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第17話

「つうか、あの音響監督が無理ゲーすぎんだよ。放映まで3か月を切ったこの期に及んで、もう一つシーンを増やしてオマケに曲も追加とか、ヤバすぎだろ」 「アニメの制作のことはよくわからないけど・・」  生野広将はパソコンから目を離さずに答える。 「ま、オレたちの仕事が増えるのはいいことなんじゃないか?大体のめどはついたし・・後は侑貴のアレンジ次第だけど、クライアントのイメージには近づいてるとは思うよ」 「・・そういう問題じゃねえんだけどな」 と言いながら、上村侑貴はパソコンに顔を近づける。 「とりあえず聞かせ・・っ!う・・んっ」  侑貴の唇が塞がれる。 「っ・・う・・・あっ・・・ん」 「こうして・・ほしかったんだろ?キスなら何度もするって言ったじゃないか」  そう言って照れたような表情を見せる広将の頭を、侑貴はつい叩いてしまう。 「い、痛いって!き、気に入らなかった?ごめん、いつまでも下手で・・」 「違げえよ!いい加減、オレがどんだけ感じてるか分かれよ!・・ったく」  侑貴は顔を逸らす。 「・・んなもん、キスだけじゃ済まなくなるのわかってんだろうが。広将のくせしてオレを煽るなっての」  正直、自分の感情が出まくりの身体を見られたくないと、広将から少し離れる。 「ごめん・・ 侑貴があんまりイライラしてるから。オレはその・・」 「あ、いや・・嫌なんじゃなくて、その・・単に恥ずかしいっていうか。だ、だって!・・広将はそういうキャラじゃなかったろ。そんなキス・・ズルいんだよ」  さんざん、他のオトコに許した唇。ただのセックスの一部だと思っていたそんなキスを、侑貴は後悔していた。 (想いを伝えあうのが・・キスだろ。服を脱がなくてもできる性的接触・・。安売りしちゃいけないんだよな、やっぱ。間違いじゃないよな、コイツの気持ちは・・) 「イライラしてんのは、その・・オマエからその都度貰ってるコードをどうにかしなきゃいけないっていうソレと、それからその進捗状況をオレがどうにかしないと収まらないっていう・・なんていうかジレンマと、単に・・もっと早くからオレ自身の気持ちをはっきりしとけばよかったっていう後悔によるものだから」  初めて広将と会ったのはお互いに小学生の時。その後のお互いの境遇など考えもせずに遊び・・そしてあることをきっかけに言われた。「ボクを好きになってくれる?」と。 (あの頃と、広将の本質は一緒なはずだから。・・謝らなければいけないのは、オレだから) 「勝手に自分の人生諦めてて・・でも 心のどこかで期待してて。だから、広将に声かけたんだ。もちろん、オマエのセンスの良さも理由の一つにあったんだけど・・でも、ずっと甘えてた。好きだから・・甘えてた」 「・・オレは面白味のない男だって言われてたからな、ずっと」 と、広将は苦笑する。 「そんなオレがオマエに好かれていたのなら、それは哲人たちのおかげだと思うよ。いい意味でも・・悪い意味でもオレの世界を広げてくれたから。や・・とにかくその・・今はその・・」 と、何か広将はモジモジとする。なんとなく察して侑貴は広将に声をかける。 「・・もう一度キスをしてくれる?我慢しなくていいから」  侑貴はそう言って目を瞑る。 「侑貴・・その・・愛してる」  広将の顔が近づく気配がした。と、思う間もなく舌が侑貴の口に入ってくる。 うごめくソレに、己の舌を絡ませる。 「ん・・あ・・ん・・ふ」  抱き合う腕に力が込められる。離れたくないとばかりに。 「あっ・・ん・・んふ」 「侑貴・・」 「抱いてよ!広将の愛撫が欲しいのっ!舐めて、触って・・感じさせて!」  つい、叫んでしまう。初めて広将と結ばれてからずっと本当に自分でいいのかと思い悩んでいたけど、同時に恋心がどうしようもなく高まるのも感じていた。 (だって、初恋だったもの。オレが・・初めて心を動かした相手)  覚えていてもらってないのは、正直寂しい。けれど、純粋に今の自分に相手が恋してくれたのなら、愛されたと同時に“許されたのだ”と思えるから。それが、ただの自己満足だとしても。 「じゃあ、オレの膝の上に座ってくれる ?・・ベッドの上はその・・脱ぎ散らかした服とかあるから。あ、後でオレが洗濯するけども」 「!・・こ、ここはオレの部屋なんだから・・。てかその・・乗っちゃっていいの?じゃあ・・っ!」  まさかと思いながら、おそるおそる相手の股間を触る。とっくに自分の身体にダイレクトに伝わっていたけれど。 「キス・・しただけなのに?世界を広げたって、こういうことじゃないよな。いくら日向が男とつきあってるからって、オマエにまで布教したわけじゃ・・」 「・・単に、オマエへの恋心故だよ」  広将は真っ赤な顔でそう言う。 「お、オマエにだけだよ・・こうなってしまうのは。そりゃあ、他の人にこんな気持ちになったことないし・・侑貴じゃなきゃ、こんなの見せたく・・ない 」 「わかって・・る。いや、でも・・あっ」 「脱がないと、服が汚れるだろ。オレが洗濯すればいい話だけどさ」  ズボンを脱がそうとする広将に、侑貴は驚いて抵抗しようとする。 「せ、洗濯なんてどうでもいい・・てか、そういう問題じゃなくて!」 「じゃあ、そのままで・・キツイんだろ、オマエも。触る・・から」  赤い顔のままながらも、広将は相手のズボンを脱がす。手を震えさせて。 「だあーっ、もう!・・わかったよ、オレが悪かった。昨夜も我儘言ってオマエを泊まらせといて、今日もあんな・・。