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第34話

「哲人、少し痩せた?」  お互い裸になり、抱き合ったところで財前直央が不意に日向哲人に聞く。 「?・・そんなことないと思うけど。甘いモノの試作品をいっぱい食べちゃってたしな。鈴にはすっごい怒られた。女の子を太らさないでって」  そう言って哲人は笑おうとした。が、直央の真剣な表情を見て口をつぐむ。 「ちゃんと昼ご飯食べてる?最近お弁当持っていってないよね?だからオレが作るって言ってるのに・・。朝も最近はギリギリまで寝てるから、朝食もちゃんと食べれてないんだから」 「この文化祭が終わるまでだよ、こういう状態も。直央に心配かけてるのは悪いと思うけど・・」 「哲人はもっと全力でオレに寄りかかっていいんだよ?」 「へっ?」  その直央のセリフの意味が分からず、哲人は思わずベッドの上で座り直してしまう。その哲人の行動に合わせてか直央も身体を起こす。 「オレね、アメリカで身体は鍛えてたって言ったでしょ。空手の道場を紹介してもらったの、退院した後に。道場主は日本人で・・かっこいい人だった」 「っ!・・」  突然そんな話を始めた直央の真意を測りかねて、哲人は困惑の表情になる。そんな恋人の様子に直央は不安げな表情になる。 「ごめん。・・ずっと言わなきゃ思ってた。思ってたけど、オレの記憶も曖昧だったしそれになぜか・・不安だった。言ったら何かが壊れる気がして」 「直央?」 「その人ね、哲人に似てた。オレのこともなぜか最初からよく知ってた。母さんは記憶になかったらしいけど、母さんのことも前から知ってるって感じだった。優しくて強くて・・正直こんな人が父親だったらなと思ったこともあった」  直央は淡々と言葉を紡ぐ。 「今にして思えば、オレにその人を紹介した母さんのエージェントは何回か勝也さんの名前を出していた。病院でオレが襲われた例の事件のことは、母さんには言ってないから母さんは何も知らないと思う」 「勝也さんが・・オレの親の行方を知ってたってこと?オレより先に直央は会ってたってことか・・」  複雑、そんな単語が一瞬ではあったが哲人の頭の中をよぎった。が、哲人はすぐ笑顔になる。 「そっか、よかった」 「え?」  何が?と直央は不思議そうな表情をする。その目には涙が浮かんでいた。 「馬鹿だな、何で泣くんだよ。・・オレの好きになった人をオレの親・・だと思われる人物は受け入れて優しくしてくれたってことだろ?そりゃあ、その辺にいろいろ複雑なものがあるんだろうけど、でも直央もその人の事気に入ってたんだよね?なら、いつか家族になれる」 「哲人・・」 「直央のお父さんも、もしかしたら関係者なのかもしれない。灯さん・・直央のお母さんがどこまで知ってるかわからないけど、オレたちはもっと以前から結びつきがあったというなら、オレたちが恋人になったのはとてもイイ事なんだ。どうしたって、オレは直央が好きなんだもの。直央がその・・焦る必要がないっていうか。や、嫉妬しまくりのオレが言っていいことじゃないけどさ」  照れた顔で哲人は恋人の目の下に指を当てる。 「泣かせないって誓ったのにな。・・プロポーズしたのも一緒に住もうって言ったのも本気。けど、直央は本当にいろんな人の視線を奪ってしまうから。できたら郊外のほんと誰も周りにいないようなとこで、二人きりでいたいってのが本音」  今の自分の資産ならそれは十分に可能だ。が、高校を出るまでは今のマンションに住むという本家との取り決めがある。 「哲人は独占欲強いのね。昔はすごく甘えんぼだったって、鈴ちゃんが言ってたけど」 「っ!鈴のヤツ、どうして人の恋人にそんな余計な情報・・」  同じ高校の同級生で幼馴染の笠松鈴の顔を思い浮かべて哲人は苦々しい表情になる。 「オレは、哲人の小さい頃の話を聞けて楽しいけどね。それに、オレの方が年上なんだからもっとオレを頼って。そのために鍛えてもらったんだから」 「・・どういう意味?」  よくわからない、と哲人が怪訝な表情になる。 「哲人は否定するだろうけど、オレがアメリカで哲人に似た人に哲人と同じく空手を習うことになったのは、哲人に関係したことだと思う。