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第40話
「まーだ気にしてんの?鈴と涼平のこと」
「侑貴は気になんないワケ?お前もかなり関係してることなんだけど?」
生野広将はパソコンに顔を向けたまま、呆れたように上村侑貴の問いに答える。
「・・それを広将にだけは知られたくなかったと思うぜ、鈴たちは。ま、あいつらの脇が甘かったというだけだけどな。とにかく、鈴のお見舞いはできたんだからさ。・・つうか、こっち見ろよ」
「悪い。マジで修羅場ってんだよ、誰かさんが邪魔ばっかしてくるから」
「・・・」
「ごめん。嫌な言い方だった」
その場の空気が重くなったことを感じて、広将はすかさず謝る。が、今度は侑貴が顔を下に向ける。
「侑貴・・?」
「他の二人にも言われたんだ。最近はほんと広将に頼ってばっかだって。や、あの事件の前からだけどさ。俺、ちゃんと広将の恋人やれてる?」
「何言ってんだよ・・」
呆れたように広将が呟く。が、侑貴の方に顔を向けようとはしない。
「やっぱ怒ってんじゃねえか。俺だって仕事のことはちゃんと考えてるよ。高校生のお前に任せっきりにしたいわけないだろ。年上のプライドってもんもある。それに亮のことだって‥知られちまったもんはお前に対して誠実な態度でいくつもりだよ。だって、やっぱ‥好きだもん!」
そう言って、侑貴は顔を最大限に赤くする。
(っ・・くそっ!好きなんだからしょうがねえだろうがよ!あの8年前からちゃんとした関係を築けていれば、こんな風に悩むこともなかったんだ。もっと早くに・・俺が他の人間と付き合うなんてこともなく。広将みたいなこんなクソ真面目な高校生が本当なら俺みたいなの好きになっちゃいけないんだ。でも・・)
けれど、彼は自分の初恋の相手だから 。
「亮のことは関係なく独りで人生を終えるつもりでいた俺に、広将は希望を持たせてくれたんだ。どうしようもない俺に寄り添ってくれて。好き!大好き!けど・・」
「わかってるって」
困ったような表情をしながら、広将が振り向く。
「ごめん、本気でこの曲をどうしたらいいかって考えあぐねていたからさ。先方からは『本気のラブソング』ってオファーだったからね。俺は本気でお前を愛しているけど・・オレ以外にも本気の想いをお前に向けてるヤツはいっぱいいるだろ?」
「!」
「お前のファンだってそうじゃん。俺とお前の噂だって一般にも出てる。あえて否定のコメントも出してないしな。そうじゃなくても、やっぱ普通なら恋愛なんて男女のソレじゃん。インディーズの時は恋愛系の噂の類は否定しなかったろ?」
「ぐっ・・」
「前にも言ったけど、俺はお前のそういうとこ見ててそれでもお前と音楽と人生を一緒にやっていきたいと思ったんだ。それも、真剣にね。俺の気持ちがお前を求めているから。ただ、さ・・」
と、広将は複雑そうな表情になる。
「いつまでも侑貴は俺に遠慮してばっかだもの。男同士の恋愛なら、お前の方が慣れてるだろ?なのに・・何か最近はぎごちないなって。確かに高瀬亮のことは・・けど俺より明らかにお前の方が引きずってるじゃないか。そりゃあ、鈴や涼平が人殺しにならなくて済んだのはホッとしている。高瀬に死んでほしかったとも思ってない。けれどお前が悩むのは嫌なんだ」
「・・どうしろっていうんだよ」
侑貴は深くため息をつく。
「過去は消せないし、お前の言ったとおり亮のせいで鈴たちは入院中だ。・・いつか俺がアイツを殺していたかもしれねえ」
「ッ!何‥を」
「だってそうだろ!アイツが直接では無いにしろ俺の家族の死に関係しているのは確かなんだ。相当俺の両親を恨んでたらしいからな。俺を引き取ったのは・・復讐のためもあると思っている。自分で言うのもアレだけど、俺に魅かれた挙句、亮・・高瀬に利用されて死んだヤツだって少なくない。お前の前任者のベース担当・・だって」
くっ!と侑貴が顔を逸らす。
「元カレ・・だっけ?前のベーシスト。もしかして、俺も同じ運命になると思っていたのか?だから、なかなか俺に素直になれなかった、と?」
「・・お前って、ときどきマジで嫌な性格になるよな。つうか、俺が他人だったらお前みたいなのは俺なんかの恋人にさせねえよ。8年前のことは関係ねえんだろ?ならなんで、こんな危ない男の側にいたがる?高瀬絡みで俺もどういう目にあうかわからない・・」
