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第28話
「鈴!勝也さんを下手に責めるな。言葉を間違えれば、ただの煽りにしかならねえ!」
鈴にようやく追いついた涼平は必死に言葉を紡ぐ。
「もしかしたら・・一宮はある程度の事情を知っているんだ。あいつなら多分うまくやってい・・」
「そんな軽いもんじゃないだろ!日向じゃない人間に託せるような」
鈴が叫ぶ 。
「鈴・・オマエ、自分が何を言っているのかわかっているのか?それって、直央さんのことも・・」
鈴の言葉に涼平の顔色が変わる。
「あの人のことは特別だって言ってたじゃないか。やっぱオマエ・・」
「・・違うよ、それは」
と、鈴は唇を噛む。
「ボクは哲人の事が好きだよ。そうだね、愛してる。一人の男性としてね。でも、直ちゃんのことも本当に好きなんだ。8年前のあの出来事はボクにそういう意識を植え付けた。もしかしたら、それも“計画のウチ”だったのかもしれないけどね。それでも、哲人があそこまで直ちゃんに固執する以上、ボクの立場ではそれを受け入れざるを得ない」
「本当に愛して・・いるんだな、哲人を」
好き、以上の感情を鈴が哲人に抱いている事実は、周りの人間なら誰もがわかっていたことだ。けれど、それを言葉に出したのは初めて。
「それでも、あんなにゲイを嫌っていた哲人が記憶を無くしたのに直ちゃんのことを好きになったんだもの。あれだけ感情をむき出しにするんだもの。ボクが入る隙間なんてないのはわかってるって、何度も言ってるでしょ。・・なのに、しょっちゅう喧嘩して、ボクらを困らせて・・けれどそれでも二人のことが好きなんだ。8年前からずっと、その思いは消えない」
鈴は唇を噛みしめる。が、次の瞬間ニコッと笑う。
「!」
「直ちゃんは鍵なんだ。多分、勝也さんにとってもある意味、ね。だから直ちゃんとアメリカで会ってたことを哲人に言わなかったんだと思う。とにかく、今は哲人に余計なちょっかい を出してもらっては困る。・・揺れてもらっては困るんだ」
「鈴?」
「大丈夫だよ、涼平が側にいてくれるのならボクはボクらしくいられる。勝手言ってる自覚もあるけど・・でももう涼平は内田さんのものだもんね・・・っ」
唇が塞がれる。涼平のソレによって。
「・・内田さんには内緒にしてあげるから。ったく・・子供の頃に哲人とファーストキスは済ませているからいいようなものの、そうじゃなかったら本気で半殺しにしてたよ?」
「うん、見てた。子供心に羨ましかったよ。・・景には結局自分で言っちゃうと思う」
照れた顔を鈴に見せながら、涼平は静かに彼女から離れる。
「ボクを夫婦喧嘩に巻き込まないでよね。てか、涼平がそんな浮気モノだとは思わなかったな」
サイテー、と鈴は笑う。
「最初で最後だよ。てか、浮気じゃない。・・愛しているのは、景だ。あの人も全てをオレには言っていない、それもわかってはいるけどね」
少し寂しそうに笑う涼平を、鈴は複雑な心境で見つめる。
「涼平はイイ人すぎるよ。だからこそ、涼平こそ日向から離れてほしかったんだけど・・とにかく急ごう、手遅れになる前に」
「勝也さん、貴方は・・」
「そういう顔をなさらないでください、哲人様。貴方を傷つける気はないのですから」
勝也はそう言って、いつもの優雅な笑みを口の端に浮かべる。二人は屋上にいた。
「っ!」
その仕草が学校の理事長の高木琉翔に似ていると何故か思ってしまった。
「・・どうしてこの学校の教師になったんで す?」
「私もいつ までも 無職でいるわけにはいきませんからねえ。こちらで産休なされる先生の代わりを探していた琉翔さんの思惑と合致した、それだけですよ。運よく、私は英語教師でしたし」
ただそれだけですが?、と勝也は首をかしげる仕草をする。
(くっ・・そんな仕草さえ素敵だと思ってしまうのに)
なのに、イライラする。
(本当に憧れていたのに・・どうして、この人さえも・・)
「なぜオレに言ってくれなかったんですか?野村先生の件はオレが琉翔さんに頼んでいたことですよ?」
「それは、はっきり言って生徒会長の裁量を超えています。それに・・哲人様は私を信用していらっしゃらない」
「!・・なんで・・そんなこと」
思いがけない勝也の言葉に哲人は驚く。
「先日お会いした時向けられた殺気は本物でした。私と直央くんの関係も聞いて、私への不信感は増したのでしょう?それでも、私は・・」
貴方の側にいたかったのですよ、と消えそうな声で勝也は呟く。ずっと愛してきた存在だから。
