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第25話

「やあーっと、テスト終わったあ!」 「・・哲人?」  生徒会室に入ってくるなリ、万歳をしながら雄たけびをあげる生徒会長の姿を、副会長の笠松鈴は訝し気に眺める。 「なんかすっごいテスト期間が長かった気がするよ」 が、鈴の視線など気にする様子も無く日向哲人は部屋のカレンダーを見つめてそう言った。 「いつもと一緒だよ。つか、テストが終わったくらいでそんなに喜ぶのも珍しいね。我慢してたの?」 「は?我慢・・って?」  何のことだと、哲人は首をかしげる。 「直ちゃんとのセックスだよ。いくら何でもテスト期間中は自重してたんでしょ?去年までとまあこの態度の違い。恋人ができると人って変わるよねえ。前はテストが終わっても、そんな晴れ晴れとした顔なんてしなかったのにさ」 「ばっ!そ、そんなこと・・思ってても口には出すなよ!」  哲人の顔が瞬時に羞恥に染まる。 「しょうがないだろ!成績落とすわけにはいかないんだし、我慢ていうか・・だ、だいたいオレはそんなことばっかり考えてるわけじゃない!」 「ほとんどそうでしょうが、直ちゃんといる時の哲人の頭の中って。あの時だって、朝から二人して裸だったし」  夏休みが始まった頃、哲人の部屋に行った時のことを思い出して鈴はため息交じりに言う。 「直ちゃんにバイトもさせず、ずーっと部屋に閉じこめてさ。リアルの男同士の恋愛ってそういうもんなの?いっちゃん」 「へ?今度はオレに矛先が来たわけ?」  その少し前に生徒会室に入ってきていた書記の生野広将は苦笑する。 「だってさあ、ボクは女の子だからそこらへん良くわかんないもんねえ。いっちゃんだってテストの間は侑貴と会ってないんでしょ?」 「そういう時だけ、女子を強調するんだからな、鈴は。確かに会ってはないけど、スカイプで話はしてた。もちろん少しの時間だけどさ。てか、鈴だってBLの絵師なんだから・・」 「実際に見たことないんだから、まあ妄想の世界よね。そんなにリアルなのは描いてないし。でも、いっちゃんも侑貴と一緒に住んでたら哲人並なのかなあ。侑貴って、セックス大好きヤローじゃん?」 「鈴、女の子がそんなこと言うもんじゃないよ」  ニヤニヤしながらそう話す鈴を広将がたしなめる。 「そりゃあ、オレは付き合うのって侑貴とが初めてだから、普通がどういうのかは正直わからないけど真面目に真剣に交際してるつもり。侑貴もオレのこと・・ちゃんと大切なパートナーとして接してくれるし、つまりその・・愛しあってると・・思う」 「い、生野もそんなこと真面目に答えなくていいんだよ!」  顔を真っ赤にしながら、哲人が叫ぶ。 「聞いててほんと恥ずかしいっていうか・・。てか、今日の鈴はしつこいぞ。涼平、なんとかしろよ・・。あれ、涼平は?」  そこで初めて、いつもなら鈴を止める役目を担っているもう一人の副会長の橘涼平がこの場にいないことに気づく。 「今日は登校してたんだろ?」 「したよ。試験も受けた。同じクラスで、席も隣だしね」  鈴が肩をすくめる。 「今は職員室にいるよ。たぶん、というか間違いなしに怒られてると思う」 「は?なんで・・」  涼平は確かにチャラ男キャラではあるが、根本間違ったことを絶対に許さない硬派な男だ。下級生からもアニキのように慕われているし、教師受けもいい。 「最後の試験が、ほとんど白紙だったんだよ。横で見たから間違いない。追試だね、ありゃ」 「ほとんど白紙って・・涼平が?常に学年五位以内をキープしてる涼平が何で・・」  まさかと思う。 「最後って物理だったよな。得意科目ってわけでもないけど、涼平なら解ける内容だったろ?」 「その前の古典で力尽きたって感じだったよ。体調が悪かったのかもしれないな。試験の初日からため息ばっかついてたもん。ぶっちゃけ気が散ってボクが迷惑してたよ」 「涼平が?オマエ、それほおっておいたわけ?」  思わず、責めるように聞いてしまう。 「んなわけないじゃん。けど、あいまいにしか向こうが答えないし・・というより避けられてる感じだった」  鈴の声は、怒っているというより寂しそうなそれだった。 「あんな涼平初めて見たもの。もちろん、先生にもボクはいろいろ聞かれたけど、ボクの方が訳わかんないよ」 「はあ・・まさかここまで怒られるとは思わなかった。まあ、担任の教科科目を半分以上白紙で出したら、流石に腹立つわな 。追試か・・初体験だわ。哲人が知ったらなんて言うか・・」  足取り重く、涼平は生徒会室に向かう。 「鈴、怒ってたよな。んで、生野も生徒会室にいるよな、やっぱ。会いたくないヤツばっかいる生徒会室に何で行かなきゃいけないんだよ・・生徒会役員だからしょうがないか。そっちの仕事も溜まってるからなあ」  頭が痛い。(マジで風邪かもしれないな。あの時、帰る途中で雨が強くなったから) 『すいません、帰ります。傘だけ貸してもらえますか』 『・・うん』 (だって、帰るしかなかったじゃん。内田さんは・・景はどんなオレでも受け入れてくれたかもしれないけど)  好きだからこそ、こんな自分を相手に委ねる気にはなれなかったのだと、涼平は唇を噛みしめる。 (まさか、今さらこんな恋をすることになるとは思わなかった。鈴にも生野にも言うわけにはいかないよな。二人ともおもいっきり景の関係者だし。やっぱ意識して避けちゃうんだよなあ。でも、ごまかしきれるような相手でも無い・・)   『もっとも、本気になったのは初めてだけどね。好きなんだ、君のことが』 (で、オレも好きだって言っちゃって。でも、付き合うとかは絶対無理。・・好きだけど、無理)  3年前のことが頭の中をよぎる。 (オレが意識しなければ、誰も傷つけ・・ないこともないけど、でも少なくとも“あのこと”は鈴も哲人も知らずに済むけど。つまりは、オレがふんぎりつければいいわけで。でも、アノコトはどう考えればいいわけ?あんだけ、哲人と直央さんのこといろいろ言ってたのに、自分が男に抱かれたって事実は・・)  この学校の理事長である高木琉翔が葛城和宏というペンネームで書いている“ほぼBLなラノベ”は涼平も読んでいる。 (まさか、自分が経験するとは思ってなかったけど。今まで誰からの告白も受け入れなかったのに、何でオトコとああなっちゃったわけ?顔は好みだったけど、でも誰かに言えるような・・。そりゃ、鈴はいろんな意味で喜ぶだろうけど、それはそれで複雑というか)   『別にボクのことも身体の傷のことも、涼平が気にしなきゃいいわけでしょ?それにボクらは基本的には“普通の高校生”だよ。それも日向一族の方針なんだから。だいたい、前を向いてない涼平は涼平じゃないよ。そんなんじゃ、哲人を守ることもできないって』 (女の子にあんな傷つけた時点で、男失格だっつうの) 『自分のことだけだよ。原因は話してくれた。その上で、何かあれば涼平の力になってやってほしいと言われた。・・君は彼女のことが好きなんだろ?』 (景でさえ気づくオレの気持ちを、本人がわからないはずが無い。それでも、鈴は彼とオレをくっつけようとするんだろうけど。でも・・)  セックスを受け入れた時点で、自分の景への想いもはっきりしていると思う。 (一目惚れ?3年前のことに自分が目を瞑れば、悩まずにすむ?アイツの墓参りの帰りに会ったってのも因縁・・か。アイツならオレのそんな恋愛も許すかもしれないけど・・。でも、多分そんな簡単なものじゃない。だからこんなに悩んで・・。やっぱ帰るか?) 「涼平!何をしてるんだ?何回も携帯に連絡したんだぞ。・ ・大丈夫か?」 「あれ?何で哲人が・・げっ、ここって生徒会室じゃねえか!いつのまに・・」  考え事をしている間についいつもの感覚でけっきょくここにきてしまったらしい。苦笑いしながら、涼平は自分の席に座る。 「ごめん、職員室に呼ばれてたからさ。スマホはマナーにしてた。そんで、オレは大丈夫・・だと思う。流石にへこんだけど」 「本当に大丈夫か?具合が悪いんなら、早く家に帰れよ。よければ、オレが送っていくぞ」 「「「え!?」」」  哲人の言葉に、当の涼平ばかりか鈴と広将も驚きの声をあげる。 「お、オマエにんなことさせられるわけがねえだろうが!だいたい・・」 「そうだよ、哲人は仕事するか直ちゃんとイチャついて・・」 「さっきと言ってることが違うぞ、鈴」 「なんだよ、オレが涼平と一緒に帰ったって友達なんだから普通だろ?」  みんなのその反応が意外だと、哲人が困惑する。 「オマエを守るのがオレの役目なんだから余計なこと・・」 「直ちゃんを家で一人で待たせているんだから、早く帰ってあげなよぉ」 「いや、今の哲人はまんま狼、ヤバイんじゃ・・」 「オレはいつも直央を襲ってるわけじゃない!」 「ほんとにもお・・涼平のせいで生徒会室がカオスなことになっちゃったじゃんか。哲人はバカなんだから、涼平がスキを見せてどうすんだっつうの」  鈴が心底呆れたというように愚痴る。 「悪かったよ。まさか、哲人があんなこと言うなんて思わなかったから。だってアイツ、早く家に帰りたがってたんだろ?」  結局、涼平は途中まで鈴に送られることになった。鈴が普段居住している彼女の父親が経営しているホテルからも遠いのだが、鈴がどうしても付いていくと言い張ったのだ。 「テストの間中、隣の席で涼平のため息聞かされてたんだからね!心配だし文句も言いたいわけよ」 「正直か!」  つい、頭を押さえてしまう。 「つうかオレ、そんなんだった?赤点だらけだったらどうしよう・・」 「生徒会役員にあるまじき行為だよねえ。まあ、普通に勉強してたら普通に点数取れる内容だったと思うけど・・。そんなに身体の調子悪かった?それとも・・」 と、鈴が顔をじっと見る。 「悩み事?」 「!」  やっぱりね、という表情で鈴はさっきより顔を寄せてくる。 「ち、近いって!」 「悩みって、哲人のこと以外でってことだよね?珍しいじゃん。・・“仕事”のことでもないよね?」 「“仕事”のことも多少はあるよ」 と、涼平は小さくため息をつく。 「四国の例の病院に少し動きがあった。まあ、まだこっちが手を出す・・出せるような状況じゃないんだがな」 「秋も忙しくなりそうだね。で、赤点とるほどの悩みって何?もしかして・・恋愛関係?」 「っ!な、何でそうな・・」 「図星なのね」 と、鈴は小さく笑う。 「やっと、その気になってくれたんだね。安心したよ」 「べ、別にそうだとは・・。つか、そんなにオレの想いは重荷だったか?