「だから、俺がいるんだろ?どっちにしたって、侑貴を一人にさせておくと俺が落ち着かないし、寂しいんだよ」
そう言って、広将は侑貴の顔を自分の手で持って上げる。侑貴は顔を赤く しながら
「くっ・・何・・を」
と呟く。
「気持ちを伝えたいだけだよ、侑貴に。まだ俺の力不足なんだろうけど。前にお前が言ったじゃないか」
『オレだって、本気の恋愛をしたっていいだろうがよ!家族に置いて逝かれたあの日から、家族を持つことは諦めてる。けど・・本気で誰かを好きになったって・・いいだろ。それが例え誰かの恋人でも、運命を感じたんなら、それに縋ったっていいだろ・・』
『じゃあ、どんな恋愛ならオレには許されるんだよ。誰なら・・オレを特別な存在にしてくれるんだよ!』
「もう・・いろんな意味で引き返せないんだよ、正直。だって“俺が侑貴に恋したんだから”」
『ただ、侑貴とこの先も付き合っていくんなら、いろいろ覚悟しないとダメなんだって思 い知った。けど、それが侑貴のためになるんなら、オレは頑張る。パートナーだからな』
「この先もいろいろあるんだろうけど、その度に想いを強くしていくだけだよ、自分ごと。侑貴が気持ちを強く持てるように、俺は頑張る。そして何度も・・」
顔が近づく。目を閉じ唇を触れさせる。
「ん・・んん」
「確かにファンの存在もあるし、歌を聞いて俺たちを好きだと言ってくれてる人たちの想いは大切だ。こういう仕事をている以上は、な。でも今だけは俺だけがお前の特別・・だって思っていいだろ?キスしたっていいだろ?」
「は?や・・おま・・」
「俺の特別がお前なんだもの。つうか・・結局はお前にこうしたいって俺の欲望なんだよ。だから、お前が悪いとか思う必要無し」
そう 微笑んで、広将は侑貴の額に口づけて、そのままパソコンの方に向き直る。
「へっ?・・ひ、広将?な・・」
拍子抜けしたように呟く侑貴の言葉に、広将は困惑気な表情をして振り向く。
「何だ?俺の気持ちはちゃんと伝えたぞ。手持ち無沙汰だというなら、スケジュールの見直しをしてくれないか。俺の3者面談次第でちょっと事情も変わってく・・」
「んだよ、3者面談て!つかお前キスしたじゃん!思わせぶりなことも言ったじゃん!だ、だから俺・・」
侑貴は真っ赤な顔で広将に声をかける。
「足りなかった?キスされたのが不本意だったみたいだから、俺は遠慮したんだけど?」
侑貴から顔をそらして、広将は答える。
「ばっ・・キスとかになるような話してなかったからだ ろ。どっちかっていったら、胸糞悪い話だったじゃねえか。っとに・・どうしてお前はそういう突拍子の無い行動をとるんだよ、いつも。もっと思慮深いキャラだろうが、お前って」
以前はどっちかというと自分が甘えて振り回していたはずだと、侑貴は頭の中でつい半年前までの日常を思い返す。
(背は高いのに童顔で眼鏡だからおとなしいキャラだって、他人は思うんだよなあ。声を聞いたら百パー印象が変わるんだけど。けど、優しくて頼りになって・・ちゃんと俺の本質わかってくれてると思えたから、甘えられたんだよな。向こうの方が年下なのに)
「タイミング悪かったか?ほら、俺が初めてお前にキスしたときもそういう表情になったろ?悪かったな、なにせお前みたく恋愛に慣れてないか ・・」
「だから!悪いのは俺だって!」
今度は侑貴が広将の顔を掴む。
「あん時も今も、俺がうじうじとネガティブ発言しているから、お前は俺に気持ちを吐露してくれたんだろ。つうか最初に俺を抱いた時だってそうだった。俺は、お前に心配かけてばっかだ」
『これはオレの役目だからだろ。オマエの側にいて、オマエを理解してやれる存在がいないと、誰のためにもならないから』
『えーっと・・だから何で広将?ぶっちゃけ、今日は殺し合いがあったはずだぞ?それにオレも関係しているんだぞ?普通の日常じゃないんだぞ?オマエは真面目な一般人だぞ?』
『そういうのも今知ったけど、覚悟はしてたから。侑貴を一人にはしたくないから・・さ。代わりでもいいと思ってる。だっ て全部・・じゃないかもしれないけど知っちゃったもの。さっきも言ったけど、オレの役目だろ、今こうやって侑貴を抱きしめるのは』
「あの時のように、鈴も涼平も身体張って傷ついて・・。そんな非日常を俺といたらどうしたってお前に見せてしまう。それが俺にはとてつもなく辛いことなんだけど、それでも側にいてくれることにホッとしている俺もいるんだ。だから・・」