「勝也さん、オレは・・何も知らないままです。確かなのは、直央への愛情だけ。その直央はオレと知り合う前に、貴方に助けられていた。その時も、そしてオレと再会した時も貴方は直央の名前を知っていた。オレと直央の関係を知っていたのに、何でなにもかも話してはくれないのですか?」
「・・・」
「あの偽りだらけの本家での暮らしの中で、貴方から向けられる愛情だけは本物だと思っていました。なのに・・」
「その考えは間違ってはいませんよ、哲人様」
少し笑 顔になって勝也は答える。
「けれど、今は鈴も涼平も力強い味方のはずです。亘祐だって、いつも哲人様を助けていてくれるはずです。・・それでも不安ですか?この私に殺気を向けるほどに」
無理もないことだとは思う。自分の計画ではあんな状況で直央と再会するつもりはなかった。そして、思っていたよりも直央が成長し、哲人と深く結びついていたことに複雑な心境になる。
「直央さんが人を見抜く目は確かです。哲人様のパートナーとしては最適な人でしょう。・・かといって、私がもう必要ないとは正直思いたくはないのですが」
哲人が小さい頃から一番側にいたのは自分なのだからと、勝也は寂しく笑う。たとえ、その始まりが自分の本意ではなかったとしても。
「同い年の鈴と亘祐を遊び相手に、そして私と他数名が哲人様の世話係でした。けれど、哲人様は私にべったりで。私はなかなか学校にも行けずに困ったものです。そのうち咲奈が加わって。哲人様は咲奈も大好きだったでしょ?」
邪険にはされていたが、琉翔も加わってそれなりに賑やかな毎日だった。自分の本心を胸の奥に隠せるほどに充実していた。
「楽しかったですよ、哲人様は本当に可愛らしくて。できれば・・」
今でもそうだ。この少年を自分一人のモノにできればと思う。あの憎悪渦巻く日向本家の中で、いつしか哲人が自分に向ける笑顔だけが自分の生きる糧だったから。高校生になって琉翔に抱かれるようになった後も。
「ご両親がようやく落ち着いて哲人様へ愛情を向けられるようになってからも 、哲人様は私を頼りにしてくださった。けれど、3年前のあの出来事が起こってしまった」
「!」
「哲人様を守りきれなかった。私がアメリカに行ったのはいろんな理由がありますが、事実上の追放です。そして・・直央さんに出会ったのはそれは予定どおりです」
「えっ?」
「これ以上のことは私には言えません。私もまた日向に縛られた人間ですから。哲人様と直央さんの出会いは、日向に変化をもたらす。私はそれを見届けるために帰ってきたのです」
「直央を・・利用するのですか?オレにとって直央がどれだけ大切な存在なのかわかっていて・・」
哲人の身体が震える。
「どうしてです?オレから・・“ボクから”親を奪っておいて、せっかく仲良くなれた直央も奪うの?」
「哲人 ・・様?」
悪い予感が走る。
「何で?ボクの直央なのに。やっと見つけた宝物なのに。ダメだよ、ボクから取り上げないでよ。ボクの・・大好きな・・」
「てつ・・ひと・・」
(何でだ?何故、今スイッチが入った?戻ってしまう、8年前に。思い出させてはいけない、今はまだ・・)
「直央は言ったんだ、オレの側にずっといるって。直央は・・だから・・」
「哲人!」
勝也は思わず哲人を抱きしめる。
「大丈夫だから!8年前とは違う、直央はもう他の人は好きにならない!もう誰も二人の邪魔はしない、させない!」
「だって・・だって・・」
尚も哲人は叫ぶ。
「だって、皆が直央を見てるの。直央が可愛いから。嫌なの、そんなの!」
「オレは哲人を見てるから! 愛しているのは哲人だけだから!だから・・」
「そんなの・・う・・っ」
勝也の唇が哲人のソレを塞ぐ。
「勝也さ・・ん・・ん」
思いがけない出来事に、哲人はなされるがままで勝也に唇を吸われ続ける。
「んん・・ふ・・んふ」
(哲人・・)
その唇が舌で割られようとしたその時、声が聞こえた。
「哲人!大丈夫か!」
「勝也さん!哲人から離れてよ!貴方は教師だよ、生徒に何をしてんのさ!」
「鈴・・涼平・・」
勝也は唇を離し、哲人の身体を彼らの方へ押しやる。
「勝也さん・・オレ・・」
「言ったでしょう?これが今の哲人様を取り巻く事実です。
『けれど、今は鈴も涼平も力強い味方のはずです。亘祐だって、いつも哲人様を助けていてく れるはずです。・・それでも不安ですか?この私に殺気を向けるほどに』
「鈴と涼平の身体に付いた傷は彼らを縛るものじゃない。消そうと思えば消せるのだから。消せないのは真の愛情だけです。この私が持つ歪んだ愛情ではない、綺麗な心・・」
「歪んだ・・愛情?でも貴方は・・そしてオレは本当に貴方が好きだった。いつだって貴方を求めていた」
