33 / 61

第33話

「嘘ッ・・だろ」  一宮はスマートフォンの時計を見て叫ぶ。そこにタイミングよく担任教師と三上が現れる。 「お前・・気分が悪かったのなら言えよ。や、気づかないオレも悪いんだけど。・・そうなんだよ、鈍感すぎって言われてフラれるのが常なんだよなあ」  クラス担任の武内は本気で落ち込んでいる。隣で三上は「ダメだ、この人」と苦笑している。 「優しいけど肝心なことは気づいてくれないんだよね、とか言われるんだよ。ちゃんと相手のこと見てない、必要なことは平均的な優しさでは推し量れないんだよって。だから、お前らのことは一生懸命に見てるつもりなんだけど、でも結果的にこうなった。ほんと ・・悪かった」  そう言って頭を下げる武内の様子に、一宮も三上も驚いて手を横に振る。 「いやいや・・オレら先生のこと大好きっすから。そりゃ空回りしてる感もあるけど、この学校が変わっていくためには先生みたいなの必要だと思いますもん。だいいち、先生って普通にしてりゃ普通のイケメンですよ。でも、こういう先生がオレらは本当に好きなんです」 「・・お前らみたいなイケメン高校生に言われても、あんまし説得力ねえよ」  武内はがくんと首を垂れる。三上はため息をついて 「そこまでネガティブにならないでくれます?・・歴代彼女さんの気持ちがわかった気がするっすわ。とにかく、一宮はオレと一緒に病院にいく。食欲はそれなりにあるみたいだけど、熱は下がってないだろ。学校の近くに親戚がやってる病院があるからさ。あ、無理して食うなよ?吐いたらそんだけ身体の負担になっちまうから」 「・・三上がオレを病院に連れていくわけ?何で?」  昼休みになってようやく目覚めた一宮は、思いがけないクラスメートの言葉に唖然とする。 「親戚とお前に恩を売っておくのが目的に決まってんだろうが。横の席のお前がいないと、オレの内職や早弁が目立っちまうんだよ」  カラカラと笑って三上は一宮をじっと見つめる。 「?」 「・・やっぱそういうリアクションだよな、別にいいけどさ」  三上の声が少し寂し気なものになる。そのまま教師を促して保健室を出ていこうとする三上に、一宮は慌てて声をかける。 「悪い!普段からもそうなんだけど、お前に迷惑かけっぱだってことオレは自覚してっから。だから今日はアリガト、マジで」 「・・そういうセリフは治ってから言ってくれよな」  片手を上げて、そして尚もメソメソしている担任を引っ張るように三上は部屋を出て行った。 「三上って・・そんなに喋った記憶はないんだけど。あいつ、そんなにヒマなの?」 「職員室まで武内先生引っ張ってたらさ、まあ日向先生がいたわけなんだけど、とにかく平謝りでさ。みっともないっていうか日向先生も困ってんの」  放課後、一宮の荷物を持って三上が保健室に迎えにきた。二人はそのまま学校の近くにあるという三上の叔父の経営する病院に向かう。 「武内先生って30過ぎてんだっけ。けっこう顔はイイ方なのに、いろいろ報わ れてないみたいだから、そりゃ拗らせてしまうというか。・・そこは日向先生には全く関係ないと思うけどね」 「面白い人ではあると思うけどな。オレ達に寄り添って物事を考えてくれる人だし。・・もしかしてオレのことで日向先生に謝ったとか、そういうの?」  げっ、という表情で一宮は聞く。三上は肩をすくめながら答える。 「自分が先に気づいてなきゃいけないのに、日向先生に授業のこととかも何もかも負担させちゃったから・・って。思うにあの人日向先生のこと特別な感情でもって見てるぜ」 「ぶっ・・はっ?はああああ!?・・げほん、げほん」  思いがけない三上の言葉に、一宮は思わずむせてしまう。 「だ、大丈夫か。悪い悪い・・や、オレってぶっちゃけゲイだからさ。なんとなくそういうのはわかるわけ」 「ぶっ!・・ぐっ」  更に思いがけないカミングアウトが一宮を襲う。 「げ、ゲイって・・マジなのか?」 「うん、マジ。で、好みのタイプは一宮みたいの。でもお前が哲人先輩が好きなのわかってた」  そう言って三上はニコッと笑う。 「っ!」  身長は一宮とそう変わらない。少しがっしりとした体格で、精悍な顔つきからスポーツマンタイプに見える。が、笑うと意外なほどに優しい感じになるのを、一宮は初めて知った。 「い、いいのか?その・・ゲイとか言っちゃって」 「だってオマエもオトコが好きじゃん。や、ゲイじゃないのはわかってるし、相手が哲人先輩なら納得はできるさ。でも、哲人先輩には恋人いんだろ?」 「そ、それは・・ ・」  どういうつもりで自分にそう聞いてくるのか分からずに、一宮は言葉を詰まらせる。生徒会長の日向哲人に同性の恋人がいるのは最早公然の秘密となっているし、一宮は実際に顔を合わせてもいる。 「や、だからってそこに付け込む気もなかったんだよ」 と、三上は頭を掻きながら少し困ったような表情になる。 「三上・・」 「もう一つカミングアウトすると、オマエに近づけってのは入学前からの親父の指示なんだ。ウチの業務的にオレがオマエと仲がいいと親父が得するんだってさ、簡単に言えばね」 「へっ?」 