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第42話

「何を誤解しているのかわからないけど、オレも鈴も自己防衛と役目のために同じ病室にいただけで・・。だいたい、オレも鈴も誠実な恋心しかもってないというか」 「意味わかんねえよ!」  侑貴はなおも叫ぶ。 「オマエが鈴のことを好きなのは内田さんもオレも知ってることだぜ?んで、内田さんがオレの部屋に来て泣いたのも事実だ。オレの立場で看過できることじゃねえだろ!」 「・・ホントなの?景・・なんで泣いたの?つか、お墓参りってまさか・・」 「ご・・めん、本当は、こんな形で会いたくなかったんだけどね」  困惑気な表情で景が答える。 「けど、侑貴と広将の問題もあって。鈴ちゃんも交えてちゃんと話し合った方がいい のかな、って。ごめん、ほんと大人げなくて。ちゃんとお墓の前で“彼女”に誓ったん・・」 「け、景!」  景のその言葉に涼平は慌てて彼の口を塞ごうとして、つまづきそうになる。 「うわっ!・・と、とっ」 「涼平、危ない!」  景が涼平を支えるのを見た鈴はくすっと笑う。 (ふふ。これでボクも“彼女との約束”を果たせるかな。彼女の仇を討ててなおかつ涼平を日向から解放する。それもボクなりの涼平への愛情なんだけどな) 「流石に内田さんは大人だよね。涼平にはやっぱ必要な人だよ。だから“あの子”も涼平の未来を内田さんに託したんだろうし」 「何・・言ってんだよ」  鈴の言葉に涼平の顔色が変わる。 「オマエ・・まさか知ってたのか?もしかして哲人も・・」 「哲人は“あの子”が“レイラ”のために死んだことも知ってるよ。じゃなきゃ自分を殺そうとした涼平を許すわけないでしょ」  何言ってんの、と鈴は苦笑する。 「3年前のあの時、ボクの身体がとっさに動いたのも事実だけど、涼平の気持ちを晴らさせようって思ってなかったら、庇うより先に五体不満足にしてたよ」 「は?」  鈴のその言葉の意味がとっさに理解できずに、涼平は怪訝な表情になる。鈴は肩をすくめて答える。 「何度も言ってるけど、ボクは哲人が一番大事なんだよ。哲人のために今のボクになった。そんなボクを涼平が好きになったのは、予想外だったけど・・」 と、鈴は涼平をじっと見つめる。 「っ!」 「ボクは・・ね。涼平を、利用した。や、レイラのことと “あの子”の死の原因に哲人が関係してるってことを涼平に信じ込ませたのも、あの事件の後それが嘘だって言葉巧みに涼平に信じ込ませた・・後者は事実だけどね、それはキミの伯父さんだった。だいぶ内田さんのことも悪く言われたんだろ?・・そのままでいさせるわけにはいかなかったから、ボクが策を弄した。ま、あの男が直接涼平に言ったわけじゃないから、涼平はあいつが“あの子”を死に追いやったことも知らなかった」 「な・・・なっ!」 「そのアイツを殺したのが高瀬だってのもまた運命的でしょ。・・そうだよ、全てはボクが・・」 「ふざけんなっ!涼平がどんな思いで!広将だって必死に・・それをオマエは・・・」  侑貴が鈴に詰め寄る。 「哲人が、哲人がそんなに大事か! あいつの我儘を全部受け入れて、それで何人が死んだ?傷ついた?鈴、オマエだって本当は哲人よりもっと・・」 「それ以上言ったら、キミを殺すしかなくなるんだけど」  鈴は静かに言い放つ。 「!」 「いっちゃんを悲しませたくはないし、哲人にも余計な悩みを持ってほしくない。むろん、涼平に幸せになってほしい。内田さんと一緒にね。それがボクがこの場に求める正義だよ」  そう言って、鈴は大きく息をつく。 「ふう・・っ!」 「ばっ!・・傷口開いたんじゃねえだろうな。無茶すんんじゃねえよ、だからオマエから目が離せねえんだろうが!」  そう言いながら涼平は鈴から侑貴を引き離す。 「侑貴もいい加減にしろ!そりゃあ確かにオマエもいろいろ言う権利はある。けど 、鈴に哀しい言葉を言わせないでくれ。コイツも本当に身も心も傷ついているんだ。だから・・」 「・・傷ついているのは内田さんもだよ。さっきも言ったろ?泣いたって。・・ずっと一緒にいるって言ったくせに何でいざとなったら鈴を選ぶんだ?」 「っ・・」  今までに見たことのないくらいに怒りの表情になっている侑貴の言葉に、涼平は思わず顔をそらしてしまう。 「見損なった、あんだけオレにエラソーに説教しておいて。まさか、オマエがそこまで不誠実なヤツだとは思わなかった」 「侑貴!そこまで言う必要ないでしょ。涼平は普通の男の子だもの。ちょっと他の人より強くて優しくてかっこよくて・・素敵な人なの。・・好き、なの」  顔を赤くしながら景が言った。 「でも、 未来を決めるのは本人だわ。