哲人は必死に言葉を紡ぐ。思い出されるから。確かに愛されていたあの頃が。
「今は直央さんがいます。哲人様も私もあの頃とは違う。貴方はちゃんと直央さんと出会えた。自分の意思と感情で、彼と愛し合っている。貴方は十分に愛されている!」
「勝也さんはどうなんですか?オレは貴方に何をすればいいんですか?」
だって勝也からも愛されていたのも事実なはずなのだからと。先ほどのキスのことも自分はちゃんと認識している。
「アレが歪んだ愛情だなんて・・オレはそんなの受け入れたつもりはない。本当にオレを想ってくれてるからこそ、オレは・・でも・・っ」
哲人が頭を押さえてうずくまる。
「哲人!」
「くそっ!私はそんなつもりで貴方に・・」
近づいたわけでもないのにと、勝也は哲人のソレの感触が残る唇を噛みしめる。
(直央の言うとおりになったな。あの子は・・確かにあの人の息子だ。哲人に愛される資格がある)
『多分、勝也さんはちゃんと言ってくれない。良くも悪くもこの人は日向の家の人だよ。・・なぜかな、“あの時の印象”でもそうだったんだけど、“そういう人”だ、貴 方は。あの時のことも感謝してます。けれど、貴方は哲人を傷つける。それだけは絶対に許さない』
「鈴、涼平。哲人様を頼みます。私の言いたいこと、言えることは哲人様に伝えました。これ以上は余計なことはしませんよ」
「何を勝手なこと・・をっ!何で哲人がこんなことになる?何で哲人にキスをした!哲人には恋人がいるんだぞ!哲人にキスをしていいのは・・」
「わかっているよ、涼平。ただ私が哲人様の心に付け入っただけだ。アレは哲人様の意思じゃない。哲人様を連れていって・・っ」
思いがけず、目から涙がこぼれた。
(ただ愛していられれば・・幸せだった・・のにな)
「勝也さん・・どうして貴方は・・。本当に貴方に憧れていたんです、オレは。貴方と家族にな りたかった・・のに」
哲人がすがるような目で勝也を見る。
「・・昔、学校に行こうとした私を哲人様はその目で何度も引き留めたものです。本当に我儘で寂しがり屋で・・可愛い子供でした。今は直央さんを家族として求めて、彼もそれに応えてくれたのでしょう?彼を大事になさい。あの頃の貴方は・・今はもう必要ないのですから」
「哲人、しっかりしろよ!ここは学校内なんだぞ。オマエは生徒会長で、勝也さんは教師なんだ。あの人も悪いんだけど、オマエも大概だ」
茫然としたままの哲人を無理やり引っ張りながら、涼平は鈴と共に階段を下りる。
「ねえ、哲人。ボクは君と勝也さんとずっと一緒だった。だから、哲人の気持ちはわからないでもない。あの頃のボクや亘祐はガキで、それこそ周りの大人たちに流されるままだった。もちろん哲人のことが大好きだったけどね。でも、今は哲人を身体を張って守れるくらいには大きくなった。それに・・」
と、鈴は真剣な表情で哲人を見つめる。
「鈴・・」
「哲人には直ちゃんがいるんだよ!哲人から直ちゃんにプロポーズしたんでしょ!家族になってほしいって言ったんでしょ!なのに、なんで他の人にそれを求めるのさ。日向から離れたいって言ってるのに、何で昔の思い出に縋るの?哲人が愛したいのは直ちゃんだけでしょ!だから・・だから・・・ボク・・は」
涙が出そうになって慌てて顔を逸らす。
「とにかく!もう不必要に勝也さんに近づかないで。哲人が不安な気持ちになるのは、確かにボクたちのせいもあるんだろうけど、家で哲人を待ってる直ちゃんのことを考えてよ。ねえ・・」
「けれど、直央はオレから離れたろ?そして千里さんのことを好きになった。だから・・再会してからも・・オレを拒絶した。オレを・・激しく嫌っ・・て。だからオレも・・え?そう・・なんだ、オレの方が先に・・直央と仲良くなっていたのに・・なん・・」
「哲人?何を言って・・っ!まさか・・」
急いで涙を拭い取って、鈴は哲人の方に向き直る。
「哲人しっかりして!今は・・今は直ちゃんは君の最愛の恋人なんだ。直ちゃんは君の部屋で君の帰りを待っている。暖かい夕飯を作って。そして君に抱きしめられるために、君を待っている!君の家族はちゃんといるんだよ」
「あ・・ああ・・そう・・だな。オレは 昨夜も直央を抱いた・・」
「そういう情報はいらないんだけど・・とにかく今は直ちゃんと哲人は愛しあってんの。だから安心していいんだよ」
「鈴、どういうことだ?哲人の様子がおかしい・・」
と、涼平が顔を寄せてくる。鈴は苦々し気に首を振る。
「ボクにもわからない。けど、もしかしたら記憶が戻っているのかもしれない。・・不確かな状態で」
「記憶が戻ったって・・もしかして8年前の?」
「8年前?何のことだ?」