やっぱそうじゃないんだよ、オレに引きずられるオマエじゃ・・オレが安心できない。遊び人だったオレがそんなこと言っても説得力ないかもだけど、オマエはその・・純粋な恋愛しててほしいっていうか。つまりその・・」  何を言っているのだと、我ながら呆れる。 「純粋な恋愛?・・でも、オマエは・・」 「だから悪かったって!・・広将のこと好きで・・触られたら凄く気持ちよくて・・だから求めちゃうんだけど、なんか自分が許せないんだよ」 (なんだっていうんだよ。さっきだって恥ずかしいセリフ、自分から言ったじゃねえか。あれだって本音だった・・のに) 「・・なんていうか、違和感があんだよ。オマエからセックスしようとかっていうのが。や、嬉しいんだよ。嬉しいんだけど・・すっごい罪悪感を感じちまうの。オマエがノンケだからとかそういのじゃなくて、オレがこんなんだから無理させてんじゃないかとか考えてしまうんだよ」 「・・無理してるつもりもないけどな。オレだって性欲はそれなりにあるんだし」 と、広将は苦笑する。 「侑貴のこと可愛いとも思っちゃうしな。けど、それでオマエがそんなに悩んでいるっていうんなら、本末転倒だし・・けど、正直いってオレの身体がオマエを欲しいと思ってるんだけど・・ダメかな?」 「えっ?」 「・・案外、オレってスケベなのかもしれないな。オマエとのキスだけで、こうなっちゃうんだから・・」 「っ!」  ゴメンと言いながら、もう一度広将は侑貴の手を己の股間に導く。 「つまりこういうわけだから・・服を脱いでくれると嬉しいな」 「・・ズルいって。その声に、オレは弱いんだし」  自分が高瀬亮に引き取られてから、広将に再会するまでには5年のブランクがあった。最初は自分でもそれが初恋の相手とはわからなかった。8年前は自分より小さく声も可愛いかったのに、路上で歌っていた彼は身長を追い越し、声も中学生と思えないような低さになっていた。だからすぐには気づけなかった。ずっと彼は下を向いていたから。 (広将に最初に上を向かせたっていうのが、日向ってのが悔しいんだけど・・。けど、2年前から初恋の相手はオレの仲間になって・・) 「オレの方が年上なのにさ、広将はそう扱ってくれないんだもの。まあ、楽だからそれに乗っかっちゃってたとこもあんだけど・・。それにその声がその・・オレの耳に心地良いっていうか」  つまりは、8年前から自分は広将にベタ惚れだったのだろうと。けれど、自分の環境ゆえに彼が初恋の相手だと気づいてからも、気持ちを伝える気は本気で無かった。最低な自分を見せ続けた。それでも相手が自分に構ってくれる嬉しさを噛みしめながら。 「じゃあ、何度でも聞かせてやる。こんな声でいいのなら。・・オレにとってはコンプレックスでしかなかったんだけどな」  身長も伸び声も人より低くなったのに、どちらかといえば童顔で。そのギャップがいいというファンも多数だったが、やはり自分では違和感でしかなかった、のに。 「好きだ・・侑貴。触れていいか?オマエの身体に・・」  そう囁かれ、侑貴は頷く。 「じゃあ、脱いで」  シャツを脱ぐと直ぐに自分の肩に相手の舌が這わされる。 「はあ・・っ。な・・んで・・」  こうも感じてしまうのだろうと、首をかしげたくなる。そこまでテクニックを使っているわけじゃない。どちらかといえばぎごちないその動きにたまらなく愛おしさを感じる。 「無理・・しなくていい・・のに・・・。本当に側にいてくれるだけ・・で」  幸せを感じられる。それでも、性的快感もたまらなく気持ちイイ。相手が己のズボンのホックを下していることに気づくと、たまらずその下着の中から既に大きくなっていたモノを引っ張り出す。 「触ってくれる?代わりにオレも侑貴のソレ触るから。それとも・・後ろの方がイイ?」 「き、聞くな!んなこと・・ったく、何でオレの方が照れる・・ひっ!いきなし挿れる・・な。あっ、ああ・・そ・・」  広将の指が侑貴の窄まりに収まると同時に、胸の頂に刺激が加えられる。 「やあ・・っ 、ダメ・・あっ・・イイ!」 「イイの?ダメなの?」 「な、なんでそう意地悪・・そ、そんな強く吸われたら・・。や・・ああっ!イイのっ!」  既に自分のズボンも相手のソレも、ドロドロしたモノによって汚れている。 「ふふ、今さらだけど脱ごうか。ちゃんと洗うか・・」 「な、何でそう余裕ぶってんのさ!初めてなんだろ、こういう関係になんのは。なのに、オレの方がドキドキして・・いっぱい感じさせられて・・変じゃん!オレの方が先輩なのにいろいろ・・。けど、オマエにぐちゃぐちゃにされたいって。もう・・好きで・・」  自分でも何を言っているのかわからない。指でかき回されたところからくちゅくちゅという音が響く。 「オレは間違ってる?侑貴の気持ちを考えてるつもりで困らせてる?」  そんな事はない、と侑貴は首を振る。自分がワガママなだけだと。 「オレに気を使ってるのが、ワガママなはずないだろ?オレも、ずっとドキドキしてる。どれだけオレは侑貴が好きなんだろうね」 「っ!・・なんでそんな・・こと」  単純に喜んでしまう自分が情けないと思いつつも、つい抱きついてしまう。 「ゆ、侑貴!・・」 「今は素直になるから!ほ、本当にオマエに触られただけでこんなに感じちゃうから・・だから」 「じゃあ、そのままオレに抱きついててくれる?けっこうこの感触が好きなんだよ。・・もちろん、侑貴限定だけどね」 「お、オマエ・・なんでそういうことをさらっと・・」 「ベッドにいく?