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第48話

「ごめんね、哲人に直ぐに連絡できなくて」 「いいんだ、下で会ったから。アポなしで来る方が悪いんだ」  すまなそうに謝る財前直央に少し疲れたような表情で日向哲人は答える。 「でも、よくオレの母親だって分かったな。写真は確かに見せたことあったけど・・」  哲人は中三のときから今のマンションで一人暮らしをしている。そして高3になったこの春からは直央とほぼ半同棲状態になったのだが、一度も実家に戻ったことはなかった。 「だってテレビで見たことはあったもの。断然実物の方が綺麗な人だったけどね」 「あ・・そ」 「・・・」  哲人の顔が照れたように赤くなったのを見て、直央はホッとする。 「ん?」 「哲人はやっぱお母さんが好きなのね。なんだかんだで長期の休みも実家に戻ろうとしないから、心配していたんだけど」  哲人が母親と週一でメールしていることは知っている。が、彼が実家を出た事情が複雑であったために、直接の交流が無いことに自分の立場でどう考えていいのか、直央はずっと悩んでいた。 「確かに哲人を産んだ人じゃないけど、哲人とは血が繋がっているんだ。似ているし愛情も感じた。会えてオレはよかったよ。それに、サインも貰えたもんねえ」  へへ、と直央が一冊の本を取りだす。 「それってもしかして母さんの?」  いつの間に買っていたのかと哲人は苦笑する。 「哲人の家の味を知りたかったんだもん。直接教えてもらう機会なんてそう無いとも思ってたしさ。ふふ、まさか今日一緒に料理できると思わなかったなあ。鈴ちゃんに感謝しなきゃ」 「は?鈴?」  何でここで入院中の幼馴染の名前が出るのかと哲人は訝しぐ。 「あ・・その・・実は鈴ちゃんから先に連絡があったんだよ。哲人のお母さんが哲人の部屋に向かってるからよろしく、って」 「・・何で鈴が?」  哲人の声が少し低くくなり、なぜか直央の頬が赤くなる。 「直央?」 「だって、その声がかっこいいなって思って。ふふ、ドキドキしちゃうね。お母さんが来た時もそうだったんだけど」 「好き?そんなに」  直央の言葉を聞いて、哲人は自分がどうしようもなくニヤケてくるのを感じる。 「オレも直央が大好きだよ。だから帰らなかっただけ。直央から離れたくなかったから。それに母さんも父さんも忙しい人だしね。・・で、鈴がどうしたって?」 「えっとね、オレがこの哲人の部屋で料理の下ごしらえしてたわけ。そしたら鈴ちゃんから電話があってさ。慌ててすぐに哲人に連絡しようとしたんだけど、間髪入れずにチャイムが鳴って・・」 『あ、貴方は直央さんね。初めまして、哲人の母です。・・あら、哲人さんはいないの?ごめんなさいねえ、貴方に留守番させちゃって』 「なんかさ、ずっとオレに会いたかったんだけど、なかなかきっかけがなかったんだって」 『だって、お父さんも大学で会ってるわけだし。それに時彦さんとも会ったって聞いて。鈴さんももういいんじゃない、って言ってくれたから』 「何で鈴が仕切ってんだよ。それにこんな不意打ち・・」 「あっ、ごめんね。お母さんと一緒に料理とかしてたら、なかなか哲人の電話できなくて。お母さんがトイレに行った隙にようやく。けど、お母さんにも連絡が来て咲奈さんが迎えにきたの」 「咲奈までグルかよ・・」  はあーっと哲人は頭を押さえる。 「心配してたんだよ、みんな。確かに、哲人は無理して今の一人暮らしを続けているわけじゃないけど、それでも哲人が出生のことを知るまでの15年間を忘れてほしくはないって思ってるんだよ」 「うーん・・その15年も普通じゃ無かった気がするけど。