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第6話

「ねえ・・ もう寝た?」 「・・うん、ちょっとウトウトしてた」 「ごめん、起こしちゃったね」  ベッドの横に敷いた布団の中から聞こえる幼馴染の声に、直央はくくっと笑う。 「ん?」 「不思議だなって思ってさ。またこうやって一緒の部屋で寝られるとは思わなかったから。亘祐くんには連絡した?」 「さっき、トイレの中でしたよ。・・なんか、他の人に聞かれるのって恥ずかしいなって思ってさ」 「あっ、それはオレもわかる。・・もう昔のようにはいかないね。二人とも、お互いの恋人にすっかり捉われちゃったてことなのかな」  少し寂しいとも思うけど、と直央は考える。けれど、自分だけが取り残されたわけじゃないことに安心もする。 「泊まりにきてくれてありがとう。一人じゃ絶対無理だった。亘祐くんには感謝してるって言っておいてね」 「うん。ところで、直央の方は連絡ついたの?」 「うーん、既読もつかないや。よっぽど忙しいのか。こりゃ直接の電話は無理そう・・ってLINE入った!」 「えっ?」 「って、鈴ちゃんからだけど。『明日は哲人の言うことを黙って聞いてあげてね』・・だって」 「どういうこと?」  千里が起き上がって、直央のスマートフォンを覗き込む。 「文面それだけ?」 「うん、とにかく鈴ちゃんに電話してみる。・・ダメだ、電源切ってるっぽい。あ、哲人からメッセージあった。『ごめん、おやすみ』って」  どういうことだと、意を決して電話をかけるが「電源が入っていない」というメッセージが流れるばかりだった。 「嘘だろ・ ・なんだよ、これ。鈴ちゃんの方もまだダメだ。涼平くんはアドも番号も知らないし・・」 「じゃ、じゃあ。亘祐に聞いてみるよ!亘祐は知ってるはずだから」 「ダメだよ!余計な心配かけちゃう。せっかくの家族旅行中なのに」 「でも・・直央泣いてるじゃん。それこそ、そんなのダメだよ。好きな人のことで悲しむなんてのは」 「うん、そう・・だけど。でも・・」  頭の中の混乱は治まりそうになく、涙だけが勝手に溢れてくる。 (昨夜、あんなに愛し合ったのに。でもやっぱ不安で。それは哲人も感じててくれてると思ったのに。鈴ちゃんまで・・)  長野と東京。新幹線なら2時間もかからない距離ではあるが、すぐに会いにいけるものでない。 「こんな時だけ、夜が長く感じる。一 緒にいるときはあっという間なのに。・・ごめん、せっかく千里が側にいてくれるのに。でも・・・哲人・・」 「わかるから・・ボクもやっぱ恋人に誰よりも側にいてほしいと思うもの。でも今は・・」  そう言いながら、千里は直央の手を握り身体を寄せる。 「千里?」 「ボクが代わりにここにいるから。そんで哲人くんが戻ってくるまで側にいるから。今夜は寝なよ、手は握ってるから」 「千里・・ごめん。そんでありがと・・大好き」 「ふふ、哲人くんの次にでしょ。ボクも亘祐の次に直央が大好きだよ」  そう言いながら、千里は直央の額に口づける。 「おやすみ」 「ん・・」  泣きつかれたのか、直に直央の寝息が聞こえてきた。 「・・哲人くんと付き合い始めてからなんだか子供っぽくなっちゃったな、直央は。昔は反対の立場だったのに・・」  直央の髪を撫でながら、千里は呟く。そして、直央に顔を近づける。 「ボクもね、本当に大好きだったよ。でも・・初恋はもう終わりだね」  千里の唇がそっと直央のソレに触れる。 「ありがと、直央」 「で、哲人と一宮くんは何でキスすることになったワケ?浮気?浮気だよね、哲人」 「ち、違う!事故だって!てか、何でオレまで正座させられ・・」 「だまらっしゃい!」 と、鈴が怒鳴る。 「り、鈴・・」 「あれだけ散々、直ちゃんに会いたいとかグチグチ言ってたくせに、自分勝手すぎると思わないの?哲人は。