涼平の言葉に、哲人が怪訝な表情になる。
「ばっ、涼平!」
「や、哲人・・オレの言ったことは気にすんな。と、とりあえず恋人以外とキスするってのはやめておけ。浮気だろ、それは。あんなに直央さんのことを縛っていて、毎日惚気てるくせに、オマエ・ ・」
「それ言っちゃったら涼平だってさっき・・」
ぼそっと鈴が呟く。
「鈴、余計なことを言うな!あ、あれはオマエが寂しそうにしていた・・から」
「鈴が寂しそう?そっか、オレは寂しそうにしていたか。だから勝也さんは・・。早く会いたいな、直央に」
「哲人?」
もしかして本当に記憶が戻ったのかと、鈴は哲人の肩を掴む。
「大丈夫か、哲人!ちゃんと現状も把握してる?」
「・・わかってるよ、鈴。頭の中がぐるぐるしてるのだけど、ちゃんと鈴と涼平の声は届いている。直央への想いも心の中にある。ごめん、心配かけた」
「哲人、記憶は・・」
「それは・・はっきりしない。けど、鈴は知っているんだな。オレと、直央の過去に何かがあったことを」
「っ!それ ・・は」
迂闊なことを言ったと、鈴は唇を噛む。
「オレは、多分ずっと唯一無二のものを求めてた。オレの周りにはオレを大事にしてくれる人がいたのに。鈴は・・オレを愛してくれたのに」
「哲人・・それは・・」
「どうして、オレの記憶がはっきりしないのかわからないけど、オレは以前から直央のことが好きだったんだね?でも、勝也さんのことも好きだった・・うん、こっちは完全に過去形にしていいや」
哲人がそう言って笑うのを見て、鈴と涼平は二人とも驚きの表情になる。
「哲人・・それでいいの?てか、直ちゃんのこと・・」
「いいよ・・勝也さんはオレにそれを求めた。それであの人が楽になるのなら、それで・・。過去を忘れても、オレは直央と出会って、そして愛しあってる。それが大事なんだから」
「今日はボクが哲人を自宅まで送るから。嫌だって言ってもついていくからね!」
「できれば、オレに仕事させてほしかったんだけどな。いつもならオマエが尻を引っぱたくだろうが」
電車の中で哲人はそう鈴に答える。
「哲人独りで生徒会やってるわけじゃないんだからね。だいたい、今の哲人には特効薬が必要なんだよ。・・今日は直ちゃんは?」
「うん・・大学に行ってるはず。帰りは何時になるかはわからないな」
哲人は立って、鈴は座っている。哲人は窓の外を眺めながら言った。
「昔は絶対に屋上なんか行けなかったんだってさ」
「え?」
「勝也さんが言ってた。なんかさ、ドラマとかみたく学校の屋上で弁当食べたり、告ったりってことしてみたかったって。オレが羨ましいって言ってた」
「そう・・」
今日の勝也の行動の真意が掴めてない鈴は、哲人の言葉に曖昧にうなづく。
「勝也さんを求めていたオレの想いは、逆にあの人を追い詰めていたのかな」
「哲 人!」
慌てて腰を浮かそうとする鈴を哲人は手で抑える。
「直央と出会ってから想いを確実にするまでの間、ずっと葛藤していたんだ心の中で。オレの想いは直央を傷つけるだろうって。だからあの時までは言えなかった。好きだって言えなかった。直央には何度もその言葉を求められたのに」
『好きなのに・・なんでわかってくれないんだよ。哲人から、ちゃんと“言葉”をもらってないから、不安なのに。それでも、哲人は抱きしめてはくれるから。だから、それだけを心のよりどころにしてんのにさ。なのに・・』
「セッ・・も別に嫌われてもいいやと思うくらいに自分勝手に行為してた。ドラッグの事件の時になってやっと一つの決心がつけた。もう好きな人を無 くしたくはないと。どうしてこの人なんだろうと思っていた。直央に好かれたからじゃない。最初からオレがあの人に恋をしていたんだな」
「哲人・・」
「思い出したわけじゃない。ただ、揺り動かされてはいる。でも勝也さんは『あの頃の貴方は今はもう必要ない』と言った。オレは安心していいんだ、直央は永遠にオレの側にいると思っていいんだ」
「日向先生・・勝也さん、大丈夫ですか」
哲人たちが去った後、一人屋上にたたずんでいた勝也に声がかけられる。
「一宮くん、君か?鈴たちをここに連れてきたのは。・・それはそうか。君は哲人に恋しているのだから」
「勝也さん。貴方は自分を追い詰めるためにここの教師になったわけじゃないのでしょう?貴方だって 、本気で哲人先輩を愛していた」
「ふふ・・私は」
と、勝也が笑う。
「既に教師失格です。校内で生徒に必要以上に関わり、あまつさえキスまでしちゃったのですから。出来れば、他の人には黙っていてくださいね」
「・・その抑えきれない気持ちを、貴方はずっと抱えて生きるつもりなんですか。哲人先輩は絶対に直央さんと別れませんよ」