なんせ日向だし、8年前のこともあったわけだから」 と、哲人は複雑そうな表情になる。が、いろいろ偽られていたとはいえとりあえず大勢の親族には囲まれて育った自分と比べて、恋人の直央はずっと母親と二人きりで生きてきた。父親は戸籍にも載っていない。 「それでも、哲人は愛されていた。みんなで哲人を守っていた。そりゃあ大人の日向の思惑もあったんだろうけど、けどお母さんはとても楽しそうに哲人の事話してたよ」 『哲人の誕生を喜ばない者もいたのは事実だ。君のお母さんはテレビ出演を1年間ことわって、従姉の出産に備えたんだ。妊娠したと発表してね。そうしていろんなことから君ら母子を守った。別に君本人には出生のことは隠すつもりもなかったんだよ。ただ、君があまりにも狙われてしまうのでね。うかつなことが言えなかった』 「鈴のお父さんが言ったアレが全てなんだろうけどな」 「哲人が実家を離れた理由って」 と、直央が難しい表情になる。 「やっぱご両親を守るため?・・多分、鈴ちゃんと涼平くんも・・だよね。二人の立場も尊重しつつ、彼らを日向の束縛から逃そうとしている。一番大変な思いをしているのは 哲人、キミだろ?お母さんもそれを憂いていた。誰かを傷つける優しさは、不幸の伝染を生むよ?」 「っ!」  直央のその言葉に、哲人の肩が震える。 「・・だって・・そうだろ。鈴は女の子なのに傷を負って。涼平は血縁者を全て亡くした。原因はどうしたってオレだ。・・産みの母も・・オレを生んだから死んだ。そして、勝也さんも」 『勝也さんとオレの父親が従兄弟同士だというなら、オレと勝也さんはほぼ同等の立場だったはずだ。なのに、なぜ勝也さんは・・』 「8歳だぞ!8歳の時からオレの面倒を見させられていたんだ、あの人は。ずっと自分を押し殺して。今だって・・」 「哲人を愛していたんだよね、勝也さんは。けれど日向の思惑があったから、オレを助けそして哲人と引き合わせた」  そう言った直央の表情は泣き笑いのようになっていた。 「なお・・ひろ」 「オレは、ずっと哲人の側にいたんだよ?哲人の苦悩も、そして笑顔の瞬間も見てる。オレが哲人の恋人になった意味もその重みも分かってる。全部、ひっくるめて今日のオレと哲人のお母さんとの出会いがあった。・・鈴ちゃんが無意味に何かを動かすはずがないだろ?あの子はいつも本気だよ。鈴ちゃんの悪口は、オレは絶対に許さないよ」 「直央、オレは・・」 「分かってるから。哲人のこと、オレはちゃんと分かっているから。ちゃんと聞く。勝也さんも鈴ちゃんも哲人の側にオレがいるのが一番いいんだと認めてくれた。ちゃんと受け止めるから、思ってることちゃんと言って?でも、間違った認識は哲人にはさせないよ。哲人も哲人を愛している人たちも、誰も傷つけたくないんだよ」  直央は哲人を強く抱きしめる。 「ふふ。結局一番幸せなのはオレなのね。安心できる?」 「直央!直央!・・直央」 「オレの名前を呼び捨てにしてくれるまで随分時間がかかったけどさ。でも、心の中では最初からオレのこと飛び捨てにしてたんだよね?そういうのも嬉しいの。ちゃんと哲人と恋愛できてる感じだから」 『・・捉われてしまうのですよ、私もキミに。キミはあの子に似ているから。けど、これっきりです。もし、この先会うことがあっても、キミの環境が少し変わっていても、キミが好きになった人を信じなさい。その人は、必ずキミを幸せにしてくれます』 「勝也さんはそう言った 。多分、これは哲人にも言いたかったことなんだと思う」 「・・そう、なのかな」  哲人は強く目を瞑る。そして脳裏に蘇る幼い日の情景。 「オレは、本当は分かっていた。勝也さんはよく泣いてた。慰めたかったけど、泣いた理由もよくわからないし、年上のあの人にガキのオレが何を言えばいいかわからなかった。