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第22話
「あいつが動く・・」
前方にいるベビーカーを押しながら子供を抱っこしている女性をじっと見ている怪しい男の動きを注視していた日向哲人が呟く。
「どうするの?」
と、財前直央は声をひそめながら聞いた。
「駅前でこれだけ人が多いのに狙おうとしているってことは足に自信があるんだろうよ・・っ、やりやがった!オレは追うから直央はあの人と通報を頼む!」
そう言いながら、哲人は走り出す。
「待て!」
「哲人!・・っ」
「哲人様、無茶はいけませんよ」
哲人が走り出すいなや、その爽やかな声は聞こえた。直央にさえにっこりと微笑んで、その声の主は哲人を追い抜いてひったくりの犯人を追い詰めようとしていた。
「勝也さん・・なんで・・」
その男性に哲人は驚きの声を向ける。
(勝也さん?・・その名前・・あの顔・・オレの知ってるあの人・・だよね)
『大丈夫?』
その彼は突然直央に頬を叩かれたにも 関わらず、その端正なフェイスに優美な微笑みを乗せて相手を気遣う言葉を向ける。
『あ・・ああ・・』
(ち、違う!オレは・・別に・・あ、謝らなくちゃ。オレはこの人に助けられ・・)
が、言葉が出ない。相手のその優し気な表情の“ある”隙間を、自分は一瞬見てしまったから。
『や、あ・・』
『どうしたんです!どうして人が倒れて・・』
馴染みの看護師の声が聞こえる。
『や、オレは・・』
自分に起こったこと、自分が起こした事をこれ以上誰にも知られたくないと思った。というか、病院の中で看護師に襲われた直後とあっては、普段から世話になって仲良くなっているといっても、正直今はこの看護師も信用できない気がしていた。
『もしかして倒れているのって・・ひ っ !』
助け起こそうとした看護師が短く悲鳴を上げる。
『あまり大きな声は出されぬように。病院の名誉にも関わることですからね』
“彼”が声をひそめながら、直央を庇うようにその前に出る。
『病院の名誉?・・ナオヒロがどうかしたのですか?』
直央と同じ入院患者であるはずの“彼”のその態度を訝しぎながら、看護師はともかくもと尋ねる。
『この彼をこの男は襲おうとしたのです。“前から好意を持っていた”と、この男ははっきり言いました。直央くんが受けている病気の治療は、この病院のウリだったはずです。なのに、看護師が彼を性的に辱めようとした。・・マズイんじゃないですか?』
『!』
(なんで・・そしてこの人はケガで入院していたはず)
驚愕している直央をしりめに、“彼”と看護師の会話は続く。
『彼が・・看護師が入院患者をレイプしようとしたんですか!この人がゲイだなんて誰も知らなかった。そして貴方は・・』
『同じ日本人ですからね。だからというわけではないですが、見張っていました。だから助けることができたのです。この看護師の行動は読めていました。おかげで私の入院は伸びそうですが』
“彼”の腕からは血が滴っていた。同時に、部屋着にも赤いモノが滲んでいる。
『あ、貴方もナオヒロと同じ病気で、しかも深い傷を負っていたはずでしょう!何を無茶なことを、カツヤ!』
『私は私の目の前で起こった卑劣な犯罪を見逃せなかっ ただけですよ。かといって、私も彼もこの病院に頼るしかなかった。それでも、私は彼を助けたかったのです』
これらの会話は全て英語で、しかも早口でおこなわれていて、直央はほとんど聞き取れなかった。だからかもしれない。
(この人は・・味方?普段は優しかった・・けど。でも、さっき見た表情は・・)
値踏みするようなその表情が、直央が躊躇する理由になっている。自分が女性が苦手になったきっかけがソレだったから。
けれど、今は目の前の“彼”のケガの方が気になる。自分をかばって、そんなに血を流しているのは事実なのだからと。
『勝也・・さん、大丈夫?』
『っ!』
『?・・』
相手のその反応は、直央の方が驚くものだった。
(だって、相手の突きつけ たナイフを平気で掴んだんだもの。それこそ何の躊躇もなく。この人がいなければオレは確実にヤラレてた。でも・・何でオレなの?俺は別にゲイなわけじゃない。オレ自身は・・)
確かに恋をしている相手は男だ。が、たまたま同性だっただけだと思っている。
(だってオレは別に“この人”に心惹かれないもの。カッコイイとは思っていたけど、ただそれだけ。この看護師にしても、優しくしてくれるから気を許していた。日本語も普通に話せて自分の不安を取り除いてくれる人だと思っていた・・のに)
ともかくも、と女性看護師は人を呼びに行く。そして“彼”は直央に話しかける。
『直央くん、キミが悪いわけじゃない。キミは・・そういう存在なんだ。私の知り合いと同じく、キミはある 種の人間を引き付ける。キミは一人でいてはいけない。私のようなモノも信用してはいけない。けど・・』
そう言いながら“彼”は微笑む。優しく、そして悲しそうに。
『勝也さん・・貴方は・・』
なぜそんな顔をするのかと不思議に思う。
『手が・・痛いの?そうだよね、そんなに血が出てるもの。勝也さんは何でオレにそんなに優しいの?オレは勝也さんを叩いてしまったのに・・』
“彼”は表情を変えないままに答える。優しい、そして真剣な声で。
『直央くんはいつかとても大切に想える相手と巡り合える。それまでに少し嫌な思いをするかもしれないけど、キミはとても良い子だからその人と幸せにね。そして、今日のことは忘れなさい。私のことも。“あの時のように・・”ね』
(あの時?オレは前にこの人に会ったことがあるの?こんなカッコイイ人を忘れるはずないよ?声も素敵で・・。あれっ、顔が近い・・っ!)