「なら、お前に辛いと思わせないように俺が強くならなきゃいけないな。お前がもっと素直に俺を頼れるように」
と広将は侑貴の肩に手を回す。
「ひ、広将?」
「俺は存外不器用だからな、方法を間違えるかもしれない。なんだかんだでお前に寂しい言葉を言わせてしまっているから。俺だって全てのことに平気でいられてるわけじゃない。けど、俺なりにお前を傷つけるモノからは守るよ。愛しているから」
「!・・っ」
再び唇が塞がれ、やがて舌が侵入してくる。待っていたかのように、自分の舌をそれに絡ませる。
「んん・・ん」
広将の手が侑貴のシャツの裾にかかる。そのまま、手が服の中に滑り込んでいく。
「あ・・」
指が胸の頂に触れる。少し冷たいその感触に、思わずぶるっと震える。が、構わずに広将は撫で続ける。
(くっ・・こいつ。何でこうもまあ、自分勝手・・天然とかじゃないよな、既に。絶対確信犯・・)
「服・・脱がせていいか?」
その童顔に似つかわしくない低音で広将が囁く。
「くっ!」
聞き慣れたはずのその声が、とても甘い誘惑となって侑貴を襲う。侑貴が頷くと、広将は一気に服を脱がす。
「っ!・・や・・あっ」
再び胸の突起を丹念に撫でられた後、広将の唇がソコに吸い付く。
「ああ・・あん。そ、そんな・・こと」
「ごめん、強くしすぎた?じゃあ・・」
と、今度は舌で丹念に舐められる。両方の頂を交互に舐めながら、広将は相手のズボンに手をかける。
「っ・・んん」
「悪かったな、ライブ前だったからセックスは控えていた方がいいと思ってたんだけど、結構我慢させていたんだな」
「お、お前がそんなこと言うな!俺が恥ずかしくなるだろうが・・あっ」
ズボンを下に落とされ、下着の上からでもその昂ぶりがはっきりわかることに、侑貴は今更ながらに羞恥心を覚える。
「咥えていい?」
「だから、んなこといちいち・・聞く・・・やあっ。先っぽそんなに舐めないで・・駄目・・・ああ」
広将のセックスの経験は自分だけのはずで、反対に自分は何十人と相手にしてきた。・・と思っているのに、彼に抱かれる度にその事実を疑ってしまう。
「や・・あ、ああっ!そんなにしゃぶられたら・・だめ!イッちゃ・・」
侑貴が悲鳴にも近い声を上げているのに、広将はその行為をやめようとしない。それどころか、手がその後ろに回り窄まりに指が触れる。
「っ!ん・・ん・・・んーー」
確かに広将がソコに触れるのは随分久しぶりのことで、自分自身でも触ってもいない。もちろん玩具なんてものはとっくに捨てた。
「指、挿れるよ。それともベッドに行った方がいい?ローションもソコにあるんだろ ?」
侑貴が頷くと、広将はホッとしたように侑貴の肩を抱きかかえるようにして、ベッドへと誘う。
「よかった、拒否されたらどうしようかと」
「こんな格好になって、拒否するわけないだろうが。つか、ほんとお前って・・」
「侑貴は、さ」
と、手に取ったローションを侑貴の後孔に塗りたくりながら、広将は困ったように言葉を吐く。
「二言目には俺が真面目だから、とか言うけど俺だって普通の男子高校生並みに性欲はあるよ。そんで恋した相手がたまたま訳ありの男子大学生だった・・ってだけ。けど、無責任な交際は最初からするつもりはなかった。絶対に幸せにしようと思ってた」
やがて、広将の指が中にそっと挿れられる。普段の誰にでも気を使う優しさのままの指遣いで、侑貴の肉壁を擦り始める。
「いっ・・いいのに」
「ん?」
何が?と挿れる指を増やしながら広将はいつもの低く優しい口調で聞く。
「卑怯・・・なんだよ、その声が。高校生のくせに、そんな声で優しくすんな。もっと・・強くしていい・・っ!」
「悪いな、好きでこういう声になったんじゃないんだが。俺も侑貴の声が好きだ。誰かが言ってたな、ミステリアスボイス・・だって」
「は?」
「まだ、俺が知らない部分があるのかもしれない。教えてよ、侑貴の好きなとこ」
ここ?と言いつつ、広将は指の腹で攻め始める。そうかと思えば、ゆるゆると出し入れされたりして、その緩急がもたらす刺激とせつなさに、侑貴も腰が動いてしまう。
「やあっ・・っ!も、もっと奥ま・・で。はあ・・・そこ。い、イイ!」
「ふふ、いつもの侑貴だ。日常だよ、非日常じゃない。全部を受け入れている俺が側にいる限りは、な。鈴や涼平や哲人を見くびるな。あいつらが俺とお前を結び付けたんだぞ」