勝也さんをオレも愛してた。でも、微妙にずれてたんだ、あの人の感情とオレの想いは」  わかっていたのに。学校にもあまりいかずに時折り泣いていた彼の苦悩を。 「だから、いなくなったのかと思ったんだ。3年前、オレが入院してる間に。寂しいと思ったけど、同時にホッともした。“オレ自身が悩まずにすむ”って考えちゃったから。ズルいんだよ、我儘なんだオレはホント ・・」 「我儘上等だよ、俺に頼ってくれるわけだろ、つまり」 と、直央が笑顔になる。 「っ!」 「だいたいさ、哲人がそこまで完璧な人間だったらオレ萎縮しちゃうもん。自分に自信があるわけじゃない、鈴ちゃんでさえ駄目だったのだから」 「!・・違う、オレは別に鈴のことが・・」 「分かってるよ。第一に鈴ちゃんの人生を考えたんだろ。鈴ちゃんとの婚約解消は哲人以外の思惑も絡んでた。日向の裏にも鈴ちゃんは関わっている。そして・・どうしたって鈴ちゃんは哲人のために命を懸ける。だから離れた。鈴ちゃんを守るために」  だって鈴ちゃんは特別だもんね、と直央は微笑む。 「・・オレの特別は貴方ですよ、永遠に」 「ふふ」  ぼそっと呟く哲人の頬に直央は手を伸ば す。 「直央・・」 「オレの特別も哲人だけ。でも、鈴ちゃんは別だよ。オレはゲイだけど、鈴ちゃんは大好きなんだ。あの子はオレたちのために無茶をしようとしている。鈴ちゃんの友達として、哲人の“お嫁さん”としてオレは鈴ちゃんを助けなきゃって思ってる」 「そんな・・こと。貴方は・・・って」  そこまで言って、哲人は?という顔になる。 「オレの・・お嫁さん?貴方が?や、確かにオレは貴方にプロポーズして、その・・お嫁さん云々の話にもなったけど」  改めて言われると照れる、と哲人は真っ赤な顔になる。 「や、そこで照れるのはオレの方なんだけど。だって、哲人のお母さんも言ってたよ」 『哲人さんはもう恋愛はしないかもって思ってたの。ソレは私たちにも罪はあるのだけど。けど、貴方みたに可愛い人を愛せるようになってくれて嬉しいわ。結婚式も楽しみにしているの』 「もちろん、鈴ちゃんの事情も考慮した上でね。複雑ではあるだろうけど。でも、オレのウエディングドレスも鈴ちゃんがデザインしてるっ・・」 「結婚式?ウエディングドレス?・・意味わかんないんだけど」  哲人の表情が困惑気なものになる。 「いったい、母さんとどんな会話してたの?」 「どんなって・・哲人からのメールじゃあんましオレの話は出ないんだけど、鈴ちゃんからは哲人がオレとどーしたあーした・・って」 「どーしたあーした?」  そう聞き返されて直央の頬が先ほどの哲人より赤くなる。 「つまりその・・イチャイチャしてる・・って」 「は ?・・・はああああ!?い、イチャイチャって。お、オレと直央が・・。や、そりゃ恋人だからあたりま・・じゃなくて!り、鈴のやつ・・何をいっ・・」  哲人の顔が青くなったり赤くなったりしている。 「お、落ち着いてよ。とにかく哲人のお母さんは喜んでたんだから。それに、結婚式云々の話は哲人も聞いてたじゃない」 『なんでよ?だってプロポーズしてんだから、次は結婚式でしょ?直ちゃんのウェディングドレスはボクがデザインするよ。森の中の教会なんて、それこそロマンチックよ?』 『なんかボクのインスピレーションがふつふつと湧いてきた!ぜーったい、ここで結婚式しようね!』 「あ、あんなの鈴の戯言だろうが!確かに一生添い遂げるつもりだからプロポーズはしたし、直央のお母さんにも挨拶したけど。でも、正式に結婚できるわけじゃないし。そりゃあ、ケジメとしてあの教会で二人きりで誓い合うのもいいなあとは思ってたけど」  日向家が所有する森の中にある小さな教会。