息が顔にかかる。と思う間もなく、唇に何かが触れる。
『!』
(キス・・された?な、なんで?あの男と同じことを何でするの?忘れろって言っておいて、何で・・)
実際には自分を襲った看護師の唇は自分には届いていなかったが、それが触れそうになった感覚は覚えている。
『・・捉われてしまうのですよ、私もキミに。キミはあの子に似ているから。けど、これっきりです。もし、この先会うことがあっても、キミの環境が少し変わっていても、キミが好きになった人を信じなさい。その人は、必ずキミを幸せにしてくれます』
『オレが好き なのは幼馴染の千里だけです。それ以外の人は絶対に・・』
『ふふ・・それでもいいのですよ。ただ、今夜のことは忘れなさい・・いつか、私と再び会っても・・』
(こんなキスしておいて・・ダメだよ・・。オレは・・たぶん・・いろいろ知らなきゃいけないんだ。オレが襲われた理由も、勝也さんの表情の・・意味も・・)
(何で、哲人が勝也さんを知ってるの?哲人・・様?どういうこと?日向の人なの?・・あれ?)
「・・ひろさん!」
(そういえば、哲人って勝也さんに顔が似てる・・なんで今まで思い出さなかったの?勝也さんの方が先に会ってたのに)
「・・おひろさん?直央さん!大丈夫ですか?オレがこの人を支えていますから、直央さんは110番してください!」
「あ 、 あれ?一宮くん、なんで・・」
「何ででもどうでもいいから、ちゃっちゃっと通報してくださいよ!」
なぜかそこにいて被害者の女性と子供を支えている一宮奏の言葉に従って、直央はスマートフォンで警察に電話する。
「・・そうです、駅前で。オレの連れと・・もう一人が犯人を確保しています。被害者は一歳くらいの子供を抱っこしている女性です。・・怪我はおそらくしていないと」
不思議なくらいに落ち着いて通報できていると、自分で自分を褒めたくなる。
「結構な騒ぎになっているから、多分他の人も通報しているよ。すぐ警察はくるはずだ。お子さんはオレが抱っこしていますから、貴女は一宮くんに支えてもらってとにかく気を落ち着けた方がいいです」
自分もトリップしていたくせに、何でこんな言葉がすらすらと出てくるんだと思いながら直央は女性に向かって手を出す。女性は躊躇していたが、直央がニコリと笑っ て再度「心配ないですよ、警察を呼んだのも見てたでしょ?」というのを見て片手で抱きかかえていた我が子を直央に渡し、自分は一宮に身体を預ける。
「ご、ごめんなさい。突然のことで驚いてしまって・・。うまく立てないの」
「それでも、お子さんを離さなかったのは流石ですよ。あ、警察がきましたね。・・哲人も勝也さんも無事に犯人を引っ張ってきたようです」
「直央さん?」
直央のその言葉に、一宮の表情が困惑気なものになる
(何で、勝也さんのことを知っているんだ?哲人さんが紹介したのか?・・いつ?)
「よかった、子供の扱いは慣れてるつもりだけど泣かないでくれると、やっぱホッとするね」
直央が嬉しそうに抱きかかえた子供の顔を見ながら声をかけている。突 然母親から引き離されて初対面の男性に抱きかかえられているにも関わらず、子供は機嫌がいいようだ。
「もしかして、お子さんて男の子ですか?や、可愛い子なので・・」
一宮はおずおずと母親に尋ねる。
「ええ・・男の子だからかどちらかといえば女性に懐くことが多くて、主人とも『将来が・・』なんてこと言ってたんですけど、男性に対してこんなに笑うあの子を見たのは初めてです」
(や、やっぱ直央さんて魔性の人なのかも・・。でも、オレは魅かれなかったよな?いくら前から知ってたとはいえ。んで、哲人さんに似てる勝也さんを直央さんが知っていたってことは・・ヤバイ状況なんじゃね?これって)
近づいてくる哲人と日向勝也を見ながら、一宮は人知れず冷や汗を流す。
「直央、大丈夫か?あれ?一宮も一緒?なんで・・。ま、それはともかくこれがコイツから取り返したカバンです。警察にも同じことを言われると思いますが、一応中を確認してもらえますか」
そう言いながら哲人は手にしていたカバンを女性に渡す。
「本当にありがとうございます!・・ええ、無くなったものはありませんし財布の中身も・・たぶん大丈夫です」
それでも、女性の顔色は青いままだ。下手すれば、男四人で囲んでいる自分たちの方が怪しく見えるなと、一宮が考えたときに、制服姿の警官が声をかけてきた。
「すいません、通報してくださったのはあなた方ですか?」
「え、ええ・・。こちらが被害者の方です。 オレとそちらの男性が二人で歩いていた時に、この女性を妙な視線で見てる男がいるなと思っていたらベビーカーの中の荷物を取って走り出したので追いかけたんです。・・どうせ調書を取るのでしょうから、後は交番で話しますね。このお母さんとお子さんを早く休ませないといけないですから」
「直央!?」
「そ、そうですね。では・・」
警官と哲人と一宮の3人が同時に「えっ?」という顔になったのが面白いと勝也は思った。
(ふふ、顔つきはあの頃とそんなに変わらない感じがするのに、中身は年相応になったのか・・。俺のことは思い出した?)