確かに“あの子”に涼平を幸せにしてほしいって言われたけど、そもそもそれには涼平の意思は入ってなかった。過去に捉われすぎてたのよね私。そんなこと涼平に押し付けても・・」 「違うでしょ、内田さん」  少し顔をしかめながら、鈴は静かに言い放つ。(こうなることも“あの子”は予測してたんだよねえ。ま、それはボクだけが知ってればいいことだよ・・ね)  3年前、自分の秘密を唯一自分の口からその少女に打ち明けた。彼女は自分と“同類”だとわかっていたから。 (涼平には言わないよ。あの子のソレもボクのことも。ここにいる3人はなんとなく気づいているみたいだけど) 「きっかけはそうでも、“今の”涼平を受け入れてくれたんだよね。涼平も “オトコの”内田さんを愛してるんでしょ?内田さんといる時の涼平の方が素直でいいヤツだよ」  鈴はそう言って腹部の傷をそっと押さえる。(あの時は仕方なかったとはいえ、この傷が無ければ涼平はもっと自分らしく生きれたんだろうな)  それは自分も同じかもしれないけど、と鈴は小さく笑う。 「哲人が“ああなせいで”涼平はチャラ男を演じなきゃいけなかった。本当はクソ真面目で気配り上手で、なのに不器用すぎて・・何人も泣かせて。別に涼平が悪いわけじゃないのに、涼平は罪悪感で傷ついて。けど、内田さんとはそうじゃないんだろ?内田さんは特別だろ?ちゃんと言いなよ!ずっと一緒にいたいって、好きだから側にいないと寂しいんだって」 「鈴・・ちゃん」 景が泣きそうな顔で彼女に声をかける。 「駄目だよ、そんな大きな声出しちゃ。傷に響くじゃない。ごめん、私が一番しっかりしてなきゃいけなかったのに。涼平のことを一番に愛しているけど、鈴ちゃんのことだって大好きなのよ。だから・・どうしてもわかっちゃうの、涼平が鈴ちゃんを想う気持ち。なのに・・ね」  情けないと思う。自分の尊厳を傷つける家族に反発して結果的に裏社会に関わることになってしまい、挙句に自分を慕ってくれた女の子の命を救えなかった。 「そんな私より、自分ていうものをちゃんと持ってて強くて・・でも誰よりも優しくて涼平を気遣える鈴ちゃんを好きになるのもわかってるのに、私はどうしても涼平を諦められないの。家族になりたいって・・そんな夢、持っちゃった 」  涼平には全て話してある。全てさらけだしている。なのに鈴にはどうしても敵わないと思ってしまう。 「鈴ちゃんはそうやって自然に涼平と一緒にいられるもの。私は・・本当は今日こうなるのわかってて女装してたのかもしれない。涼平にはやっぱ可愛い女の子が合うから。でも、でも・・」  瞼が濡れる。 (駄目・・だよね。涼平を守るってあの子にも誓ったのに) 「だから、涼平・・鈴ちゃ・・」 「確かに最初は景の美人な顔に心を奪われたってのは否定しませんけど、オレはその・・」 と、涼平は顔を真っ赤にする。 「貴方に愛される方だから。つまりその・・抱かれる・・方、だから。男・・だって否応なしに意識しなきゃいけないわけで。や、それが嫌ってわけじゃなくて、 その・・凄く嬉しかった。自分が素直に他人の愛情を受け入れられることが・・とても」  それが偽りない本心。 (景といると毎日ときめくんだ。景の外見のせいじゃなく、たぶん安心感。けどドキドキする・・それが本当の恋心ってやつなんだと思うから) 「ふふ、涼平は案外甘えたい系だったのかもね。やっぱ大人と付き合うのは涼平にとって必要だったんだよ」 「・・オレって、鈴からそういう風に思われてたわけ?そこまで子供じゃないつもりでいたんだけど」  不本意だと、涼平は少し口を尖らせる。だからそういうところが・・と鈴は苦笑する。 「哲人が天然バカだから、その分涼平は気を張らざるをえなかったんだろうけど、涼平は本当にただ優しい・・けど正義感の塊なんだよね。 いざとなったら非情になれる強さも持ち合わせているけど、けど優しいの・・涼平は」 「何が・・言いたい?」  よくわからない、と涼平は首を振る。 「悪い意味じゃないよ。そういうとこだもの、ボクも哲人も涼平のそういうとこが好きで、だから頼ってしまったの。一番、涼平の身内を巻き込んだくせにね」  鈴は少し顔を下に向ける。 「けど、内田さんは涼平を愛してくれる。涼平と家族になってくれる。涼平が幸せになれる人だって、内田さんは。だから、嬉しかったの」 『何で、鈴が何ていうか上から・・なわけ?や、別にいいけどさ。実際、オレは今の景に魅かれたわけだし。あの時からの運命だったと思うようにはするよ』 「涼平は内田さんと自分の過去も今も未来も含めて、ちゃんと考えて内田さんとつきあってるんでしょ」 「・・だから、抱かれるんだよ。