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第9話
「えーっと、つまり・・哲人は直ちゃんのお母さんに会って、直ちゃんとの交際を許してもらった・・ということだよね?」
「許してもらったというか、予定調和な気もしないでもないけどな。午前中に琉翔に会ったときにも、アイツは何も言わなかったが、結局はアイツが手をまわしてたわけだし・・」
そう淡々と話す日向哲人を見て、笠松鈴は少し複雑そうな表情になる。
(琉翔さんの“そういうのまで”受け入れたってことは、つまりは気づいてるってことだよね?琉翔さんもどうして“仕掛けちゃう”かなあ)
「どうしたって、オレの戻るところは直央さんのところだからな。どういう思惑が絡んでいようと、その想いは変わらないのだから、せいぜい利用させてもらうさ」
「哲人が直ちゃんにベタ惚れなのはわかってるよ。で、直ちゃんのお母さんのイラスト展には結局行くことになったの?親公認の恋人なんだから、もう遠慮はいらないでしょ」
「オレが見てもわからないとは思うけどな」
「・・心配だから、ボクもついていこうかなあ。せっかくのチャンスを、自ら潰す情景が目に浮かぶよ」
本気で心配になり、鈴は大きくため息をつく。
「昔はもうちょっと柔軟性があった気がするけど、よく直ちゃんが付きあってくれてるよね。直ちゃんて割りに直情的なとこがあるのに」
「どうせ、オレは融通がきかない男だよ。だから、最初は直央さんに嫌われてたんだし。てか、鈴だって知ってたんだろ?琉翔がどういうジャンルの小説書いてるとか、アニメ化もされてるとか」
仏頂面のまま哲人は鈴に聞く。
「ボクも、涼平も観てたよ。涼平なんかグッズも買ってたし」
「えっ!涼平がアニメグッズ!?」
一瞬にして哲人の表情が変わる。
「武闘派のアイツがアニメグッズ?・・だって琉翔の書いてる小説って」
『そ。葛城和宏っていうちょっとエロテックな異世界ものが得意な人』
「 そう亘祐が言ってたんだけど・・」
「あ、その説明でわかるんだ?よかった」
と、鈴がくくっと笑う。
「深夜放送だったからねえ。やたら裸も出てたし」
「は、裸?」
「まあ、どちらかといえばBL要素が強いんだよね。一応、強い友情の末の・・って方向だし、セックスそのものの場面は出ないけど、原作はけっこう凄いの」
「ま、マジ!?・・あの涼平が・・そんなものを・・」
信じられないというように、哲人は頭を抱える。
「別にエッチなことばっかじゃないからね、その小説。基本はロープレものだから、戦いの描写もけっこうかっこいいの。そういうとこだよ、涼平の好きなのは。アイツが硬派なのは変わらないから」
「で、その涼平は何してるんだよ」
「告白されてるとこなはずだよ。GW前の駆け込み需要ってとこかな。・・見に行ってみる?」
悪戯っ子のような表情で、鈴は哲人の顔を覗き込む。
「そこまでアイツのプライベートに首をつっこめるか!・・つうか、また女子を泣かせる気かアイツ」
「まだ断るとは決まってないでしょ。今日の告白者は、なかなかに可愛いコだからねえ。先日のレクリエーションの時も積極的で、涼平もなんやかんやって相手してたしさ」
「へえ、アイツもちゃんと女子の相手してんだ?」
「普段はチャラ男だもん。まあ、だから誤解されるとこがあるんだけどね。でも、いざとなると誰よりも男らしいからそのギャップに萌えるんだよねえ、女子も・・男子も」
「は?」
「涼平が男子にもモテてるのは知ってるでしょ。・・ただの憧れで終わらないのよね、そういうの」
と、鈴が薄く笑う。
「だいたい、生徒会長が頼りないから副会長の涼平が身体を張らなきゃいけなかったんだよ?あのレクリエーションの時」
「鈴のせいだろうが!オレをずっと説教してて・・」
「哲人は直ちゃんに自分の事わかってなさすぎ、とか言ってるけど自分だってそうなんだからね!あん時も言ったけどさ。直ちゃんが好きになったんだから、他の誰か・・実際一宮くんに口説かれたんだから、誰かに恋されてたっておかしくないんだよ?」