本来の計画ではここで顔を合わすつもりはなかった。が、それも運命なのだろうと勝也は達観することにした。
(琉翔さんには嫌味を言われるだろうけど。や、嫌味じゃ済まないか。ま、俺の身体一つで哲人が守られるのなら)
哲人を守り切れなければ、自分の人生は意味をなさないのだと息をつく。
(それにしても、昨日はあれだけ疲れた顔をしていたというのに、今日はひったくり犯を捕まえるために走るとか。直央と一緒だから?3年の間に随分と変わったものだ。昔は、あんなにオレに甘えていたというのに)
「直央さんもアレですけど、哲人先輩も・・何で昨日の今日で出歩いてるんです?オレ、マジで心配してた・・」
勝也の気持ちを知ってか知らずか、一宮が小声で哲人に話しかける。
「直央と過ごしてたら疲れなんか消えたよ。・・や、心配かけたのは悪かった。あの時は本気で辛かったんだけど」
「・・聞いた オレが馬鹿でした」
苦笑する一宮に、今度は哲人が不思議そうに聞く。
「オマエこそ、何でここにいるんだ?てか、何で直央が赤ちゃんを抱っこしているんだ?だいたい、直央は女性が苦手なはずなのに何で普通にあのお母さんと話しているんだ?」
「知りませんよ、そんなこと。つうか、れっきとした女子の鈴先輩とは普通に話してるんでしょ?直央さんは。あー、子供の扱いには慣れてるって言ってましたよ。そして、オレがここにいたのは塾帰りだからです。てか、直央さんは勝也さんのこと知ってましたけど、いつ紹介したんです?」
「!・・今なんて言った?」
哲人の声と表情が変わる。
「・・何でそこで殺気を出すんです?勝也さんは貴方が尊敬している人で、直央さんは貴方が愛 し ている人ですよね?直央さんは普通に“勝也さん”と言ってました。どういうことなんです?」
安易に口に出してはいけないことだったのかと、一宮は小さく舌打ちする。
(つうか、なんだよこの殺気は。この人にとって、勝也さんてどういう存在なんだ?昨日は素直に言うことを聞いてたくせに・・)
「えーっと、通報してくださったのが財前直央さんですね。そちらの日向哲人さんと歩いていたところ、犯人がベビーカーの中のカバンを掴んで走り出すのを目撃したため哲人さんが追いかけたと。で、こちらの日向勝也さん・・ですね。親戚の哲人さんがたまたまいたため声をかけようとしたところ、事件に気づき自分も追いかけたというわけですね。そして、財前さんが通報。そこにたまたま哲 人さんの高校の後輩で財前さんも顔見知りの一宮奏さんがいて、一緒に被害者の方を介抱していたと」
交番の中で警察官は4人の顔を見渡しながら、事件の状況の確認をする。まだ若い警察官でなぜか頬を赤くしている。
「や、その・・皆さんの連係プレーのおかげで犯人を捕まえることができましたし、被害者の方にもケガが無くてよかったと。たまたま皆さんが知り合いだというのが・・その・・いい偶然でしたね。てか・・率直に言いましてみなさんがカッコよくてその・・」
最後の方は小さい声になっていて、子供をあやしていた女性の耳には入っていなかったようだが、一宮は何度目かのため息をつく。
(どこにでもいるんだな、こういう男って。や、俺も人の事言えないけどさ。・・気持ちはわかるよ、この3人が並んでたら壮観だもの。てか、なんかおかしいって。哲人さんは勝也さんと何かギクシャクしてる感じだし、女性が苦手なはずの直央さんが何かとあのお母さんを気遣ってるし・・勝也さんは何かいつも通りって感じだけど、大人の余裕?オレが一人でヤキモキしてるのバカみたいじゃん)
こういう時に哲人の親友の笠松鈴かさまつりんか橘涼平たちばなりょうへいがいてほしいものだと、一宮は思わずスマートフォンを握りしめる。
(涼平先輩はまだ学校かな。・・って、オレは誰の番号も知らないんじゃん!鈴先輩はなぜかこういう時によく現れるんだけど・・)
が、今日は救世主は現れない。そして警察官の聴取が続いているところに、被害者の女性の夫が到着した。その顔を見て、一宮と哲人の表情が少し変わる。
「どうしたの?哲人」
「あ・・いや・・」
男性はあらかじめ妻から電話で説明を受けていたらしく、妻にちょっと声をかけた後、直央に近づく。
