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第45話

「本当は時彦さんも哲人を抱きしめたかったんだと思うけどな。だって、やっと真実を言えたんだよ?」 「・・あいつは真実の半分も言ってないよ。それにあいつのせいで18年間もみんなが悩み苦しんだんだ。多分、生野のお父さんだって。でも、そりゃあ・・よかったと思うけど」 「ふふ、哲人も感動したのね、生野くんたちのこと。オレも哲人のお父さんのことを知れてよかったよ」  あはははと、直央は大声で笑う。哲人は不機嫌そうに 「あいつは、父じゃない。言ったでしょ、ただの精子の元だ って。だいたい身ごもった恋人を捨てるとか、大人の男のすることじゃない。貴方は優しいから、オレと同じ気持ちは持てないかもしれないけど」 「うーん、次はオレの番かなってちらっと思っちゃったから」 「うん?」  苦笑しながら答える直央の顔を、哲人は不思議そうに見つめる。ちなみに今は二人は哲人の自室にいた。 「全部ではないかもしれないけど、侑貴さんのご両親とみんなの親御さんの関係もわかったでしょ。そんで哲人のお父さんのことも。いつかはオレの父さんのこともわかるかなって思ったの。だって、哲人のお父さん知ってる風だったじゃない。多分、今の俺には言えないことなんだろうけどさ。でも、知ってる人が哲人のお父さんてのが、オレは嬉しいんだ。いつか、哲人と一 緒に会いに行けるような気がして・・さ」 「っ!直央・・」 「あ、オレが寂しいとかじゃないよ」  自分の言葉で哲人の顔色が変わったことに、直央は慌てる。 「本当に気にしていなかったんだ。なんだかんだいって寂しい思いはしなかったもの、オレ。8年前、オレの誘拐をオレの叔母さんを企てたってことも、そりゃあ悲しい・・けど」 「ゴメン!直央ゴメン!」  哲人ががばっと直央に抱きつく。 「哲人・・」 「ごめん、オレは自分のことしか考えていなかった。正直、直央にはオレと灯先生だけいればいいと思ってた。いつか3人で暮らせればって。けど、直央はいつも日向の両親のことも考えてくれて、あの・・最低な父親のことも受け入れてくれて。直央が側にいてくれるから、 オレはちゃんと生きていけ・・るってのに」  不覚にも涙が出てくる。思いもかけなかった実の父親との出会い。そしてその人物が、自分が嫌悪したくなるタイプの人間で、同じタイミングで広将の父親の懐の深さと8年前からの思いを知ったことなど、予想していなかったことが一度にきて自分の頭と心の中がぐちゃぐちゃだった。 「オレ、直央には最初に言ったと思うけど、ゲイとかほんと嫌いで、それはその・・偏見ていうか、ある事件が原因で。なのに直央はどうしても手離せなくて。その身体に触れていたくて。ぶっちゃけ、そういうのが恋とよべるのか自信が無かったんだ」 「へっ?」 「憧れるって意識はあったよ。主に勝也さんにだけど。鈴のことも亘祐のことも好きだった。・・鈴のこ 鈴はとは許嫁だってのは知ってたけど、鈴があえてそういうことを意識させないようにしてたんだろうな。今にして思えばそれは、鈴とオレの将来を見越したおせっかいだったんだって分かるけど。つまり・・オレってバカなんだけど」  出生の秘密を隠されていたことと、同じ一族の橘涼平たちばなりょうへいに恨まれ殺されかかったことで自暴自棄になり、実家を捨て日向を出ることを望んだ。 「オレの全ては結局は日向がお膳立てしてくれたものだから。そりゃあオレも努力はしたさ。けれど、オレは結局はアイツの息子だ。どうしようもない部分も引き継いでいる。たぶん・・周りを不幸にする」 「な、何を言うの!」 「涼平は家族を亡くしオレを襲い助けたことで、日向での居場所を無くした。3年前の涼平ならそんなこと望まなかっただろうけど、今はアイツにはもっと大切な存在がいる。・・けど、オレが許されたわけじゃないから」 「言わないでよぉ、そんなこと」  目にいっぱい涙をたたえて直央が叫ぶ。 「直央、泣いてるの?」 「だって、だって!哲人がそんな寂 しいこと言うからあ。オレは哲人といてこんなに幸せなのに、何で哲人はぐずぐずとしているの?オレの力がまだ足りない?オレ頑張るからあ・・哲人泣かせないようにするから。もっとちゃんとした恋人になるから、だから悲しいこと言わないで」  そう言いながら直央はぐすんぐすんと泣き続ける。 「俺ね、本当は哲人がお父さんに抱きつきたかったんじゃないかなって思ってたの。もっと違う形で会わせてあげたかった。お母さんのこともちゃんと・・酷いよ、鈴ちゃん」 「直央・・」 「ううん、鈴ちゃんが考えたことに間違いが無いのもわかってる。