そりゃあ、こうやって女装してる景はどうしても女性を意識しちゃうけど、でもその・・アレ時は普通に男性・・っていうか、オレは・・どうしたって照れちゃうから。や、普段でも普通の恰好してたらカッコイイ人なんだけど」  つまり自分は恋人にベタ惚れなんだと、さらに顔を赤くしながら告白する。 「だよねえ。寝てても内田さんのこと口にしてたもの。ネタじゃなくてマジな話ね。個室が今は使えないから“仕方なく”二人でこの大部屋にいるわけだけど、涼平のことそこまで男として意識してたら、いくらボクでも平気でいられないよ。ボクだって恋する女子高生だもの」  そう言って鈴は顔を上げて からからと笑う。 「結局のところ、涼平は内田さんに“本気の恋”をしたってことなんだよね、初めて。そんで涼平だからちゃんと自分の気持ちを正直に吐露できるんだと思う。僕や侑貴の前ででもね」  そう鈴に言われて、涼平の顔がこれ以上ないというほどに真っ赤になる、 「や、侑貴はだって生野と付き合ってるから。てか本気の恋って・・本気で好きになったんだよ。添い遂げたいって言葉も嘘じゃない。けど、日向を追放されたオレの立場は今までとは違う。あいつらは普通じゃない。・・オレの口からは言えない、けど」 赤面しながらも、口調は真剣なソレになる。 「前にも景に言ったはずですよ。今の立場のオレといると苦労するって。大切な存在だからそう言うんですけど・・」  そう言いながら涼平は景に近づく。 「家族を守れなかったオレが・・親族を死に追いやったオレが・・それでも貴方と家族になりたい・・だなんて。そんなこと本当に望んでもいいのかって、ずっと・・考えてました。好きだから」  恋人に顔を近づける。他の二人の視線を痛いほど感じる。 「涼平・・顔が近・・」 「よく見たいんですよ、だって・・オレが恋してる顔なんだもの。女装も久しぶり・・綺麗です」 「あの、さ」  少し離れたところで黙っていた侑貴が呆れたように声をかけてきた。 「何を急にイチャイチャしてんだよ。マジでバカじゃねえの、アンタら」 「うーん、哲人と直ちゃんもこんな感じだよ。ボクたちが見てるってわかっててもキス始めちゃうからねえ。日向の男ってなんだかんだで恋愛に関しちゃバカになるとこあるよね」  マジで殴りたくなることがしょっちゅうだと、鈴は笑う。 「ま、内田さんも涼平の気持ちを聞けてよかったでしょ。なんだかんだいっても離れられないんだよ、二人は。自分に必要なのがボクじゃなく内田さんだってのも、涼平はちゃんとわかってる。だから、涼平をお願いね。ボクは涼平に寂しい顔しかさせられなかったけど、内田さんはそうじゃない。アメリカでも二人で楽しくやってけるよ」 「は?アメリカ・・?」  涼平が困惑顔で鈴の方に向き直る。 「内田さんが言ったんでしょ?卒業したら一緒に行こうって。会社のお金で新婚旅行いけるんだから、お得だよ?」  はっはっはと何故か胸を張る鈴を見て、涼平は訳が分からないんだけどと景に言った。 「し、新婚旅行って・・。や、業務でしょ!なんの関係の無いオレがそんな」 「あ、広将が二人に付いていくって。鈴が提案したんだって?」  余計なことを、と侑貴が鈴を睨む。 「つまり、侑貴は反対なわけ?いっちゃんの留学。一か月ほどだから・・それでも寂しい?」 「茶化すなよ!マジで答えろ、なんで広将をそそのかした?おかげでアイツは進学しないとか言いやがった。ダメだろ、そんなの。せっかく進学校にいて、成績もいいのに。そんなのアイツのためにならねえだろ!こんな、不安定な業界・・」 「覚悟の上っていうか・・当たり前のことだと思ってるよ、いっちゃんは」  鈴が小さくため息をつきながら言った。 「いっちゃんの性格は侑貴が一番わかってるだろ。自分たちの実力もちゃんと把握したうえで、今の事務所と契約したんだよ。別に受け身の覚悟だったわけじゃない。・・大学生と高校生のバンドってイメージがあるのも承知している。自分が進学校在学の高校生ってことで特別視されてることも。もちろん、そこらへんはボクが陰ながらフォローすることにはなってるけどさ」 「だから、広将だけに負担を強いる気はねえよ。ただ、あいつの曲を作る能力は天才的なんだ。だから・・」 『曲作りと勉強の両方を両立させられるはずが無いんだ、本当なら。ましてや俺の相手なんて。なのに、お前はこうやって誰にでも気を遣って・・俺は自分が情けなすぎなんだよ。お前のこと好きで、幸せにしなきゃいけないのに。俺の方が年上なのにっ』 「どうしたってオレは広将に甘えちまう。広将の親だって、息子に平穏無事な生活を望むはずだろ。オレだって両親が死なず、高瀬に会うことも無かったら普通に大学生やってたさ。