哲人のために強くなれってことだよね、オレ自身のためでもあるんだけど」 「そんな・・こと」 「哲人は何で空手始めたの?亘祐くんもだけど、哲人も黒帯だよね?」 「それは・・は、八年前・・。っ!」  そういえば8年前だったと思う、自分が前から勧められていてけれど気が向かなかった武道を習いたいと言い出したのは。 「どうしても強くなりたいってオレが言って・・そんで亘祐のお父さんの知り合いの道場に通うようになった。鈴も一緒にやりたいって言って。亘祐のお父さんが凄く複雑そうな、でもなんか喜んでた・・」  師範が「やっと来たか」と言っていた気がすると思い出す。 「鈴はもともとやんちゃなとこがあったけど、その頃から尚更男っぽく振舞おうとしていた。直央ももう知っていることだけど、あいつは正真正銘のお嬢様だ。しかも笠松家に女の子は鈴だけ。本来ならもっと大事に育てられるべき存在だった」  けれど、鈴と哲人の婚約解消は笠松家の総意だったという。鈴自身は哲人への恋心を今でも露わにしているが。 「オレが言っていいことじゃないけど、哲人と鈴ちゃんがくっつくことを良く思わない人もいるってことでしょ。・・それにオレの存在がどう影響しているのか。確かにオレとならどれだけ愛し合っても、子供はできないもんね」 「!」  哲人の顔色が変わる。が、直央は落ち着いた態度で言葉を続ける。 「オレ自身は利用されてるとは思ってないから。ちゃんとオレの気持ちも汲んでくれた上でいろいろお膳立てもしてくれてるんだと思うし。けど、それはつまり哲人のためなんだよ。哲人のために大人も子供も動く。それは哲人への・・愛情というか・・つまりは愛憎なんだけど」  そこで直央は苦痛に満ちた表情になる。が、直ぐに笑顔をみせる。 「オレが哲人にとって重要な存在になってるっての、素直に嬉しいの。昔の感情は、それは子供の素直なソレでしょ。けれど、いろんな経験を経ても最初はあんなに嫌いあってたけど、それでもこんなに愛しあえてるのは想いが本物だから。オレは哲人のために生きていたいから、日向の思惑に乗っかるよ」 「け、けど・・」  哲人は躊躇する。だいたい、哲人と直央の関係が深くなったのは、二人でいる時に殺されかけ、哲人が直央を守ろうと思ったから。哲人自身はそう考えている。 「“普通の男”じゃないもの、オレは。たぶん、8年前だと思う。オレ自身は本当に哲人のことはよく覚えてないんだけど。けど、たぶんその時に哲人と会って・・哲人は何かがあって自分を変えようと思った。オレもアメリカでいろいろあって自分を守るため・・同時に哲人を守る大義名分にもなったよね、空手を習ったのって」 「けど、思い出せない。や、最初から変だとは思ってた。直央に懐かしさを感じてた、本当は」  違和感を感じていた。それがはっきりしなくて、イライラしてますます直央に冷たく当たっていた。 「哲人の立場じゃしょうがないでしょ。でも、だからこそ今の哲人の態度は本物だと思えるから。だから・・抱かれるの」  そう言って、直央は哲人の身体にしがみつく。 「哲人・・哲人・・」 「直央・・好き」  自分と付き合うのはイイことばかりではない。直央自身哲人と一緒にいてが半年前に車で轢かれかかっている 。そして事件にも巻き込まれてもいる。哲人の周りの他の人間も薄着もできないほどに体中が傷だらけだ。 「ごめん、それでも直央を手離せない。こんなに好きなのに・・」  なぜ初めて会った過去を思い出せないのか。もしかしたら、自分と直央にとって重大な出来事があったのかもしれないのに。 「言ったでしょ、一緒に過去を見つけて一緒に未来を掴むんだって。多分、オレたちの家族に関係したことだと思う。みんなが知ってる家族のことを本人が知らないのは・・それが自分にとってマイナスなことだからと思ってるんじゃない?哲人は」 「っ!」  くっ、となって哲人は少し顔を背ける。が、直央はその頬を両手で挟んで自分の方へ向き直させる。 「なお・・ひろ」 「哲人のご両親のことを誰も否定していないんだろ?その存在を言わないだけで。オレがアメリカで会ったあの人が、本当に哲人のお父さんだったとしたら、オレのことを含めてちゃんと用意されてるんだよ、“哲人の家族の未来”は」 「オレの家族の未来?」 「そう。