哲人と直央、そして哲人の同級生の笠松鈴と橘涼平と共に訪れたそこで二人は確かに鈴の言葉を聞いた。 「や、お母さんはなんかノリノリだったよ。・・本来なら、日向での哲人の位置づけなら盛大な結婚式になるはずだった。けど・・」 『哲人さんと鈴さんを傷つけたのは事実。その事実を貴方が受け入れてくれたことに感謝しているわ。ふふ、何もかも覚悟して哲人さんの誕生を待っていたのに、いざとなったらこの体たらく。あの子を・・あの子の周りをただ傷つけた18年間だったかもしれない。でも』 「子供はちゃんと成長してるって。オレとの恋愛は、哲人が自分で選んだ・・選ぶことができた幸せなんだろって。息子とオトコとの恋愛を幸せだって言いきる親もどうかと思うけどさ。でも日向の思惑と息子の気持ち、それぞれをひっくるめたら要にオレがいたって」 「・・」 「オレはね、運命にあがらう気は無いよ?」 「えっ?」 「けれど、オレの哲人への想いはそれを凌駕していると思っているから。・・お母さん、鈴ちゃんからマジでいろいろ聞いてるみたい」 『ほとんど毎日哲人さんの部屋で過ごしてるんですって?あ、責めてるわけじゃないのよ?つまりは哲人さんの世話をしてくれてるってことでしょ。直央さんがお料理が上手な事は聞いてるし、実際・・やだ!この味付けイイじゃない。お母様のお味?・・え?哲人さんから習った・・ふふ、日向家と財前家の味が合わさるとこんな素敵な味になるのね。貴方がお嫁さんになってくれてほんと嬉しいわ』 「や、だからお嫁さんて・・ 」  哲人は、はあと大きくため息をつく。 「あの人、何をバカなことを言っているんだ」 「オレは、オレの料理のことを褒めてくれてホッとしたけどね。つまりはお姑さんのチェックをクリアしたってことだもんね。母さんがそんなに家事に時間を割く人じゃなかったから、自然にオレがやるようになったんだけど、役に立ってよかったよ」  顔を赤くしながらも、直央は嬉しそうに話す。 「だって直央はオトコなんだから。そりゃあ、可愛いとは常々思っているけど。けどウェディングドレスはいくらなんでも・・」  と言いつつ、哲人は直央のその姿を想像してしまう。165㎝と男性としては少々物足りない身長の恋人ではあるが、子供モデル経験もある直央は19歳にしては童顔で、本人にその自覚は無いが通っている大学でも女子のみならず、そういう性癖を持つ男子の視線をも集めている。 (可愛い・・よな、確実に。女の子っぽいわけじゃないし、割りに鍛えられた身体だけど、雰囲気的にふんわり感があって白も似合うし・・) 「それに、哲人のタキシード姿も見たいしね。絶対かっこいいもん、黒でも白でも。あの教会って雰囲気ばっちりだったしさ。哲人さえよければ、オレはドレス着てもいいよ。恥ずかしい・・けどさ」  顔を赤らめながらも、自分でも想像したのか直央の表情がうっとりしたソレになる。 (だ、だからその表情がヤバイんだって!無防備で殺人的な可愛さ・・)  つい、顔に手を伸ばしてしまう。 「哲人?」 「ふふ、貴方を幸せにすると何度も口づけたから、今さら神の前で誓いのキスなんてとか思ったけど、直央が喜んでくれるのなら、オレは直央の可愛い姿が見たいよ」  そう言いながらチュッと口づけて、今度は手を相手のシャツの裾に伸ばす。 「ちょ、オレの裸は違うだろ!や、普段着姿も可愛くはないけど」 「貴方は何をしてても可愛いんだよ。初めて抱いた時からずっと変わらない感度の良さも、ね」  いつのまにか服は脱がされ、哲人の舌が自分の首筋に這わされていた。 「!・・やあ・・っ。ま、まだ話が終わってな・・」 「話なら後で聞きますよ。貴方がウェディングドレスの話なんかするのが悪い」 「ど、どういう理屈だ・・っ!ひあっ・・そんな強く舐められ・・ひっ!」  