そりゃあ、親も昔楽器をかじってたらしいから、血の影響でオレもバンド始めたのかもしれないけどさ」 「親、ねえ・・」  少し難しい表情になりながら鈴が呟く。 「広将の両親にはオレも会った。広将の親らしく真面目そうな父親だったよ。まあ、広将に告白される前のことだけどな」 『だから、さ。うちの親にちゃんと説明したいんだ。今作ってる曲は説得の大きな材料になる』 『あ?・・うん』 『で、侑貴は俺の親に挨拶してほしいわけ』 『うん・・・えっ?』 「つまり、 正式な挨拶ってわけ?息子さんを自分にください的な」 「・・そういうことだろうな。そりゃあ、オレだって真剣に広将と付き合っていきたいから、ちゃんとはするつもりだったよ。けど、男同士のソレなんて普通よりハードル高いだろ。しかも、アイツはそれを理由に進学しないとか言いやがる」 『もっと見せてよ、俺の好きな顔。うん、やっぱ進学の選択肢は無しだな』 『はあ?だからどうしてそうなる・・。だいたい、お前の高校は超進学校だぞ。生徒会役員までやっておいて、学校の実績づくりに協力しないとか。お前、下手すりゃ退学に・・』 『なってもいいよ。や、もちろんちゃんと卒業したいし、でも進学はしない。鈴に相談したら、留学って手もあるって言われた。内田さんが来年 の3月からアメリカにいくことになっているのは知ってるよね。それにくっついていけば?って。もちろん大学になんかいかないけどさ』 「確かにウチの学校的にはよろくしないけどさ」 と、鈴が小さく笑う。 「けれど、生徒の真剣な気持ちを最優先させるのは学校として当然のことだもの。そのためにいっちゃんは努力してるんだよ。結果的に良いモノは出来てるしね。誰にも文句をつけさせないよ」  バンドのリーダーのくせに自信がないの?とニヤッと笑う鈴の頭を殴りつけたい衝動にかられながら、侑貴は今度は景に話しかける。 「内田さんは広将がアメリカに一緒に行くことは承知してたんですか?何でいつも肝心なことはオレに言わな・・」 「安心だけあげたかったんでしょ。侑貴がいつまでも悩んでぐちぐち言ってるから。確かな未来を提示したかったんじゃないかな」  答えようと口を開いた景を制して、鈴が口を開く。 「最初のキスだってそうだったはずだよ。侑貴の悲鳴を止めたくて。いっちゃんはとても優しい人だから」 「それ・・は・・」 『オレだって、本気の恋愛をしたっていいだろうがよ!家族に置いて逝かれたあの日から、家族を持つことは諦めてる。けど・・本気で誰かを好きになったって・・いいだろ。それが例え誰かの恋人でも、運命を感じたんなら、それに縋ったっていいだろ・・じゃあ、どんな恋愛ならオレには許されるんだよ。誰なら・・オレを特別な存在にしてくれるんだよ!』 「だって、そう思っちゃったもの。哲人には命をかけてくれる オマエらみたいな友人も、全てを受け入れてくれる恋人もいる。けど、オレには?・・オレには何の支えがあるのって。だって音楽は“当たり前”だったから。音楽は自分の力でもやれるところまではできる。自信もあった。けど恋愛は違うだろ?自分だけじゃどうにもならない。・・広将の前に付き合ってたヤツは殺されているんだ。いろいろ臆病にはなったさ!」  そう言いながら、侑貴は両の手で顔を覆う。その肩が震える。 「そんなオレの気持ちも広将は受け入れてくれたけど、アイツの“今まで”をぶち壊してしまうのが怖いんだよ。オレの死んだ両親もあの高校の卒業生だからな。ぶっちゃけ、よく音楽活動との両立ができてるなって思う。オレだったら多分ムリ。加えてオレの相手だ。なるべく 迷惑かけないようにしてるつもりだけど、でもオレってこんなんだから」 正直、自分の過去を知ってそれでも広将が自分と付き合いたいと言ったことに、侑貴はずっと戸惑っていた。 (そりゃあ、周りにいる人間がマジの切り合いをするような奴らばっかだけどさ。それにオレはどうしても甘えちまう。他のヤツにしてたような我儘とは違うとは思うけど)  それでも怖いのだ。いつか“普通じゃない自分から”相手が離れていくのではないかと考えてしまうことが。 「広将との将来が今のオレには、はっきりは視えないんだよ。一緒にはいたい。けど、広将にはもっと余裕を持って生きてほしいんだよ。悔いの残る人生は歩んでほしくない。俺を好きになったから、自分の人生を変えるなんてことは してほしくないんだ」 「いっちゃんはとっくに侑貴の人生に責任を持つ気になっているのに?」 「えっ?」  鈴の言葉に侑貴は顔を上げる。その顔を真っ直ぐに見据えながら鈴は言葉を続ける。 「いっちゃんはね、むしろ侑貴の人生を変えたくて告白したんだよ。好きな人を幸せにしたいと思うのは普通でしょ?んでちゃんと“自分の力”で侑貴を支えたいと思ったわけ。そしらイイ曲が出来た。