「っ!・・ふ・・ぁっ、ああ・・」
「うん、奥の方がいっぱい動いてる。そんで時々きゅっと締め付けてくる。コレを俺ももっと感じたいんだけど?」
最後の方は耳元で囁かれる。夏のアニメのイベントにゲスト出演して、即興であるキャラのセリフを言わされ、この声で広将は本職の声優よりも大きな拍手と歓声を客たちからもらった。
「だ、だから反則だってば、その声。す、好きって言って・・よ」
「愛してるよ。だから挿れていい?」
顔を真っ赤にしながら侑貴がこくんと頷くと、広将は小さく笑いながら指をそろりと引き抜く。
「あ・・ん」
「そんな声出すなって。直ぐにお前の中にいくから」
「っ!」
窄まりに大きく固いものが当てられたかと思うと、ソレは一気に中へと入ってきた。が、直ぐに入り口ギリギリまで引かれ、そしてまた奥へと突き進ませる。
「ああぁ・・・イイ!あっあっあっ・・・い」
「もっと奥まで進むぞ?」
「!・・やあっ・・あ、熱いのっ・・・お前のソレが熱くて、俺の中・・溶けちゃ・・・っ」
「凄く感じているんだな、俺はほとんど動いていないのに」
「っ・・ばっ・・・そんな・・こと」
広将の言葉に、更に顔が赤くなる。
「と、年下のくせに・・生意気・・あ・・・・ぁ・・・あっ・・」
負けたくないと思っているのに、どうしても自分で広将のソレを締め付けてしまう。こんなにも自分が弱いのかとも思ったが、自分が初めての相手だといった広将の言葉を若干疑問に感じ始めてもいた。
「言ったろ?好きだって告げたのもお前が初めてだって。俺がただお前で感じてるだけだよ。たまらないんだ、お前の中」
好きだよと、囁かれ耳を甘噛みされる。
「んん・・はあ・・・あっ・・・もっと・・して。お前の・・で・・突いてこね回して・・ああっ!」
「うん、いくらでもお前の望み通りに。キスもしていい?」
「って、お前が我儘・・っ」
深く口づけられ、相手の舌が自分の口内の粘膜を刺激する。同時に下半身にも同じような感覚を与えられる。
「んん・・んーーーん」
広将の手が侑貴の屹立したソレに添えられた。触れただけで体の中に電気が走ったようになる。
「そんなに締め付けられたら、流石に俺ももたないって」
思いがけず焦ったような声を出す広将の様子に(勝った・・)と思ってしまった瞬間、ソレはきた。
「やあ・・っ。ああああああああ!い、イク!や・・だ・・・っ」
「ふふ、なんか曲のインスピが湧いてきた気がするよ。3者面談までにはケリがつきそうだ」
「は?」
布団の中で抱き合いながら広将が嬉しそうに笑うのを見て、侑貴は訝しぐ。
「もしかして、セックスの間中も曲のこと考えてたのか?ふざけんな、俺がどれだけ・・」
「違うよ、侑貴の顔見たらパッとひらめいちゃっただけ。だって、すっごい満ち足りた表情してっからさ」
「っ!んなの・・当たり前だろ。あ、あんなに愛されたん・・だから」
逸らそうとした侑貴の顔を、広将が優しく触る。
「っ!」
「もっと見せてよ、俺の好きな顔。うん、やっぱ進学の選択肢は無しだな」
「はあ?だからどうしてそうなる・・。だいたい、お前の高校は超進学校だぞ。生徒会役員までやっておいて、学校の実績づくりに協力しないとか。お前、下手すりゃ退学に・・」
「なってもいいよ。や、もちろんちゃんと卒業したいし、でも進学はしない。鈴に相談したら、留学って手もあるって言われた。内田さんが来年の3月からアメリカにいくことになっているのは知ってるよね。それにくっついていけば?って。もちろん大学になんかいかないけどさ」
と、広将は悪戯っぽく笑う。
「それって・・俺と離れるってこと?」
顔色を変えながら侑貴が布団の上に起き上がる。
「バンドはどうするんだよ!お、俺は・・どうなる」
「一か月ほどだよ。たぶん、涼平も一緒だろうから」
「へ?り、涼平?」
意味がわからず侑貴が戸惑っていると、今度は広将が起き上がって真剣な顔を近づけてくる。
「!」
「だから、さ。うちの親にちゃんと説明したいんだ。今作ってる曲は説得の大きな材料になる」
「あ?・・うん」
よくわからないままに、侑貴は頷く。
「で、侑貴は俺の親に挨拶してほしいわけ」
「うん・・・えっ?」
「ええっ!?」
To Be Continued
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