やっぱ膝が痛くなってきちゃった」 「 お、オマエ・・」 「ワガママってのは、オレみたいなことを言うヤツだよ」  全裸のままで、同じく全裸の侑貴の重みを受け止めながら広将は笑顔でそう言う。 「・・結局・・かよ。ヤっちゃった・・」 と、侑貴は恋人の胸に口づける。 「どうしてそうオレを喜ばせたがる?今までならオレをたしなめたろう?なのに、仕事の途中でこんなこと・・」 「・・不安にさせたくないから。オレは哲人みたいにうまくはできそうにないからさ。や、アイツも直央さんに本心を伝えるまでは色々トラブったみたいだけどね」 「もしかして、オレが直央を口説いてたこと、まだ気にしてる?」  やぶ蛇だったかと、心の動揺を隠そうとしてつい相手の肩を強く掴んでしまう。 「っ!・・そんなつもりで言った んじゃな いよ。けど、本気であの人に魅かれているのはわかってたから・・。なにしろ、あの哲人があそこまで狂うほどに愛している人だから、直央さんは。やはり特別なんだろうなと思う。オマエだって、顔じゃなく纏っているオーラに魅かれたって言ってたじゃないか」 「・・あの鈴が認めた男だってことで察しろよ。や、詭弁だなこれは・・ごめん。直央には何度も日向との仲の深さを告げられたよ。けど、不思議に諦めようって気にならなかった。・・側にいたいって思える男だったんだよ。けど・・」 と、侑貴は広将の頬を撫でる。 「侑貴・・」 「怖い、とも思ってた。例のクスリの事件で直央を利用しようとしていた男は、彼を手に入れようともして破滅した。オレもそうなる・・とか思ったわけじゃ ないけど、亮までヤラレたんだ。・・都合の悪いことから逃げたってオマエに思われても仕方ないなと。だから・・」 「だから、オレに遠慮してるわけ?オレの方が・・断然オマエに恋してんだけどな。オマエの顔も声もギターテクも惚れこんでたから、オマエの誘いに乗ってバンドに入ったんだ。最初から・・特別だった。だから、側にいてほしいんだ。オレには、オマエしかいないから。オレだけ見ててほしい。せめて、二人でいるときだけは。オレの・・モノでいて」  そして唇が合わさり、お互いの舌が絡み合う。 「ん・・・んふ」  深く入り込んだ舌が刺激となって、再びお互いのソレに変化が起こる。 「広将って案外・・」  スケベなの?と照れ笑いしながら聞く。 「・・自分でも 意外だけどね。ただ、オレが一番望んでた“自分のいたい場所”だもの、ここが。・・ただ凄くオレも照れてんの。だからずっとメガネ外してるって気づいた?」 「メガネ外すと、めっちゃオレの好みだから深く考えなかった・・」 「はは・・侑貴のそういうとこも好き」  そう言いながら、広将はお互いの位置を変えること促す。そして 少し身体を浮かして片手で侑貴のソレを握る。 「やあ・・っ。ああ・・」 「舐めた方がいい?」 「!・・して・・・」  そう言って侑貴は足を広げる。 「じゃあ・・」 「あっ・・ふ」  侑貴のソレを咥えながら、広将は指を窄まりに挿れる。直ぐにくちゅくちゅと淫らな音が前と後ろから聞こえてくる。 「あっ!あ・・やっ・・いい。はあ・ ・ん」  舌で丹念に舐められ、侑貴のソレはびくんびくんと波打つ。やがてひと際大きくびくついた・・と思う間もなく侑貴はイッた。 「ご・・めん。オマエに飲ませるつもりなんてなかったんだけど、思ったより早くイってしまって・・」  自分でも信じられないという表情で、侑貴は謝る。 「らしくないだろ、オマエがそんなこと言うなんて。愛したいだけなんだから、オレは」 「・・そんなセリフこそ照れろよ、オマエ」 苦笑しながらも、侑貴の頬は嬉しさで染まる。他のオトコたちからも何度も・・たぶん本気で言われた言葉。なのに、本気の恋愛を求めていたのに、乾いていたはずの自分の中にはそれでも誰の言葉も入り込まなかった。 「なのに、オマエのキスだけでときめいて・・心を動かさ ざる得なかった」 「オレは、オマエが哲人みたいなタイプが好みだと思ってた。オレが見たのはたいていそういう男性と歩いてるとこだったから」 「・・嫌な場面ばっか見られてんな」  はあ・・と侑貴は大きくため息をつく。 「オレが他人だったら、オマエみたいな真面目で純粋なオトコが付き合うのは絶対に反対するわ」 「て、結局はそこまで真面目でもなかったろ?休日の昼間からこんなことしているんだもの」  広将は侑貴を再びベッドに横たわらせる。 「・・マジ?」 「正直、仕事のことも気になるんだけど・・でももう一度だけ、ね」  そう言いながら、広将は自分のソレを侑貴の窄まりにあてがう。 「オレ・・もう二回イってんだけど」  それでも自分が興奮してしまうのが恥ずかしくて、侑貴は手で自分の顔を隠してしまう。こんなリアクション誰の前でもやったことがないのにと、自分自身に呆れる。 「どうしてかなあ・・好きすぎるからじゃない?哲人もそうらしいよ」 「あ、アイツを参考にすな!鈴がアイツは変態だと言っ・・あっ!・・ん」 「ほんとに・・いい?」 「い、いいって!そ、そこまで挿れとい・・あっ。なに・・を」 「じゃ・・遠慮なく」  直ぐに広将のソレで自分の中が満たされていく。 「やあっ・・あっ・・あん。そこ・・あっ」 「動かしてないのに、何でそんなに感じてるわけ?」 「やっ・・嫌味?大きいから・・じゃん。いっぱい当たって・・あっ、ああっ!」  この一か月ほど何度か自分の中に迎え入れた恋人のソレは 、いつだって侑貴を身悶えさせる。 「いいっ!あっ、あっ、ああっ!・・もっと動かしていいから・・」  不思議だと思う。