オマエにとって。や、自覚はあるんだけど・・はあ」  自分でも思いがけないほどに大きなため息が出た 。 「別にそういうつもりで言ったんじゃないんだけどな。涼平に好かれて嫌だと思う女なんていないっしょ。ボクだってそうだよ。けど、ボクの好きな男が涼平よりイイ男だったってだけだよ」 「さっきは哲人のことバカだって言ったじゃねえか」 と涼平は呆れる。 「直ちゃんが絡むとバカで変態でエロ魔人になるのは、もうしょうがないことだしね。それでも二人でいる時が一番幸せなんだからボクはそれをフォローするだけだよ。けど、それに涼平までが気を使う必要は無い。ボクの想いはどうしたって変わらないけどね」 「・・つまりはオレはとことんまでオマエにフラれてるってことじゃねえか」 「けど、そんなに落ち込んでないよね、涼平」  ふふ、と鈴が微笑む。 「ボク以上に好きな存在ができたんでしょ?ボクはね、それを望んでたわけよ」 「一応、さっきオレはオマエに告ったんだよな?んで、反応がソレ?」  自分的にはどういう反応をすればいいかわからず、涼平は戸惑う。 「そりゃあ、オレはオマエを殺しかけたけど・・」 「うーん、会話がというか思考が極端すぎない?いいかげん、アレは事故だって割り切りなよ。哲人だってそう思えるようになったから、恋ができたんだろうしさ。んで、一番の被害者のボクがそう言ってんだから」 「一番根に持ってるような物言いすんなよ、そんなら」 「言ったでしょ、涼平のことも好きだって。ある意味特別な存在。でも恋じゃない・・だけ、それが。だいたい、哲人を守らなければいけないボクたちが、哲人より弱いんじゃ困るんだよ。もっと余裕を持てってこと。涼平が過去に捉われたまんまじゃ、その原因のボクまで引きずり込まれかねない。ボクのこと好きだっていうなら、そこらへん自重してくんない?」 「オレ・・そんなに弱ってるように見える?」  ヤバいな、と思いながら聞く。鈴が大きく頷く。 「哲人はバカだし、ある意味涼平を尊敬尊重しているから、そんなプライベートな悩みだとは思わないだろうけどね。涼平最強伝説は、哲人の脳内に根強く居座ってるから。まあ、事実だけど」 「何で惚れてる男のことそこまで貶せるんだよ・・」  困惑気味にそう言って、涼平は頭を振る。 「恋愛って、やっぱ理解んねえわ」 「惚れてるからって、全部を許容しなきゃいけないわけじゃないでしょ。だから哲人と直ちゃんだって何度も喧嘩してるわけだしさ。それでも好きだから一緒にいたい。そう思うのが恋愛じゃないのかなあ」  で、誰よ?と鈴がポンと涼平の肩を叩く。 「は?」 「涼平が恋をした相手。うちの学校の生徒じゃないよね、今さら。本当は恋愛に不器用な涼平が、毎回どうやって相手を諦めさせてんのか気にはなっているんだけど」  今でも週に二度は涼平への女子生徒(時には男子生徒)からの告白がある。 「っ!・・いい加減嫌にはなってるよ、断る文句考えんのも。泣かせたいわけじゃないから」  いっそ、鈴への想いをある意味隠れ蓑に使ってしまおうかとも思う。一番納得されそうな気もするから。 「つか、オレに恋愛できる資格なんてないから・・どんなことがあったってそれは変わらない。それに別にオマエがずっと哲人のことだけ想ってても構わねえよ。オレにとっても哲人は特別なんだから」 「他人が聞いたら、誤解されそうなセリフだよね。や、合ってるんだけど」  確かに三角関係ではあると、鈴があはははと笑う。 「や、直ちゃんがいるから四角関係か。ボクと涼平は片想いだけど」 「だから、そういうこと当の片想いの相手に言われると、傷口がえぐられるんだってば。・・どうしても、抜け出せねえよ、3年前を。だからオレは哲人に捉われているんだし、それに・・」  あの墓の下に眠る少女の顔を思い出す。彼女の死がなければ、自分はずっと恋していた鈴とのこんな会話も交わすことがなかったのだろうと複雑な気持ちになる。 「・・鈴」 「何?・・してんの?」 「・・  本当に気づいたら、だった。 「えー っと・・額にキス・・かな」 「かな?じゃないよ、今の恰好のボクに人前でよくもまあ 」 と、鈴は呆れた声を出す。 「突っ込むとこはそこなのか?オレ、オマエにキスしたんだぞ」 「もっと普通の高校生がやらないことを普段からやってるしねえ」  だから何?という表情の鈴は、それでも周りを見渡す。 「流石にみんな見てるよねえ。立場上、ボクらはあんまし目立っちゃいけないんだけど」 「ごめん。・・哲人と直央さんて、何であんなに人前でいちゃつけるんだろう」 「哲人がバカで、直ちゃんがいい子だからだよ。ていうか、涼平もヤバイのはよーくわかった!こうなったらタクシー止めるよ!」 「へ?・・ちょっ、オレはそこまで・・」 「ふぅ・・涼平があそこまで重症だとは思わなかった。夏休みに働かせすぎたかなあ。追試が終わったら一週間ほど休ませた方がいいかもしれない。後で哲人に相談・・は無理か。今頃、家で直ちゃんといろいろヤッてるだろうし。それ比べたら額にキスくらいで、なんでドヤ顔できるんだ?涼平は。あんなんで、よくターゲットとか口説けるよなあ。口はうまいんだよな、意外に不器用なんだけど」  涼平を無理やりタクシーに乗せた後、鈴は駅に向かって歩き出す。 