好きな人のための想いは、自分にもいい影響を与えるもんだよ、それが“共に生きていく”ってことだと思うけど?」 「そ・・れ・・は」  今度は声が震える。 「オレは・・広将のために何を・・」 「笑ってあげていればいいのよ。アンタの笑顔を思い浮かべたら本当のラブソングができたって言ってたもの」  微笑みながら景が言う。 「広将が作ってたキャラソンね。かなり本編にも影響を与える歌詞らしいの。つうか、作詞者は原作者だってね」  そう言いながら、景はちらと鈴を見る。 「ははっ・・そこらへんはボクもちゃんと知ってるわけじゃないの。ただ、劇中で歌ってからの発売みたいね」 「オレ・・そういう話すら聞いてないんだけど」  勇気は肩を落とす。 「確かにマネージャー業務まで広将に任せる形にはなっちゃってたけどさ」  情けなさに再び肩が震える。 「恥ずかしいことなんだけど、オレらの中で一番頭がよくて思慮深くて几帳面なの広将だから。アイツ・・頑張りすぎじゃん。なのに成績落としてないんだろ?オレなんかと無理に合わせなくて・・」 「しょうがないでしょ、侑貴の存在がいっちゃんの頑張りの原動力なんだもの。恋の力って偉大よねえ。それだけ愛されてもまだネガティブにしかなれない?てかさ・・」 と、鈴は少し照れたような表情になる。 「?」 「恋するとね、周りが見えなくなるっていうでしょ。侑貴は多分いっちゃんがそういう状態なんじゃないかって心配してるんだよね?ぶっちゃけ哲人はそういうとこあるな。おかげでボクも涼平も随分迷惑してる。けどね、それって3年前のボクでもあるんだよね」 「!・・鈴、それは・・」  涼平の顔色が変わる。が、鈴は強く首を横に振る。 「いっちゃんは、ちゃんと考えてるの。ボクみたいな失敗はしない。ボクが強く哲人に寄り添っていれば、哲人を泣かせずに済んだ。ボクね 、あの時は哲人を守れるなら自分は死んだっていい、そんな風に思って涼平の刀の下に入ったの。涼平の事情も知ってて、哲人がボクを大切に思っててくれてるのもわかってて。だから・・今があるの。自分を大切にしない、相手の気持ちも許容しようとしなかったら、そりゃ恋なんてする資格は無いって」  全て自分だけが知っていればいいと思っていた。自分はそういう運命なのだからと。 「哲人を泣かせちゃった。大好きな人を傷つけた。直ちゃんは違うの。ちゃんと哲人に寄り添ってるの。哲人のね、哲人の欲しい言葉を言ったの。だから哲人は愛したの、直ちゃんを。過去はね、関係ないの。どれだけ時は流れても見ているのは“今”なの。幸せな未来を望む前に、今を大事にしてよ。じゃないと・ ・」 と、鈴はにっこり笑う。少し、その瞳が濡れているように涼平には感じられたけど。 「大切なものを失うことになるよ?過去にこだわりすぎていても、未来を視過ぎていても駄目なんだよ。ふふ・・」  涼平や侑貴がここまで拗らせているのは絶対自分が原因なんだろうなと思いながら、鈴は笑い続ける。 (だって泣いちゃうもの。認めちゃうもの、一番救ってほしいと思ってるのは自分だって。ダメなんだ、まだそれは。彼らが“真実を知るまでは”) 『鈴は幸せになるために、そして俺たちの未来のためにいろいろやってきたんだろ?俺や涼平も哲人に憧れてるわけで・・アイツのためなら無茶はするさ。鈴と同類なんだよ。悩んで恋して・・そして仲間を大切に想う、ね』 『だから、 もう無理なシナリオは作らなくていい。これからは、鈴の思うとおりに素直な感情を出して生きてほしい・鈴は、それができる女の子だから』 (ああ、いっちゃんにはあんまり迷惑かけたくないな。いっちゃんなら大丈夫なのかな、“あのこと”を知っても) 「確かなものが無ければ安心できないっていうなら、少し力を貸すよ?」 と、なにげない感じで告げる。 「いっちゃんとこれ以上揉めたくないでしょ?アニメのためにも、ちゃんと意思の疎通ができていてくれないと困るんだ、だから・・」  非常な賭けだけど、とも思う。 (けど“あの場所を潰して”みんなの記憶も戻りつつある。知らなければ前に進めないと言うなら、過去を踏みしめてもらわなきゃ。自分たちだけの問題でも無いしね 。“大人たちにも”覚悟してもらわないと)  そして自分の携帯を掴み電話をかけ始める。 「鈴!何を言いかけ・・」 「・・」  侑貴の言葉を無視して、鈴は電話の相手が出るのを待ち続ける。やがて呼び出し音が途切れた。 「あ、お父さん?うん、忙しいとこごめん・・はは、そうなの深刻かつ緊急事態。・・違うよ、ボクの身体は心配ない。ただね、例の部屋を貸してほしいだけ。・・琉翔さんの意見は関係ないよ。ボクの大事な友達の一生の問題なんだから。・・誰だって“あのとき”を越えなきゃいけないんだよ。