テクニックだけなら今まで関係したオトコの方がよほどイイ。なのに・・それこそ高瀬亮よりよほど感じてしまう。 「恋・・なんだろうな。やっと、素直にオレの感情を見せられるから」 「見せてくれればいい。オレだって・・嫉妬ぐらいはする。・・ずっと平静じゃいられなかった。哲人も大事だったし・・でも・・それこそ」  自分でも思いがけないほどの恋情と欲情。それを同性に対して抱くとは思ってもいなかったけど。 「哲人はオレにとっても特別だよ、正直。なにもかも・・哲人がきっかけだ。オレが、侑貴を誰にも渡したくないと自覚できるようになったのは 」 「ああ・・その・・奥なの!いっ‥イイ!」 童顔の広将に似つかわしくないソレは、その顔や普段の物静かな雰囲気からは想像できないほどに侑貴の中を強く突き、ぐりぐりと掻き回す。 「あっ・・ひっ!んん・・イイ・・どうしてオマエは・・そんな」 「好きな人がこんな身体で求めてくれてるのに、普段通りでいられるわけないだろ」  右手で侑貴のソレをしごきながら、広将は微笑む。 「だいたい、他のオトコじゃオマエを扱いきれない。・・泣かせるだけだから」 「へっ?」 「一か月前の“あの日”酔っぱらって寝てた時にオマエ、泣いてたじゃないか。あれが高瀬亮が失踪した後に見た涙だったら、オレもオマエのこと諦めてたかもしれないけどな」 「・・今頃んな恥ずかしい出来事ぶっちゃけるなよ。その割には強引に攻めてきたじゃねえ・・か。今だっ・・ああ!」 「あの時だって先にオマエが好きって言ったんだ。恋した相手にそんなこと言われたら、誰だって止まらなくなる。チャンスを逃したくないと思う・・」 「っ!・・ひあ・・っ・・そこはダメ!」  広将が自分の一番弱いところを突こうとしたのを察して、侑貴はとっさに身をよじる。が、その動きで広将のソレは奥の目的の位置に着いてしまう。 「あっ!あああ!・・っ・・いいい!そ、そんな風に触られたら・・も、もう・・」 「イケば・・いいよ。これがオレの素直な欲望だから」 「いやあ、気持ちいいねえ。これだけ肌を露出させられる場所はそうないからねえ」 「そんなこと言うくらいなら、普段からサラシなんて巻いてないでブラジャーにしておけばいいのに。鈴ちゃんは美人さんなんだから」  財前直央は自分の横で浮き輪でプカプカと浮いている女子高生にそう言った。 「・・直ちゃん、それってセクハラ発言だよ?普通に。いくらゲイだからってさあ」  笠松鈴は唇をとがらし、相手の頭を叩く。 「ご、ごめん!だって鈴ちゃんの水着姿、本当に可愛いんだもの。涼平くんも絶対惚れなおす・・」 「直ちゃんが可愛いって言ってくれるのは嬉しいんだけど・・」 と、鈴は怪訝な表情になる。 「ん?本当に可愛いよ?こんな妹がいたら、兄だったら鼻高々だろうなと」 「ボクにはきょうだいはいないからねえ。哲人も・・涼平もだけど。じゃなくて、何で涼平がボクに惚れなおすわけ?一度も涼平に好かれたことないんだけど」 「!・・だ、だって哲人がそう言ってたよ?涼平くんは鈴ちゃんのことが好きなんだって。普段の二人を見てればわかるって」 「はあ?」 「恋愛経験の少ない哲人にそんなことわかるわけないでしょう。まあ、口調はともかく女の子らしい恰好をした方がいいという直央さんのソレには同意ですけどね。あ、ブラ云々は割愛しますが」 「り、涼平くん!・・って、キミも凄い身体だね」 「直ちゃんそれって、ガタイのこと?傷のこと?」 「り、鈴ちゃん!」  直央は慌てて鈴の口に手を伸ばそうとする。 「いいですよ、直央さん。確かにこういう身体なんで公共の場では脱げません。まあ、そういうヒマもないですしね。今回は特別なんで、心静かにできれば過ごしたいんですよ。ですので、あまり鈴を煽らないでくれませんか。こいつは特別な女なんで」 「特別な女?つまり・・」  やっぱ好きってことだよね?と聞こうとして、橘涼平の深く大きいため息に阻まれる。 「あの生野たちのライブの時も言ったはずですが、確かにオレは哲人よりは鈴を女の子扱いしています。・・心配もしています。けれどイコール恋とは限らないでしょう?それを言ったら、最近の哲人だって鈴のことを大切にしているように感じられますよ。まあ、アイツの場合は貴方を愛し始めてそういう感情を素直に出せるようになったということでしょうが」  そう言いながら、涼平はストレッチを始める。 「涼平くん?」 「・・柄にもないことを言ったんで、正直照れてるんです。なんで、泳がせてください」  そう言うと、涼平は直ぐにプールに飛び込んで泳ぎだす。あっという間に見えなくなるその身体をともかくもと見送って、鈴は苦笑する。 「ごめんねえ。涼平はアレで本当に照れ屋さんなんだわ。だから学校ではチャラ男を装ってんだけど・・。で、女性の好みもね、ボクなんかと違うか弱い儚げな女の子なんだよね。哲人もそれを知っているはずなんだけど、何を見て勘違いしてんのか・・。あ、哲人がボクを大切にってのはそれこそ恋愛感情は関係ないからね」 「こっちこそ、なんか二人を混乱させちゃったみたいでごめん。でも、涼平くんの意外な部分を見られたみたいでなんか嬉しいっていうか。・・て、あんなに傷つくほど涼平くんて戦ってきたの?つまり・・鈴ちゃんも」  鈴の身体にも傷がある。女の子の身体なのに・・とつい直央の目から涙がこぼれる。 「ごめんね、ごめんね。オレだって事情を知ってるのに、 キミたちを傷つけるようなこと言っちゃったよね。最低・・だよね」 「いいんだよ、直ちゃん。それでもボクたちを友達だと思っててくれるんでしょ。