「親父はオレがゲイとは知らない。知ってても認めたがらないだろうけど。だから単にオマエの親との繋がりが欲しかっただけ。でも、オレは入学した時にオマエに一目ぼれだったから、そういう理由で近づきたくはなかったんだ」  着いたぜ、と三上に言われ一宮は目の前の建物を見上げる。 「思ったよりも小さいな・・あ」 「親父の弟の病院なんだ。実親より叔父さんの方がオレは気が合う。オレの性癖のことも知ってるしな。親父と違って金には執着しない人なんだ。人情派の町医者って感じ」  そう言いながら、三上は入り口のドアを開ける。 「叔父さんーん、友達連れてきたから早く診てあげて」 「お前って用意がいいんだな。普通、保険証なんか持ち歩かないって」  診察が終わり、近くの薬局で薬を貰うために一宮と三上は椅子に座っていた。 「気分はどうだ?」 「熱も下がってたし、オマエの叔父さんの話が面白くて気も紛れたしな。朝よりはだいぶイイよ」  一宮が微笑むのを見て、三上は心底ほっとしたという表情になる。 「そうか、よかった」 「で、さっきの話だけど・・」 「何?あ、オマエ呼ばれてんぞ。薬の用意ができたみたいだな」 「あ・・うん」 「・・で?さっきは何を言いかけたんだ?」  薬局を出て、二人は歩き始める。 「や、その・・オマエがオレを好き?・・っての」  顔を赤くしながら、一宮はやっとの思いで聞く。 「三上って普通に女子にもモテてるじゃん。けど、特定の相手がいないのはよほど理想が高いんだと思ってた」 「それは、オマエにも言えることなんだけどな」 と、三上は苦笑する。そして真面目な表情になる。 「?」 「日向先生と何があったんだ?いくら哲人先輩への想いが報われないからって、顔の似ている先生に・・ってのは短絡的すぎると思うんだけど」 「っ! 」  三上の声は少々キツイ感じではあったが、一宮を非難しているわけはないらしい。 「少なくとも日向先生はオマエを意識してるよ。夏休みにも何かあったろ、一か月前にも」 「何で‥知ってる?」  思わずそう答えてしまった。 「どうしてもオマエを目で追ってしまうからな。惚れてるんだ、当たり前だろ?けど、度を超すとただのストーカーだしな」 「三上って、マジでゲイなの?や、オレはどうしたって・・」  困ったような表情の一宮を見て、三上は大きくため息をつく。 「はあぁ。オレが哲人先輩や日向先生に勝てるとは思ってねえよ。だからこそ尚更今カミングアウトしたんだよ。そりゃあ、ちょっとは付け込めるかなとは思ったよ、正直。でも日向先生は凄くオマエのこと心配してた。教師の責任てだけじゃないのは、分かる人にはわかるよ」 「けど、あの人はやっぱ教師だから。や、そんなの最初からわかってたけど・・」  けれど教師になる前の勝也をいろいろ見ていたから、と一宮は寂しそうな表情になる。 「だからそんな顔すんなっての。オレの理性が壊れるだろうがよ」  そう言いながら三上は一宮の頭をぽんぽんと叩く。 「で、オマエはマジで日向先生が好きなの?」 「・・んなことオマエに言ったら、なんかいろいろ気まずいことになりそうじゃんか。暫く席替えも無いだろうしさ」  三上に手を自分の頭の上に置かれたまま、一宮は少し恨めし気な目で三上を見つめる。 「・・それって素?天然?」 「はあ?」 「・・こんなことなら、もっと早くに告っとけばよかったな。しくったわ・・」  三上は何度目かの深いため息をつく。 「ばっ、オレはゲイじゃねえんだから。哲人先輩は憧れの人で、日向先生は・・寂しい顔をさせたくない人なんだよ」  どういう風に答えるのが正しいのか、正直わからない。そう呟く一宮を三上は痛々しいものを見る表情でじっと見つめる。 「だから、オマエもオレを・・。や、気を使ってくれるのありがたいし、今日も本当に助かった。オマエみたいな優しくてかっこいいヤツに好意を持たれるのは、マジで嬉しい。けど、オレってほんとメンドクサイし・・」 「それでもオレはやっぱ一宮が好きだなと思うし、それこそ寂しい顔させたくないんだけどな。少なくとも後2年はオマエと日向先生は教師と生徒の立場だぜ?もしかしたら、担任になるかもしれない。顔を合わせる度にそんな表情を好きな人に見せる気?」  三上の声はあくまで淡々としたもの。 「オレみたいに後悔するの嫌だろ?」 「だってメールもLINEも返してくれないんだもの。向こうからアドレス教えてくれたのに。いろいろ考えてたら、頭痛くなってさ」 「・・えーっと、普通は脈アリだよな、そのパターンは」  三上は呆れたような表情になる。 「オマエら、普通にくっついちゃえよ、もう。じゃないと、オレ・・本気でオマエを抱きしめたくなる」 「!・・だから、そういうことは言わないでくれ。オレは・・本気で好きなんだ、日向先生が」  そう言った自分にホッとしていることに気づく。 「さっきも言ったけど、日向先生はオマエのこと十二分に意識してるよ。二時限目の授業が終わるなり教室を飛び出していったからな。んでそのまま保健室に・・って。