「妻を助けていただいたそうで、本当にありがとうございます。それに息子の面倒をまで見ていただいて・・。何から何までご迷惑をおかけいたしましてもうしわけあり ませんでした。財前さんですね?息子を渡していただけますか?」
30代半ばに見えるその男性は熱い夏にも関わらずきっちりとスーツを着込んでいた。真面目そうなその風貌は、直央から我が子を受け取ると途端に崩れる。
「泣かずにママを守ったんだな、偉いぞ!・・ほんとに・・よかった。・・ごめん、不安だったよなママも。たまたまイイ人たちがいてくれて・・よかったんだ」
最初は子供を抱きかかえて笑顔だった男性の表情が、どんどん更に崩れていくのを一宮たちは唖然とした表情で見ていた。そして男性の目から涙が落ちるに至ったところで、妻が慌てて立ち上がる。
「パパ!」
「だ、だって・・や、すいません。大人なのに皆さんの前で取り乱しちゃって。でも・・よかった」
「ふふ、いいご家族だったね。オレたちもあんな風に・・や、子供は無理だけど夫婦になれたらなって思っちゃった」
事情聴取が終わって、4人は交番を後にしていた。歩き始めてすぐ、直央が感慨深げに話しだす。
「オレね、アメリカでベビーシッターのバイトしてたの。でも、泣かれたらどうしようかってドキドキしちゃった」
「直央・・」
「パパさん凄く泣いてたね、びっくりだよ」
「直央!」
思わず大声を出して、哲人はハッと口を押える。
「哲人様、少しお疲れじゃないのですか?周りに配慮もできないほどに」
勝也がいつもの悠然とした微笑みを哲人に向ける。
「直央さんと早くご自宅に戻られた方がよろしいかと。自覚ができていらっしゃらないようですが、かなり体力を消耗しておりますね。直央さんと仲良くなさるのはこちらとしても喜ばしいことなのですが、度を過ぎれば悪しきクスリになってしまいます。そこのとこはお間違えになりませぬように」
「・・勝也さん・・直央もだけど・・オレに言わなきゃ・・ってわけじゃないけど、オレとしては聞きたいことがあるんだ。二人のことがとても好きだから。二人はオレをよくわかってるはずだから、オレの気持ちも理解してくれてると思う」
勝也の諭すような言葉に、哲人はそう答えた。できれば恋人にも、そして憧れの人にも見せたくない姿だけど、自分の気持ちが落ち着きそうにないから。
「哲人」
思いがけないことに直央は哲人の顔を真っ直ぐに見て、自分の気持ちを告げる。
「多分、勝也さんはちゃんと言ってくれない。良くも悪くもこの人は日向の家の人だよ。・・なぜかな、“あの時の印象”でもそうだったんだけど、“そういう人”だ、貴方は。あの時のことも感謝してます。けれど、貴方は哲人を傷つける。それだけは絶対に許さない」
「っ!」
「直央さん!」
哲人より先に一宮が直央に声をかける。
「言い過ぎです、直央さん。勝也さんは・・」
「ふふ、構いませんよ。哲人様は本音で生きるべきですから。そして、直央さんは・・」
一瞬、値踏みするような表情で勝也は直央を見る。
(あ・・)
その瞬間、3年前のことを思い出す。その隙を狙ったかのように相手が顔を近づけてくる。息がかかりそうになるほどの近さ。
(っ!)
「勝也さん!何を・・」
哲人の慌てた声が聞こえる。
「勝也さん・・」
「私の人生は哲人様のためにあります。覚えてはいらっしゃらないでしょうが、哲人様にミルクを与え、オムツを替えていたこともあるのですよ、私は」
「へ?」
「そんな私がアメリカで直央さんに会ったのも、運命というものでしょうね。哲人様をお願いいたします」
そう言うと、勝也は踵を返して歩き始める。
「勝也さん!ちゃんと言ってください・・貴方は直央に何を・・」
が、勝也は答えない。黙って歩き続け、やがてその姿は群衆の中に紛れ消えていきそうになる。
「勝也さん!待って!」
その姿を追いかけるように一宮が走り出す。
「貴方は・・」
「一宮!」
「いいよ哲人、帰ろう」
一宮に声をかけようとした 哲人を、直央が制す。
「直央?」
「思ったよりも遅くなっちゃったし、オレも哲人に話したいことがあるんだ。哲人だって聞きたいんだろ?オレと勝也さんとの関係を」
「関係って・・まあ」
その言い方に違和感を覚えるが、哲人はうなづく。
「哲人の体調の悪さを俺のせいにされちゃ困るしね」
「!」
(直央・・怒ってる?)