だいたい、一宮くんと二人きりになる必要もなかったでしょ」 「だって、これは罰だから・・」 「哲人は自分のことわかってなさすぎ!あれだけ毎日他の生徒たちからアプローチされてんだから危機感持ちなよ」 「・・その点は、オレも笠松先輩と同意見です」 と、一宮が小さい声で呟く。 「お、オレは生徒会長として・・」 「なら、生徒全体を見なきゃいけないでしょ、なおさら。それを一人にかかりきりになって、しかも浮気とか」 「だから何で浮気とかって言葉が出ることになるんだ。彼が足が倒れそうになったから、オレが支えようとして・・。そしたら・・その・・唇がぶつかったって・・いうか」 「つまり、キスしちゃったってことだよね。直ちゃん以外の人と」  哲人の表情がさっと変わる。 「キス・・って・・唇がふれた程度で・・。な、直央さんには、でも言わない・・ほうが」 「見ちゃったもんは黙ってるわけにはいかないよ。ボクは直ちゃんの友達だもの」  しょうがないよね?と笑いながら鈴は今度は一宮の方に顔を向ける。 「哲人を襲おうとしたんだろ?キミ」 「へっ?や、襲うって・・オレはただ・・」 「哲人に恋人がいるの聞いた上でってことは、まあ本気で哲人のことが好きなのか。あるいは・・」 そう言いながら、鈴は彼に近づく。 「?」  何だ?と思った瞬間、一宮は自分の身体が痛むと同時に宙に浮いたのを感じた。 「ぐわっ!・・痛ってえ!な、何をす・・」 「ここに来たのが涼平だったら、キミの骨は折られてたよ、きっと。こういう場合、アイツは手加減しないから。ボクだから、打撲程度で済ませられたんだ」 「鈴!いくらなんでもやりすぎだ!」 と叫ぶ哲人に対しても、鈴は冷たい視線を投げかける。 「!」 「さっきも言ったけど、哲人は自分のことわかってなさすぎだし危機感も無さすぎだよ。そんなんじゃ、あのカラオケ屋の事件のときの直ちゃんのことも責められないでしょ。校内ならともかく、ホテルの部屋で二人きりなんて・・。こっちも仕事があるから、ついまかせきりにしちゃったのは失敗だったとは思うけど」 「だって、コイツは男・・」 「あのね・・」 と鈴は大きくため息をつく。 「直ちゃんだって男でしょ。直ちゃんもそうだけど、哲人もそういう魅力があんの。一宮くんはガタイもいいしね。ヤバいなとは思ってたんだ」 「もしかして、外で見張ってたのか?」 「生徒会の仕事があるんだから、そんな余裕はないっての!」 「オレが、その彼氏さんに雰囲気が似てるらしいです・・」 「よ、余計なこと言うな!」 「もういい!」 と、鈴が叫ぶ。 「ひっ!」 「一宮くんは自分の部屋に戻ってな。湿布くらいはするから」 「えっ?」 「受け身はちゃんと取れてたみたいだから、叫び声ほどは痛みもないだろ、ほんとは」  室内の電話でフロントに連絡してから、一宮の方を向いて鈴はニヤリと笑う。 「笠松先輩って本当に女子なんですか?」 「失礼な。・・ほら」 と、鈴は着ていた浴衣の胸をはだけさせる。 「バカ!鈴、何やってんだ!」 「・・けっこう胸あるんですね」 「そうでもないよ、Cくらいかな。普段はサラシ巻いてるからね。てか、女の子の胸見ても余裕だってことは、ほんとはゲイじゃないの?」  あたふたする哲人を尻目に、浴衣の帯を締めなおしながら鈴は一宮に聞く。 「や、この状況で勃っちゃったらそれこそ変態じゃないですか。十分に魅力的な胸でしたよ。そんで、オレはノーマルだし彼女もいたし童貞でもないです」 「あ、そ」 「へっ?」 「でも・・日向先輩には本気で魅かれてしまってます。男相手ではつまり初恋ってことです」 「なっ!・・」 「だってさ。じゃあ、やっぱ二人きりにさせるわけにはいかないな。哲人にも生徒会長の責務は果たしてもらわなきゃいけないし。湿布も張ってあげたから、さっさとこの部屋から出てってよ」 「すいませんでした・・」 「て、ことがあってね。ボクも哲人も混乱してたからさ。直ちゃんにはちゃんと連絡ができなくてごめん!」 