「あ、アレは・・つうかウチの学校ってそういうの多いの?今日、涼平に告白してんのって女子だよな?」
「心配なら見に行けばいいでしょ」
「あれ・・か?・・普通に女子だよな。てか、何で鈴が告白される場所知ってるんだよ。涼平が教えたのか?」
哲人と鈴は学校の裏庭の隅に来ていた。二人の視線の先には、一組の男女がいた。
「毎回同じとこだからね。回数も多いし、いい加減目につくって。まあ、暗黙の了解でみんな見て見ぬふりをするようにしてるけどね」
「まだ、新学年が始まって一ヵ月もたってないんだけど?4月は普通新しい生活に慣れることに神経を注ぐんじゃないのか?」
「自分に自信があるんでしょ。GW明けにテストがあるのはわかってるんだし。それにこういう自由な校風を目指したのは、我々生徒会なわけで。で、涼平の様子はどうよ」
そう言われて、哲人は少し離れたところにいる男女の方に注意を向ける。その途端、顔色が変わった哲人の様子に「哲人もそう思う?」と鈴は聞く。
「っ!・・り、鈴!・・あの女子生徒って・・あの顔って」
「そう似てるってわけじゃないけど、少なくとも雰囲気は似てる。涼平は前から存在に気づいていたみたいだな」
「鈴・・わかっててオマエは・・彼女を涼平に近づけさせたのか!涼平が傷つくのをわかっていて!」
思わず哲人は鈴の肩を掴む。
「“あの子”は・・レイラは涼平が・・」
「それを彼女にボクたちが説明すればよかったの?レイラって女の子の死に涼平が関係していて、レイラは君に顔が似ているから君が涼平に近づくと彼が辛い思いするから・・って?」
はは、と鈴が小さく笑う。そして真顔で言い放つ。
「それが彼女の恋心に何の関係があんのさ。ああやって、改めて告白すんのも勇気がいることなんだよ?涼平が何人もフッているのは割と知られているしね。それでも、涼平には想いを告げたいと思わせるだけの魅力があるのは、哲人だってわかってるだろ」
「それは・・けど・・」
「レイラのことは・・事故ってことになっているんだ。や、実際アレはそうだ。・・そこにどんな思惑が絡んでいても、“高校生の”涼平には関係ないし、ましてや彼に恋しただけの彼女の行動を止める権利は、ボクたちには無いよ」
言い終えた鈴の顔はいつも通りの笑みをたたえたソレ。が、少しだけだが複雑な何かが走った気がすると、哲人は思った。
「鈴、本当にオマエは涼平のことが好きなんじゃないのか?オマエだって女の子なんだから、普通に恋したって・・」
「ボクの役目は涼平が暴走しそうになったら止めることで、恋をすることじゃないんだよ」
と、鈴は肩をすくめる。
「けど、今はその必要は無いよね。・・泣かせたみたいだけど、また」
「えっ?・・っ!」
再び件の二人の方に視線を向けると、果たして女子生徒は両の手で顔を覆って、肩を震わせているように見える。涼平はといえば、少し困った表情をしながら何か声をかけているようだ。
「言っとくけど、あのレクリエーションの時も気を持たせるような言動はしていないよ。ただ、副会長としての仕事をしただけさ。哲人が決めた方針だからね。けど、別にそれを窮屈に思っているわけじゃないさ。自己責任で恋だってしようと思えばできる。ただ・・哲人みたく出会ってないだけだよ」
「は?」
「哲人は幸運なんだよ、直ちゃんと出会えてさ」
そして鈴は小さい声で付け加える。「また・・なんてさ」と。
「何か言ったか?」
「ううん。・・ボクたちが見てるって涼平にバレると面倒だから、もう帰ろうよ。あ、帰りにメイトに寄って琉翔さんの本買おうか?一応自分の保護者なんだから、その仕事ぐらい理解しておこうよ」
「へっ?・・メイト・・って何?」
「はあ・・っ、哲人も鈴もおせっかいすぎっつうか・・」
走り去っていく女子生徒を見送りながら、橘涼平たちばなりょうへいは呟く。
「っとに、鈴も余計なことをしやがる。哲人が気にするから黙ってたのに。・・確かに最初に見たときは驚いたけど、中身はレイラとは全く違う。当たり前だけど」
どうして自分のような人間にそこまで執着するのかと、不思議に思う。