いつもならこんな物言いは直央は絶対にしない。哲人は一抹の不安を感じながら歩き出す・・
「勝也さん!待ってくださいよ」
「・・キミは面白い人ですね。御父上にそっくりですよ、そういう突拍子の無いところは」
勝也は振り返らずに、そう答える。
「貴方と直央さんはどういう関係なんですか?ていうか、直央さんのことを知って いたのに、今まで黙っていたのは何故なんです?」
『・・哲人も勝也さんも無事に犯人を引っ張ってきたようです』
「直央さんは貴方のことを普通に呼んでいた・・名前で。貴方は日本に帰ってきて日が浅いはず。直央さんも今年の初めまでアメリカにいたと聞いています。アメリカで会って・・そして今まで接点が無かったにしても、貴方と哲人先輩はこんなに顔が似ている。哲人先輩と出会った時に、貴方を思い出さないはずが無い。現に、今日会って直ぐに貴方の名前を口にした」
「・・・」
「哲人先輩の反応も貴方はわかっていたのでしょう?貴方はあの二人をどうしたいのです?本当は」
「言ったでしょう?二人が仲良くしていてくれれば、それでいいと」
何故そんな当然 のことを聞くのかと、勝也が首をかしげる。
「哲人先輩の殺気に気づいてたんでしょう?貴方を日向家で唯一尊敬する存在だと言い切ったあの人が、貴方に対して放った殺気を。そして直央さんも・・」
『けれど、貴方は哲人を傷つける。それだけは絶対に許さない』
「直央さんは様子がおかしかった。貴方と会ったせいでしょう。アメリカで何があったんですか?」
「・・それはあの二人のために聞くのですか?」
「えっ?」
「それとも・・」
そう言いながら、勝也はゆっくりと振り返る。
「私に興味があるのでしょうか?私のパソコンにハッキングをかけたことは忘れてあげますから、これ以上はこの問題に介入しないほうがいいですよ」
「っ!」
「逆にウイルスを・・と いうこともできますが、大人げないので止めただけです。いつでも可能ですが?」
その表情はまるで子供のよう、だと思ってしまった。言ってることは脅迫まがいのことだが。
「貴方の能力は私も高く評価しています。哲人のことに関しても、きちんと対応してくれてますしね。けれど、日向と・・そして私には近づかない方がいい。何しろ、哲人が殺気を向けるほどですからね。だいぶ、壊れているのでしょう、私は」
「壊れているって・・だから何があったんですか、アメリカで」
どうして自分はこんなに必死に彼にしがみついているのだろうと、一宮は不思議に思いながらも、勝也に尋ねる。
「哲人は喜びませんよ、そんなことをしても」
勝也が困惑の表情を見せる。
「私はただあの二人が強くなるための“きっかけ”に過ぎません。・・それ以上を望むことはできない」
「哲人さんを赤ちゃんの時から見てたんでしょ?たぶん、それこそ鈴先輩や亘祐先輩たちより長く・・身近で」
『私の人生は哲人様のためにあります。覚えてはいらっしゃらないでしょうが、哲人様にミルクを与え、オムツを替えていたこともあるのですよ、私は』
「・・言うべきことじゃなかった。つい・・ね。嬉しかったのですよ、哲人が私のことを好きだと言ってくれたから。ふふ、すがっているのは私ですね」
勝也は照れたように笑う。その姿に一宮は思わず「えっ?」という声をあげる。
「どうしました?」
「いや・・そんなに哲人先輩が好きなら、なぜ直央さんとの交際を応援するのです?哲人先輩にとっても貴方は特別な存在だったのに」
たぶん、さっきの表情が自分の知りうる限り(といってもまだ3回目の出会いだが)彼の一番素直な感情が出た表情なのだろうと思った。
(わかるよ、オレだって哲人さんが好きだもの。でも、それを俺に見せるなんて・・迂闊でしょう)
自分は決して好意で話を聞いているわけじゃないから、と一宮は自分に言い聞かせる。決して個人的な興味があるわけではないと。
「私が君に利用されるような人間になると思いますか?」
勝也がくくっと笑う。
「君の能力は何度も言いますが高く評価しています。けれど、私はそれ以上の能力を擁しています。君の6台のパソコンは全て“押さえてありますので”今後は余計な 接触は慎むことです」
「!」
「とはいえ・・」
と、勝也がつかつかとこちらに向かって歩いてくる。
「勝也さん?・・っ!」
「哲人に似ているこの顔が気になりますか?・・直央さんは本気で今日まで思い出さなかったようですが」
「だから、どうして直央さんと・・」
少しじれったい思いで聞く。哲人と顔が似ているのに、どちらかといえば素直な方な哲人と違って勝也はその行動が読めない気がする。だからこそ、先ほどのテレ顔がとても印象に残っていた。
「君が直央さんと少なからず因縁があるのも存じてはいますが、彼の事を知っていいのは哲人だけです。いらぬことに首を突っ込めば、後で後悔することになりますよ」
「はあ?なら何で貴方は・・」