「生徒会はいったい、何のためにこのレクリエーション企画したんだよ」 と千里を迎えに来た亘祐が呆れた声で聞く。 「正直、失敗だったと思っている」 と哲人はうなだれる。 「ここまで自分の感情をコントロールできないとは思わなかったんだ。それに・・」 と言いながら、直央の方をちらっと見ながら再び下を向く。 「一宮の事は本当に不意打ちだったんだ。彼は入試も1位で突破して新入生の代表もやったし、親も名士だからな。そんなことになるなんて思ってもみなかった」 「哲人って・・やっぱモテるよね。や、複雑だけど・・」 「直ちゃん・・目が赤いね。そんなに泣いた?」 直央の顔を見て、流石に鈴の表情も難しいものになる。 「うん、昨夜ね。で、哲人がここに帰ってきたときもちょっと泣いた。不安だったから・・」 「ごめん、それはボクが悪いんだ。一晩哲人にお説教してたから」 「お、お説教?」 まさかと思いながら、直央は哲人の方を見る。 「オレが悪いのはわかってるんで、甘んじて罰を受けてたんですよ。ほんと・・身に沁みました」 「じゃあ、哲人疲れてるよね。や、鈴ちゃんもだろうけど」 「ええ・・まあ」  少し複雑そうな表情で哲人はうなづく。 「・・オレらは帰るけど、鈴は下手に二人を煽るなよ。これ以上のゴタゴタに巻き込まれるのは嫌だからな」 「亘祐・・悪いな。千里さんもほんとすいませんでした」 「・・直央を幸せにしてあげてね、ほんと」 「ボクも帰るよ。マジで疲れたし・・。話し合いがどうなったか必ず連絡してよ、直ちゃん」 「ふふ、みんなに心配かけちゃったね」  3人が部屋を出ていき、直央はホッとした表情でそう言った。 「アナタは怒ってないんですか?オレが・・その・・」 「口説かれた上にキスしたってこと?正直複雑だけど、事故なんでしょ。だから、鈴ちゃんもオレに言ったんだよね?」 「!・・オレがアナタ以外の人に心が動くことは無いし、鈴もそれはわかっているはずですから」 そう言いながら、哲人は直央を抱き寄せる。 「そう・・だよね」 と直央も全身を哲人に預ける。 「千里が・・オレにキスしたんだ」 「えっ?」 「オレがちゃんと寝ついたと思ったからしたんだろうけど・。そんで言ってた。『これで初恋は終わった』って」 「どういう意味・・」 「両想いだったみたい、オレたち。でも、もうそれは終わったことだから。言い訳だとは思ってほしくないんだけど、オレも千里もお互い以上に愛している相手がいるんだもの」  哲人の顔を真っ直ぐに見据えながら、直央は静かにそう言った。 「そう・・ですか」 『でも・・日向先輩には本気で魅かれてしまってます。男相手ではつまり初恋ってことです』 「一宮にとって、オレは初恋の相手だそうです」 「!・・それって」 「けど、オレにとっても直央さんは初恋なんですよ。初めてだから・・絶対に何かを手放したくないと思ったのは」 「哲人・・」 「オレと直央さんの前にどんなものが現れても、オレのこの恋が終わることは絶対にありません。一生です」  恋人と腕を組みながら帰っていった千里の様子を思い出しながら、哲人は少し複雑な気持ちにはなった。 (どういうつもりでここに来たのかな、あの人は。直央さんに捉われてしまうのはオレだけじゃないのもわかっているけど) 「千里ね、もう亘祐くんの家族に紹介され済みなんだって」 「えっ?亘祐はそんなこと言ってなかったですけど・・」 「亘祐くんからも聞いたもの。亘祐くんのお姉さんが腐女子だって知ってた?」 「・・初耳です」 「だから、千里との交際もすんなり受け入れられたらしいや。それは羨ましいなって思った」  普通はそんなことないよね、と直央は笑う。 「羨ましい・・ですか。でも、千里さんの方は?」 「千里の親は・・オレが知っている限りは父親のほうはちょっと無理かな。お堅い人だから・・」 「二人の意思だけでは難しい交際だとしても、オレに付いて来てもらえますか?」 