哲人がただのイケメンだったら、いくらオレがゲイでも過去に何かがあったとしても、オレは哲人を今こんなに好きにならなかったと思う」  そう言いながら、直央は哲人の手を自分の股間に導く。昂ったソレは既に滴を垂らしていた。 「ふふ、ごめんね。・・哲人はね、凄いの。皆が哲人を愛し助けるのは、哲人が凄い人だから。そのパートナーに選ばれたことを、オレは誇りに思う。哲人に愛された幸運を逃す気は無いんだ。だから死なない!哲人 とずっと一緒にいるから!」 「わかってる。あの時からずっと・・」 『そうですよ、オレは直央さんが好きです。そう思わないようにしていたけど、でも・・やっぱ我慢できない。オレの心も身体も常にアナタを求め続けている。あなたが大好きだから』 『この唇も首筋も胸も、オレ以外には触らせません!もちろん、アナタのコレもそうです。触っていいのはオレだけです』 『感じます?オレの想いわかります?・・ああ、いっぱい涎を垂らしていますね。少し握ってしごいただけなのに、アナタって人は・・』 「貴方に好きだと、本当の気持ちを言えた時からオレの覚悟は決まっていた」 『もう、二度と手放しませんから。だから言って・・ずっとオレの側にいるって』 『うん 、一生側にいる。愛してる・・哲人のこと』 「愛してる、愛してる、愛してる・・愛してる!ココも、ココも・・・もう何もかも」  哲人は直央の身体のあちこちに口づける。 「てつひ・・と、あっ、あっ・・やあっ」  昂ったソレを優しく触られながらの愛撫に、直央は嬌声を上げる。 「あっ、ん・・ん・・もっ・・舐めて・・」 「ん・・直央の肌すべすべで・・美味しい」 『ゲイなんて本当に嫌いなんですよ。でも、羨ましくもある。誰かにそこまで想いを寄せられる素直さと潔さが。オレは・・諦めていたものだから』 『・・諦めが悪いですね。だから、オトコ同士の恋愛なんて嫌なんです。・・確かな未来なんてソレには無いですから』 「直央だから愛せた。直央だから諦めないで いられた。直央だから・・未来に希望が持てた。貴方しかいない、オレの側にいられるのは」  気が付くと直央の身体が小刻みに震えていた。 「ごめん、寒い?」 「ううん、感じすぎてるのと・・ちょっと緊張」  直央が微笑みながら答える。その顔がとてつもなく可愛いモノに見えると哲人は思った。 「緊張?」 「哲人のお父さんに会ったかもしれないってこと告白した後だもの。哲人の反応がいろいろ怖かった。そして・・その・・やっぱドキドキするの。何度抱かれても、哲人がカッコ良すぎて。毎回恋しちゃうの」 「そうだね、直央のここドキドキの音が聞こえてる。そんで、ぷくっと膨らんでて・・大丈夫?息が荒いけど」 「やっ・・ぱ・・哲人はイジワル・・なの 」  直央の頬が羞恥に染まる。 「経験無いし嫌がってたくせに、最初からオレをいっぱい感じさせてくれて・・。あっ、あっ・・ソコすっ・・凄い」 「感じます?ふふ、オレは貴方の可愛い顔が見れるのが嬉しいです。ほら目を開けて、ちゃんとオレの顔を見てください」  左手で恋人の昂りをしごき、右手で胸の頂をこねくり回しながら、哲人は彼の顔をじっと見つめる。 「やあ・・ん。は、恥ずかしいんだから。や・・耳をそんな風に・・」  耳を甘噛みされ、思わず身体を震わせる。 「き、気持ちいい・・の。好き・・オレを感じさせてくれる時の哲人の優しい顔も・・好き」  こんな素敵なオトコに愛される自分は世界一の幸せものだと、直央は身体全体で快感を示しながら思う。 (8年前にいったい何があって、今のオレはこの幸運を得たのだろう。いったい誰に守られて、オレは綺麗な身体のままで再び哲人に会えたのかな。哲人が唯一無二の存在でよかった。オレの初めてをこの人に・・) 「お、オレは哲人しか・・知らない・・から。も、もっと感じ・・させて」 「・・今日の貴方は我儘ですね。普段からそうでも構わないのだけれど。いいですよ、いっぱい舐めてあげます。さっきも言いましたが、貴方の肌はほんと綺麗で美味しいですから。・・もっと肉をつけてもいいくらいに」  鍛えてはいるが、哲人も直央もけっして筋肉体質というわけではない。童顔の直央は脱いでも“美少年”という言葉がしっくりくるような身体だと哲人は思っている。 (のほほんと生きてた ら、何人の男にヤられてたか。勝也さんもそれがわかってて気を配ってくれたのかな。オレと直央が何のわだかまりもなく付き合えるように。今だって無自覚にいろんなオトコを引っかけてるからなあ)  ゲイを徹底的に嫌っていた自分でさえ夢中になるこの身体を、その手のオトコが一度でも触れれば必ず虜になってしまうはずと哲人は危惧している。 (隣のイケメン声優なんかに、直央を近づけさせるわけにいくか!)  その声優の好みのタイプが実は哲人であることを、本人が知るのはもうちょっとだけ先。 (とにかく!ずっと抱きしめていたいんだ)  足を広げさせて、太ももの内側を丹念に舐めつくす。 「あっ!あああ・・やあっ・・気持ち・・いいの!い、いっぱい・・溢れちゃう」 「ん・・溢れてますよ、貴方のはしたない液体がドロドロと。そろそろ後ろも・・」  直央の双丘の狭間に手を入れる。露で濡れた指はするりと中に入っていく。 「ほら、ここももうぐちゅぐちゅいってますよ」 「あ、あ、あ。は、恥ずかしい・・から。それに・・何で敬語なの?」 「んーなんとなく。嫌・・ですか?出会った頃みたいに、貴方が我儘だから・・」  まだちゃんとお互いの心が通っていなかった頃、どういう態度で向き合えば相手は傷つかずにいてくれるのだろうと思い悩んでいた。 (我儘というより、ストレートすぎたんだ、直央の気持ちが。オレは自分に自信がなかったから、勝手に苛立ってた。ただこの人は可愛かったのに) 「今ならあの時の分も貴方を愛せるから。“本 当の自分”を見せ・・られるから」 「えっ?・・っ!ああ!・・や、そんなに弄られたら・・」 「いいですよ、イッても。まだ時間はありますから」 『不本意であるけど、現状を把握してもらわないと哲人のためにもならないかもしれないから。高瀬亮のことだろ?動くのならこの文化祭の時だと思ってた』 (鈴と涼平は何かを隠しているけど、たぶんオレと直央の記憶が戻ればそんな気遣いはいらない。本気の死を賭けたデスゲームになる可能性も大だけど)   『つまり、オレは18年前からオマエに踊らされていたということか?はっ、だから嫌なんだよ、本当は生きているのが。おかげで鈴や涼平にこんなとこまでさせなきゃいけない。・・直央の存在がなければオレは・・』 『そうか・・言っていないのか、8年前のことを。琉翔も“あのバカも”おいしいとこだけ持っていって、肝心なことはオレに押し付けようってか。変わらないのだな、そういうところは』 『・・何を言っている?』 『ふはは・・生きることがそんなに 苦しいならあえて殺さずにおいておくよ。そういう復讐もある。けれど、侑貴のことはよろしく頼むよ。できれば、本家に利用されないように・・それだけが私の願い・・そして誕生日おめでとう・・と』 (オレを憎んでいる高瀬は直央のことを知っていた。8年前に何があったかということも。・・あの時とオレは違う。もちろん8年前とも。オレも直央も今こんなに・・) 「や、挿れ・・て。哲人のソレ・・挿れてよぉ。そして・・キスして」  直央が悲鳴に近い哀願の声を上げる。 「挿れますよ。貴方の可愛いお尻に、オレのコレを挿れていっぱい動かしてあげます。擦って回して・・貴方をいっぱい感じさせたい。貴方の幸せがオレと共にあるように」  そう言いながら、哲人は自分のソレを挿入する。するりとソレは恋人の中に入っていく。 「ふぅ」  一度息をつき、哲人は腰を動かし始める。 「あっ・・やっ、いい!き、キス・・」 「本当に今日の貴方は我儘ですね。そういうところも好きです。・・結局貴方の何もかもが大好きなのですけど、貴方の舌も中もオレだけのものですから」  直央の口に自分の唇を押し付け、薄く開いたそこから舌を差し込む。 「ん・・ん・・っ」  直央の口の中が哲人の舌によってねっとりと舐られる。すみずみまで味わいつつ、舌をからませ刺激する。 「っ・・ふあっ・・ん」  舌の動きと共に、直央は自分の身体をくねらす。 「ああ・・あん。そこ・・突いて・・うう」 「うん、直央の中ぐちよぐちょ。でも・・もっと乱れさせたいん です。もっと掻き回しますよ、貴方の中はホントに気持ちイイ・・」 「や・・あっ・・。オレも・・オレも気持ちいイイの!」  