「だから、今こんな状態になっているのです。寂しい思いをしたくなければ、哲人を心の中で想うだけにしておきなさい。あるいは、他の相手を・・もちろん私はダメですよ?君では扱いかねるオトコですから、私は」
ふふっという笑いと甘い息を自分の顔に残して颯爽と去っていく相手を、一宮は唖然とした顔で見送る。
(なっ・・んだよ!子供扱いして、バカにしやがって。オレは別に・・オレは・・・)
「く・・そっ!」
「ごめん、オレの態度が悪かったね。思いがけない再会だったからさ、勝也さんと。・・正直、動揺してた」
二人きりになると、直央がすぐに頭を下げてきた。
「本当に忘れてたんだ、今の今まで。不思議だよな、哲人に顔が似てるのに」
「あの人は、オレの親戚なんだ。ただ、どういう関係なのかまでは知らない。小さい時から、オレや亘祐たちの面倒を見てくれた・・赤ん坊のときからだとは思わなかったけど。生後すぐに、オレは戸籍上の両親に引き渡されたはずだし」
そう困惑気な表情で話す哲人の腕を、直央はギュッと掴む。
「直央?」
「ごめんね、オレは哲人の赤ちゃん生んであげられない・・」
「はあ?」
何を当たり前のことを言っているのだと、哲人は訝しぐ。
「別にそんなことはいいって!普通のカップルだって望めない場合もあるんだし、オレはただ直央と家族になれればって・・だいたい、オレはそこまで子供好きじゃないし、どちらかといえば貴方の方が・・」
交番での出来事を思い出す。幼児を抱き上げてにこやかにその母親と話す直央の様子を、戸惑いもしたが少しは微笑ましくも思っていたのだ。
「オレは確かに自分の本当の親を知らないままに育ってきたわけだけど、でもそれを知るまでは普通に生活していた。直央こそ、こんな言い方はアレかもしれないけど最初からお父さんがいなかったわけだし・・」
「ふふ、いっぱいお父さん代わりはいたよ。あ、母さんがいろんな人と遊んでたってことじゃないよ。オレ、子供モデルやってたって言ったでしょ。やっぱ業界には“そういう人”多くてね。その時はわからなかったけど、オレだけじゃなく母さん目当ての人もいたわけ。けれど、オレが誰にでも懐いちゃってたから、母さんも辞めさせることができなかったみたい、モデル。負い目もあったんだろうし。・・ほんと知らなかったんだ、自分がそういう性癖の人からどういう目で見られてるかって」
少し、直央の息が荒くなっているように感じられる。
「もう思い出さなくていいから!・・オレが悪かった。でも・・」
「その後、千里と出会ってオレは千里さえいれば他は何もいらないって心境になって、モデルもやめた。初恋だった・・からね」
「・・」
「オトコだからとかじゃなかった。中学生になるまで恋だとも思ってなかったし、男同士のソレが存在するなんてことはその時になっても知らなかったし。・・いろんなことを自覚したのは、アメリカの病院で勝也さんに会ってからだよ」
「病院?」
「うん、病院。同じ病気で、同じ病棟だった。哲人は知らなかったの?」
あれ?という表情で直央が聞く。
「ケガの治療としか聞いていない。オレ自身、あの頃はそれどころじゃなかったから。てか、直央が病気って・・」
「ふふ、勝也さんじゃなくてオレの方を気にしてくれるのって嬉しいや」
「あ、当たり前だろ!・・ああもう!」
と、今度は哲人が直央の腕を引っ張る。
「痛いよ!哲人」
「すいません!でも・・嫌なんですよ、こういうのは!」
「哲人?口調が元に戻ってる・・」
「嫌なんだよ・・もう。オレだけが何も知らないままってのは。貴方と勝也さんに何があって、貴方が今の貴方になったのか、オレには知る権利があるよね!恋人だもん!」
「どうしたのさ、哲人!キャラが変わってるよ?」
驚くよりも呆れてしまい、ともかくもと直央は歩き始める。
「夕飯は卵の消費期限が今日までだから、オムレツでも作るよ。他の調味料とかもまだあったはずだし、無かったらお隣さんにでも借りるから」
だから買い物はせずにこのまま家に帰ろうと言うと、哲人が難しい表情になる。
「なによ?」
「直央って、他の部屋の住人と会ってるわけ?」
「会ってるというか・・会えば挨拶はするしよ、普通に。俺の部屋の隣の人は最近引っ越してきたんだけど、漫画家さんだって言ってたな。ちなみに男性だよ。普段は他に持ってる仕事場にいるって。哲人の部屋のお隣さんは知ってると思うけど、某男性声優だよね。結構仲良くしてもらってるよ。オレと哲人の関係も知ってるもの」
「・・マジ?」
顔の表情をいろいろ変えながら、哲人がため息をつく。
「オレのライバルいっぱいいすぎ・・」
「なんでそうなるのさっ!普通のご近所づきあいしかしてないっつうの。オトコだったら、誰でもいいと思うわけじゃないよ?哲人は確かに最初からかっこいいとは思ったけど、けど哲人の顔を見て勝也さんを思い出さなかったもの。顔より中身なの!」