そんなキミだからボクたちは哲人を託したいと思ったわけだし。だから泣かないでよ・・」 「なんで、直央が泣いてんだよ!鈴!直央に何をした!」 「哲人・・お約束のようにこういうタイミングで現れるんだね。キスでも何でもして、直ちゃんを泣きやませなよ。ボクたちはあっちに行ってるから」  バシャバシャと鈴は涼平のいる方へ、浮き輪をつけたまま泳いでいく。 「アイツ、浮き輪無しでも十分泳げるくせに何を女の子アピールしてんだよ。やっぱ涼平のこと・・つうか直央は大丈夫か?鈴に何を言われた?」  日向哲人に手を差し出され、直央はプールから上がる。 「鈴ちゃんは何も悪くないよ。けど、鈴ちゃんの身体にあんな大きい傷がついてるのが可哀想で・・。女の子なのにさ」  直央は尚もぐすぐすんとしゃくりあげている。 「・・アレは、オレをかばった時についた傷なんだ。付けたのは・・涼平」 「えっ?」 「オレと涼平が以前闘ったことがあるって話はしたろ。そのとき、オレの前に鈴が飛び出してきた。寸前で涼平が気づいて踏みとどまろうとしたんだけど・・。でもそのままの勢いで切ってたら鈴は助からなかった。つまり、本来の標的のオレもそうだったんだけどね。オレに対しては躊躇しなかったから、涼平は。オレはそれを避ける体力が残っていなかったし」  顔を逸らしながらも、哲人は淡々と話す。 「涼平くんは哲人を本気で殺そうとしたってこと?けど、今は・・」 「もちろん、オレは二人のことを信じているよ。涼平がオレに敵意を抱いた理由については解決していないけどね。けど、オレは二人が好きだし・・できれば普通に幸せになってほしいと思ってる。鈴と涼平ってお似合いだと思わないか?」 と、25メートルプールの端を指差す。そこでは鈴と涼平が楽しそうに何かをしていた。 「う、うん。涼平くん、鈴ちゃんのこと特別だって言ってた。けど、鈴ちゃんは涼平くんの好みのタイプは自分みたいなのじゃないって」 「好みのタイプなんて、あって無いみたいなもんだと思うけど。だって、オレだって直央が好みだったとかじゃないから。でも今は ・・こんなに愛してる」 「っ!・・だ、ダメだよ。二人から見えて・・ん・・んふ」 「ねえ・・ボクたちは今晩一緒に泊まらないほうがいいんじゃない?ものすごーくお邪魔な気がするもの。部屋だって防音てわけじゃないし」  プールサイドでキスを始めた二人を見やりながら、鈴は涼平に聞く。 「オレだってできればそうしたいよ。けど、この日向家の別荘だって安全てわけじゃない。つうかむしろ敵さんの中だ。まあ、いざとなったらオレたちはリビングのソファーで寝ればいい」 「ボクと涼平が二人きりでいると、また変な誤解されそうな気がするけど。・・てか、ボクが男の子っぽくしてんのはこの傷を隠すためじゃないよ。むしろ・・」  好きな人を守れた勲章みたなものだと鈴は 思っている。 「哲人が望んだんだ。“涼平たちみたいな兄妹が理想だ”って。でも同じじゃつまらないから自分には弟がいいって。本人は忘れてるみたいだけどね。一番の理由はソレだけど、けっこう楽しいよ。女子にもモテるしさ」 「アイツ・・どういうつもりでそんなこと言ったんだ?」 「どういうつもりも・・そのまんまだと思うよ?子供の頃の話だしね。まさか、“あんな事件”が起こるとは思ってなかったから、ボクも無邪気に哲人の“弟”を演じてた。ごめんね、涼平には辛い思いさせてるけど」  そっと、相手の腕を掴む。 「鈴?」 「ほんと・・ごめん」 「こっちこそ、オマエ・・だけでも生きててくれてよかったよ。傷つけちゃったけどな。まあそれだけでも“レイラ”には怒られそうだけど」 「・・かも、ね」 「で?今日はどういう理由でオレと直央をここに連れてきたんだ?オマエらもケガが治ったばっかだというのに、ムチャしやがって・・」 「だって、暑いから?ボクらは、公共のプールには入れないからねえ。直ちゃんも、自分の傷は気にしてんでしょ?だから、ここのプールに入ればいいじゃんと思って。来月からは忙しくなるし・・」 「あっ、オレのことも気にしてくれてたんだね。鈴ちゃんてば、優しいね」  にこりと笑う直央とは反対に、哲人は渋い表情になる。 「おい、直央の身体のことをそんな・・」 「なによ、直ちゃんは嬉しがってくれてるんだからいいでしょ?哲人とじゃ、直ちゃんは部屋にこもりきりになっちゃうし・・」 「別に オレは直央を閉じ込めてるわけじゃない!ただ・・大事にしたいだけだ。けど、ここは日向の別荘だ!そんなとこで直央に笑顔になってほしくはない・・っていうか」 「哲人?」 「んだよ、場所がどこだろうと恋人が楽しんでりゃいいだろが。オマエの日向の家に対するわだかまりに、直央さんは関係ねえんだからよ」  飲み物を運んできた涼平にそう言われ、哲人の顔色が変わる。 「直央の前でいらないことを言うなよ、涼平。恋人を楽しませるのは、その相手の役目だろうが。オレは・・」 「や、止めてよ!今日は哲人の誕生祝いをしたいっていうオレのワガママを、二人が叶えてくれただけなんだから」  慌てて直央が止める。 「えっ?」 「先月、哲人の誕生日だったでしょ。二人でお祝いはしたみたいだけど、その頃はボクも涼平もケガで入院してたから、それを気にしてたんだって。哲人のためにケガをしたんだから・・って」 「・・直央がそう言ったのか?そんなこと・・」  哲人が困惑気に聞く。 「だって、それが事実じゃん。あんな酷い怪我・・。オレだって二人の友達なんだ!だから・・二人の快気祝いも兼ねてと思って鈴ちゃんに相談したの」 「ついでに、普段は周りに気兼ねして入れないプールにも入っちゃえ!