ずっとオマエを見てたよ、あの人」 「・・マジ!?」  全く気付かずに寝ていたことを後悔する。 「なら何でLINE返してくれないんだろ」 「照れてんじゃない?あの人、意外と純情そうだし」 「何で、オマエにそんなことわかるんだよ」  不審そうな顔で一宮は聞く。 「ゲイの感。オマエらって似たモノカップルだよ。とにかく後悔だけはすんな、オレもなるべく助けるから」 「・・何で三上ってそんなにイイ人なんだよ。惚れないけど、イイ男だとは思う。・・惚れないけど」 「オマエって、案外失礼なヤツだな。感謝の印にオレを名前で呼べよ、オレもそうすっから」  そんでもってホレとメモ用紙を一枚出してきた。 「名前で?三上の下の名前って睦月だっけ?そんでこれは電番?」 「そうだよ、ちゃんと名前知っててくれたんだな。オレはそれだけでも嬉しいわ、奏」 「そっか、病院に行ったのか。世話好きな同級生がいた・・と考えるべきか、単にオレが辛い思いをするのか」  スマートフォンを眺めながら、勝也は我知らずため息をつく。 (というかそれが普通だろ?同年代で付き合うのが一番イイ。オレなんかと一緒にいるより、よっぽど一宮のためになる)  なのに、こうやっていちいちLINEを送られてくることが勝也は嬉しいと思ってしまう。 (オレは・・それでもやっぱり恋は出来ない。涼平のようには割り切れない) 『哲人の近くに置く君を、私がコントロールしないわけにはいかないからね。けれど、君が 本当に誰かを愛したら・・それは哲人にも思ってたことだけどね。・・私は不幸を願っているわけじゃないよ?』   この学校の理事長である高木琉翔たかぎりゅうとの言葉を思い出す。 (オレは哲人のようにはなれない。誰かを好きになっても、誰も幸せになんかならない) 『貴方の何もかもをオレが愛すればいいんでしょ!直央さんが哲人さんにそういう想いを持って愛したように』 (子供にあそこまで言わせてしまうほど、オレは弱ってたのか。・・一宮はイイ子だ。オレなんかに愛されていいわけが無い)  ならなぜ、あの日渋谷に行ったのか。 「日向先生、プリント集めてきました」  ふと声が聞こえ、勝也はびくっと身体を震わせる。 「てつ・・・や、日向くんか。何で、君が・・。私は日直に集めて持ってくるように言ったはずだが?」  よりによって何で哲人が、と少しキツイ口調で聞く。 「・・すいませんでした。彼女が塾に遅れそうだというので、オレが代わりを買って出たんです。余計なことをしました」  そう素直に頭を下げる哲人の様子に、勝也は慌てて声をかける。 「ち、違う!・・違うんです。私はただ・・すいません、ちょっとイライラしていたので」 「勝也さ・・日向先生、本当に大丈夫ですか?顔色が悪いのですが」  そう言って哲人が顔を覗き込んでくる。「!」 思わず顔を逸らしてしまい、なおさら自己嫌悪に陥る。 「オレ・・何やってるんだろう」  思わずそう呟いてしまう。 「勝也さん、大丈夫じゃないんでしょう?だって顔が真っ赤・・」  勝也の呟きに気づかない哲人は、もっと顔を近づけてしまう。 「日向く・・哲人さん、それ以上の拷問はやめていただけませんか。本当に頭が痛くなってきたので」 「拷問?」  困惑気な表情になる哲人を、勝也は複雑な心境でちらちら見る。 「貴方は本当に直央さんのために生きているのですね」 「えっ?」 (融通がきかない性格だというべきか。そういうところは“実の父親”には似ていないな。顔もそうだが実母には似ている) 「私は大丈夫ですよ。君こそ疲れすぎて、直央さんと喧嘩しないでください。もうすぐ文化祭なのですから」 「って、勝也さんに言われた。鈴、何か余計な事言ってないよな。オレがまた直央と喧嘩したとか」 「何でそんなこと、ボクがいちいち勝也さんに言うんだよ。つうか、“また”喧嘩したの!?今度は何よ」  笠松鈴は心の底から呆れました、という表情を哲人に向ける。 「・・昨日、例のアニメの放送があっただろ?で、オレの部屋の隣の住人が声優なんだけど、その人が出てたんだ。モブキャラだったんだけど。でもまあ・・なんていうかイイ声ではあった。けど、直央があんまりカッコイイって言い続けるもんだからさ。直央もわかってて煽ってんじゃないかと思うよ、ほんと」  その時のことを思い出したのか、哲人の表情が厳しいものになる。 「直ちゃんがそんなこと考えるわけないでしょ。や、ボクも誰があのマンションに住んでるかまでは流石に知らないけどさ。哲人は会ったことぐらいはあるんでしょ?」 「直央と一緒に挨拶したことあるらしい。けどオレは全然記憶にない」 「隣人の顔と名前くらいは憶えておこうね、哲人。直ちゃんが一人で留守番してることだってあるんだからさ」  3年近くも何をやってたんだと、鈴は大きく深くため息をつく。 「直央に一緒に住もうって言われた」  哲人がボソッと呟く。 「えっ、よかったじゃない。ずっとそう言って口説いてたんだから」  なのに、何でそんな浮かない表情になるんだと鈴は首をかしげる。 