「で、オレと勝也さんの関係なんだけど・・」
「その前にキス!・・それ以上は無理強いしないから」
哲人の部屋に着くなり、直央は抱きしめられる。
「無理強いしないって・・つまりオレがいいよって言えばそれ以上をしたいってことじゃん。だいたい、キスだけで哲人の気持ちが収まったためしがないもの・・」
しょうがないなと思いながらも、直央は目を閉じる。すぐに口の中に舌が入ってくる。
「っ・・あ・・ん」
くちゅくちゅという音が口から洩れる。そしてすぐに哲人のてが下の方に伸びる。
「哲人・・」
「ん?無理強いはしないって言ったろ。つうか、本当は勝也さんにだって嫉妬してんだよ、オレは!」
「へっ?なん・・」
「関係って何だよ、関係って。何でそんな思わせぶりな言い方をする?オレを嫉妬させたいようにしか聞こえないよ。こんなオレなんかと違って、向こうは大人だから。・・くそっ!本当のオレはこんなにガキだよ。街を歩いていたって、貴方を見る人の視線が気になってしょうがない。今日抱っこしてた子供だって、10何年かしたら貴方に恋するんじゃないかってバカなことも真剣に考えちまう。貴方のコレはオレだけのものなのに」
そう言うなり、哲人は直央のズボンを下着ごと引き下ろしてしまう。そして、むき出しになった性器を咥える。
「ちょっ・・哲人・・や・・だめ」
が、哲人の口の動きは止まらない。先っぽを吸うように舐めてしゃぶると透明な液がちょろちょろと溢れ流れる。
「あ、ああ・・や・・感じちゃう。・・で・・も」
『直央さんと早くご自宅に戻られた方がよろしいかと。自覚ができていらっしゃらないようですが、かなり体力を消耗しておりますね。直央さんと仲良くなさるのはこちらとしても喜ばしいことなのですが、度を過ぎれば悪しきクスリになってしまいます。そこのとこはお間違えになりませぬように』
「昨日から・・おかしいよ、哲人は。勝也さんにも言われたろ?休んだほうがいいって」
「今さら止めたくはない・・ですよ。貴方のコレもそう言っていますし、オレの方も・・。挿れさせてください、お願いだから」
「お願いって・・」
明らかに哲人の様子がおかしいとは思ったが、躊躇する間もなく哲人の指が自分の窄まりに添えられる。
「っ!・・あ・・あっ。や、いきなり二本も・・」
「だって、簡単に入っちゃったから。ほら、くちゅくちゅって音が聞こえるだろ。いいよ、大きい声出したって。隣の部屋の男に聞こえたってかまわない。オレが直央を愛している声なんだから・・」
「哲人、こんなのダメだって。普通の哲人ならオレは喜んで受け入れる。でも、こんなんじゃ・・オレは愛されてるとは思えない」
ズボンと下着を上げて、どうにかして哲人から離れようと直央はもがく。
「・・ダメ?」
「とにかく、ベッドにいかせてくれない?少し落ち着こうよ」
「あ、うん」
ようやく、哲人の指が直央の窄まりから離れる。
「あ・・」
自分から望んだことなのに、その瞬間なぜか寂しいと思ってしまった。
「ねえ、哲人。オレは哲人のキスも愛撫も好きだよ」
そして、ついそんなことを相手に告げてしまう。
「・・なら、いいんだ。さっきは変なことを言って悪かった。勝也さんのことで、いろいろ混乱した。オレの事、見透かされているようで・・なんか情けなくなった」
「じゃあ・・優しく抱いてよ。優しくキスして・・そして挿れて」
「ごめんね、オレが我儘で。でもちゃんと愛されてるんだって実感も欲しかったから」
布団の中で二人とも全裸のまま寄り添いながら、直央は哲人の頬にキスする。
「オレのほうこそ・・さっきはマジでどうかしてた。や、優しくしたいとはいつも思っているんだけど・・」
「哲人は、優しいよ?だから、今日もあのお母さんを助けたんでしょ。・・あの時のオレも」
なのにオレはおもいっきり引っぱたいちゃったよね、と直央は恥ずかしそうに笑う。
「そりゃあ、哲人がオレを嫌うのも無理ないなって。実はね、勝也さんにも同じことをした」
「!・・どういう・・」
くっついた身体から、哲人の動揺が伝わってくる。
「襲われ・・そうになったんだ、男に。勝也さんはソレから助けてくれたんだけど、凄い恐怖だったんだと思う。つ、目の前にいた勝也さんの顔を叩いてしまった。哲人に助けられたあの時と、似たような状況だったんだよね」
「何で言わなかった!」
哲人ががばっと身体を起こして、怒鳴る。
「知ってたら・・」
「本当に忘れてたんだってば。向こうはナイフを持っててね。勝也さんはそれで酷いケガをした・・はずだ。その後、違う病棟にオレは移らされたから、それっきり勝也さんに会うことはなかった、名字も知らなかった」
「何で勝也さんは言ってくれなかったんだ?オレが直央と交際してるのは知っていたのに・・」
哲人が唇を噛む。
「勝也さんは言ってた」