「いつ死んでもいいような事やってるくせに、キスくらいで何をおたついてんだか」  鈴は自分の腹部分に手を置く。服に隠れてそこには大きく長い刀傷が付いている。 (ボクのこの傷が無くなれば、涼平はもっと自分らしく生きられるのかなあ。哲人や彼自身が望む高校生らしい生活を送れる?少なくとも今よりは・・)  けれど、と思う。 この傷は自分のこだわりであると。 (哲人を守れた証だから、これは。・・だいたい、ボク本人や家族が納得済みなのに、躊躇なく日本刀で切り付けてきた当人がいつまでもぐちゅぐちゅと・・。うっとうしいったらありゃしない。挙句に壊れるんだから・・絶対涼平の今の環境を変える必要があるって) 「つうか、どうしてボクの周りには残念なイケメンしかいないんだ?そろそろ後輩たちにごまかしきれなくなる・・」 「鈴ちゃーん、何をぶつぶつ言ってんの?よかったら乗ってく?」  突然聞こえたその声にため息をつきつつも、鈴は努めて相手に笑顔を向ける。 「内田さん・・この場所で車止めるのは危ないよ?しょうがないなあ、もう」 「あっち方面に用事があるから、鈴ちゃんの自宅まで送るよ。一人でのドライブより、可愛い女の子との方がいいからね」 「いくら女装してなくても、内田さんにそんなこと言われて素直に頷く女子は皆無だと思うよ。女性より断然綺麗なんだもの・・涼平もこんな感じで女子に接すりゃいいんだよ、普段はチャラ男キャラなんだから」  哲人にはたぶん無理だなと思いながら、鈴は愚痴る。 「だからってすぐセックスにいくのもどうかと思うけど」 「鈴ちゃんて、普通にそういうこと口に出すよね、お嬢様なのに。てか、涼平・・くんて、そういうキャラなの?まあ、あの時もそんな感じではあったけど」 「あの時?」  鈴が首をかしげる。 「涼平と会ったの?」 「え?・・あ、いや・・。て、てか涼平くんて本当はどういう人なわけ?」 「どういう人って・・。基本的に、誰にでも優しい男だからねえ。モテすぎて、交際を断るの大変みたい。まあ、顔と性格はピカイチではあるから」 「やけに涼平くんを持ち上げるんだね、鈴ちゃん」 「えっ?」  内田のその言い方に、鈴は違和感を感じた。 「そういうつもりじゃないけど・・。ほんと真面目でいいヤツなんだよ。ちょっと最近はお疲れ気味なんだけど。だから、ここまでボクが送ってきたわけで・・」 「でも、彼は鈴ちゃんのこと・・変に期待させちゃうの、良くないんじゃないかなあ」 「そんなこと・・。涼平はちゃんとわかってるよ。さっきもキスされた・・け」 「キス・・したの?」  思わず内田の声が上ずる。 「うん、なんか今さらに告られたんだけど。どったの?内田さん」 「あ・・いや・・・。そっか、ちゃんと自分の気持ち言ったんだ・・。じゃあ、私はもう・・」 (必要ないか。鈴も落ち着けるなら、もう“3年前のこと”も・・オレの想いも必要ない)  内田はそう思う。もし鈴も涼平も“あのことを知らないのなら”言わずに済むのならその方が良いから。 「涼平はたぶん熱があったんだと思うな。そんな涼平を一人で帰すボクは我ながら鬼畜だと思うよ、あはは」 「涼平が熱!?」  つい大声が出る。 (もしかして、あの時やっぱ・・) 『すいません、帰ります。傘だけ貸してもらえますか』 「ボクへのキスも熱のせいだと思うんだよねえ。実際、このテスト期間中ずっとおかしくて、アイツ。常時学年5位以内の奴がほぼ白紙答案出すんだもの」 「白紙答案て・・重症じゃないか!何でそんな彼を一人で帰す?鈴ちゃんは心配じゃないの?何で・・」 「内田さん運転中!落ち着いてよ!涼平はそんな軟な男じゃないから!」 「っ!・・ごめん、でも・・」  内田はしばらく前を向いていたが、やがて諦めたかのように告げる。 「ごめん、ちょっとそこのコンビニに寄ってっていいかな」 「ごめんねえ、何か混乱させちゃった?や、ボク自身も何が何だか状態なんだけど」  コンビニ内のイートイン。内田を座らせて、鈴はコーヒーと他食べ物数種類を買って勧める。 「や、こっちこそみっともないとこ見せた・・ 」 「うん、それがマジ一番驚いてる。別にみっともないとは思ってないけど」 と、鈴は真剣な表情を内田に寄せる。 「内田さんが涼平のことを気にしてくれるのは、本気で嬉しいんだけどね」 「・・なんで?鈴ちゃんが涼平君を心配して、そして涼平くんは自分の気持ち言ったんだろ?キスまでして・・。どこに私が必要な要素があるわけ?」  思いのほか自分の口調がきついモノになっていることを感じて、内田は顔を逸らしてしまう。 「うーん、正直言えばボクの我儘を通すためかなあ。後、“3年前を終わらせる”ため?」 「3年前を、って。ごめん、若い子の考えがやっぱ理解できないみたいだ、私」  そう言って頭を押さえる内田に、こっちこそわかんなーいと鈴は言った。 「ナチュラルメイクな女装で女子大生合コンに女の子側で加わって、普通にお持ち帰りされそうになった・・」 「お持ち帰りされたんだよ、実際。脱がされ触られ、貧乳最高!とか言ってたんで、ホテルにおきっぱにしてきたけど」 「・・とにかくそういう内田さんに、若い子がどうのこうのと言われても・・」  だって・・と内田は小さくため息をつきながら鈴に顔を向ける。 