「えっ?」 「オレの環境も、本来はアナタと付き合うには適していないんです、本当は。でも、抗いたいとずっと思っていた。アナタと愛しあえたときからその想いは強くなった。アナタを愛せる未来を作りたいと願うようになれた」 「哲人・・」 「けっこうね、今回はみんなにかなりみっともない姿を見せてしまったんですよ」 と、哲人は恥ずかしそうに笑う。 「みっともない姿?哲人が?」 「アナタと離れてはいけないんだと、改めて思い知った二日間でした」  慣れたつもりの寂しさを受け止めきれない自分は、思っていた以上にこの恋人に依存していたのだと哲人は苦笑する。 「愛しています、直央さん。キスも、アナタ以外の人とはしたくない。この唇はもう誰にも触れさせません」 「!・・っ・・ふぐっ・・」  哲人の舌が直央の口の中に侵入し、なまめかしく動く。 「ん・・ん」  服を脱がされ、直央の胸の頂が哲人の指によって摘ままれ転がされる。 「あっ、あ・・ふっ」 「オレのことだけ見てください。オレにだけ好きと言ってください。なにもかも・・オレにだけ」 「わかってる・・って。過去の想いは消えない・・けど」 「!」 「でも、それを凌駕して余りあるくらい、今が幸せ。哲人との未来を考えるのも楽しい」 だから、今はただ愛してくれればいいと自らのモノに、哲人の手をいざなう。 「哲人の愛撫じゃないとダメだから。・・あん・・そう。そこ・・がいい・・」 「わかってますよ。こうやって、擦ってほしいんですよね」  哲人の指が、直央のモノの先っぽを執拗に擦る。 「う、うん・・はあっ・・あ・・」 「指も挿れますよ」 「あっ・・」  直央の窄まりに哲人の指が挿れられ、すぐにくちゅくちゅと淫猥な音が聞こえてくる。二日前にも同じことをしたはずなのに、ずっと触れられていなかった気がして、つい力を入れてしまう。 「そんなに、締め付けないでくださいよ」 「や、だって・・欲しくて・・あっ、あん」 「あげるから・・オレの全部・・直央の欲しいものを・・」  指を抜き、自分のギンギンに強張ったソレをあてがい、一気に挿入する、 「ひあっ・・はあ・・いい」 「オレ・・も」  直央の中の内壁が、哲人のモノに絡みつくように動く。それと共にソレはどんどん奥へと誘われ、先日覚えた直央の感じる部分を刺激する。 「あっ・・イイ!そこ・・凄く・・やっ・・ああ」  前も後ろもドロドロに溶けていくような感覚。熱くて、そして想いも高揚していく。 「好き・・あっ、愛してる。・・キスして」 「もちろんですよ‥アナタの唇はオレだけのものです、もう」 「さっきの話だけど・・」  イッた後の余韻に浸りながら、直央は哲人の胸の暖かさに身を預けていた。 「さっきの話?」 「家族に紹介って話だよ。やっぱ・・哲人の方は無理だよね。本家とか・・なんか名家っぽい感じだもん」 「・・直央さんの方はどうなんです?ご両親の話は聞いたことないのですけれど」 「両親ていうか、父親のことはわからないんだ。物心ついたときにはいなかった。母さんも何も言わないし、オレも調べたことがない」 「えっ?」 「もしかしたら・・まともな生まれじゃないのかもしれないね、オレは。ごめん、ずいぶんな後出し情報だけどさ」  直央の顔が歪む。 「直央!」 「あっ、やっとオレの事を呼び捨てにしてくれたね。でも・・」 「バカ・・だな。そっか・・」 と、哲人が微笑む。 「いや、なんでもない。直央だから、オレを救えるのかもしれないな。けど、同等の立場で愛し合えるのはやっぱり、直央しかいないや」 「てつ・・と?」 「紹介・・していただけますか、アナタのお母さんを」 「母さんを?いや・・だって」 「ダメですか?だって、もうオレはアナタにプロポーズしたのに?」 「へっ?」    To Be Continued

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