ってね。そしたらここに来るしかなかったんだよ。なんだかんだで、哲人も水着買ってきたじゃん。二人で泳げて楽しかったでしょ?それとも、直ちゃんの裸を他人に見られたのがそんなに嫌だった?」  ふふ、と笑いながら鈴はコーヒーを直央に勧める。 「涼平の淹れたコーヒーは絶品だよ。焙煎から自分でやってるからねえ」 「そ、そうなの?じゃあ、とりあえずブラックで・・。苦い!・・ごめん、味がよくわかんないや」 「はは・・直ちゃんてほんと素直で正直だよねえ。恋人同士って性格が似るって聞いたけど、なんで哲人は素直になってくれないのかな?」  鈴はわざとらしく首をかしげる。 「お、オマエらがオレをからかうからだろうが。だいたい、オレの誕生日なんて・・」 『・・もうすぐキミの誕生日だな、哲人。あれから18年か。キミには不愉快なことかもしれないが、生まれたばかりのキミを最初に抱いたのは私だ。もちろん、赤の他人だし私は医者でもない。当時キミを取り上げたドジな看護師が、私を父親と間違えてキミを渡したんだ。まったく・・彼女は顔は侑貴に似ているのに性格は真逆だったよ』 「始まりからがそれこそ間違っていたんだ。直央に祝ってもらえたのは嬉しかった・・けど。というか、直央がいなかったら・・」  自分の出生のことが明らかになるにつれ、自分の存在意義への疑念が己の胸の中に高まっていく。 「黒くなるオレの心を浄化してくれる直央の存在は、オレにとってかけがえのないものだ。だからこそ、日向に直央を近づけさせたくない」 「その気持ちも理解できなくはないけど・・そこに付け込もうとする輩がいることも分かれよ。そいつらから、オマエら二人を守るのがオレたちの役目だ。だから、どれだけオレの身体が傷つこうが構わないんだが」  そう言いながら、涼平は鈴の身体をちらりと見る。自称Cカップの胸と推定56㎝のウエストを持つその身体を、鈴は白いワンピースで包んでいる。髪をショートにしているせいで、普段の少年ぽい服装では本当に男子と思われることも多いが、こうして女の子らしい装いをしているとお嬢様っぽいなと、涼平は思った。 「鈴ちゃんて、白が似合うよねえ。なんか清楚な感じで、こんな森の中の別荘に避暑にきたお嬢様って感じがするよ」  直央はそう言って鈴を見つめる。 「ふふ、直ちゃんてゲイのわりに女の子を褒めるのが上手だよね。ノンケの男二人はそんなこと言ってくれたことないんだけど?」 「そうなの?ダメだよ、二人とも。可愛い女の子はちゃんと素直に褒めなきゃ。こんな美人さんが側にいるって幸せなんだから 。・・やっぱ絵になるもんねえ、キミら3人てさ。ありがとうね、オレと一緒にいてくれて」  正直、自分は場違いなんじゃないかとも思うけど。 「哲人は、だからそんなことは気にしないで。だいたいが、オレの出生だって普通じゃないんだから。そんなオレが哲人と一緒にいられるんだから、これ以上ない幸せだもの」 「この近くに教会があるんだけど、見に行く?もしかしたら直ちゃんと哲人もお世話になるかもしれないし」 「「へっ?」」  二人が同時に声を上げる。 「「ど、どういう意味・・」」 「なんでよ?だってプロポーズしてんだから、次は結婚式でしょ?直ちゃんのウェディングドレスはボクがデザインするよ。森の中の教会なんて、それこそロマンチックよ?」 「 わあ!小さいけど素敵・・。湖もあって何か童話の中の景色みたい!」 「でしょ!でしょ!小さいころは、ボクや哲人は咲奈さんにここに連れてきてもらってよく結婚式ごっこしてたの。亘祐もね」  こじんまりとした教会がそこに立っていた。無人のようではあったが、綺麗に掃除はされている。 「ここは日向の土地だからね。先代の遺言で、この建物はきちんと管理されてんの」 「日向家の先代?もしかして、哲人のお祖父さんとか?」  直央は哲人に顔を向けるが、哲人は困惑気な表情で黙っている。 「?」 「それが、はっきりしないんだよね。若いころの写真なんか、哲人にそっくりなイケメンなんだけど・・」 「あ・・ごめん、哲人」  もしかして地雷だったのかと、慌てて謝る 。 「いいんだよ。・・たぶん、あの人の存在がオレと日向を繋げていた唯一のモノだったんだと思う。そんなあの人すら、オレに本当のことを言わないで逝ってしまった」 「哲人・・」 (本当にそうなのか?)  涼平は腕組をしながら考える。 (“あの人”の遺言を直接聞いた人はいない。葬儀も簡潔なものだった。遺言状だって、本来なら哲人が確認すべきものだ。日向の家の者だって、この辺りにはめったに来ない。なのに、この教会がなぜそんなに重要視されている?)  そう考え込む涼平をよそに、鈴と直央ははしゃいでいる。 「確かにここで結婚式するのは憧れるけど、オレがウエディングドレス着るのは確定なの?」 「オトコ同士だと、たいていは二人ともタキシードだけど・・ この身長差と直ちゃんの顔だったらボクはドレスを推すね!一回腕を組んで、そこに立ってみてよ」 「・・こう?」  唖然とした表情の哲人を教会の入り口の外までひっぱっていき、直央は腕を哲人のうでに絡ませる。そしてはにかんだ表情で相手に身体を預ける。 「やっぱ可愛い!ちょっと待って!写真撮るから・・」 「ばっ・・鈴!」 「えっ・・えっと・・」 「あほか、オマエら・・」 「なんかボクのインスピレーションがふつふつと湧いてきた!ぜーったい、ここで結婚式しようね!」 「こういう感じでどうよ?ここにギターソロを入れて・・」 「うん、いいんじゃない?