「実際、私はアラサーな年齢だしね。高校生同士の恋愛には絡めない、というか絡んじゃいけないと思う」 「だから!ボクと涼平に限って言えば、どっちの恋心も一方通行なわけよ。ボクの気持ちは哲人にしか向かないもの。それは涼平も理解してんの。でも、もう一つの恋心が生まれたんだよね。でも“3年前”が邪魔してい るんだと思う」 「・・やっぱり意味わからないよ」 「涼平ははっきりと否定しなかったんだよ、恋愛で悩んでること。そして、ボクのことは過去形だった」 「・・・」 「詳しいことは言えないけど、ボクの片想いの相手とその恋人がくっついたってのは、ボクも納得してる運命なんだよね。それでも想いは捨てられないんだけど。まあ、それはボクだけの問題。涼平にはもう気にしてほしくないってのが本音。どうしても、3年前のことを絡めちゃうからアイツ」 「けど、涼平くんは鈴ちゃんが好きだから・・」  妹のような存在に鈴のことは捉えてはいるが、自分の目から見ても鈴は普通に可愛い女の子だと思っている。男装をしているのがもったいないと思うほどに。 「さっきも言ったでしょ、ボクの好きなのは哲人だけだって。ボクっ子になったのも哲人が望んだことなんだけど、アイツ忘れてんだよなあ、きっと」 「じゃあ、女の子らしくすればいいじゃないか。別に女子の制服着てたって、その・・」 「気を使わなくていいんだけどね。はあ・・やっぱ傷を治した方がいいのかなあ。その方が涼平の気持ち変わりそうだもんなあ」  おもいきりため息をつく。 「鈴ちゃん?」 「けど、内田さんより可愛くなる自信は無いよ?涼平の目がそっちにいってくれることを願うけどね」 「涼平くんは今の自分には恋ができないって言っていた。そんな彼が君への想いだけは断ち切ろうとしない。その想いは本物だと・・思う」  改めて思い知らされたな、と内田は苦笑する。 「人の想いほど素敵で残酷なものは無い・・んだ。それでも好き・・なんだけど」  思わず吐露してしまう。自分の気持ちも思い知ったから。 「想いの積み重ねには敵わないよ。彼は私のことも好きだって言ってくれたけどね」 「なあんだ、じゃあ問題ないじゃない。つまり、涼平と内田さんは両想いってことなんでしょ?」  鈴の表情が明るいものになる。 「まさか同性ってこと気にしてないよね?言っちゃあなんだけど、内田さんてそこらへんオープンだった・・よね?」 「鈴ちゃんにそんなこと言われると、罪悪感でいっぱいになっちゃうんだけど。私のような大人には、君たちが眩しすぎるよ。羨ましくもあるけど」  内田も、ふふと笑う。 「正直、涼平くんが私のことでそんなに悩んでるとは思わなかったよ。そして、私がこんなに彼のことを気にするとも」 「そりゃあ涼平はイイ男だからね」  そう自慢げに言う鈴を、内田は少し不思議そうな表情で見る。 「なのに、彼の想いを受け止める気は無いわけ?」 「まあね。哲人は涼平以上の男だから。でも、涼平は貴方が本気になるに値する男だよ」 「少し嫌味な感じもするな。君は私の遊び人の部分も知っているわけだから。それに、結局は彼は君を選んだわけだし・・」  照れ隠しなのか、内田はぷくっと頬を膨らます。 「・・報われない恋愛なんて不毛なだけだと思ってたんだけどな。でも、鈴ちゃんが哲人くんの名前を口にする時ってすっごいイイ顔になるのね。好きって気持ちはほんと・・凄いわ。私も・・」 「好きなら、とことんまで突き進んだっていいじゃない。つか、両想いなんだし」  唐揚げを口に入れながら、鈴は事も無げに言う、 「年齢差とか気にしなくていいってば」 「涼平くんは、自分が普通じゃないから・・ってそれを一番気にしているようだった」 「・・あれは、病気みたいなもんだよ」 と、鈴が苦笑しながら答える。 「病気?」 「確かに3年前涼平が事を起こさなければ、涼平は今みたいな立場にならずに済んだ・・かもしれない。もしかして、涼平の身体の傷を直接見た?」 「・・うん、じっくりと」  そう言って顔を赤くする相手の様子に、なるほどと鈴はニヤリとする。 「涼平がそこまで受け入れたんなら、後は一押しすればいいだけだと思うんだけどなあ。とにかく、ああいう傷が付くようなことをしている。あの傷は涼平の免罪符なんだよ」 「傷が免罪符・・」 「ボクも哲人もそんなこと望んじゃいない。けれど日向が・・うちの一族が涼平にソレを課した。哲人を・・」  そこで鈴はグンと声を落とす。 「殺そうとしたのは事実だから」 「!」 「けど、それは罠の部分もあったはずなんだ。哲人を殺そうとしている奴は今でもいる。確かに、あの時の涼平には明確に殺意もあったけど、今はそうじゃない。本気で哲人を守ろうとしている。けれど、そうなるように一族に誘導された部分もあるんだ。わかりくい説明で悪いんだけど、涼平を縛っている一番の要因はソレ。ボクらの力じゃ、ソレから涼平を解き放つことはできない」  鈴は唇を噛みしめる。3年前 、もっと早くに彼の闇に気づいていれば、と。 「でも、そこに光を向けることはできる。涼平を縛る鎖と身体の隙間に手を入れることが。彼が少しでも楽になれるように」 「君たちにできないことが、どうして私にできると?」  内田の表情は困惑したものになる。 『オレは・・貴方が好きです。