「まあ、それだけ普段は普通の高校生やれてるのかもしれないけど、いざとなりゃオレは・・・やっぱ誰かを泣かせるだけの存在かもしれねえな」
“レイラ”の顔を思い浮かべる。似ているようで、やはり違うと涼平は思う。
「レイラが死んだ“本当の理由”を哲人は知る必要はない。一番の理由は結局はオレなんだから。けど、哲人にいつまでも引きずられるのも困るつうか、気分が悪いんだよな」
だからといって、嘘の生活をおくれるほど器用でもないとため息をつく。
「けれど、マジで限界だわ。自惚れるつもりもないけど、“自分の仕事”に専念させてほしい。その方が楽だ」
『涼平は自分の幸せを考えたっていいだろう?あの一族に縛られる必要は無い』
「哲人は真実を知らないから。オレの幸せはとっくに哲人が握ってる。・・でも、哲人はちゃんと幸せを掴んだんだから」
自分の哲人への想いは案外恋に近いものだったのかもしれないと、涼平は苦笑する。
「ほっときたくないんだもの。3年前は本当に・・殺したいと本気で思ったのに。たぶん、直央さんも同じ感覚で哲人に捉われたんだろうな。だからこそ、本家もアイツを離さない」
けっきょくは、自分は哲人を守る人生を送るのだろうと涼平は考える。
「だから・・オレの愛した人は死んだのだから」
「涼平くんが?まあ、モテる顔ではあるよね。や、哲人ほどじゃないけどさ」
「そんな、とってつけたように言わなくてもいいですよ」
「哲人は、自分がモテ顔だって言われたい ワケ?」
哲人の大学生の恋人である財前直央ざいぜんなおひろは呆れたように言い、テーブルの上に視線を移す。
「あれ?メイトの袋・・哲人行ったの?」
まさかという思いで聞く。哲人の顔を見ると、苦笑いしている。
「一人で行ったんじゃないよね?」
「当たり前でしょう。まあ、自分が思う自由な校風を目指すなら、ああいうとこにも足を運ぶべきだとは思いました。ウチの生徒にも会いましたし」
「・・なんか凄い趣旨替えというか。一体何に影響されたんだよ。てか、誰と何のためにアニメショップに行ったの?」
「鈴に誘われたんです。琉翔の本を買うために」
そう言いながら、勉強机の上に置いていてた本を取って直央に渡す。直央はその表紙を見て「うわっ」と叫ぶ。
「買うのに多少の勇気がいりました」
「多少、で済むんだ?」
直央はそのライトノベルの表紙をマジマジと見る。男性同士のきわどい絡みがかなりリアルに描かれているその表紙には、小説の中で挿絵を描いているイラストレーターの名前も記載されている。つまりその表紙の絵もそのイラストレーターが描いたということなのだろう。
「Rin?」
「鈴なんですよ、それ描いたの」
と、哲人がため息をつきながら言う。
「いつ、そんなのを描いてる暇があったのか・・」
「えっ、鈴ちゃんが!?マジで?・・すっげえ!鈴ちゃんてプロなの?すっごいよ!」
尚も凄い凄いを連発する直央を、哲人は複雑そうな表情で見つめる。
「オレ・・マジで知らなかったんですよ」
「えっ?」
「鈴がそんなことまでやってたなんて。や、琉 翔の仕事の内容もですけど。・・案外、周りのこと全然知らないんだなってことにショックを受けたんです」
「あ・・」
「もちろん、その絵と本の内容にもですけどね。直央さんを好きになる前に読んでたら、たぶんオトコ同士の恋愛に嫌悪をもっと抱いていたと思います。や、今でも好きではないのですけどね」
「哲人・・オマエ・・」
『何サムイこと言ってんですか。オトコがオトコを好きになるなんて・・その素肌に触れたいと思うなんて・・オレは嫌ですよ』
「本当はそんな風に思ってるの?や、以前に哲人に言われたあの言葉を忘れてはないんだけどさ」
直央の声が沈む。
『・・諦めが悪いですね。だから、オトコ同士の恋愛なんて嫌なんです。・・確かな未来なんてソレには無いですから』
「それでもいいと思って、あの時は夢中で哲人に縋ったけど・・やっぱり、オレが男なのがいけないの?オレが・・ゲイだから」
「・・違いますよ、すいません。オレの想いはもっと確かなものだと自負していますから。ただ・・知らないで失うのはもう嫌だなと、琉翔の小説を読んでそう思っただけなんです。変な事言ってすいませんでした」
