳たぶを甘噛みされ、ますます頭がぼーっとしてきた。つい、頷きそうになってハッと我にかえる。 「ほ、他の人が見てますって!」 が、周りを見渡して異変に気付く。 「み、みんな・・どうしたんだよ」  全員が目をトロンとして、半分眠っているようだった。 「みんな、歌い疲れちゃったのかな。直央は、これを舐めて頭スッキリさせなよ」  テーブルの上にあったキャンディーを一つ手に取り、先輩が直央に渡す。何の気なしに、包みを開けすぐ“ソレ”に気づく。 「ん?どうした?」 「すいません、オレ・・ミントは体質的に受け付けないんですよ。だから、これは食べられないで・・」 「マジかよ」  急に先輩の声音が変わった気がした。 「先輩?」 「調査不足だったな。せっかくのチャンスだったのに・・」 「な・・」  訳が分からず、ともかくもと直央は外に出ようとする。 「無駄だよ。部屋から出られても、この建物からは出られない。一挙両得でいこうと思ってたんだが、やっぱ欲をかくとうまくはいかなかったな。けど、実力行使には出せてもらうぜ。無理やりにでも舐めさせてやる」 「な、何を・・」 「無理ですよ。直央さんはアナタの手に負える人じゃない。クスリを使わなきゃ言うことを聞かせられないような輩には特にね」 「哲人!なんでここに?てか、クスリって・・」 「直央さんがミント嫌いでよかったですよ。ちなみに、どの部屋にあるモノもドラッグではなくキャンディーに代わってます。まあ、睡眠薬入りですから身体への影響は避けられませんが、危険ドラッグよりはマシでしょう」  寝ている他の学生を見ながら、哲人はそう言った。 「危険ドラッグ?なんでそんなものが、カラオケ屋に・・」 「密かに、中毒者を増やすためですよ。店に最初からサービスとして置いてあるものなら、何も疑わずに口にするでしょう。一度口にしてしまえば、その後はどうしてもソレを求めてこの店に来ざるをえない。リピート客と中毒者の一挙両得ってわけですよ」 「オマエ・・何でそんなことまで知っている!たかが高校生のくせに!」  憎々し気に先輩が叫ぶ。いつのまにか、その身体は見知らぬ男たちに確保されていた。 「先輩!」 「そんなヤツの心配なんかしなくていいですよ。そいつは犯罪者なんですから」 「は?どういう意味だよ」  直央の問いに、哲人は肩をすくめながら答える。 「・・アナタの大学も売買ルートに組み込まれていたんですよ。こいつは売人というわけです。いや、オレもそれは知らなかったんですけどね。知ってたら、土下座してでもアナタを止めていた。一連のソレを調べたのはオレの仲間です。そこでコイツを捕まえているのがそうなんですよ」 「仲間?いったい何の‥」  どう見ても“普通”の人間には見えないと思いながら、哲人に尋ねる。 「黒猫という組織ですよ。オレの親友が率いている、ね」 「親友?・・って」 「オレっすよ、一応初めましてですね、直央さん。・・いやあ、あんた運がよかったぜ?もし実力行使とやらに出ていたら、一生病院から出られない身体になるところだった。まあ、哲人は許してねえみたいだけど」  涼平は、にこやかに直央に挨拶した後、先輩の方を睨みながらそう言い放つ。 「涼平・・わかっているのなら止めるなよ」 「止めないけど、さ」  さ、という言葉と共に涼平の拳が、先輩の腹にめり込む。 「う、ぐっ」 「ばっ、涼平!」 「汚れ仕事はオレの役目だっつうの。だいたい、今のオマエだと殺っちまいそうだしな。恋人の前でそれはダメだろ、いくらなんでも」 と言いながら、涼平はうずくまる先輩に近づく。 「気絶してやがんな。まあ、アバラ全部がいっちゃってるはずだし、無理もねえか」 「オマエも大概だろ」 と、哲人は呆れる。 「コイツにボロボロにされたのが、うちの学校のOBにもいるんだよ。許せねえだろ、現役生徒会役員としてはさ。つうか、ココはオレらにまかせて直央さんを連れて家に戻れ。黒猫がちゃんと見張ってはいるけど、途中で何かあっても哲人なら守れるだろ」 「あ、あの・・」 「なんですか、直央さん」 「オレ、まだ何がどうなったかよくわかってないんだけど」  途中何事もなく、無事に哲人の部屋に着いた二人は、ベッドの上に座っていた。もちろん服は着たままで。 「後で来た橘涼平という男は、オレの同級生なんです。普段はオレと一緒に生徒会活動をやっているんですけど、裏の顔が・・黒猫のトップというわけです」 「裏の顔って・・つまり非合法組織的なヤツ?」 「そこまで悪いわけではない・・つもりですけどね」 と苦笑いしながら、哲人は答える。 「黒猫は諜報部隊ですから、手荒なまねは極力控えるようにはしているはずです。警察とのコネクションも持っていますからね。ただ、涼平はキレると凄いですから、腹パン一発で終わらせたというのが奇跡ですよ」 「腹パン一発って・・アバラが全部折れちゃったみたいじゃないか。普通に犯罪になっちゃうんじゃ・・」 「一応まだ逮捕されたことはないですよ。向こうも訴えることはしないでしょうし・・」 「で、でも・・」 「あの男は、傷が癒えた後は逃げ回る生活になるはずです。やつのバックにいた組織からね。ルートを何個か潰したわけですし」  どうでもいいことだと、薄く笑いながら哲人は言い放つ。 「うちの大学でそんなことになってたなんて、全然気づかなかった」 「アナタは入学したばかりで巻き込まれてしまったわけですからね。おそらく、何人かの退学者や中毒者が出て混乱はするでしょうが」 「中毒・・か。治ることはないんだよね?」  