鈴がそれを知ればオレのその想いを後押しをしようとするでしょう。けど、今のオレはその手もたぶん振り払ってしまう。今のオレに、恋なんてできない』 「ならボクは貴方を後押しするよ。少なくとも涼平は“好きだ”と言った。今まで誰にもその言葉だけは言ったことがないからね。ボクの手でダメだというなら、内田さんが引っ張って涼平を救い出してあげてよ」 「あ、哲人 お帰りィ。思ったより早かったけど・・嬉しい!」  恋人の部屋を合鍵で開けると、すぐに哲人は抱きつかれた。一瞬驚くが、すぐに笑顔になり自分も強く抱きしめ返す。 「ただいま。ごめんな、テスト期間中ずっと寂しい思いをさせて。・・キスしていい?」  もちろんと、小さく言って財前直央ざいぜんなおひろは顔を上げて目を閉じる。 「ずっと・・我慢していた」 「オレも」  お互いの舌が絡まり、くちゅくちゅと音を立てる。哲人の手が直央の服の裾を掴む。 「いい?」  頷く間もなく、もっと深く舌が挿れられる。同時に哲人の指が直央の胸に降り立つ。 「っ・・んん・・はあ」  4日ぶりに感じるその感触を、直央は夢中で受け止める。 「ああん・・哲人ぉ。気持ちいい・・の。触って・・アソコも触って・・」 「どこでも触るけど・・」  ともかくもと、哲人は直央を抱きかかえる。 「て、哲人!無理だって・・」  いきなりの出来事に直央は慌てるが、哲人は余裕の笑みを顔に浮かべる。 「軽いよ、直央は。同じものを食べているのにな。そりゃあ、オレは身体鍛えてるけどさ。・・オレがいないと、もしかして食事抜いてる?」  軽い気持ちで何の気なしに聞いたのに、直央は表情を変える。 「そ、そんなことないよ!や、ただその・・節約はしてるかな。自分だけの食費はさ」 「!・・ごめん!・・オレが直央にバイトさせないから?」  直央をベッドに下して、哲人は目を伏せながら聞く。 「や・・その・・いろいろ欲しいものが。ほら、来月からアニメ始まるからグッズが出るだろ?」 「そんなの、琉翔に言えばいくらでも・・」 「ダメだよ!琉翔さんに迷惑かけたくないし、だいたい本物のファンなら自分でちゃんと公式からグッズ買わなきゃ!もう、哲人はわかってないなあ」 「な、直央?」  突然とくとくと語りだした相手に、哲人は困惑する。 「哲人の身近にあのアニメの関係者がいるんだからさあ、だいたいのことはわかるでしょ?鈴ちゃんも生野くんもいろいろやってたでしょ。うまくいけば3クールまで放送されるかもしれないんだよ?アニメでやってほしい話があるんだから!」 「や、えーっと。なんていうか、オレが悪かった。や、正直よくわかってないんだけど・・。とにかく、オレが直央に無理させてるってのは理解・・してる。しているんだけど・・」   『直ちゃんにバイトもさせず、ずーっと部屋に閉じこめてさ。リアルの男同士の恋愛ってそういうもんなの?いっちゃん』 (オレの独占欲が異常だってのもわかってるけど。でも、直央に変なバイトはさせたくないし。つうか、ほとんど一緒に暮らしてるようなもんだから、生活費はオレが出したって・・)  哲人自身は生活費その他は、自分で投資などで稼いでいる。すでに総資産は都内で一戸建ては余裕で買えるくらい。 (けど実質違う世帯だから、オレが直央の生活費を出すってのもやっぱ違うか?直央も嫌がるだろうし・・。ていうか、大学生だからそりゃ他の学生との付き合いもあるだろうし、千里さんは普通にバイトしてるって亘祐が言ってたもんなあ)  加納千里かのうせんりは直央の幼馴染にして大学の同級生。その恋人の佐伯亘祐さえきこうすけは哲人と同じ日向一族の幼馴染で同じ高校に通っている。 (せめて、千里さんと同じところでなら許せるか?けど、千里さんは直央の初恋の相手で・・そして) 『千里が・・オレにキスしたんだ』 『えっ?』 『オレがちゃんと寝ついたと思ったからしたんだろうけど・。そんで言ってた。『これで初恋は終わった』って』 『どういう意味・・』 『両想いだったみたい、オレたち。でも、もうそれは終わったことだから。言い訳だとは思ってほしくないんだけど、オレも千里もお互い以上に愛している相手がいるんだもの』 (確かに亘祐と千里さんは聞いてる限りは、オレたちに負けず劣らずの愛しあってるカップルみたいだけど、けどやっぱ心配になっちゃうし。・・ なんてことを考えてる場合じゃないよな。大切なのは直央の気持ちで。つうかこのままじゃオレが直央の重荷になっちまう。下手すりゃ嫌われる・・) 「哲人?」  黙り込んでしまった哲人の様子に、直央は怪訝な表情になる。 「ごめん・・それでも・・直央を」  離したくはない。そう思う。この恋人が自分の側からいなくなったことを考えると、身体が震えてしまう。 「好きなんだ・・ダメなんだよ。オレ・・直央がいないと・・寂しい」  何を言っているのだと自分の頭を抱えたい衝動にかられる。(寂しいだなんて、誰にも言ったこともなかったのに。思ってても・・言葉にする必要は無かった。自分一人の力で自分の人生を作れるって思ってた・・から。けれど、今は直央無しの人生は考 えたくもない、だから・・) 「抱きしめるだけでいいから・・重荷にはなりたくないんだよ。感じてはいたいんだけど、つまり・・」 「哲人はオレを好きになってくれたんだよね。