「哲人・・オレは本気で哲人が好きだよ。自分の性癖なんて関係なしにさ。けど、不安が無いって言ったら正直嘘になる」
「!・・直央・・さん」
「オレだって、何も知らないままに哲人を失うなんて絶対に嫌だ。正式に結婚できるわけじゃないから、確かな未来も無いのもわかってる。けど、哲人はオレにプロポーズしてくれたじゃん。だから、教えてよ。哲人が思ってることちゃんと。オレも言うから、好きな人に秘密なんて作りたくないから!」
そう叫ぶ恋人を、哲人はじっと見つめる。
「哲人?」
「すいません・・直央さんの気持ちはとても嬉しいし、オレだってアナタには全てを知ってほしい。けれど・・どうしても言えない・・言ってはいけないことがあるんです。オレがあの一族に縛られている限り、直央さんだけでないオレが守らなければいけないものがあるんです」
「守らなければいけないもの?それって、そんなに大事なものなの?や、オレと知り合う前の哲人の人生の方が遥かに長いし、それがいろいろ複雑なものだってことは承知している。けれど、“これから”のことはオレも知ってたっていいだろ?」
そう言いながら、直央は哲人に近づいていく。
「オレは、哲人の一族とは関係ないところから哲人を支えられる唯一の存在なんだよ?だから、オレにも頼ってよ。鈴ちゃんや涼平くんみたいに強くはないけど、想いは誰よりも強いから」
「やはり、オレにはアナタが必要ですね」
哲人は直央を抱きしめながら、その服のボタンを外していく。
「うん・・」
「“レイラ”という言葉を覚えていますか?」
そう聞かれて約一か月前の出来事を思い出す。
「それって・・」
『うっせえての。“レイラ”・・わかんだろ?この辺りでゲイでいるんならこの名前をオレが出す意味が』
「オレが変なナンパ男に襲われた時に哲人が言った・・」
「あれは・・人の名前です。オレと涼平の運命が変わるきっかけになった。その人が死んでオレは生家を離れ、反対に涼平はあの一族と・・そしてオレに捉われることになりました」
「死んだ?」
「ええ。その理由は・・今は言えません。けれど、それがオレがゲイに対する嫌悪を強める理由になったとだけ言っておきます。だから、涼平がオレとアナタの交際をあんなにすんなり受け入れるとは思わなかった」
直央の上半身は既に裸の状態になっていた。
「ん・・あっ・・・あ」
「オレと涼平が死闘を演じたと言いましたよね。・・あれ以来、涼平は自分を押し殺して生きているようにオレには感じられるんです」
「ひっ・・や・・いい・・ん」
「ぶっちゃけ、うちの一族はそういうところです。それはアナタには何度も言ったことですが。オレと共に生きるということは、アナタにもしかしたら涼平のような思いをさせるかもしれない。オレは、それが怖いんです。けど・・」
「あっ、あっ、あっ・・ああ!」
なのに、今自分は何をしているのだろうと哲人は思う。昼間のあの告白現場を見ておきながら、自分は・・。
「アナタが欲しくてたまらない。・・琉翔の書いた小説のように追い詰められた末の行為ではなく、運命だと思いたくて、だから・・」
「いやあ・・いい・・いいのに」
「直央・・」
「だって・・ん・・涼平くんは・・いっ・・絶対・・哲人のこと好き・・だから。だって・・彼は強い人だもの」
直央は自分でズボンと下着を脱ぎ捨てる。
「オレも哲人をちゃんと受け止めるから。こんな形だけど。だって哲人の恋人だもの、オレ。けど、オレが捉われているのは、あくまで哲人だけだから」
「・・」
「哲人は本家に抗いたいんだろ?そんで、できるなら涼平くんも鈴ちゃんも救いたい。そう思っているんだろ?」
「それ・・は」
「なぜか、オレはその本家に受け入れられたみたいだけど。けど、オレ的にはそんなこと知ったこっちゃない。哲人の味方なだけ。好きで好きで・・たまらない」
そう言って、直央は哲人の下半身を裸にする。そして、哲人のモノを口に含む。
「なおひ・・ろ、ん・・んん・・あっ」