直央は哲人の背中に両脚を絡め、自然に交合が深いものとなっていく。 (今日は・・いつも以上に・・)  もう少し奥を探ってみようという気になり、自分のソレを突き進める。 「ああっ!やあっ・・ああ!」  思いもよらない哲人の行動だったのか、はたまた新たな愉悦の高みに昇りつめたからなのか、直央の声がひと際大きいモノになる。 「ふふ、そんなに喜んでくれるのならもっと早くにこうすればよかったですね。貴方の足とそして・・中の締め付けが凄いですよ。もっと・・感じさせたい」 「ひっ!・・や・・・ああっ!」  哲人が直央の胸の尖りに 口をつけ、強く吸い舐めまわす。少し汗の味もしたが哲人には最高のものに感じた。 「・・っ・・やっ・・ああ・・ん」 「そんなにここが感じますか。なら、どれだけでも舐めますよ。もういっぱい大きく尖って真っ赤になって痛そうですけど・・貴方は昔からM気が・・昔・・から?」   『ボクは殴られるの慣れてるの。母さんには内緒だよ?叔母さん、本当に母さんのこと好きだからボクのこと怒るんだ。大事な人なのにボクのせいで母さんは泣いたんだって。だから、哲人は泣かないで。ボクを怒ってもいいから、でも・・』 「いい!イクッ!やあ・・っ・・哲人ぉ。イクの・・もう・・」 「いい・・ですよ。貴方が満足したのならそれで・・。オレも・・凄くイイ。貴方は最高の・・・ 人」  哲人は直央の胸に口づけたまま強く腰を振る。 「あっ・・あっ・・ああ!」 「哲人?どうしたの?なんで、そんな難しい顔してるの?オレ・・哲人を困らせた?確かに今日はいっぱい我儘だったけど。・・ごめんね」  直央が哲人の顔を覗き込んで、心配そうに聞く。その声を聞いて哲人は直央をぎゅっと抱きしめる。 「たまら・・ないや」 「哲人・・どうしたの?無理させちゃった?哲人が疲れてるってわかってたんだけど・・」  直央は泣きそうな顔で、自分も哲人にしがみつく。 「ちが・・う。ごめん、悪いのオレ。貴方にそういう顔させたら、オレが貴方といる意味が無くなる」 「・・どういう意味?一緒にいる意味なんてそんなの・・」  その言葉の意味がわからず、直央の顔が不安のために歪む。 「違うって・・。貴方は優しすぎるんだよ、誰にでも。あの時のオレには多分それが理解できなかった。我儘すぎたオレを庇ったんだ、あの時」 「えっ?あの時って・・」  なんのこと?と直央は訝しぐ。 「8年前のあの時、オレたち以外にも何人か子供がいた。貴方に最初に声をかけたのは・・鈴だ。貴方の側には男の子と大人の女性がいた。その人に貴方はひどく責められていた。それを鈴は止めようとして、オレもそれに参戦した。女の子の鈴を助けなくちゃと思ったんだ」 「・・・」 「でも、その女性の言動はエスカレートしていくばかりだった。勝也さんが飛び込んできてくれなかったら、オレも鈴も・・直央ももっと酷いことをされていた。けれど 、きっかけを作ったのはオレなんだ。や、その女性が直央の悪口言ってたからなんだけど・・」  直央の母親に似たその女性は、とても悲しそうな顔をしていた気がする。けれど、時には直央に手をあげていた彼女を、哲人は許せなかった。直央がとても我慢しているようにも見えたから。 「結果的に貴方も鈴も傷つけてしまった。なのに貴方はオレに『泣かないで』と繰り返した。・・あれは貴方の叔母さんだ。何であそこにいたかはわからないけど、貴方が覚えていないだけで何度も・・貴方はあの叔母さんに直接的な被害を受けている。たぶんそれが、貴方が女性を受け入れられない原因。そしてあの時のことが鈴を最初から受け入れられている要因だと思う」 「だっ・・て。だって鈴ちゃんはそんなこと一言も」  信じられない、と直央は首を振る。そんな彼の腕を哲人は優しく掴む。 「鈴はいろんなことを考えて黙ってたんだと思う。いろいろ思惑があったという可能性もめっちゃ否めないけどね。けど、それでもオレたちは再会して愛しあえてる。運命のためじゃない、自分たちの意思で。・・少なくともオレにはその事実が必要だった。そのために貴方や鈴たちに辛い思いをさせた・・」  なのに、鈴も直央も自分に笑えという。 「どうして?ってずっと思ってた。なのに鈴にも貴方にもオレは辛辣な言葉をかけてしまっていた。