オレが哲人を好きになったって言って、そして哲人も俺に恋してくれて」 「!」 「オレだって努力したつもりだよ?哲人に好かれるために。だって、哲人は最初から俺を素直に受け入れてうたわけじゃないもの。男同士のセックスだって本気で嫌悪してたもの。けど、だからこそオレは今の哲人の特別、なんだよね?」  直央はそう言って微笑む。 キュン・・そんな“音が”聞こえた気がした。 「直央・・」 「寂しいって、オレは思わなかった。だって、オレは哲人をずっと想っているから。一人でこの部屋にいても、堂々と自分は哲人の恋人だって自覚していられるのは、哲人が・・帰ってすぐにオレに温もりをくれるから」  好きなんだもの、と直央は呟く。 「えーっと、だからオレもこうやっちゃうんだけど・・鈴にはヤリすぎだって言われたんだけど・・抱きたいんだ、直央を」  そう言って再び強く抱きしめる。 「ほんと、ごめん。出会った時からオレ・・貴方に対して我儘だった。凄く尊大だった。だから・・」  今の自分からは自分でも想像がつかないほど、相手を嫌っていた。そこらへんで直央が倒れていても、蹴とばしてしまうか、あるいは完全スルーしたいと思うってしまうほどに。だから、直央も同様の態度を自分にとっていた。 「でも、オレが哲人の内側をもっと覗いてしまいたくなっちゃったんだよねえ。あの時哲人は自分の存在はオレのためにならないって言ってたけどさ、それでもオレは哲人を追いかけちゃうの。だから・・シてよ」  直央が哲人のソレに触れる。 「っ!」 「コレをもっとおっきくしてその・・オレの中に挿れてぐちょぐちょになるまで掻きまわしてほし・・もう!」  そして、ソレから手を離し両の手で顔を覆いながら、直央は恋人の胸に全身をこすりつけるように身体を動かす。 「言わせないでよ、恥ずかしいんだからオレだって。でも、哲人がなかなか先に進んでくれないから!」 「へっ?」 「べ、別にオレはそんなことばっか考えてるわけじゃないからね!た、ただ・・ほとんど毎日してたことを4日間もやんないでいたら、なんかその・・調子が狂うっていうか。え、エッチなオレでごめん!」 「・・あ・・っ!」  もう躊躇する気はなかった。哲人は夢中で直央の身体のいろんな場所に口づける。 「ん・・ん」 「や・・・あっ・・ひっ」 「可愛いよ、直央。もうどこかしこも、綺麗で・・ああ!」  胸の頂を夢中で舐めまわす。 「てつ・・いい!ああ・・あっあっ・・ん」  久しぶりの感触に、お互いが昂る。すぐに勃立したソレからは露がとめどなく溢れてくる。 「哲人ぉ、コレも吸ってぇ。ちゅぷちゅぷって・・ん、そう。ひあ・・っ」  哲人の指先は、いつしか直央の双丘の窄まりに収まっていた。久しぶりということで、哲人的にはゆっくりと慣らしていくつもりだった。が、直央が不満の声を上げる。 「やあ、そ んなんじゃ・・。もっと強くしても構わないからあ」  そう言いながらせつなげに尻を揺らし、深い挿入を要求する。 「もしかして・・自分でヤッてた?オレがいない時に」 「っ!そ、そんなの・・」  直央の上気した顔がより赤くなる。 「本当に直央はエッチなんだから。自分の指じゃヤリにくいだろ?ふふ・・」  出来るだけ奥まで指を挿れ、少し乱暴に掻きまわす。 「痛くないか?」 「うん、ちょっ・・と。でも気持ちいいの。はあ・・そこ・・そうされるの凄く好き」 「オレも、直央が凄く好き。直央のコレも大好き」  大きくなったソレを咥えながら、指での挿入を繰り返す。 「いやあ!変なの・・変になっちゃう!あっあっあっ・・やあん・・もう」  直央の身体がび くんびくんと震え、哲人の口の中に大量の精が流れ込む。 「自分でヤッてた割には、いっぱい出たね。あんまりイケなかったの?」 「もう!言わないでよ・・本当に恥ずかしいって思ってるんだからあ」  はあはあと息をつきながらも、直央は拗ねた表情を哲人に向ける。 「・・何で、直央はそんなに可愛いの?」 「は?」 「年上なのに!年上なのに!・・こんなの反則だよ。なのにすっごくエッチで。もう・・」  最高の恋人だと思ってしまう。直央と結ばれるまで、そんなことは考えたこともなかったのに。 (ホントのオレってこんなんだったの?えーっと、確かかっこいいオレに魅かれてとか最初は言ってなかったっけ?大丈夫なのか?)  それでもどうしても自重できない男の性が、むくむくと頭をもたげてきている。 「挿れていい?」  そうとりあえずは聞く。大きくなったソレを直央の顔に近づけながら。 「挿れるって・・オレの口の中に?」  まさかという思いで直央は聞く。外ではイッたが、中も満足したいのにと思いながら。 「直央はどうしてほしいの?」 「どうって・・さっき言ったじゃない!恥ずかしいのにさ・・哲人のイジワルぅ」  年上ではあるが童顔の直央は、哲人が敬語を使っていた付き合い始めは割りに大人・・ぶってたはずだ。変な言い方ではあるが、9月に19歳になるはずの直央は、哲人の目にはただの可愛い男子にしか見えない。ちなみに哲人は6月に18歳の誕生日を迎えている。 「もっと、貴方の口から聞きたかったんですよ、恥ずかしい言葉を」  出会った頃は自分も直央に嫌味ばかり言ってはいたが、そんな欲求を求めるようになったのはいつからだろうからと思いながら、哲人は直央の尻を持ち上げる。 