傷ついてでも、ね」 「鈴!今の電話はなんだ!?お父さんて・・」 「ボクのお父さんだよ?侑貴といっちゃんのために、あの人にも一肌脱いでもらおうと思っ てね。ちゃんと確約はしてもらったから、安心してよ」  携帯をしまいながら鈴が答える。 「だから、侑貴は安心していっちゃんのご両親に挨拶をし・・」 「だから!何でそこでそういう話になるんだっつうの!つうか、オレと広将の問題に何で鈴の親が」  そう言って侑貴は鈴に迫る。景も困惑気な表情で 「鈴ちゃん、まさかと思うけど、周りを巻き込んでヤバイことしようとか考えてないよね?」 「景、もしかして何か知ってるの?景は鈴のお父さんとも顔見知りだよね」  心配そうに涼平が景に聞いた。 「・・私もある程度は調べたから。けれど、日向のことに関しては流石に、ね。けど、さっきの会話から察するに・・」  そう言いかけた景に鈴がウィンクを投げかける。 「だー め、内田さん。これは侑貴といっちゃんの問題なの。侑貴が望んだんだよ、未来のための確かな礎を」 「・・・」 「侑貴たちのカップルは本当に哲人たちに似てるの。『二人は前から結ばれる運命だった』なんて言葉は一見ロマンチックに見えるけど、けど“いま現在の気持ち”は無視してるよねって思うの。哲人もね、だからなかなか直ちゃんへの想いを認められなかったの、自分で。もちろん過去の記憶は無かったんだけど、何で?ってずっと思ってたって。もちろん、二人は8年前に会っていて今の出会いも・・」  おそらく仕組まれたものだと鈴は考えている。何のためかははっきりとはわからないが、琉翔の何らかの目的のためには必要な出会いだった。 (でも、あの二人のお互いへの想いはそ んなことには関係ないものなはずだ。だから、ボクは諦めたんだもの。いっちゃんと侑貴だって・・いっちゃんの想いは強固で真剣なもの。流されるような人じゃないから。運命を打ち破る想いだってことを、それこそお互いに理解してもらうためには、あのことを知ってもらわなきゃいけない) 「あの二人が離れるはずがない。そんなことは侑貴も感じているだろ?ほんと、周りを振り回すカップルなんだけどさ。だから、侑貴もちゃんと現実と向き合ってほしい。いっちゃんがどうして進学せずに仕事と侑貴との人生を選択しようとしたか。それをいっちゃんにしっかり寄り添って考える機会にしてほしいんだ」  そのためなら、自分はピエロにでも悪魔にでもなるさ。そう鈴は心の中で呟いた。  「哲人、大丈夫?今日は早めにお風呂に入って寝る?」 「・・風呂は入るけど、直央と一緒に入るよ、もちろん」 「もちろん・・て・・やあん」 と、財前直央は呆れたような声を出す。が、それはすぐに嬌声に変わる。 「だ・・め。いっ・・あ、ん・・そっ・・舐め・・・あん、あん・・あっ」 「駄目って言ったって、身体は正直・・ってオレも馬鹿な事言ってる場合じゃねえな。オレの身体もヤバイや」  直央から身体を離して日向哲人は服を脱ぎ出す。 「ちょっ、哲人。何で脱いで・・」 「何でって風呂入るからだよ。このままだと流石にキツイしな」 と言いながら、哲人は直央の手を自分の下半身に導く。 「だ、駄目だって・・や、わかってたけど。哲人は何でそんなに元気なの?」  戸惑いつつも、直央は哲人の勃立したソレを触り続ける。 「ん・・気持ちイイ。流石にしばらくご無沙汰だったから・・たまんない」  うっとりとしたような表情になった哲人を見て、直央はフッと笑みを漏らす。 「ふふっ」 「・・おかしい?オレ」  哲人が怪訝な表情になる。 「そうじゃなくて、哲人が幸せならそれでいいと思っただけ。でも、風呂のお湯はまだ入れてないからちょっと待っ・・」 「待たない。ずっと我慢してたんだ。や、オレの身体と思考が思うようにうごかなかったのが原因なんだけど。でも、本当は気が狂いそうだった。もちろん直央は抱きたいだけの相手じゃないけど、全身全霊で直央を感じることができなくなるって思ったら・・」  哲人の身体が震える。その身体に今度は直央が口づける。 「直央・・」 「オレはね、どこにもいかないよ?哲人の顔を見れなくなったら、オレが心配で寂しくてどうにかなっちゃうもの。ずっと一緒にいようね」  いっぱい抱きしめてほしい、と上目づかいでねだるような視線を直央は投げかける。 「いいの?怒ってない?」  なぜか戸惑ってしまう。身体はとっくに恋人を抱く気持ちになっているのに。 「何でオレが怒るのさ。そりゃ、哲人が“何もかも無視して自分の都合を貫く”とかいうなら、オレは止めるよ。それは“哲人の幸せ”じゃないもの。哲人は、週一で“戸籍上のお母さん”にメールしてるでしょ。