一応これでプロデューサーに送ってみる。お疲れ様、侑貴」 「つうか・・」 と、侑貴は呆れたように聞く。 「よく、そんなに都合よく仕事モードになれるな。さっきまでエロいことしてたくせにさ。本当に高校生か?オマエ」 「・・しょうがないだろ、オマエとは公私にわたるパートナーなんだから」 「!」  顔を赤くしながら答える広将に侑貴はつい抱きついてしまう。 「バカ・・何がしょうがない、だよ。素直に好きって言えば・・」 「好きだよ、侑貴。だから、仕事も頑張ってるんじゃん」  抱きつかれたまま、広将は照れたその顔をパソコンに向けている。 「・・だから、そういう態度が高校生っぽくないんだってば。つうか、二言目には仕事って・・」  基本的に広将は真面目な人間だとわかっているけど・・と複雑な気持ちを吐露する。 「そりゃあ、このバンドのリーダーはオレのはずだけど・・」  恋人になってから、どうも自分はこの年下の彼氏に引っ張られているようだと感じる。情けないという自覚も、ある。 「侑貴のプライドも尊重したいけどさ。でも、できる仕事はちゃんとやりたいんだよ。将来のためにね」 「将来のため?だってオマエは来年は大学・・」 「いかないかもしれない」 「えっ?」  思いがけない言葉に、侑貴の表情は困惑したものになる。 「だって、オマエの高校って進学率100%だろ?オマエの成績だって、それこそ上位の大学を楽に狙える・・」 「早く稼げるようになれば、早く一緒に暮らせるだろ?そのためには今頑張って実績作っとかないとさ。だから、なるべく仕事は断らないようにしてるわけ」 「一緒にって・ ・オレと?」 「他に誰がいるんだよ」  広将はくるっと侑貴の方に向き直って、にこりと微笑む。 「いろんな意味で、侑貴から目を離したくないしね。そりゃあ、まだ親には言ってないけど・・」 「ばっ!あ、当たり前だろ・・普通の親が許すはずねえって!有名進学校に入れた息子が進学しないで、しかもオトコと同棲とか・・。オマエもそんな馬鹿なことを真面目に考えるな!オレなら、そこまで心配しなくていいから」 「嬉しくないの?もっと喜ぶと思ってた」  広将の顔が少し陰る。 「か、勘違いするなっ!・・そんな無理やりに同棲生活始めるより、オレだってちゃんとオマエの家族に認められたいんだよ。オレみたいな境遇の男が、大事な息子を貰い受けるんだから・・」 「へっ ?オレが侑貴を貰う方だろう?」  広将が真顔で首をかしげる。 「はあ?オレの方が年上だし、この業界でのキャリアも長いんだぞ?だいいち、オレの家族はもういないんだから、オレを貰うも何も・・」 「侑貴が年上の嫁さんて感覚だったけど、よく考えたら炊事洗濯も全部オレがやってんだよな。・・じゃあ、オレが奥さんのポジ?」  何か納得いったと、広将はポンと手を叩く。 「お、オマエと知り合うまでは自分でやってたわ!オマエが勝手に世話焼いて・・。つうか、んな話はいいんだよ。とにかく、オレだって真面目に仕事すっから!オマエはちゃんと自分の将来を考えろよ。オマエなら音楽との両立できんだろ。今だってそうなんだし・・一緒にはいたいけど、誰もが納得する関係でいたいんだよ。一生側にいるために」 年上の意地で少し胸を張ってみる。なのに広将はニコッと笑ってこう聞く。 「好き?オレのこと」 「大好き!愛してる!・・わかってるくせに言わせんな。そんな顔して・・こんなときだけ年下ぶるなよ。ズルいって・・」  だからキスを求める。この三歳年下の彼氏を喜ばせたくて。いつか、広将が家族にカミングアウトするときのための礎を積み重ねるためにも、と。 「・・後悔させないから、オレを好きになったこと」 「広いベッドだねえ。ベッドの上で、こんなにゴロゴロしたの初めてだよ、オレ。それがツインて贅沢な部屋だなあ」 「気に入ったか?・・いずれ、オレが直央と住む家を建てたら、寝室はこれより広く・・」 「へっ?哲人が家を建てる・・・?」  直央の怪訝な表情に、哲人は苦笑する。 「喜んでくれると思ったんだけどな。だって、オレは直央にプロポーズしたんだぜ?将来の事考えるのは当たり前だろ」 「しょ、将来って・・。まだ何年も先じゃん、哲人が大学を卒業するまで」 「でも、教会にいたときまんざらでもない顔してたじゃないか。・・オレは直央への思いを自覚したときから、ちゃんと考えてた。直央との将来を・・」 「ほ、本当!そんなにオレのことを?!哲人!」 「な、何・・を」  直央の勢いに、哲人はたじろぐ。 「だって、あれから何度も喧嘩したし・・今日だって教会に行くの渋ってたから・・。でもオレは・・哲人が喜んでくれるんなら鈴ちゃんが作ったウェディングドレス着てもいいなと思った。だって、哲人の奥さんになるんだもの」  正直、自分でも言ってることがおかしいなとは思う。女装趣味があるわけでもないし、自分の童顔を恥じてもいたから。 「でも、哲人との確実な未来は欲しいから。そのための儀式も、ちゃんと経験したいから。だから・・」 「じゃあ、オレと一緒に住んでくれる?・・本当は、都内に家を一軒建てるくらいの資産はあるんだ。本家から離れるための“道具”の感覚だったんだけど、今は違う。“家族”と・・直央と暮らしたい」 「い、家一軒?」  少し自分の考えてる感覚と違うんじゃないのかと思いながらも、哲人の気持ちは純粋に自分との将来を考えているのだろうと嬉しくはなる。 「そ、そんなに広い家とかじゃなくていいから!お互いが寂しいと思わなくて済む生活でいいわけで・・」 「・・正直言うと、 あまり広い部屋とかベッドだと、直央とくっつけないと思った・・んだ」  照れたように、そんなことを口にした哲人に、直央は驚く。 