一宮は努めて普通に話そうとする。自分が抑えなければ、場の空気が爆発しそうだったから。
「それが哲人の幸せですから。君も諦めて・・」
「なら!・・何で泣いたんです?」
「へっ?」
何を言っているのかと言いかけて、気づく。
「あ・・れ?」
止めたはずの涙が溢れて落ちる。
「くっ・・そ。どうし・・て」
「哲人先輩と同じ顔でそんな表情をされたら、オレにとってはたまったもんじゃない・・」
そう言って一宮は自分のハンカチを取り出す。
「なに・・を」
「そういう顔を見たくはないんですよ。どうせ貴方は自分からは縋ろうとはしないのでしょう?どれだけ弱っていても。だからこの場にいるオレが手を差し伸べた。オレの自分勝手な行動です。気にしないでください」
子供でもこれぐらいはできるんですよ、と一宮は微笑む。
「・・昔、哲人も同じことをしてくれました」
「哲人先輩が?」
「ええ・・ホントに小さい頃の話ですが。私が泣いた意味も理由もわからないまま、買ってもらったばかりのハンカチを私の顔に擦りつけて。加減を知らない子供のすることですからけっこう痛かったのですけどね」
勝也の口の端に少しの笑みが浮かぶ。
「本当は愛してはいけない相手だったのに、想いを抑えることは無理だった。けれど、もう夢物語は終わりにしなければいけません。直央が言ったとおり、私は良くも悪くも日向の人間だから。・・もっと違う形で哲人に出会いたかった。過去に縋らなければ哲人を抱きしめることができない私は・・あの子にはもう必要が無い」
「そんなこと本気で思っているんじゃないでしょ。たとえ必要のなくなった思い出だとしても、汚していい過去じゃないんだ。どんなものでも過去がなければ、歩むべき未来も見いだせない・・そうでしょ?」
一宮は必死に言葉を紡ぐ。多分、自分しかこの人の側にいてやることができないのだろうから、と。
「日向に深入りするなと忠告したはずですよ。しまいには、君まで日向に利用されてしまいます」
「それでも!それでも・・オレは構わない。とっくに哲人先輩には捉われちゃってるんだし。それに貴方もほおってはおけない。貴方は哲人先輩の憧れで、あの人の過去を形作った人なのだから」
「!・・子供のくせに生意気なことを。まあ、君にはキスシーンまで見られちゃってますからね。教師の弱みを握っておけ・・っ」
「そういうつもりじゃなくて!」
一宮の唇が、勝也のソレに一瞬重なった。
「これで、オレも共犯です。オレが貴方を気にすることに、文句を言わないでください」
「・・君は、哲人が・・」
流石に戸惑う。が、一宮の表情は変わらない。
「貴方に何かがあれば哲人先輩が辛い思いをします。そんなの、オレは嫌なんです。だから・・です。オレが貴方を助けたいと思うのは。けっして・・貴方個人への想いじゃ・・ない」
「あれ?涼平先輩だけっスか?哲人先輩と鈴先輩は?」
「帰ったよ、二人とも。つうか、生野はどうした?」
「涼平先輩の指示通り帰宅した・・と言いたいところですけど、実は彼氏からデートのお誘いがありましてね。ルンルンと帰っていきましたよ、生野先輩。もしかして、鈴先輩と哲人先輩もデート?」
ニヤニヤしながらそう聞いてくる遠夜の顔に、涼平はデコピンをかます。
「ア・ホ」
「いってえ!ひどいな、涼平先輩ってば。いくらフラれたからって、オレに八つ当たりだなんて」
「今さらそんなことで怒るか!つうか、生野のことだって正確じゃねえだろうが」
「彼氏さんから電話があったのは事実ですよぉ。仕事の入り時間が予定より早まったって。何度も何度も電話があって・・ほんとなんていうか」
と、遠夜は肩をすくめる。
「仕事?てことは・・」
つまりは広将のマネージャーである自分の恋人も一緒だということで。
「じゃあ、予定よりは帰りは早いのかな」
「だから、涼平先輩もさっさと帰っていいですよ。どっちにしろ、後はほぼオレの仕事ですしね。いいんですよ、どうせオレだけ恋人いないんだから・・」
そう言いながら遠夜は泣き真似を始める。
「うるせえなあ。仕事に私情は持ち込まねえよ。だいたい、そんな早く帰ったって景はもっと・・ってもうこんな時間?や、まだ時間は・・」
「いいから早く帰ってください!目の前でそんなソワソワされると、オレの仕事がはかどらないんスよ」
「・・勝也さんのことだけでも頭が痛いのに、何でオレばっか怒られんだよ」
「ったく・・理事長が教師と生徒をかき乱してどうすんだよ、琉翔のやつ。真面目に学校運営する気あんのか」
再び生徒会室に一人になった黒木遠夜は愚痴り始める。