『直央くん、キミが悪いわけじゃない。キミは・・そういう存在なんだ。私の知り合いと同じく、キミはある種の人間を引き付ける。キミは一人でいてはいけない。私のようなモノも信用してはいけない。けど・・』
『直央くんはいつかとても大切に想える相手と巡り合える。それまでに少し嫌な思いをするかもしれないけど、キミはとても良い子だからその人と幸せにね。そして、今日のことは忘れなさい。私のことも。“あの時のように・・”ね』
「“あの時のように・・”?」
「もしかしたら、もっと以前にあの人に会っているのかもしれないけど、そこんとこの記憶は本当にないんだよ」
「病院て、直央は何で?」
「ある病気の治療のため」
と、直央も身体を起こす。
「母さんが無理やりアメリカに連れてったような説明をしたけど、本当は違うんだ。や、行きたくなかったのも事実だけどね。日本じゃあまり治療ができる病院が無くってさ。勝也さんも同じ病気だって言ってたよ」
「・・聞いてない、そんなこと。ケガの治療だけとしか。そ、それで・・完治はしたの?」
震える声で哲人が聞く。
「一応ね。勝也さんはわからないけど。そんでさ、以前言ったでしょ?ミントがダメだって」
『ミントはダメなんだよ。アレルギーってほどじゃないけど、近づきたくはないんだわ』
「あれはその後遺症だと思う。そんで、風邪ひいて哲人に看病されたとき、親を呼ぶのを頑なに拒んだのは心配させたくなかったから。家賃よりそっちを心配してたから。なのに、琉翔さんを見たらコロッと・・ね。イケメンて罪だわ」
「何で言わなかったんだよ・・知ってたらもっと優しくしてた。今日みたいなこともしなかった」
哲人の顔が歪む。
「ホントに・・ごめん。オレって・・」
「オレの大切な恋人でしょ。さっきだってちゃんとオレは感じて、イッたもの。哲人のキスも愛撫も好きだって言ったじゃない。いっぱい濡れちゃったじゃない」
直央が哲人に抱きつく。
「もう!」
「悪かった、本当に」
そう言いながら哲人は直央の頭を撫でる。
「じゃあ、身体の傷はその後?」
「・・ていうか、その件で自分がゲイに好かれる質だって気づいた。だから、気を付けてはいたんだけど・・。ずっと日本に帰りたかった。一番の目的は千里だったよ、その頃はね。千里は今でも大切な友達。でも、勝也さんの言った通り大切に“想える”相手に出会えた。だから、今は幸せ」
「いいかげん、哲人離れしてもらわないと困るんだけどね。哲人も直央くんも大事な預かりモノなんだよ?」
高木琉翔たかぎりゅうとは勝也の窄まりの付近に己の勃立したソレをあてがったまま、責めるようにそう言った。
「そう言いつつ、俺を哲人の近くに置く理由は何です?いくら、俺が高校の教員免許を持っているからって、哲人や鈴たちにとっては騙しうちに近いモノがあるでしょう。いい加減、彼らが怒ると思いま・・あっ」
「実際問題、産休教師の確保は急務だし、他にいいアテが無いのでね。君を私の目の届く範囲に置いておきたいし。ほんと・・君にはお仕置きが必要だよ」
「っ!・・や・・・ん・・」
琉翔の腰が揺れる。
「りゅう・・と・・さん。貴方は・・あっ・・や・・」
「締めすぎだってば、勝也。ほんと、昔から君は私好みの身体だよ。哲人に手を出さなかったのは褒めてあげるが、今日の行動は罰しなきゃいけないね。ストーカーとか最低だよ」
勝也の勃立したソレには、ネクタイが縛られていた。
「君は後ろだけでもイケるのはわかっているけど・・ふふ、私が何をするかはわかっているよね」
微笑みながら、琉翔は腰の動きを強める。
「や・・あん。っ・・てつ・・とは俺の・・あ・・大事な・・存在だか・・ら。や・・そこ・・・っ」
琉翔の手が勝也のソレの先端に触れる。
「言っただろ?哲人は私が預かっているのだと。君の復讐の道具になんかさせないよ。もちろん直央くんもね」
「あっ・・そこ・・っ・・わかっ・・てて」
何年たっても、彼の本質は変わらないのだと勝也は今更ながらに思い知る。それでも、自分は琉翔に逆らう気は無い。“セックスに関してでは”だが。
「とんでもない理事長です・・ね。こんなこと・・世間に知られたら・・ああっ!やあ・・ん」
「教師が聖職者だと思っているのなら、君を採用するわけないだろ。君は私の性の道具だよ。・・君自身が変わるまではね」
「えっ?」
何を言っているのかと、勝也は困惑する。そのタイミングを見計らったかのように、琉翔のソレが勝也の奥に入っていく。
「ああっ!」
「哲人の近くに置く君を、私がコントロールしないわけにはいかないからね。けれど、君が本当に誰かを愛したら・・それは哲人にも思ってたことだけどね。・・私は不幸を願っているわけじゃないよ?」
そして彼は口づける。10年前から変わらぬ調子で。唇だけでなく、首筋や胸も標的にして。
(哲人・・君は・・今幸せ?)
To Be Continued
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