「ずっとくっついていたいんでしょ?涼平たちだって、今じゃ完全に同棲生活しちゃってるよ?」 「・・未だに信じられない事実だけどな。や、それを日向が許したってこともだけど、あの涼平が同棲って・・」 「一人でいてムチャされるよりいいからね。あいつのソレは死に直結する可能性大だから。それはともかく、 直ちゃんと何があったの?」 「実は・・」 『オレが哲人と一緒にいるの!オレが哲人の家族になるんだもの。プロポーズされたのオレだもん。哲人と一緒に住むのはオレだもん!』 「哲人と一緒に住むのはオレだもん!・・か。確かに変な言い回しだね。まるで誰かと自分を比べているみたいな」  鈴の表情が険しいものになる。 「直央はオレと自分の過去を取り戻そうって言った。それはオレも同じ気持ちで、でも今のオレたちの状態では思い出してはいけないものまで、過去がほじくり返されそうな気がして・・怖いんだ」 「怖・・い?哲人が?」  まさか、と思いながら鈴は哲人を見つめる。 「基本的にはそりゃ直央と二人で幸せになれればとは思う。けれど、実際問題そうい うわけにはいかないだろ?最初から一番焦ってたオレが言うのもなんだけどさ」 『哲人はボクの後ろにいて!ダメ・・あの人は哲人を連れてっちゃう。ボクが哲人を・・』 「!」 「昔、直央がそんなことを言った気がする。誰に対して言ったのかはわからないけど、多分小さい時から直央はオレを守っていてくれた」 「哲人・・」  鈴はそれ以上言葉を続けるのをやめた。 (もしかしたら・・もしかしたら・・あの時あそこにいたのは・・。ならなぜ、ちゃんと迎えにこない?哲人はずっと待っているのに)  8年前、まだ小学生だった自分にはあの時の状況はよくわからないものだった。けれど、直央が発したその言葉は覚えている。 (だから・・なの?あれは哲人と直ちゃんを出会わせるためのパーティーだったの?直ちゃんは・・いったい・・)       誰なの? おそらく、直央自身が一番知りたいこと。 (ボクはどうすればいい?8年前の記憶が戻りつつある二人をボクはどうフォローすればいいの?)  泣きたくなる。 (一度、直ちゃんのお母さんと話した方がいいのかもしれない。ボクももう逃げてるわけにはいかない時がきたってことかもしれないから) 「あのね、哲人」 「ん?」 「直ちゃんの・・」 「鈴!ヤバイ報告が入った・・って哲人もいたのか」 橘涼平がゲッという表情になったのを見て、哲人は訝しぐ。 「んだよ、涼平。オレがいたらマズイのか?だいたい、ここは生徒会室だぞ。会長のオレがいるのが当たり前だろうが」 「や、オマエは職員室に行ったって聞いたからさ」  まいったな、と涼平は困ったように頭を掻く。 「哲人がいると、話がややこしくなる・・」 「なんでそうバカ正直に答えちゃうのかな、涼平は。所帯持ちになると、牙も丸くなっちゃうのかね」  そんなんだから、ヤクザに襲われるんだと鈴は半ば本気でため息をつく。 「は?ヤクザに襲われたって・・。そんな報告をオレは受けてないぞ!」  驚いて声を上げる哲人のその様子に、今度は涼平がため息をつく。 「・・あのなあ、ぶっちゃけ そんなことしょっちゅうだから、いちいちオマエに言わねえよ。つうか、それがオレの仕事なんだしさ。そんで鈴!」 と、今度は鈴の方に向き直る。 「何よ」 「オレは、確かに他人と一緒に住んでるけど、所帯を持ってるとかそんなんじゃない!け、結婚してるとかじゃないんだから、哲人の前で変なことは言わないでくれ」 「そんな真っ赤な顔で何言ってんのよ」 と、鈴は呆れ顔で答える。 「他人じゃないでしょ、恋人でしょ。ていうかすでに家族みたいなもんでしょ。先日、二人で歩いてるとこ見たけど、内田さんが女装してたせいか普通のカップルに見えたよ?」 「み、見たのか!」  涼平の顔が更に赤くなる。哲人が不思議そうに聞く。 「なんで女装?涼平の希望?」 「ち、違げえわ!オレはオトコとしてのあの人に惚れた・・そ、それは別にいいんだよ。どっちにしたって可愛いのは変わらないんだから」 「うわっ、出たよ涼平の惚気」 と、鈴が顔をしかめる。 「好きなんだから、イイだろうがよ!・・あれは尾行に付き合ってもらったんだよ。や、オレが頼んだわけじゃないけど、オレがヤクザに襲われたこともあって、心配だからどうしても・・って」 「そ、そんなこと聞いたらオレだって心配するわ!一応、黒猫のトップはオレなんだぞ。オレが何も知らないでいるわけにはいかないだろ」 「それは・・まあそうなんだけど」  不満げな哲人の表情に、涼平は曖昧にうなづく。 「哲人が一番ムチャして、ボクたちを困らせるからだろ。で、ヤバイ報告って?」 「や・・だって哲人が・・」  涼平が困ったように哲人の方に視線を向ける。 「不本意であるけど、現状を把握してもらわないと哲人のためにもならないかもしれないから。高瀬亮のことだろ?動くのならこの文化祭の時だと思ってた」 「!・・ヤツが東京に戻ってきているのか?いつから・・。侑貴と生野は知っているのか?」  哲人の顔色が変わる。