「今度余計なことしたら、アイツの変態性癖のこと業界に流してやる!」
「なあ、本当にウチまでついてくるつもりか?」
「そう言ったでしょ?哲人が変なこと直ちゃんに言わないように、ボクが見張ってるの」
「変なことって・・」
困惑気な表情の哲人の背中を、鈴はバシッと叩く。
「痛い!」
「キスのこととか言わないでいいんだからね!確かに、哲人にとっては勝也さんは特別だろうけど、それは直ちゃんには関係のないことなんだから。直ちゃんを泣かせたら、ボクが哲人を半殺しにするよ」
「オマエが言うと冗談じゃなくなるんだよ、そういうセリフ」
「当たり前じゃん、本気だもん。・・あ、直ちゃん」
「え?」
鈴の言葉に哲人が振り向くと、視界に恋人の姿が入った。
「なお・・ひろ」
「わあ!」
と、彼が哲人に飛びついてくる。
「直央・・待って・・」
「だって!だって!」
と、財前直央は興奮気味に叫ぶ。
「哲人のこと考えながら歩いてたら、目の前に哲人がいるんだもの。嬉しくて嬉しくて!」
「直央・・」
「哲人はただ歩いててもカッコイイね!で、何で鈴ちゃんに叩かれてたの?また学校で鈴ちゃんに怒られるようなことした?」
「は?何でそうなる・・」
「直ちゃんはホント哲人のこと好きだよねえ」
少し複雑ではあるが、それでも鈴も嬉しそうに言葉をかける。やはり、このカップルが自分は好きなのだと再認識する。
「うん、大好き!で、哲人が何をしたの?心配なことがあるから、鈴ちゃんがついてきたんでしょ?それともウチに用?夕飯一緒に食べていく?」
「うーん、直ちゃんの作った料理食べたいのはやまやまなんだけど、今日は止めとく。哲人も早めに休ませてあげて」
鈴のその言葉に直央は一瞬真顔になって鈴を見つめる。が、直ぐに笑顔になって答える。
「うん、わかったよ。ごめんね、いつも鈴ちゃんに頼りっぱなしで。今度はゆっくり会おうね」
「ていうことで、夕飯の用意ができるまで哲人はベッドで休んでてね。今日は哲人が食べたいって言ってたほうれん草たっぷりのグラタンだよ」
エプロンを身に着けながら直央が声をかける。
「着替えた?」
「何で聞かないんだ?」
「えっ?」
「鈴がここまでついてきたんだ。気になるだろ?」
そう言った哲人の声が、少し震えていることに直央は気づく。
「聞いてほしいの?哲人が言いたいなら、オレはちゃんと聞くよ。哲人が好きだから。でも、言いたくないことは言わなくていい」
「直央・・って、何でそんなに優しいの?オレは・・傷つけてばっかなのに。オレは・・そうなんだよ、昔から我儘だったんだ。勝也さんがどういう思いでオレの側にいたのか、ちゃんと考えずに・・」
涙が落ちるのをこらえる気にもなれなかった。自分が情けないと思った。
「オレの存在は多分勝也さんを苦しめていた。なのに、あの人はオレを・・」
キスの感触を思い出す。
「ずっとオレはあの人の手を求めていた。気持ちを受け入れられないくせに・・勝手すぎる」
「恋愛なんて、そういうもんでしょ」
と、直央が優しく声をかける。
「直央・・」
「それでも想いを止められないのが恋愛なんだよ。だから、オレもずっと哲人を求めてた。哲人がオレとの交際をためらっているとわかってても、オレの気持ちをぶつけていた。離れたくなかったんだもの。・・わかったんでしょ?少なくとも勝也さんの気持ちは。ならよかったんじゃない。一つずつ不安を払拭していこうよ、オレと一緒に」
「一緒・・に?」
と、哲人が不思議そうな表情になる。
「そうだよ?だって、オレが哲人の恋人だもの。哲人が誰からも傷つけられないように、オレが守るの」
『怖い思いしたの?大丈夫だよ、ボクが君を守るから!だってボクはオトコだもん!だから・・だから泣かないで』
「だから、もう泣かなくていいよ。今日はオレが哲人をいっぱい抱きしめてあげ・・」
「オレは、ずっと昔から貴方のことが好きだった。勝也さんが側にいなくて、オレは不安だった。そしたら直央がそこにいた・・」
「哲人・・何を言ってるの?昔からって・・だって・・」
困惑気な表情の直央の手を、哲人がぎゅっと握る。
「わからない。わからないけど・・一人でいたらダメだよって誰かに言われたんだ。気づいたら、直央がオレの手を握ってた。直央も泣いてたのに、オレを見たらすぐに涙を拭いて・・ふい・・て・・っ!」
「哲人!大丈夫?ほらベッドに腰掛けて。今、水を持ってくるから」
「いい・・いいから側にいて」
(く・・そっ、思い出せそうなのに。オレと直央の始まりをちゃんと・・)
「哲人、大丈夫なの?寝てたほうがいいって」
「嫌だ。目を瞑ったら、そしたら一人になってしまう。もう二度と直央を離さない。貴方の全ては全部オレの・・」