どっちも好きで・・」 「てつ・・ひと」 「けど!どうしたって!・・オレは貴方を選んだ。一時期記憶は失ったけど、オレが選んだのはずっと一緒にいた鈴じゃなく数年ぶりに再会した貴方なんだ。オレがゲイを嫌っていたのは生半可なものじゃない。“クスリ”も関係していたから」 「っ!」  春にあったあの事件のことを思い出す。 「あのことだって・・オレが関係・・していたじゃない」  直央はおそるおそる言葉を紡ぐ。怖い、と思ってしまう。 「アレも元はオレの業です。高瀬の狙いはオレだった。貴方を巻き込んだのはオレ。貴方を守りたい気持ちがイコール恋心だったのかもしれないけど、今は貴方をどうにかしてしまいたい。貴方を・・愛さずにはいられない」  そう言いながら、哲人は夢中で直央を抱きしめ、その唇に己のソレを押し付ける。 「だって直央が側にいないと怖いんだもの。・・わかってるけど。オレは高瀬と戦うから‥直央の存在が無いと・・傷つけるのもわかってるのに、オレは勝手で・・でも愛されたくて。8年前のように」  そこまで言って哲人は「はっ」という表情になる。 「・・8年前、オレたちは“お互いを受け止めた”んだね。多分、同じような境遇だったから。でも、8年前のあの時オレが覚えてる限りは直央の側にいたのはその女性と男の子・・前に貴方が言った従弟さんだね、似てたから。その二人だけだった。血は繋がっているんだから、貴方にとっては家族だったのかもしれない。けど、態度があまりに酷かったから・・貴方から遠ざけようとしてしまった」  自分のやったことは直央のためになったのだろうか。もしかしたらソレを知るのが怖くて記憶に蓋をしてしまったのかもしれないと、哲人は 表情を強張らせる。 「貴方を傷つけていたから、貴方を嫌おうとしていた。極端な考えだけど、オレの性格からしたら考えられなくもない。鈴が知っていて黙っていたのならなおさら・・。鈴は記憶力がいいんです。そして人一倍抱え込む。普段はいつも口が過ぎるくらいなのにね。だから・・」   『哲人はボクの後ろにいて!ダメ・・あの人は哲人を連れてっちゃう。ボクが哲人を・・』 (あ・・れ?直央のセリフ・・だよな、コレって。アレ・・) 「鈴ちゃんはね、本当にイイ子だよ」  そう直央が笑顔で言った。哲人は「?」という表情を直央に近づける。 「なんで・・そんなに・・鈴を・・」 (鈴は確かに誰よりも男の子として振舞うことを意識しているから、知らない人が見た らマジ“美少年”だけど直央は最初から女の子だって見抜いてたし・・。鈴がオレのことを好きなのも知っているけど、それでも自分が一番オレのこと好きだって言ってくれた・・はず) この期に及んでも、鈴に嫉妬してしまう自分がたまらなく嫌だと思う。 「オレがあの時鈴ちゃんから哲人を奪った」 「は?ど、どういう意味・・」  突然の直央の告白に哲人は動揺する。直央は哲人の頬に自分の頭をこすりつける。 「なお・・ひろ」  そういうことをするから自分は年上の彼を可愛いと思い離したくなくなるのだ、と哲人はつい笑顔になり恋人の頭に自分の手を乗せる。そして、ふと呟く。 「・・昔は鈴の実家が本家だったそうだ」 「?!」 「貴方の叔母さんが貴方をあそこに連れてきたのは、本人がそれをわかっていたのかはわからないけど、オレのためだと思う。小学生だったからな、性癖がどうのこうのじゃなく、貴方が日向一族とオレにとって重要人物だったんだ。鈴なら子供でもそれがわかる、あいつはそういうヤツだから」 「可哀想だなんて思ったら鈴ちゃんに失礼だ・・って思ってる。けど、鈴ちゃんは哲人にそんな風に思われたくないはずだよ。彼女は・・」 「だから・・だよ」  哲人は視線を直央の額に向けながら呟く。目を見て話す勇気が持てない自分を、この人はいつまで好きでいてくれるのだろうと戦慄しながら。 「今度の戦いはオレと直央と・・鈴の過去を取り戻すのと同時に、鈴を呪縛から解き放つのが目的。自分が一番勝手なこともわかっている。どうしたって・・どうしたって直央が好きなんだもの。真剣に恋しているんだ。直央を命の危険に晒すのもわかっているけど」  高瀬亮が自分を異常なほどに敵視しているのは、おそらく日向の血とそして両親によるものだということはおおよそわかっている。