涼平も鈴も真剣なソレになる。 「流石だね、その二人のことを気にしてくれるのは。どうなの?涼平」 「・・まだ侑貴に接触はない、直接的なのはな」  鈴に話を振られ、涼平は渋々という感じで答える。 「今の侑貴に、生野に嘘をつけるとは思えないからな。侑貴に何か変化があれば生野は必ず気づく。黒猫はあの二人にも付いているから」  3人の友人で同じく生徒会役員でもある生野広将いくのひろまさは3歳上の大学生でバンド仲間の上村侑貴の恋人だ。 「生野は侑貴と高瀬の関係も知っている。一番巻き込みたくなかった友人だけどな」  哲人や涼平たち日向一族の暗部を最もよく知る殺人者集団である白狼の元トップだった高瀬を心ならずも保護者兼愛人としていたのが侑貴。が、今は広将と一緒に平和に暮らしてはいる。 「高瀬は侑貴にも哲人にも恨みを抱いているからな。侑貴はあれだけ生野を大事にしているんだ、裏切るとかは無いと思う。だから手を出すなら生野か・・直央さんだと思っていた」 「!」  哲人の手がぶるぶると震えだす。それを見て鈴は眉をひそめる。 「落ち着いてよ、哲人。君がそういう態度だと、相手の思うつぼだよ。覚悟はしてたことでしょ、哲人も直ちゃんも」 「だからって!・・いろいろ事情も変わったじゃねえか。生野たちは今が大事な時だろ?それに・・」 と、哲人は唇を噛む。 「?」 「直央がオレから離れたがらない」 「はあ? イイことじゃないか。さんざんオマエが願ったこと・・」 「違うんだ、涼平。不安・・がってるんだ、直央は。過去を思い出しつつあるらしい」 「っ!」  哲人のその言葉に涼平は思わず鈴の顔を見る。 「・・・」  鈴は難しい表情で無言で二人を見ている。 (鈴、今が打ち明けるチャンスじゃないのか?オマエだけが知っている事実を)  なぜ、8年前の出来事の記憶をはっきりと持っているのが鈴だけなのか。 「鈴!」 「できたら、文化祭の前にケリをつけたかったんだけどね。当日は関係者が集まることになるからね・・」  あの時の・・と鈴は小さい声で呟く。 (もしあの時に哲人の両親がそこにいたのなら、その事実は哲人に何をもたらす?哲人の家族になりたいと願ってい る直ちゃんの気持ちは・・)  自分との関係も変わるのかもしれない。侑貴たちとの信頼関係も無くなるかもしれない。 『ふふ。鈴は一番日向の血筋を引いてるよ。・・一番苦労させるね、ほんとごめんよ』 (そう言ってあの人はボクの頭を撫でた。哲人と同じ雰囲気を持った・・たぶん哲人のお父さん。ボクが今の運命を受け入れたのはソレがあったから) 「直ちゃんもくるんでしょ?哲人の手助けをしてもらえばいいよ。一番哲人と気が合うんだし、当日はボクも涼平もそれどころじゃ無いだろうしね」 「鈴・・怒ってる?」  ついそう聞いてしまう。鈴は笑って 「どうしてそう思うの?」 と逆に聞き返してきた。 「心配・・するさ、鈴は大切な女の子だもの。オレがもっと 器用に生きられる男だったら、鈴にそんな顔させないで済んだのにって、オレはいつも・・思ってる。オレの勝手すぎる感情ではあるけどな」  哲人の表情がとても悲しそうなものに感じられると、涼平は思った。 (哲人?・・) 「ほんと、哲人は勝手だよ、いつも」 「鈴・・」 「守り守られる間柄が理想のカップルだと思うよ。直ちゃんはもっと以前からそれを決めていた。たぶん、一番泣いていたのは・・」  あの時も現在も直央なのだろうと、鈴は思う。 (最初に直ちゃんに声をかけたのはボクだもんなあ、8年前。あの頃は、哲人の方が可愛い顔してた。直ぐ二人は仲良くなって。でもそれを引き裂いたのは・・) 「ボクの生きる理由はいつだって哲人と直ちゃんなんだ。それはボクの我儘だから。哲人のこと本当に凄く好きだけど、直ちゃんも本当に大切な存在だから」  今、こんなこと言う自分は本当にズルい人間だとも思う。自分だけが一人ぼっちだという事実を言い訳にしているけれども。 「涼平、校内のいろんなポイントを見回っておきたいんだけど、ついてきてくれる?結構デッドスポットが多いんだ、この校舎。いざというとき、こっちが追い込まれる立場になったら困るから」 「で?哲人に知られたくないヤバイ報告って?」  生徒会室を出て、直ぐに鈴が涼平に聞く。 「・・は?現状を哲人に把握してもらわないといけないって言ったのは鈴だろ?」 「なんだかんだで肝心なことは言わなかったし、言わせなかったろ?必要以上に哲人の不安を煽りたくなかったし、チャンスも潰したくなかったんだ」 「チャンス?」  どういうことだと涼平は訝しぐ。 「鈴、何を企んでいる?オマエのことだから哲人を傷つけることはしないと思うけどさ」 「ふふ、涼平は本当に牙が丸くなっちゃったのね」 と、鈴はカラカラと笑う。その鈴の態度に涼平は眉をひそめる。 「オマエ・・本気か?」 「直ちゃんの記憶が戻りつつあるんだ」 「えっ?」 「今このタイミングで・・ってのは何か意図があるんじゃないかってボクには思えるんだよね」  鈴は真剣な表情になって言葉を紡ぐ。 