哲人に何も言わず不意打ちのようなことをしたのも、そうせざるを得ない理由があったんだろうなって。だから、鈴ちゃんのお父さんも受け入れ たんだろうなって。鈴ちゃんも・・辛かったんだろうなって」 「だから・・泣いてくれるの?鈴のために?」 「はは、そんなおこがましいことできないよ」 と、直央は苦笑する。 「けど、それでもオレは哲人を泣かせる人は誰であろうと許せないんだ。哲人を悩ませる人は・・」 「もう、悩まないよオレは」  哲人が笑う。自分でも驚くくらいに自然に笑みが出た。 「だいたい、直央にはオレの本性を見せているんだから。鈴の目にはそれがとても危ういものに見えるみたいだけど、それはそれで間違いじゃないんだろうけど」  そう言いながら、哲人は直央の服を脱がせていく。一瞬息を飲んだが、直央はそのまま相手に身を任せた。 「っ・・・んん・・ふあ」 「あるがままのオレを 受け入れてくれたのは直央だけだから。これからも貴方の前ではオレは自由に生きていく。だから、貴方も自然なままのオレでいて」  鈴があの場に時彦を呼んだのはいろいろ理由があるのだろうが、一番伝えたかったことはコレなのだろうと考える。 (オレを産んだ人が母さんの姉だというなら、オレの性格の一部分の理由もわかるもの。そんで、実の父親が“ああ”ああなら、オレの中に潜む狂気も、多分消えやしない。でも直央はそれも好きだって言ってくれるから) 「好き・・だよ。哲人は哲人らしくいてくれればいい。だっ・・て、哲人はいっぱいオレを感じさせてくれる・・もの。・・あん・・あっ・・あっ・・・そこ・・」 「うん、感じて。貴方の身体は隅々まで美味しいから、ずっと舐め て いたくなる。特にね、この小さな粒がすぐに反応するから」 「いやあああっ、そんなにいっぱいペロペロしないでっ!あっ、あっ、あっ・・やあっ」  哲人は直央の性器を優しく握って上下に擦りながら、いつもより丹念に相手の身体を舐めまわす。 「凄くぴくんぴくんとしてる。涎もこんなに垂らして、今日の直央いつもよりいやらしい」 「な・・に言って・・んの。哲人が全部・・ああ、指・・気持ちいい!もっと・・もっとぐちゃぐちゃにしていいから、好きな・・ように、し・・ひやあ」  直央のその言葉に従うように、哲人の指が恋人の中で妖しくうごめく。 「ふふ、物足りないの?まだ。そんなにお尻を振って。足も広げてそこまでおねだりするなんて。貴方は年上なのに、こんなに可 愛い。可愛くて素直で優しくて、だからみんなが貴方を狙う。たぶん・・あの人も」 「ふえっ?何か言った?哲人。も、もう我慢できないの。哲人のソレ挿れてよぉ。ねえ・・」 「いつも、そうやって我儘言ってくれれば、オレも楽な気持ちでいられるのに」  哲人は満面の笑みを直央に見せて、直ぐに自分の指を引き抜き代わりに勃立したソレを直央の後孔にあてがう。 「あっ・・イイ!硬くて・・やあっ、いつもより大きい感じがする。いつも大きいのに・・」 「想いは毎日大きくなってるからね。じゃあ、今日はもっと奥まですぐ挿れる・・よ」   「哲人に父親を会わせたそうですね、どういうつもりなんですか?あの子は今不安定なんだ、直央もそうだ。いくらなんでも・・」 「 最初に仕掛けたのはオマエだろ?つうか、今日のことは当主からの指示なんでな。鈴にも時彦にもソレは言っていない。つまりは鈴の考えだ。あの子は頭がいいよ、本当なら日向の後継者になるべき人間・・」 「余計なことはしないでいただきたい。本当に鈴と哲人を大切に思うなら」  高木琉翔は不機嫌な感情を隠すこともなく言い放つ。 「貴方の立場は誰より日向では特異なものだ。けど・・」 「だから、今のオマエの行動は違反行為だ。理事長と生徒という立場で校内のみ、ということだろ?」  黒木遠夜は電話の向こうでくくっと笑う。 「それよか、時彦が哲人に会おうという気になったという事実をもっと深く考えたほうがいいんじゃねえのか?」 「っ!何を企んで・・」  琉翔はスマートフォンを持ったまま身構える。 「おいおい、それはこっちのセリフだぜ?・・あいつが本気になればオマエの命だって簡単に無くなる。仕事に乗じてそれくらいはやる人間なのは、オマエも承知してんだろ。とりあえず、勝也は解き放したほうがいいぜ?」 「はあ?・・今さら何を」  そう言いながら、自分の傍らに全裸で横たわる日向勝也ひゅうがかつやを見つめる。 「琉翔・・さん」 「同じ顔をした従弟がオマエなんぞにいいようにされているのを、時彦がほおっておくはずもないだろ・・はあっ」  馬鹿か、とわざとらしく遠夜は大きくため息をつく。 「涼平を遠ざけることができても、哲人には直央がいる。直央は自分が日向に少なからず関係していることも知ってしまったんだ。