「ほんと・・ドロドロ。すっと入っちまう。ここはオレだけのモノだから」 「あ、当たり前・・じゃない。哲人のしか知らないし、他のは要らない。あっ・・ああ・・ん。哲人のおっきいのがあればオレ・・」 「オレのがあれば?」  一旦、腰の動きを止める。自分も久しぶりで感じやすくなっていて、すぐに弾けそうだったからであるが、先ほどからのやり取りのせいでソレを意地悪だと直央は判断したようだ。 「やだ、意地悪しないでってば!も、もう一人でヤンないから・・あっ」 「オレと付き合う前も、オレをオカズにしてヤッてたんだっけか。オレのナニがそんなにいいわけ?」 「て、哲人の・・すべてが好きなの!も、もっと動かし・・やっ・・ああ!」 「動かしてっていうからそうやってるのに・・。直央ってほんと・・可愛いよなあ」  年上の男を可愛いと思う日が来るとは思わなかった、と思いながら哲人は腰を動かす。 (というか、男の中に自分のアレを挿れてこんなに気持ちがいいとは思わなかったんだけど・・。亘祐が千里さんと付き合ってるのがほんとに信じられなかったんだけど、そりゃあアイツだって) 『千里が作ってくれるご飯は美味しいからいっぱい食べちゃうな。もちろん、その分運動もいっぱいするけどさ。じゃないと太っちゃう』 『・・運動って、まさかセックスのこと言ってんの?』 『!・・な、なにを・・。こ、こんなとこでそんな話すんなよ!・・は、恥ずかしい・・じゃんか。つうか、哲人の口からそんな言葉が出るって意外だよ』 『・・オレって、そんな固いオトコに見える?』 『少なくとも、オレが千里と仲良くなっていくのを喜んではくれなかったのはわかってたよ。でも、あっちは純粋にオマエとも仲良くしたがってんだ。オレの親友だからって。本当にいい人・・つうか・・可愛い人なんだよ、あの人は。年上の男性だなんて思えないほどに。大切に・・したいと思う存在なんだ』 (んなこと言ってて・・あの時は呆れたけど、今なら分かる。直央は素直にオレを愛してくれる。オレの環境も過去も未来も、想いも・・全部受け止めてくれる。こんな人・・直央しかオレは知らない) 「気持ちいいんだろ、そんなに締め付けて。貴方を大切に思うけど、でも・・」  ぐちゃぐちゃにしてしまいたいとも思ってしまう。誰にも手を付けられないように。必要ないはずなのに、不安になってしまうのは何故なのだろうか。 「愛してる・・愛してる・・」  付き合い始めたときには思っていたのに。 (貴方が・・オレを好きになったことを後悔する日がくるはずだと。あの時は本気でそう思っていた) 「あっ、あっ・・ん・・そこ・・擦れて・・ひあ・・ん・・ん」 (今でもその不安はどうしても消えない・・けど。自分がどんどん変わっていくから、なおさら・・) 「哲人ぉ、キスして。もっとくっついていたいの・・。あ・・あっ・・いい・・・ん」 (この唇から紡がれる言葉も声も、オレだけに届けばいい・・吐息も全て)  夢中になって舌を絡め続ける。 「ん・・っ・・んん」  直央の息が荒くなってくる。 (ダメだ、オレも・・イクっ!) 「はあ・・なんなんだよ、鈴のヤツは。オレを家まで送るとか言っておいて、結局はタクシーに押し込むんだもんな。せめて、タクシー代だけでも寄こせっての」  ベッドに横たわりながら涼平は愚痴る。1LDKの平屋の一戸建て。それが彼に与えられた家。一人暮らしには少々広すぎる家。 「確かに、哲人にオレのこの現状を知られるわけにはいかないけどさ。それはともかく、鈴が冷たすぎる・・」  成り行きではあったけど、はっきりとではないけれど、自分の気持ちを告白して鈴も理解して、そして鈴の哲人への想いをせつせつと説かれた。 「キスまでしたのにな。や、一方的にそれも額にだけど」  自分でも理解できない行動。そしてそれ自体は気持ちは尾を引いていないことに気づいている。 「わかってたことだから・・。断じて、他に好きな人が出来たからということじゃなくて。オレは・・恋をしちゃダメなんだ」  自分は、好きな人を守れないから。 「オレ自身が殺人未遂やってんだもんなあ。つうか、その相手に告白して玉砕して・・そんで他の相手のことで悶々としているオレって一体・・はあ」  哲人の片腕として、実質的に生徒会と“裏の仕事”を仕切らなければいけない立場なのにと、涼平は大きくため息をつく。 「他に出来た好きな人って、私のことだよね?私なら自分の身は自分で守れるよ?これでもいろいろ経験しているからね。第一関門は突破できてる、てことだよね?」 「はあ?・・っ!な、なんで!・・なんで貴方がここに・・オレの家に」 「鈴ちゃんから連絡してもらったんだよねえ、涼平の伯父さんに。あ、彼女に言われて女装してきたの。どう?」 「ど、どう・・って」 (や、ちょっと待て!何で景がここにいるんだ?ここは日向の敷地の中だぞ。全くの赤の他人が入れるはずもなく・・。り、鈴は何を考えているんだ!) 「鈴ちゃんがね、私の背中を押してくれたわけ。ふふ・・」        To Be Continued

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