「今の関係者ほとんど8年前に会っているんだ。その記憶があるのはボクだけみたいだけどね」 「・・けど生野たちはどうするんだ?今度の文化祭でアイツらに何かあったら、後々ヤバイだろ。ただのストーカー事件とかに偽装は出来ない。“クスリ”が関係してくることだしな」 「わかってる。納入業者の一部は切ってある。・・普通の汚職事件ならともかく、ドラッグ関係となると容赦はできない。オヤジさんに一任はしたけど、たぶん生きてはいないと思うよ」  そう言うと、突然鈴はうずくまる。 「鈴・・」  涼平も腰をかがめる。そして鈴の頭を優しく撫でる。 「馬鹿だな、哲人も言ったろ?」 『心配・・するさ、鈴は大切な女の子だもの。オレがもっと器用に生きられる男だったら、鈴にそんな顔させないで済んだのにって、オレはいつも・・思ってる。オレの勝手すぎる感情ではあるけどな』 「確かにオレも哲人も身勝手な男だけど、 鈴のことは本気で大好きなんだ」 「けれど、それ以上に好きな人がいる。しかも、それが同性ときたら・・ボクはほんと複雑だよ。仕掛けたのはボクだけどさ」  たまたま好きになったのが同性だった・・よくある話だが、この関係者たちにおいてはその理屈が通じない気がすると涼平も鈴も感じている。 「あの8年前のパーティーは、ボクと亘祐は哲人の付き添いだったんだ。もちろん勝也さんも一緒だった。・・その頃には前ほど哲人の側にはいなかったけどね。でも哲人が凄く泣いてね。勝也さんが行かなければ、自分も行かないって」  あの頃の哲人は本当に可愛かったと、鈴は微笑む。 「ただ、どういう内容のパーティーだったかはわからない。ずっと調べてはいるんだけどね。けれど、もし今回の事が関係しているのだとしたら・・」 「ドラッグ・・!まさか」 と、涼平の顔色が変わる。 「そんなところに子供を・・」 「当局の目をごまかすため・・だったのかもしれない。実際に事件は起こったわけだし。けれど、侑貴の両親もいたということも考えると、そういうことで間違いはないと思う」 「侑貴の両親?何でそこまでオマエが知っている?」 「・・調べたんだよ、もちろん」  鈴は少し視線を逸らす。それがなんとなくわざとらしいとうにも感じたが、涼平はそこには突っ込まなかった。 「侑貴の両親はその直後に殺されたんだっけ」 「ああ・・」 『しようがしまいが、私には関係ない。キミの近くには琉翔がいるだろう?本当にキミが望むことは、彼の方が よく知っているはずだよ。8年前に何があったのかも、ね』 『8年前?・・侑貴の両親を心中にみせかけて殺したときのことか?』 『侑貴もそう思っているんだろうな。・・けれどそれも正確じゃない。侑貴もキミたちも信じないだろうけど。でも、私なりに侑貴を守ってきた。行き過ぎた愛情だったのは認めるけどね』 「高瀬が歪んだ思いからとはいえ、侑貴の側にいたのにも意味があるはずだ。侑貴の存在がどう日向に関係しているのか。それを知っているのは琉翔さんのはずだけど、あの人が本当のことを言うはずがない。日向を実質的に牛耳ってなおかつ壊そうとしているのあの人だから」 「侑貴と生野のバンドをアニメに推薦したのは鈴なんだろ?」  涼平が複雑そうな表情で聞く。 「そうだよ。けど、そこまであの時は知っていたわけじゃない。特にいっちゃんの存在が謎だった。哲人ととのいきさつも聞いてなかったしね。いっちゃんに年の離れた従兄がいると知るまでは・・」 「生野は何も知らないんだな・・」 「8年前のアレが本当にドラッグに関係したものだったのなら、知らない方が幸せなパターン。親御さんも言ってないみたいだし。けれど、涼平・・本当は君にも知られたくなかった。内田さんと普通にしていられる?や、あの人は直接には関係ない・・んだけど」  そう言うと、鈴は先ほどよりももっと悲し気な表情になる。 「鈴!」 「ボクは利用できるものは全部利用するよ。真実を知りたいから。だから、ボクのことを必要以上に心配するのは止めてよね」 「て、鈴から言われたんです」 「ははっ、一番複雑なのは私なんだけどね」  内田景はベッドに腰掛けながら、困惑気な表情で恋人に話しかける。 「つまり、涼平も知ってたのか。うーん、一応言い訳すると広将の従兄と付き合ってたとかじゃないないからね。確かにその頃はモデルやってて、まあいろいろ壊れてた時ではあったけどさ」 「・・言っちゃあなんですけど、いちいち人の過去を気にしてたらオレも普通の気概で仕事できませんて」  そう言いながら涼平は景にコーヒーを勧める。 「知ってたというか、オレの近くに余計なことをする輩がいるんですよ。そいつからの情報なので・・」 「全部覚悟の上で涼平と付き合おうって決めたけど、日向を甘くは見てたね。けど、だからってわけじゃないよ?広将をスカウトしたのは。本当に侑貴とくっつくかは本人たちの気持ち次第だと思ってたし、それがどういう結果をもたらすかどうかは私にも予測がつかなかったしね」  けれど、申し訳なかったねと景は目を伏せる。 「別に責めてるわけじゃないです。・・どうしたって、オレは貴方が好きだもの。