「哲人・・どうしたの?なんか変・・」 「・・想像して嬉しくなったんだよ、本当は。可愛いだろうなって。オレの恋人は誰よりも可愛くて・・オレの大切な人」  本当は、少しひっかかりを感じているのだけどと、心の中で直央に謝る。鈴が自分たちをこの別荘とあの教会に連れて行ったことに、哲人は疑問を抱いていた。 (どうして、直央を本家に近づけさせようとする?) 「哲人のタキシード姿もカッコイイだろうなあ。黒でも白でもさ。鈴ちゃんて服のデザインもできるなんて凄いねえ」 「もしかしたら、直央のお母さんと話が合うかもしれないな。オレはよくわからないけど、同じ、絵を描くもの同士で」 「母さんは女の子も欲しかったかもしれないしなあ。小さい頃はやたら可愛らしい服を着させられたし」  ふふふ、と直央は思いだして笑う。 「見てみたいな。今でも可愛いんだから、子供の頃はよっぽど・・」 「哲人こそ、森の中の教会で遊ぶ美少年な子供たち・・鈴ちゃんは美少女だけど、それこそパンフレットに載りそうな画だよね。亘祐くんもかっこいいし」  直央の頭の中が怪しくファンタジックなものになったのを感じて、哲人は顔をしかめる。 「・・亘祐と鈴のことは今は頭の中から除けてくれないか」 「へっ?・・その声・・」  突然、低いものになった哲人の声音にときめきながらも、その変化に直央は驚く。 「哲人?」 「貴方の頭の中にあるのは、せめて今だけでもオレだけでいい。やっと二人きりになれたんだから」 「はあ?やっとって・・・久しぶりの鈴ちゃんたちとの夕食も楽しかったろ?鈴ちゃんが作ったケーキも美味しかったし。つうか、いつも二人きり・・」 「オレと二人で過ごすのはつまらない?大勢の方がいい?」  少し拗ねたような声。こういう時の哲人は本気で怒っているのだと、これまでの付き合いから直央は理解していた。 「ご、ごめん!オレ、哲人の気持ちも考えずに一人ではしゃいでた?なんか、凄い贅沢させてもらったみたいで、その・・お姫様気分でいた」 「お姫様なら、王子のことだけ考えていればいいんだ。オレも昔のような子供じゃないんだから、我慢できなくなる」 「・・・」  普通は子供だから我慢できないんじゃないの?と言おうとして止める。哲人はあまり幼少期の話をしたがらない。苦しそうな表情をする時さえある。 (鈴ちゃんの話を聞いてると楽しそうなんだけど、哲人的には辛かったことがあるのかもしれない・・) 「ごめん。その・・側にいっていい?」  おずおずとそう尋ねると、あっと思う間もなく抱きしめられる。 「!」 「朝まで・・や、ずっと抱きしめたままでその後もいるから。鈴や涼平がどういう顔をしようと。・・こっちこそ、ごめん。直央が今日のことを喜んでくれているのに、ぶち壊してホントごめん」  謝るくらいなら、キレなければいいのにどうしても自分の感情を優先させてしまう。 「甘えているんだろうなって思うよ。本当のオレはこういうヤツなのかもしれない」 「ふふ、オレの方がお兄ちゃんなんだから構わないよ。んで、オレは哲人が思っているような贅沢がしたいわけじゃない。二人で心穏やかに暮らしていければそれでいい。でも、周りの人間をないがしろにする気も無い」 「っ!」 「けど・・」 と、言いながら直央は恋人の服に手をかける。 「いつだって、哲人が最優先で自慢なんだ。こんな素敵なオトコに抱かれる自分の姿、他の人に見せつけたいくらいに」 「直央・・」 「抱いてよ」 「ん・・」  舌を絡めあいながら、哲人は直央の両方の乳首を指で擦る。 「ん・・んふ」 「口は解放してあげたから、大きい声出してもかまわないよ。鈴たちに聞かれたって構わないんだろ?」 「や・・でも恥ずかし・・あっ・・ひっ!」 「見せつけたいって言ったじゃないか。じゃ、ココを弄ったらもっと大きい声が出る?」  指が今度は後ろの穴を攻める。同時に、前のソレをしっかり握られ擦られる。 「あっ、あっ、あっ・・・そんなに強く擦られたら・・ヤバ・・。やああ!イイ!・・っ」  いつものマンションの部屋でするセックスより、開放的になっている自分に気づく。 「あは・・舐めてもっと・・じゅぶじゅぶって・・ぐちゅぐちゅっていってるのぉ」 「いっぱい搔きまわしてるから、そりゃあな。直央から出てくるコレ、いい味だ。・・どれだけでも溢れてくる。止まらないよ?」 「いやあ・・だって哲人がいつもよりイヤラシイんだもの。だ、だからもう・・おっきいの挿れてよぉ。我慢できない・・」  そして、自分の中にソレが収まると先ほどよりも大きい声が自然に口から出る。 「ああっ!・・んあっ・・。も、もっと奥までしていいから!もっといっぱいグリグリしてえ!」 「“たまには”いいのかもな、こういうとこでのセックスも。こんなに直央が喜んでくれるなら」  哲人はニヤリと笑う。鈴の本当の意図はたぶんコレではないと思うけど。 「とりあえずはノセられてやるよ・・」 「ん・・そこ・・ソコいっぱい擦って・・いや・・ああイッちゃ・・まだ感じていたいの・・にっ」 「明日の朝、鈴が起こしにきてもヤルから何回でもイッていいよ。見せつけたいんだろ?」 「って、盛りすぎなんだよオマエら!オレらまで不眠にするんじゃねえ!」 と、翌日涼平に怒鳴られることもわかっていたのだけれど。    To Be Continued

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