「だから、オレのことずっと呼び捨てにしてよ。オレは覚悟決めて・・じゃなくて哲人と一緒にいるのが当たり前のことにしてんだから。オレは死なない。哲人の運命が変わることももう無い!」
「直央・・どうし・・た」
直央は立ち上がって哲人の手を自分のソレに導く。
「!」
「愛しているから!哲人のどこもかしこも、何もかも!哲人にはオレが必要だから!もし、何かがあって・・哲人の意思も関係なしに哲人がオレから離れなくちゃいけなくなっても、オレは哲人を離さない!」
「直央!」
「・・だからオレを抱いてよ。哲人が欲しいと思うオレを愛して・・あっ」
「愛しているよ、アンタを。オトコなのに可愛くて、あんなにオレを嫌っていたのに今じゃ毎日オレに抱きついてきて・・。何度も危ない目にあって、ウチの一族なんて最低なものにも関わってしまったのに、アンタはいつも笑ってそして必死にオレを求めてくれる。そんなアンタをオレは到底手離せない」
傷つけるかも・・いや必ず傷つけることになるだろうけど、許されるなら直央に自分の運命を委ねたい。
「もうグチョグチョだぜ、あんたの中。いい具合だ」
そう言いながら直央のソコに自分の屹立したソレを挿入させる。
「あ・・・・あ、ああっ!」
「いいよ、いっぱい感じろ」
そう耳元で囁かれ、その声音の心地良さに直央は思わず身体をびくんとさせてしまう。
「んだよ、こういうオレを求めてたんだろ?ときめいたんだろ?なら・・」
と哲人は直央の耳たぶをペロッと舐める。
「ひあっ!あ・・やん・・・そ、その声が好き。声だけでほんと・・」
感じてしまうと思った。
「しょうがないな・・何度も聞かせるよ、こんな声でいいのなら。アンタが喜ぶのなら」
『・・しょうがないですね。おい!』
あのとき聞いたあの声に近いトーン。低くて迫力があるが、どこか妖しいボイス。が、彼に魅かれていくきっかけとなったあの声には完全にはなっていない。
(これはこれでゾクッとするほどカッコイイんだけど。けれど、哲人にはまだ出せない何かがあるってことなのか)
それならそれで、自分は彼に近づく努力をするだけだと直央は思った。
(それが、恋ってもんだろ)
「その声・・ずっと聞いていた・・い。あっ・・ひっ・・・ああ」
「ゆっくり動かすから・・もっと可愛い声出してよ。オレはアンタのその声が聞きたいんだ」
そして哲人のモノはもっと奥へと突き進んでいく。途中の直央の弱い部分をいちいち攻めながら。
「やあ・・ん。ソコ感じ・・あっ・・ああ!」
「ココも、だろ?んで、もう少し奥へといくと・・」
「やあっ!・・駄目!そこは・・」
最近知った自分の一番感じる箇所。ソコを開拓したオトコはニヤッと笑って、執拗に攻め立てる。
「もっと鳴かせたいんだよ、アンタを。だからココも可愛がらせてもらう」
同時に直央のソレを握り上下にしごく。
「あっ!・・ああ・・っ。そ、そんなに強くしごかれた・・ら・・っ!」
「気持ちいいんだろ?アンタの中の反応も凄くいいもの。締め付けが凄・・っ」
下から突き上げられ、自分の中がますます熱くなっていくのがわかる。もちろん哲人のソレも。
「イイーーっ!ああ・・っ・・ああ!んふ・・・いっ」
絶頂が来ると思った瞬間、自分のモノを握っていた手が離され、自分の中に入っていった硬いモノが引き抜かれる気配を感じた。
「嫌っ!」
思わずそう叫ぶと、耳元で囁かれる。
「一緒にイクんだよ」
「っ!・・ん・・や・・・あん・・ぁ・・ああぁ・・っ」
一旦入り口近くまで引かれた妖しい熱を帯びたソレを再び奥までいれられ、身体の中に電流が走る。
「いやあ・・もう・・・哲人ぉ」
せつなげに声を出しながらも、尻も淫らに動かしてしまう。もう十分に感じすぎているのに、哲人の動きが欲望を止めさせてくれない。
「いいーーーっ!ま、前も触っ・・あん・・・あっ」
再び握られたソレからトロトロと滴る液を胸の頂に擦りつけられ、快楽が頂点に達する。
「あっ、あっ、あっ・・ああ!」
「イって・・ください」
「ごめ・・ん。ちょっと無理させた」
「いいよ。ずっと、その声が聞きたいと思ってたもの。あの夜も、哲人のその声で自分でシちゃったんだ」