この間、咲奈さんを通じてオレにお礼の手紙があった。哲人の調子が戻ったら、ちゃんと見せるつもりだったの、ごめんね」  少し泣いてるような、そして照れたような表情で直央が謝る。 「母さん・・から?」  嘘、と哲人が少し身体を離す。が、直央はすぐに哲人の腕を掴む。 「オレ!・・哲人のお母さんに認められて嬉しかった!だって、どういう理由であれ哲人を15歳まで育ててくれた人だよ。哲人が・・真実を知ってショックを受けても、それでも人生を投げずに学校改革までしようとするくらいポジティブに生きられてたのは、それまでの人生の楽しさがあったからだろ!オレと家族になりたいって思ったのも、家族でいることの意味と楽しさを知っているからだろ!・・いつかちゃんと挨拶するから。オレがなんらかの立場で日向に関係あるのも分かったんだもの」  腕を離して、額を哲人の胸に押し付ける。 「ふふ、哲人ってばドキドキね。やっぱ一緒にいると楽しいねっ」 「怖くない?日向の奥底を知っても。簡単に人の人生を壊せる輩だとわかっても」  その中心にあるのは、他ならぬ自分。 「涼平は本気でオレを殺そうとした。オレのせいで家族を失ったんだから当たり前だよな」 「でも、その前に涼平くんは哲人に憧れの感情もあったわけでしょ。全ての想いを全力でぶつけて、そしていろんな意味で哲人に負けたんだって言ってた。オレだってそうだよ。哲人を本気で嫌いだったのに・・なのに寄り添いたいって強く思ってしまった。哲人と離れていたら損だって」  そんな想いから始まる恋があったっていいでしょ、と恥ずかしそうに呟く。 「や、そこんとこは同意なんだけど。うん、朝は本気で落ち込んだ。見送ることもしなかったオレを・・亘祐に殴ってもらったんだ、どうしてもやるせなくてさ。軽く、だけどね」 「亘祐くんも大変ね。オレ、頑張るよ」 「えっ?」 「哲人が悩む暇ないくらいに、オレが哲人を愛するの。それができるのオレだけだもの。裸の哲人に抱きつけるのはオレだ・・」 「直央の裸を見れるのもオレだけだよ。こんな素敵な人を他の誰にも渡すものか。可愛くて優しくて・・最高だよ、オレの恋人は」  そう言いながら、哲人は直央の服を一気に脱がす。 「ちょっ・・」 「待たないって言ったろ?触りたいんだ、我慢できないっ!」  そして哲人の両の手が直央の後ろに伸びる。 「あ・・あ・・あっ」  直ぐにぐちゅぐちゅという音が聞こえてきた。 「ほら、もう直央のココこんなに濡れてる。自分でシなかったの?」 「ず、ずっと一緒にいたんだからわかる・・だろ、んなの。ていうか、付き合い始めてからは一度も自分で触ったことな・・っ」 「テスト勉強の時以外初めて自重してたから、もしかして・・と思ったんだけど、まさか淡白になったとか?・・そんなわけないか」  だってこんなに勃ってるから、と直央の勃立したソレを本人の身体に押し付ける。 「後ろも前も凄い涎垂らしてる。そんで中がひくついて・・物足りない?指じゃ」 「やあ・・っ。だ・・って、でも・・哲人の身体、まだ傷ついてるでしょ。本当はちゃんと病院で治療しなきゃいけないのに」  直央が一瞬心配そうな表情になるが、それを無視して哲人が中を弄り回しているため、その声は再び嬌声に変わる。 「ん・・あっ。ああん・・やあっ・・ん。し、心配してるの・・にっ、無視しない・・いやあああん・・・はあ」 「身体はともかく気持ちは十分に癒されているからいいよ。身体も不思議に痛まない」 「あ、アドレナリン効果とか言わないでよね。実際に瓦礫が当たってたんだから」  哲人の言葉に呆れつつも、身体の中にくすぶっている火種が疼くのも抑えられない気持ちにもなってきた。自然に体が揺れる。 「自分で腰を動かして・・もっと奥に欲しいの?」 「・・イジワルぅ」   「ごめんな、直央ばかり動くことになっちゃって」  ベッドの上に横たわったまま哲人がすまなそうに謝罪の言葉を口にする。 「い、いいのっ!だって気持ちよく・・あ・・はあ。イイ!奥まできてる・・あっあっあっ・・ああっ!」  身体を上下させ、時にはのけぞりながら、直央は感嘆の声を上げ続ける。 「哲人の!大きくて気持ちいいのっ!当たってるの‥ソコそんなに擦られたら・・ぁあ」  そんなに突き上げないで、と涙声で懇願するように言う直央に、哲人は残酷な言葉を投げかける。 「オレは全然動いてないよ?」 「っ!」  嘘、と呟きながらも直央は腰を動かし続ける。 「ふふ、直央が俺に無理しなくていいよって言ってくれたから、オレは本当に何もしてないんだ。だから謝ったのに」 「マジ・・で?・・っ」  直央の顔が羞恥に染まる。 「別に照れなくてもいいだろ、今さら。直央が感じてたのは、それこそオレの身体はちゃんとわかってたから。