あの子なら遠からず自分の出生の秘密を知るだろうよ。現に、既に関係者と出会っているんだ、哲人と・・勝也も一緒にな」 「っ!まさ・・か、そんなこと向こうが許すはずが・・」 「不慮の事故ってやつだよ。甥の嫁がひったくりにあったところを助けたのが、哲人と直央だそうだ。嘘だと思うなら勝也に聞けばいい。もちろん勝也には不可抗力なことだったのだから責めるなよ」 「ごめん・・なさい。本当に偶然だったんだ。直接犯人を捕まえたのはオレで・・でも先に被害に気づいたのは哲人と直央くんで」  電話を終えた琉翔は、裸のままの勝也に詰問する。 「被害者が“あの人の関係者”だとなぜ言わなかった?お前はただ事件の概要しか言わなかったな。まさか哲人に余計なことは言わなかっただろうな!・・っ」  自分が思いのほか動揺していることに気づき、琉翔は唇を噛みしめる。 「哲人は何も・・が、直央くんはその頃から昔の記憶を徐々に取り戻したようです。けれど、そのことは哲人にとっても必要だと思ったからオレは・・んん」  叫ぶ勝也の口を琉翔は自分のソレで塞ぐ。 「・・オマエの父親に直央を会わせることも私は指示していなかったはずだがな。まあ、もうそれはいい。哲人もまさかアレが直央に関係しているとは思わないだろうから。が、なぜ一番重要なことを黙っていた?まさか・・」  勝也の勃立したソレをしごきながら、琉翔は相手の耳に口を寄せる。 「他に誰かいたのか?私に言えない行動をしたのか?」 「っ!・・お、オレは別に・・っ・・やあ・・いっ、イッちゃ・・」 「しょうがない子だ。責められた方が感じるとか、哲人には理知的に接しているのに、とんだ変態だよ」 「そ・・れは、だって貴方が・・」  オレに教えたこと・・と勝也は目で訴える。その自虐的な視線がより相手の嗜好を高めるのも承知で。 「つまり・・本気でかばいたい相手なんだね」  そう、琉翔は呟く。 「!・・ち、違う!オレは誰も・・やあ・・もう・・」 「イキたければイケばいい。・・キミは向こうを選ぶのだろうから」  勝也の窄まりに手を伸ばしながら、琉翔は小さく呟く。 「お願い・・スッキリさせて。も、もう・・」 (間違っていたのか、あの時直央と哲人を会わせたことは。直央の性格を読み切れていなかった私の負け・・なのか。“あの人の息子”の重要性を見誤っていたのか。そして・・私の気持ちも)  自分が理事長を務める高校の1年生の端正な顔を思い浮かべる。 『他に誰かいたのか?私に言えない行動をしたのか?』   それを聞いた時、勝也の頭の中にその人物の顔が浮かんだのはわかっていた。わかってしまう自分が情けないと思ったけど。 (・・本気の恋なんて、自分には似合わない。それがわかっているから今の立場に甘んじようと思ったのにな。私の人生の主役はあくまで哲人・・なのだから)  じぶんは拗らせ系なのだと、我知らず苦笑する。それこそ子供の頃、時彦に言われたとおりだと。 『琉翔は素直に我儘なんだよなあ。頭いいのにさ。もう少し、相手の気持ちに寄り添った方がいいぜ。・・ちゃうちゃうそれは負けじゃない。好きなら好きといえばいい・・が』 「キミは満足したいのだろう?・・私と同じように寂しがり屋だから」 (あ、言っちゃった。遠夜の呪いかな?) 「も、もっと弄ってくれていいから・・。お願い、琉翔・・さん」 「哲人・・満足してくれた?オレで。だって哲人がいっぱい擦ってくれちゃうから、オレ・・すぐにイッ・・・すぅ」 「ふふ、こういう寝方もするんだ、直央は。可愛くて・・ほんと素敵な人」  一緒に風呂に入り一緒に出て、お互いの身体を拭きあいパジャマを着た後、一緒に布団に入った。 「いろいろあったもんね、今日は。オレも緊張してたし。あの男のせいで・・。あの殺気のせいで」  あの部屋に時彦が入ってきたときに感じた雰囲気。それは自分だけが感じた殺気だったと思い起こす。 『哲人はお父さんに抱きしめてほしいのかと思ったの』 「あの場は完全にこっちのテリトリーだったはずなのに、最初に発したあの殺気は・・。おそらく直央の希望には添えそうにないな」  苦笑しながら、哲人は眠ってしまった恋人の頭を撫でる。 「オレが触れていたいのは直央だけなんだ。あんなの親だなんて思いたくない。あいつは多分・・オレの敵になる」 (直央を守らなきゃ。オレの・・一番大切な人。オレの人生そのもの・・。直央がいなきゃ、オレは生きてる価値がないもの。感情論ではなく、おそらく・・それが“真実”だから) 「愛してます・・結婚、するから」    To Be Continued

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