暗い表情になりながら、直央は哲人に聞く。 「完治することはありません。ああいう方法で中毒者にする手は昔からありましたけどね」 「ひどい・・ね」 「すいません、アナタを巻き込むつもりはなかったんです。や、知らなかったからと言い訳するつもりもありません。黒猫の責任者はオレですから」  知られたくなかったことだけれど、と唇を噛む。諜報部隊といえど、黒猫が場合によっては人を傷つける場合がないわけもないことも、涼平の行動を通じてたぶん直央には知られてしまっただろうから。 「だって、オレのためだろ?オレが今日アソコに行かなかったら、もっと別の解決方法があったんだろ?」 「それは・・でも」 「つうか、オレが巻き込んだようなもんじゃん、哲人を。本当なら、涼平くんは哲人にあそこに行かせるつもりなかったんだろうし、哲人もオレのことがなかったら行く必要もなかったはずだし。結局は・・」  事件のことが理由じゃないにしろ、行くなと言った哲人の言葉を無視した自分が悪いのだと、直央は泣きたい気持ちになる。 「ごめん、ほんとにごめん。哲人のことが好きなのに、オレは哲人に迷惑しかかけられない・・」 「じゃあ、もっと優しい言葉をかけてくださいよ。オレも、ちゃんと言いますから」 「は?優しい言葉って‥」 「言ってほしいんです、オレの側にいるって」  開き直るつもりではないのだけれど、と心の中で苦笑する。もっと汚い部分も自分は隠している。この先ずっと付き合っていけば、いずれは全てが直央にバレてしまうだろうということも、今日の出来事で強く再認識した。 「でも、耐えられなかった。涼平がやってなければ、本気でオレがあの男を・・・。オレがアナタを離さなければ、あの男がアナタにしたようなことを今後は誰もアナタにできない」 「そ、それって・・見たの?」  ヤバいと思いながら聞く。哲人の表情が苦し気に歪む。 「哲人・・」 「アナタに誰も触れてほしくはないんです。ハグなんてとんでもない!キスなんてしてたら、アイツの唇を切り裂いてしまったでしょうね」 「ほ、本気?」 「それくらいの気持ちはあるってことです。絶対に誰にもアナタを渡したくない・・いえ、渡さない!」  そう言いながら、直央を抱きしめる。 「なんで・・他のオトコなんかにアナタを・・。もう嫌だ、好きな人をなくすのは」 「好きな人って・・言った?今」 「そうですよ、オレは直央さんが好きです。そう思わないようにしていたけど、でも・・やっぱ我慢できない。オレの心も身体も常にアナタを求め続けている。あなたが大好きだから」  そう言いながら、直央の服を脱がす。 「この唇も首筋も胸も、オレ以外には触らせません!もちろん、アナタのコレもそうです。触っていいのはオレだけです」 「あっ、ああ!・・ひっ・・ああ」 「感じます?オレの想いわかります?・・ああ、いっぱい涎を垂らしていますね。少し握ってしごいただけなのに、アナタって人は・・」 「だ、だって・・好きだもん、哲人が好きだもん。もう・・こんな風にしてもらえないかと思ってた・・から。あっ、そこ・・もっと擦って‥イイ!」  やはり、この手に触れてもらうのが一番感じることができると、直央は改めて思った。 「やっと、哲人がオレのことを好きって言ってくれたの、凄く嬉し・・あっ、イイ。こ、ココも舐め・・て」 と、直央は自分の胸を哲人の身体に押し付ける。 「いつも言いますけど、スケベすぎますよ、直央さんは。オレだけで満足してくださいね」 「イイ!あっあっ・・もっと、ペロペロしてえ!」  片方の乳首は哲人の舌で舐めまわされ、もう片方は指で摘ままれたり転がされたりしてすぐに大きくなる。 「ひっ・・い・・あっ・・あ」 「そろそろお尻の方にも欲しいんじゃないですか?指を挿れてもいいですか?」 「き、聞かなくてもわかってるくせに・・イジワル」  恨めし気なその表情に、哲人の表情がつい緩む。 「どうして、アナタはそんなに可愛いんです?だからオレは・・」  彼を愛さずにはいられないと、指に力を入れる。 「あっ、あっ、あっ・・やっぱり指じゃ‥ダメ、もう。哲人のが欲しいのっ!」 「早くないですか?そんなに、オレを欲してくれる・・なんて」  この先、どれだけ自分がこの人を傷つける出来事が起こるかわからない。それは自分が今の立場である限りは変わらない。 (でも・・オレは直央を好きになってしまったから)  少しの望み。彼ならばあるいは、と。 (今はとにかく、この人を感じて・・感じさせたい。オレ自身で) 「もう、オレのモノを簡単に奥まで受け入れられるようになったんですね。いいですよ、かき回しますから‥ね」 「ひっ!いやあ・・大きいのいっぱい当たって・・いっぱい感じるの!気持ちいいの・・あ・・ああ・・ん」  その肉壁が哲人のモノをきつく締めあげ、中がどんどん熱くなり快感も増してくる。同時に自分のモノが哲人の手によってせわしなく擦られ、直央は何度も嬌声を上げる。 「いっ、イイ!あっ・・あ・・ああ!」  哲人の腰の動きが速くなった。 「あっ、あっ・・イイ・・そんなに動かされたら・・もう我慢でき・・あっ・・あ」 「我慢なんてする必要がない・・でしょ。好きに・・感じてください。オレも・・もう」 「そこ‥イイ・・イク・・もう・・」 「もう、二度と手放しませんから。だから言って・・ずっとオレの側にいるって」 「うん、一生側にいる。愛してる・・哲人のこと」 (オレも‥愛してますよ、直央)     To Be Continued

ともだちにシェアしよう!