ただ、生野を傷つけたくはないんです。あいつには夢をちゃんと見ていてほしいから」  今度の文化祭の目玉を生野たちのバンド「フルール」にしようと決めたのは涼平だった。 「まあ、ぶっちゃけ準備と予算不足なのもあったけど、広く世間一般に知ってほしかったから。いつか、琉翔さんのことがバレたときのために」 「・・よく隠し通せてると思うけどな、アニメの原作者が学校の理事長だって事実」  呆れ顔の景は一気にコーヒーを飲み干す。 「製作委員会の誰も知らないってのも前代未聞だと思うけどね。鈴ちゃんも働きすぎだと思うわ。本当はもう涼平にも無茶はしてほしくはないんだけど、女の子一人に背負わすわけにはいかないもんね。でも、これ以上涼平の傷も増やしたくないってのが本音」  景が涼平のシャツをたくし上げて、真新しい傷に指を這わす。 「ほんと・・ムチャしないでよ。涼平は私の大事な大事な恋人なんだから」 「ごめん・・なさい。でも、今回で終わりにできればなと思っている。高瀬を今度こそは殺す!」 「って・・」 と、景は立ち上がってカップをサイドテーブルに置く。そして涼平の方に向き直る。 「景・・」 「それ以上は涼平の手は汚させないよ。それが、涼平の運命だとかいうなら私が引き裂くから」  “彼女”と約束したことだからとは言わないけど、と景は心の中で謝る。まだそれは言うべきではないはずだからと。 「広将の従兄・・敦さんていうんだけど、彼があの時誘拐同然に広将を連れてきたとき、最初に異変に気付いたのは哲人くんだったんだよ。そして私に教えてくれた。あの子は覚えていないみたいだけどね」 「・・哲人も驚くでしょうね、オレより先に貴方と会ってた知ったら・・っ」  自分でもあれ?思うほどに、涼平の声は沈んだものになった。 「今は涼平が私の一番側に毎日いるわけだから。てか、そんなに嫉妬してくれるとは思わなかったな。・・そうだね、あの時私にコンパニオンとして潜入するように言った人物の名前を明かしてもいいだろうね。もう時効な話だろうし」 「!・・それを言ってしまったら、貴方の身が危険じゃありませんか?」   流石に涼平は慌てる。その事実を景が隠していることにも気づいてはいたが。 「どっちにしたって私の身は常に危険に晒されているよ。それも承知で日向の中にいるわけだし。けれど、涼平と一緒にいたいんだもの。っていうぐらいに涼平に惚れてんだよね、私」  ふふ、と景は笑う。そしてある人物の名前を告げる。それを聞いて涼平はふうぅと大きくため息をつく。 「どんだけ昔からの計画なんだよ。一番の悪はやっぱあの人なんだよな。オレも鈴も哲人もわかってるけどさ」 「鈴ちゃんがそれでも私と涼平をくっつけようとした本意はわからないけどね。まあ、私は自分の身ぐらいは守れるから。けど『フルール』は守ってほしい。じゃないと、侑貴のご両親にも申し訳が立たないからね」  景は真剣な顔で涼平にそう言った。涼平も大きく頷く。 「わかってるよ。侑貴も言うなれば日向の犠牲者だからな。そんで景も絶対死なせない。・・愛しているから」  そう言うと涼平は顔を景に近づける。 「オレの周りは歪んだ思いばかりだけど。けど、オレのこの想いはマジで真剣だから。いろんなことにケリをつける日になると思う。でも今は・・」  唇が合わさる。想いがその合わさった熱さと共に全身を駆け巡っているようだと、景は思った。 (ああ、私は本当に愛されているんだね。経緯がどうであろうと、涼平は私を・・)  涙が出そうになって、慌てて抱きしめるその腕に力を込める。8年前からの罪から逃れるつもりもない。けれど贖罪のためだけに生きるのも間違いだと思って。 (鈴ちゃんを過去からの呪縛から解き放つのも、私の役目だよね。8年前あの場にいた大人の中で今自由に動けるのは私だけ。高校生の彼らの手を汚すわけにはいかないから) 「貴方を泣かせないって、オレは決めたのにな」  涼平が唇に力を込める。 「ん・・ふ・・んん」 (好き、大好き。地獄に落ちてもしょうがないって思ってたけど、やっぱ涼平とずっと一緒にいたい。・・ごめんね、私がもし不幸になっても涼平だけは守るから) 「ん・・気持ちイイ・・もっと・・」  いつもと反対だと涼平は微笑みながら唇をくっつけて、景の頭を撫でる。 「ふふ、いつまでもこういうわけにはいかないよね。だって、私が涼平を抱くんだもの」  愛されたいと思うのに、セックスはどうしても自分が主導権を握ってしまう。自分が年上だというのもあるが、実は照れ隠しだということは相手には知られたくない事実。 「涼平・・私を頼って。貴方が笑っていてくれないと、私・・」 「好きです、景。貴方の声も何もかもオレには心地がイイ」  そう言って、涼平は目を瞑る。 「こんな素敵な人が側にいてくれて、オレが幸せに思わないはずがないでしょう。貴方じゃなきゃ・・」 「私を忘れられないようにしてあげる。毎日そう思って接してはいるけどね」  涼平のシャツを剥ぎとり、景はその胸に舌を這わす。「はっ・・ああ」と涼平の口から声が漏れる。 