胸を舐められ、後孔に指が挿れられる。 「いいでしょう?母も認めた奥さんになる人なのだから、貴方は。・・ズルくて我儘なオレを貴方は受け入れてくれるのでしょう?」 『・・オレはたぶんオマエが思っているようなオレじゃない。確かに守ってもらってばっかだけど、でもオレはオレの知らなかったアンタを見つけられた。それは・・その・・オレをときめかせた』 『オマエの目的がなんであれ、オレと一緒にいたいと思うなら、その・・少しでもいいから・・抱きしめてほしい。だって、オマエはいいオトコで、オレはゲイなんだからさ』 「初めて貴方と結ばれた時、貴方はオレにそう言った。オレの目的は貴方と幸せになること。ゲイを受け入れられなかったオレに貴方は毎日ときめきをくれる」 「や・・あんあんあん。ああ!気持ちイイ・・・の。立って・・らんない」  直央の膝ががくっと崩れおちそうになる。 「この身体はオレを変えたんだ。オレに・・こんな欲望が潜んでいたなんて」  そう言いながら哲人は直央の身体を床に横たえる。 「ふふ、胸のここ凄く膨らんで。赤くなって痛そう・・そろそろ別のところを触ってほしい?」 「・・ん、もう。今日は哲人の好きにしていいから。哲人がずっと幸せをかんじていられるのなら、それで」 「っ!」 (な・・んでこの人は、オレをそんな風に受け入れてくれるんだ?8年前のことだって今だって、オレの運命に巻き込まれた・・のに) 「ふ・・ぐっ」  後ろを弄りながら、露を垂らし始めていた直央の性器を咥え舌を使う。 「やあ・・っ。あ、熱いのっ!哲人の口の中でもうオレのが・・弾けそう。やなの、まだイキたくな・・そ、そんなに強く吸われた・・」  哲人の指が直央の中から抜かれる。 「や・・ん」 「まだイキたくないんだろ。じゃあこっちに集中しろよ、オレのを今から挿れるから」  そう言って自分の指でぐちゅぐちゅになった直央の後孔に猛りたつソレを一気に押し込む。 「くっ!・・くはっ。ああ!あっ・・凄いのっ、哲人の凄く大きいのっ!な・・壊れち・・」 「貴方を壊すわけないでしょう。花嫁姿見なきゃいけないんですから。綺麗でしょうねえ、下着は女物ってことになるでしょうから、コレは下着に収まりきらないかもしれないな」  そう言いながら、哲人は直央の性器を握ってしごき始める。 「ふふふ、それもいやらしくていいかも。ブラも付けるんでしょう?貴方のコレはちょっとの刺激ですぐに立つんだから。純白の布に赤い粒が映えていいかもですけどね」 「やあ、そんなの嫌・・恥ずかしいのぉ。ミニスカだったら困・・」 「ミニスカ!?」  えっと想い、つい下半身に力が入ってしまった。 「やあああ!お、奥まで入っちゃ・・・当たってるの!あああん」 「だって、貴方がエロい想像させるから。そうですねえ・・」  自分でも思いがけないほどに自分が笑顔になっていくのがわかる。 「鈴のことだから、そういう可能性は大だな。どっちにしたって可愛い・・オレの嫁さん」  鈴との婚約を解消した時、自分の両親が育ての親なのだと判明した時、結婚はもとより家族を持つことも諦めるつもりになっていた。 (ましてやオトコを好きになるなんて。“あのこと”解決したわけじゃないのに。でも・・) 「幸せを感じさせてください、貴方の中で。・・ううん、貴方の顔もコレも全部オレの好みです。だから・・プロポーズした」  キスを求める。 「んん・・」  舌が絡まり、性器のしごきが強くなって感覚が分散される。 (あっ、あっ・・変。体中がおかしくなってるみたい。こんなにも、オレの身体って弱かったの?中から何か爆発しそう。いっぱいぐちゃぐちゃにするんだもの、哲人が)  自分の愛液と涎で体中が濡れていくようだと思う。 