そして・・ 「高瀬は8年前を知っていた。貴方のことも。オレを苦しめたいなら、貴方を必ず狙う。そのために黒猫が貴方をずっと見張っていたのだけれど」  自分の直属とはいえ恋人を守らせるのを人任せにするのは口惜しい。 (しかも人知れず見張らせていたとか。普通なら裏切り行為だ、直央を守るためとはいえ。・・オレがこんな気持ちになることも想定済みなのかもな。相手は日向の組織を熟知している。オレのこともそれこそ生まれたときから知っているわけなのだから) 『・・もうすぐキミの誕生日だな、哲人。あれから18年か。キミには不愉快なことかもしれないが、生まれたばかりのキミを最初に抱いたのは私だ。もちろん、赤の他人だし私は医者でもない。当時キミを取り上げたドジな看護師が、私を父親と間違えてキミを渡したんだ。まったく・・彼女は顔は 侑貴に似ているのに性格は真逆だったよ』 「オレはちゃんと病院で生まれたらしい。けどそこに父親はいなかった。そしてオレは生まれてすぐに戸籍上の両親に引き渡されたそうです。つまり最初からオレの本当の親は失踪することになっていた、ということでしょうね。そこまではっきりとは教えられていませんが」  哲人はそう言って唇を噛みしめる。自分はいったい何のために生まれたのか。3年前にそれらのことを知って以来、ずっと自問自答していた。直央と出会って彼を愛さなければ、その“灰色の思い”に押しつぶされていただろうと思うほどに。 「それでも哲人は必要な存在だったってことだろ?じゃなきゃ鈴ちゃんの家族が娘にそこまでさせるとは思えない。一度会ったあ の時も本当に・・。日向の内部で何があっても、娘を思う気持ちは本物だ・・そのはずだ」   直央の表情は少し悲し気なものになる。 「オレは父親がいないし、母さんは忙しい人だったし・・本当はオレが一番家族がほしかった・・んだ。だから、黒猫の尾行に気づいてても黙っていようと思ってた。鈴ちゃんにも哲人にもそこまで気にしてもらえるのが嬉しくて、オレが特別だって思えるのが嬉しくて。けど、8年前の記憶が蘇るに連れて、そんな単純・・でもないんだけど、とにかくもっと重要なことなんだなって」 「直央、オレは!」  哲人は必死に叫ぶ。恋人に辛い言葉を言わせたくはなかったから。 「貴方に救われたんだ。その想いすら悪い輩は利用しようとする。けど、終わらせるから! そりゃあ、綺麗ごとで終わるはずは無いけど・・それでもそれがオレだから。お願い!オレを受け入れて!8年前みたくはならないから。もう・・子供じゃないから。責任と愛情を持って貴方の側にいられるオレになったから」 「オレは・・」 と、直央は涙に濡れた顔を哲人に向ける。 「なんで、泣くんだよ」  苦笑しながら哲人はタオルを直央の顔に当てて、背中にそっと手を当てる。 「だってオレは哲人を忘れて、千里を好きになったんだもの。千里ともその時に初めて会ったはずなんだ。でも、本当に千里の記憶しかなかった。いつのまにか泣いてる千里がいて、オレが慰めて・・凄く可愛いと思ったんだ。オレより可愛い男の子なんて初めてだったから。けれど、変だなとは思ったの。もう一人泣いてる子がいたはずだって。最初はオレをその子が助けてくれたはずなのに、必死にオレを庇いながらその子が泣いてた・・。哲人は昔から泣き虫だったよね」  泣き顔のまま直央はふふと笑う。「哲人はずっと変わらないのに、忘れててごめん。なのにもう一度オレと出会って涙拭いてくれて・・ありがとう。ホント、大好き!」 「・・今から本当に大変だよ?相手は本気でオレたちを傷つけるつもりだから」 『つまり、オレは18年前からオマエに踊らされていたということか?はっ、だから嫌なんだよ、本当は生きているのが。おかげで鈴や涼平にこんなとこまでさせなきゃいけない。・・直央の存在がなければオレは・・』 『言っていないのか、8年前のことを。琉翔も“あのバカ も”おいしいとこだけ持っていって、肝心なことはオレに押し付けようってか。変わらないのだな、そういうところは』 『・・何を言っている?』 『ふはは・・生きることがそんなに苦しいならあえて殺さずにおいておくよ。そういう復讐もある。けれど、侑貴のことはよろしく頼むよ。