やっぱ・・嬉しいんだ。・・ちょっと身体起こすよ」 「う、うん?」  直央と身体を繋げたまま、哲人はそろそろと身体を起こし壁に寄りかかった。 「ごめん、その体勢はつらかったろ?・・もっと近くで直央がイク顔が見たかったんだ。キスもしたかったし」 「あ・・ん」  言うなり顔が近づく。口と口が合わさって、お互いの舌が絡み合う。最初はゆっくりと、やがて激しく。 「んん・・ん」  たまらなくなり、哲人は自分も腰を動かし始めた。ずんと突き上げると、直央の指が痛いほど肩にくい込んでくる。 「はあ・・あっ、あっ・・凄い。固いのが・・オレの中で・・」 「うん、オレも気持ちいい。直央の中が温かくて・・たまらない」  もっと味わっていたいと思う。が、自分の身体が傷ついているのは事実。とっさに高瀬に抱きかかえられたとはいえ、何か所か打撲はしている。 「もう・・イキそうだろ?直央は」  不本意だけどと思いながらも、哲人はそう直央に聞いた。 「う・・うああっ!そんな強く突かれた・・ら・・・やあ・・イイ!イッちゃ・・う」 「出・・る」 「っつう・・やっぱ無茶はダメだな」  思わず腕をさすってしまった哲人の顔を、直央が心配げに覗き込む。 「大丈夫?ごめん、オレが無理させたから・・」 「違うだろ、オレの我儘を叶えてくれただけだろ。あれ以上直央を抱くのを我慢してたら、マジで爆発してたって、オレ」  オレって思ってたよりもスケベだったみたい、と照れたように言ってからキスする。 「・・今朝、キスしなかっただろ」 「!・・うん。大学にいくべきかどうかギリギリまで迷ってて、マジで遅刻しそうになったから、つい」  ホントごめん、と直央は頭を下げる。 「違うって、怒ってるとかじゃなくて・・むしろ直央がもっとオレを叱ってくれていいんだ」 「は?」  意味がわからない、と直央は首をかしげる。 「可愛い・・」 「ふぇっ?」 「可愛いって言ったの!何でそんな仕草すんだよ。どう贔屓目に見たって、女の子の鈴より断然可愛い、っていうか可愛い!」 「・・うんもう」  可愛いを連呼する哲人を前にして、直央はぷくっと頬を膨らませる。 「だから何でそんなに可愛さアピするんだって・・」 「違う!これでも怒ってんの!ったく、男子への誉め言葉じゃないじゃん!それって。確かに哲人の奥さんポジになるのかもしんないけど、オレは男なの!」 「ははっ、やっぱ可愛いよ、直央は。すごく癒される。そういう意味の可愛いだよ」  出会えてよかったと、呟きながら哲人は直央の頭を撫でる。直央も複雑そうな表情をしながらもされるがままになっている。 「気持ち・・よくなった?」 「ん・・ちょっとは、ね。改めて直央はオレにとって必要な人だと思い知ったし、鈴たちの前でも堂々としていられると思うよ」 「よかった。じゃあ、鈴ちゃんに連絡できるね」  そう無邪気に微笑む直央に、今度は哲人が複雑な顔になる。 「哲人?」 「たぶん、まだ鈴がそれを望んでないと思う。あの事件の前に鈴から言われていたんだ、実は」 『どういう結果になるにしろ、哲人もボクも涼平も何かしらの痛みを受けることにはなると思う。けど、哲人は余計なことは絶対に考えちゃダメだからね。ボクたちのことも大切に思っていてくれるのなら・・』 「結局拗らせちゃったんだけど」 「余計なことじゃないからだろ、それは」 「へっ?」 「鈴ちゃんと涼平くんのこと、余計なことじゃないでしょって言ってるの!」 「直央・・」  全くもう・・と直央は自分の携帯を操作し始めた。 「ばっ、駄目だって!」  その行動の意味を察して哲人が慌てるが、直央は構わずに電話を続ける。 「あ、鈴ちゃん。今、大丈夫?・・うん、哲人の部屋だよ。もちろん哲人も側にいる。割に元気だよ・・そう、ううん」 「直央!」 「・・あ、聞こえた?はは、ほんと元気そうでしょ哲人ってば。・・ボクの意思だよ、鈴ちゃんに今電話したのは。ボクの性格も鈴ちゃんは理解してるはずだよね。ボクがどれだけ鈴ちゃんを大切に思っているかってことも。・・えっ?どういう・・」 「貸せっ、直央」  直央の表情と声が困惑気になったのを見て、哲人が携帯を奪い取る。 「哲人!」 「鈴、直央に何を言った?オレより、よっぽどオマエや涼平のことを心配して・・えっ?生野?・・オマエの実家のホテル?はあ?どういうこ・・」 「よくわからない・・けど、直央にも来てほしいって」 「ホテルRに?何で・・」 「何で侑貴さんが生野くんのご両親に挨拶するのに、オレと哲人が関係してるの?」     To Be Continued

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