「いいのっ・・」  ようやく口が離れて声を出す。 「何が・・です?」 「わかってる・・くせにっ!・・オレがもっと擦ってほしいって思ってるってわかってるくせに・・ああ!」 「中と外どっち?」 「どっちもっ!どっちも気持ちいのっ!でも、もっと感じたいの。エッチな哲人も好き・・」  羞恥と歓喜に震えながら直央は答える。ほとんど毎日のように繰り返しているこの営みに、なぜ自分たちは毎回新鮮な喜びを感じるのかと思いながら。 「オレをこんなエッチな気持ちにさせているのは、貴方のこの身体ですよ。ほら、そんなに締め付けて・・もっと動かしてほしいんでしょ?そんなもの欲しそうな顔して・・ほんと可愛い」 「あっ、あっ、あっ・・・ああ!いい・・熱くてぬるぬるしてて・・気持ちいいの。好き・・もっと・・もっと!」 「哲人のお母さんて、もっと厳しい感じの人想像してたよ。テレビでもけっこうキビキビとした感じだったしね」 「オレの母が?」 「だって、哲人に料理を仕込んでたんでしょ。男子高校生がちゃんと自炊できるくらいに。教育ママってイメージだったんだけど、なんかね凄く優しかったの。・・完全に娘扱いだったけど」  苦笑いする直央の頭を哲人は優しく撫でる。 「悪かったな。日向の中に母が可愛がれるような女子が少ないんだ。鈴はあの通りだし」 「いいんだけどねっ。とにもかくにも哲人のパートナー認定してもらえたもん。哲人の子供が産めないのが申し訳ないんだけどね」 「直央・・」 「哲人の本当のお母さんじゃなくても、少しは血が繋がっているからかやっぱ似てるのね。とっても美人さんだし。あんな人がお姑さんでよかったよ」 「いや・・」 「哲人と結婚したら、一緒にキッチンでお料理しましょうね・・って言われたの。やっぱ嫁姑ってそれが一番肝心よね」 「嫁姑って・・」 「いずれは同居希望だって言ってたよ。哲人が就職して落ち着いた後でもいいって。あ、ホントは今日は哲人の進路相談のことで話があったんだけどって言ってた」 「・・この短時間にどれだけ仲良くなってるんですか、母と」 「ん?」 「や、それはまあ・・いいんですけどね。けど、同居云々はいくらなんでも。貴方といちゃいちゃできないじゃないですか。他人がいたら」  冗談じゃないと思う。今だって本当は直央と堂々と同棲したいが、何分にも自分はまだ高校生だ。名門校の生徒会長であり、生家も名門の出。まだ世間体を考えなければいけない立場なのである。 「生活費は二人分くらいなんとでもなります。貯金だって十分にある。それだって自分で稼いだものなんだし。高校さえ出てしまえば、誰にも文句言われなくなる」 「・・とにかく、一度一緒に墓参りに行こうだって。ちゃんと息子としてお母さんに手を合わせてほしいって」 『勝手だってあの子は言うでしょうけどね。だって本当の親と引き離してたのはこっちだもの。大人の都合で哲人さんを泣かせて独りにしてしまった。従姉にも随分寂しい思いをさせちゃった・・』 「いろんな選択肢はある。それのどれかをオレと歩んでいこうよ。どういう形であれ、オレが哲人の永遠の伴侶であることには変わりないんだからさ」 「直央・・」 「愛してる・・大好き。だからもう泣かないでね」 「ん・・あ」  そういえば、と哲人の顔が突然青ざめる。 「ど、どうしたの」 「忘れ・・てた、鍵のこと」 「鍵・・か」  職員室で日向勝也は呟く。 「わかってたくせに。美術室の鍵を奏が返しにくることわかってた・・。どうして、オレはこんな恋しかできない?泣かせて・・泣いてばかりだ。ほんと、バカみたい・・」        To Be Continued

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