「気持ちイイでしょ。・・・こういうのが大人のズルさなんだけどね。でもダメなの・・わかっていても涼平から離れられない」  守るといいながら縋ってしまう自分は最低だと思いながらも、この身体に執着してしまう。女装癖という自分の性癖からは自分でも思いもよらないくらい、この年下の少年の身体を欲してしまう。 「触らせてよ、涼平のアレを」  ズボンを脱がせ、相手の下半身を露わにする。そしてソレを口に含む。 「あっ・・ひっ、あっ・・やあっ」  自分でも望んだことなのに、涼平の顔は羞恥に染まる。 「やあ・・ん。そ・・んな・・に・・やあっ・・強くしな・・っ」 「んじゃ、やめる」  口を離して景はそう告げる。 「は・・はあっ。お、オレのこと好きだって・・言ったのに・・」  涼平が恨めしそうに景を上目遣いで見る。 「っ・・んとに・・」  もともと硬派の涼平にそういう駆け引きが出来ないのもわかっている。というか、自分にそんな余裕が無い。 「私がどれだけ涼平のこと好きなのかわかっているくせに、試すようなこと言うなって。毎日ずっと抱きしめていたい。・・後ろ、触っていい?」  涼平は真っ赤な顔のまま頷く。間髪を入れず双丘の奥の窄まりに景の指が触れられる。 「あっ!あ・・・イイ。やあっ・・」  景は中を掻きまわしながら、涼平に強く口づける。 「んん・・ふ・・」  お互いの中心が反応していることに、景はホッとする。 「愛しているから、抱きたいの。オレの想いが涼平を救うってこともわかってるから。や、オレも・・」  救われてるんだけど、と景は小声で付け加える。 「わかってる・・だから挿れて。貴方にいっぱい愛されたいの。貴方に・・気持ちよくされた・・あっ」  景は強く2、3回出し入れした後、わざとゆっくり腰を動かす。 「景って、ほんとイジワルだよね。オレの気持ちわかってるくせに。煽るのやめてよ、オレを年下扱いするのもやめて」  涼平のその言葉に真剣なものを感じとった景は動きを止める。 「‥悪い。涼平はそういう人だよね。だからオレも好きになった。・・えーっと、続けていい?」 「こんなとこで止められたらそれこそ困るでしょ。そういうのがイジワルだって言ってんの」  恨めし気な表情で涼平が睨む。絶対、鈴や哲人には見られたくない顔。恥ずかしさもあるけれど、彼らにとって涼平は“こうだとあるべき姿があるから”。 「景は特別なんだから。そんでオレは景以外とセックスはしない、一生。・・気持ちイイとかそういうのじゃなくて、好きすぎてほんと・・」  後半はほとんど聞いていなかった。気づいたら、強く抱きしめ自分のソレを深く相手の中に深く沈めていた。 「好き!気持ちイイ?ねえ、気持ちイイ?オレで満足できる?できるよね・・オレは涼平好きだもん。涼平の中最高!」 「オレ、男に告白されちゃったんだよなあ。や、オレがオトコを好きなんだけど」 と、一宮奏はため息をつく。 「だって、相手はクラメでおまけにオレが教師に片想いしてることもバレてんだぜ?泥沼すぎんだろうが。・・ほんとに、オレみたいな不良物件なんでしょい込むんだろうって不思議に思えるくらいイケメンで優しい性格だよな、三上・・いや、睦月って」   『本気で好きな人には名前で呼んでもらうのがオレのポリシーなんだよ』 「とか言ってたけど・・。オレはそこまでの存在じゃない気がする・・。でも、オレの勝也さんへの想いも知られちまったしな。こんなの初めてだから、どう考えていいかわからないや」  とにかく寝ようとパジャマに着替えるために服を脱ぐ。 「もうすぐ文化祭だから休むわけにはいかないもんな。風邪治さないと・・睦月に心配かける」  が、なかなか寝付けない。別れ際に額に自分のソレをくっつけてきた相手の表情を思い出す。 「心配しすぎだっつうに。オレはあいつの想いに応えられないのに」  もしかしたら、それも計算された行動かもしれない。そう思うと、奏は何度もため息をついてしまう。 「そりゃあ、処世術の一つではあるとは思うけど。でも、やっぱ何か嫌だ」  勝手な思いだけど、と奏は苦笑する。自分の境遇を思えばおいそれと他人を信用するわけにはいかないからと、心の中で言い訳する。 「友達にはなりたい相手だけど、恋愛対象には・・」  哲人や勝也に比べると、やはり見劣りがする。や、普通の目で見ればイケメンなのは奏もわかっている。が、日向一族は普通じゃなさすぎるのだ。 「や、自分があの人たちに見合う人間じゃないのもわかってるし、睦月も本当にイイやつっていうかカッコイイんだけど」  こうやって悶々と悩んでいるっていうことは、もしかして自分も睦月をまんざらじゃないと思っているということなのかと悩む。 「ダメだろ、そんなの。勝也さんに寂しい想いはさせないって、本人に言ったのに。てか、やっぱ勝也さんが・・」  相手の気持ちがわからないまま、彼は思い悩む。  相手も悩んでいるとは思わずに。 「・・頭が痛い、恋って・・どれくらい相手の心に踏み込んでいいの?」     To Be Continued

ともだちにシェアしよう!