そこまで言って、哲人は息をつく。
「ごめん、どうかしていた。オレの我満をつきとおすだけの付き合いになんかしたくない」
「哲人?」
「ちゃんと・・言わなきゃね。勝也さんにキスされた」
「へっ?」
『哲人様を守りきれなかった。私がアメリカに行ったのはいろんな理由がありますが、事実上の追放です。そして・・直央さんに出会ったのはそれは予定どおりです。これ以上のことは私には言えません。私もまた日向に縛られた人間ですから。哲人様と直央さんの出会いは、日向に変化をもたらす。私はそれを見届けるために帰ってきたのです』
「貴方を利用される。そう思ったら何かがこみあげてきた。忘れていた何かが、爆発しそうになった。勝也さんはそれを止めたかったみたいだ。どうもオレの過去に何かがあったみたいでね。貴方とオレの過去は、どうやら日向にとって重要なものらしい」
「・・マジ?」
思いがけない哲人の言葉に、直央はやっとそれだけ答える。
「だからってキスを受け入れたことの言い訳にはならないけどね。ほんと、思いがけないことだったんだけど」
「帰ってすぐにキスしなかったのはそれが理由?」
「え?」
「ちょっと、おこ・・だなオレ」
「!」
だから・・と直央は哲人に抱きつく。
「キスするときは目を瞑るんだよ?唇の感触があれば不安にはならないでしょ」
そう言うなり、直央が唇を押し付けてくる。
「なおひ・・ん・・っ」
「哲人・・目を開けてオレを見て。オレはちゃんといるから。もし、オレや哲人が覚えていない二人の過去が寂しい思い出なのだとしても、もうあの頃のオレたちじゃない。鈴ちゃんも涼平くんも・・強い味方はいっぱいいる。なにより、オレたちは二人で一緒にいる。不安にならなくていい!」
『けれど、今は鈴も涼平も力強い味方のはずです。亘祐だって、いつも哲人様を助けていてくれるはずです。・・それでも不安ですか?この私に殺気を向けるほどに』
「勝也さんも同じことを言った・・」
と、哲人は呟く。
「そうだよ、哲人はいつだって愛されていたんだ。だから、オレとも出会えた。だから・・ね、安心してオレを・・抱いて」
「直央・・いいの?オレは、だって・・」
あのまま誰もこなければ、おそらくもっと深いキスになっていた。
(オレの初恋って・・もしかして勝也さんだったのかな。ただ憧れの人だと思っていたのに)
「オレも千里のキスを受け入れたことあるしね。それに、勝也さんに救われた過去もある。これで帳消しにしていいよね」
「あ・・」
「だいたいね、哲人はモテすぎなの。カッコいいからしょうがないけどさ。オレの方が不安だっての」
直央はそう言って頬を膨らませる。
「今度勝也さんの会ったら、一発叩かなきゃ気が済まない!」
「直央・・」
「うん?」
「たまらないや・・ホント。好きすぎる、大好きで大好きで・・抱くよ。貴方が欲しくてたまらない」
自分が直央を守っているつもりだった。だから自分の運命に直央を巻き込むのが怖かった。
『怖い思いしたの?大丈夫だよ、ボクが君を守るから!だってボクはオトコだもん!だから・・だから泣かないで』
(はっきりとは覚えてないけど、直央の方が先にオレに温もりをくれた。オレはそれに身を委ねた。もう、それでいいじゃない)
「愛してる、愛してる。だから触らせて、貴方の素肌を。・・うん、これ。昨日も思ったけど今日も感じるよ。触ってるだけで、気持ちが良くなる。舐めてるこっちが・・感じちゃう」
せっかく着けたエプロンも、シャツも全部脱がして夢中で舐めまわす。
「あっ・・あん。せ、性急すぎ・・」
「そんなこと言ったって、直央だっていっぱい感じてるじゃないか。胸の先っぽも・・あふ・・固くて・・下の方も・・トロトロしたのが溢れてて・・」
「やっ・・だ、だって哲人が・・・・いっぱい舐めて・・。あっ・・そこ・・付け根のとこ・・すごい感じるの」
言われた通り、哲人は勃立した直央のソレを夢中になって舐める。もちろん、そこだけではなく先っぽをワザと音を強く立てて吸い上げるように舐めたりもした、
「あっ・・も・・やあ。お尻をそんな風に触ったら・・へ、変な気持ちになっちゃうって。・・ひっ!やあん」
「オレの指ももうずぶ濡れ・・ぐちゅぐちゅいって・・凄い・・昨日もした・・のに」
「て、哲人が望むなら・・毎日でも挿れて・・っていつも・・あ、あん・・もっと強く掻きまわして」
切なげな表情でそう要求する直央の唇に、哲人は己のソレを落とす。
「ん・・ん・・っ」
(もう何があろうと直央以外は受け入れない。この人しか嫌なんだ。オレの未来はこの人のもの・・)