と、恥ずかしそうに告白する直央の頭を、哲人は笑いながら撫でる。
「ふふ、そういう直央も見たいけどね。てか、この声がそんなにいいの?」
「顔に合ってる気がするよ。・・って、何で急にキャラを変えたのさ」
直央は素直な疑問を口にする。ずっと自分には敬語だったのにと。
「言っただろ、あんたが欲しくてたまらなくなったって。オレの欲望をアンタにぶつけるなら、対等の立場じゃないとダメだと思ったんだよ。それに・・」
「ん?」
「アンタに何度も言われてたしな、呼び捨てにしてくれって」
「哲人・・・もしかして照れてんの?」
と、直央が哲人の顔を下から見上げて言う。
「・・オレにアンタが必要だって、改めて気づかせてくれたから。好きなんだ、アンタに本気で恋してる。アンタとならあの頃に戻れ・・・いや、希望していた未来にいけると思う」
「希望していた未来?」
「・・とりあえずは、アンタをこうやっていつでも抱きしめられる日常が希望」
「!・・そんなの、オレだって」
そう言いながら、直央も抱きしめ返す。強く。そして目を瞑る。
「愛してるよ」
唇を重ね、お互いの手を合わせる。
「幸せだね。ところで、母さんの招待状のことだけど」
「明後日だっけ?どういう系のイラストなんだ?」
「んーどっちかっていうと萌え系かな」
「萌え系?」
よくわからないといった表情で、哲人が聞き返す。
「ああ、哲人の守備範囲ではないかもね。でも、ウチの母さんもよくラノベの挿絵の仕事はしてたんだよ。その関係で、琉翔さんは知ったのかも」
それを聞いて、哲人の表情が変わる。
「もしかして“あんな感じ”なのか?」
「ああ、鈴ちゃんみたいなのってこと?あそこまで過激じゃないよ。かなり可愛い系の女の子が主だから。・・昔はそういうコスプレもさせられてさ。雑誌にも載ったんだよねえ」
「コスプレ?・・や、それはそれなりにわかるよ。けど、女の子のソレだよな?なんで・・」
思わず、まじまじと恋人の顔を見てしまう。確かに直央は18歳という年齢の割には童顔で、かつ可愛い系だ。が、整っている上にどこか日本人離れした雰囲気があるため、きりっとした表情にもなる。
「言わなかったっけ?子供の時はモデルやってたの、オレ。実家に行けばそん時の雑誌があるかもしれないから、いつか見せるよ」
「小学生の頃ってこと?さぞかし可愛かったんだろうなあ」
哲人の顔がうっとりとしたものになる。
「・・哲人は小学生の頃からかっこよかったんだろうね。GW明けからオレも本格的な大学生活が始まるから、今よりも会えなくなったら、いっぱい心配しなきゃ」
「何を?」
不思議そうに聞いてくる哲人の様子に「何でって・・」と直央は苦笑する。
「哲人はモテるからに決まってるだろ。涼平くんのことばっかに頭がいってたのかもしんないけど、哲人だって告白とかされてんだしさ。オレだっていつも不安なの!」
「まだ、オレの想いが足りない?あんなに直央の中に注ぎ込んだのに」
と、哲人が囁くように言い、直央の顔は真っ赤になる。
「そ、そういうんじゃなくて!一宮って人のこともあるから・・。みんな、積極的なんだもの。だから・・」
「あ、ああ。あれは・・あれは完全にオレの失態だ。直央にも嫌な思いさせた・・・でも、あれから何のコンタクトもとってこないしね。まあ、あれだけ鈴に言われたんだから下手なことはしないと思う。アレでも親が名士だからな」
「そうなの?」
「大丈夫だって。オレはアンタのお母さんにも誓ったんだから。・・オレはアンタしか触れたくないんだ」
「哲人・・。じゃあ、イラスト展に一緒に行ってくれる?」
「もちろん!改めて挨拶させてもらうよ」
「・・一宮?何でオマエがここにいんだよ」
「日向先輩こそ・・。それに、その横にいる人は?」
(え、コレが一宮って人?哲人に告白したっていう・・・。普通にイケメンじゃん。けど、何で・・)
「て、哲人・・・」
To Be Continued
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