できれば、本家に利用されないように・・それだけが私の願い・・そして誕生日おめでとう・・と』 「あのバカっていうのが誰かってのはわからないけど、琉翔のことはマジで信用しない方が良い。そりゃあ学校のことではWin-Winの関係ではあるけど。けれど、“8年前”と“直央の存在”は鍵・・なんだと思う、高瀬にとっても。そして高瀬の目的は復讐だ。もし直接関係なかっても、オレたち側を揺さぶるために直央に接触してくる可能性は大いにあった」 「だから黒猫でオレを護衛した。それはわかるというか・・けどそれで哲人の身辺警護が疎かになるのは困るんだ」  直央の声音が変わる。(っ!・・空気が) 「最初からわかってたことだって何度も言ったはずだぜ?だって哲人がオレと一緒にいてくれるようになったのは、オレを危険から守ってくれるためだろ。哲人がただのクールな優等生じゃないこともその時にはわかっていた」  そこで直央の表情が変わる。哲人を見る目が優しいものになる。そして哲人の胸に顔をうずめる。 「直央・・」 『・・オレはたぶんオマエが思っているようなオレじゃない。確かに守ってもらってばっかだけど、でもオレはオレの知らなかったアンタを見つけられた。それは・・その・・オレをときめかせた』 「毎日哲人の側にいて哲人にときめいてるけど・・あの時の哲人をオレはまだちゃんとこの手に掴めてない。本当に哲人に見てもらいたいオレも、多分哲人がいつも可愛がってくれるオレじゃない」 「っ!」  直央のその言葉に哲人の顔色が変わる。 「な・・お」 「変化を怖がってたら真の幸せは自分を避けて逃げていくだけ。そんなようなことをオレの空手の師匠は言ってたよ。哲人に似たその人がその言葉を言った時、オレは母さんを説得して日本に帰ることを考えた」  日本に帰って自分が恋した人が自分を待っていてくれてる確証もなかった。 『ボクもね、本当に大好きだったよ。でも・・初恋はもう終わりだね』 (もし、渡米前にお互いの気持ちを分かり合っていたとしても、オレが今哲人を想う気持ちはあの時以上のものだもの。そして千里が亘祐くんを想う気持ちも。けど、引き金をひいたのは間違いなくオレの帰国。それがみんなの幸せと復讐の始まりに繋がったのならオレは・・簡単に死ぬことも逃げることもできない。そのために、アメリカで哲人に似た二人に会ったのだろうから)  日向勝也と、そしておそらく哲人の父親・・哲人も名前は知らされていない。 「お互いの出生がお互いにどう関わっているのかは確かに重要だけど、一番はオレがこんなに哲人のことを愛してるってこと!」 「!」  直央の唇が哲人のソレに重なる。強く、熱く。 「ん・・っ・・んん」  互いの舌が再び絡み合う。痺れるような甘さが二人の身体に染み渡る。 「好き、好きなの。哲人の側にいられるなら傷ついても構わない。そのために想いを重ねてきたんだから」 「貴方の身体にこれ以上傷をつけるわけにはいかないでしょう?オレをみくびらないでください」  哲人は微笑む。少し悲しそうに、けれど声は明るく。 「オレが貴方の側にいれば、貴方は傷つくことはない。いろんな出来事がそれを証明してきた。オレは貴方を助けられる。貴方はオレに生きる意味と価値を与えてくれる」  そして哲人の口は直央の大きくなったソレを咥える。 「っ!・・哲人」  哲人はそのまま顔を上下させて、直央の昂りを濡らす。 「あっ、やああ・・っ。ん・・イイ!」 『何サムイこと言ってんですか。オトコがオトコを好きになるなんて・・その素肌に触れたいと思うなんて・・オレは嫌ですよ』 (この人じゃなきゃ、こんなことはしない!オトコだろうとオンナだろうと。直央じゃなきゃオレは) 「今夜は覚悟していてください。正直アイツとの最終決戦を前にオレの気が昂っているのも否めないのですけど、けど高瀬にも・・ぶっちゃけオレの本当の親父にも知らしめたいんです。本当にオレが恋に溺れて狂って・・壊れるほどに愛したらどうなるのかってことを。オレはあの人達のように中途半端なことはしない。オレの何もかもを貴方にの中に注ぎ込んで、そして貴方を味わい尽くしたい」 「えっ?」     To Be Continued

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