「哲人ぉ・・イクの、もうイッちゃうのぉ!や・・っ、あ・・あ・・」
「鈴ちゃんが早く休ませてくれって言ったのに、哲人は元気じゃん。抜かずの2発て何よ・・」
直央が恨めしそうな顔で、哲人を見る。
「嫌だった?」
「そうじゃなくて!・・けっこう気を使ったの、オレ。だいたい、哲人は学校のことで大変でそっちでも疲れてると思ったから・・」
哲人が夜中まで勉強したり、パソコンに向かっているのは知っている。
「最近は寝不足な顔してたじゃない、朝。だから・・」
「気を使わせてごめんね。疲れてるのは事実なんだけど・・でも直央の魅力の方が勝っちゃうんだ。自分でもヤバイとは思ってるんだけど・・」
困ったような顔で、哲人は直央を見つめる。
「哲人しか相手にしてないから、自分でも自分の身体のことはわかんないけどさ」
と照れたような表情の直央の頬を、哲人はついと撫でた。
「哲人?」
「好きです、貴方が。その・・やっぱ一緒に住みませんか?」
「・・へ?」
「ただいま、涼平。今日もいっぱい働いたあ・・」
「お、お帰り・・景。夕飯はその・・出来てるから」
恋人を玄関まで出迎えにいった涼平は顔を赤くしながら、そう告げる。
「わっ、ほんと?嬉しいなっ。て、何で顔が赤いの?あ、キスしなきゃ」
「き、キス!?」
マジ?と思う間もなく、唇が塞がれる。
「っ・・ん」
「やっぱ、お帰りのキスは必要でしょ。・・だから何で顔が赤いの?呑んでたわけじゃないよね?」
「呑んでたって、お酒のこと?んなわけないでしょ!見た目はこうでも、オレはけっこう真面目なんです!・・自分じゃわかんないけど、顔が赤いのはつまり・・貴方がオレの家に帰ってきたからで。けっこうその・・」
自分でも思いがけないほどに照れてしまう。仕事帰りの景はもちろん女装ではなく、ごく普通のスーツ姿。涼平より身長は低いのに、その姿に見惚れてしまう。
(やっぱイケメンだわ、この人。整いすぎてるって、顔が。な、何でこんな人がオレの恋人なわけ?)
「涼平って、ほんと誤魔化す気がないというか・・学校で何があったわけ?ま、私からも言うことがあるんだけどさ」
「ご、誤魔化すって‥」
涼平の顔がさっと青くなる。
「な・・」
「っとにもう・・」
と、景が大きくため息をつく。
「よくそんなんで裏の仕事をやっていられたよね。命を張った交渉とかもしてんでしょ?」
「へ?や・・それは・・」
「涼平がモテるのはわかってんの!学校で何があっても部外者は手を出せないからねえ。でも、嫉妬はするわけよ!」
景がぐいっと顔を近づけてくる。
「っ!」
「・・キスしてよ。私が涼平の恋人なんだから」
「わ、わかってます。その・・ごめん。つい・・っていうか必要だと思ったからなんだけど・・」
「鈴ちゃんと何かあった?」
「!」
ずばりそう聞かれ、涼平は顔色を変える。
「や・・あ・・」
「必要なことだったんでしょ?悔しくないわけじゃないけど・・そこは大人の余裕で乗り越えるわ。で、何をしたの?」
「え・・・えーっと、その・・キスしちゃった。でも、鈴ははっきりと言った。哲人を愛してるって。オレも・・景を愛してると言った」
「・・」
「哲人のことでちょっとやっかいなことがあって・・鈴が暴走しかけた。言い訳になるかもしれないけど、アイツがアイツらしくいられるために・・って思っちゃったんだ。強くても、鈴はやっぱ女の子だもの。けど、それでも今はオレは景が好きです。だからその・・帰ってきてくれて嬉しいし・・他のところには行ってほしくはないなって・・思うの」
「はあ・・」
と、景は苦笑しながら答える。
「鈴ちゃんみたいな可愛い子が何でって思うけど、それが恋愛なんだよねえ。けど、涼平も浮気者だ」
「・・怒ってます?」
恐る恐る涼平は景に問う。
「私の転職のこと聞いたんでしょ?今度の日曜から一週間ほど有休取る予定なの。それ以上は流石に無理でね。けど、付き合ってもらうから」
「へ?つきあうって・・」
もう既に恋人なんじゃ・・と聞く涼平に、景はにこっと微笑む。
「いっ・・」
「私のリフレッシュに付き合ってもらうってこと。人の恋人の唇を受け入れたんだから、鈴ちゃんにも文句は言わせないよ。生徒会の活動もほどほどにしてもらうもんね。とりあえず、今度の日曜はデート」
「や、それは・・」
なぜかニヤケてしまう。今日の哲人の様子を考えるとそれどころでは無いと思いつつも
(だってこの人・・可愛いんだもの。えーっと、来週中なら割と・・余裕だよな。・・ぎりぎり)
To Be Continued
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