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第51話
「なあ、今日の打ち合わせで嫌なことがあったのか?すまないな、侑貴に任せきりにしてしまって」
ベッドに腰掛けたまま少し疲れたような表情の恋人に、生野広将は問いかける。
「今回の作詞はオマエにっていうオーダーっていうのが妙だとは思ったけど、オレよりあのアニメの世界観はオマエの方がわかっているから・・」
「さあ・・どうなんだろうな」
「侑貴?」
上村侑貴のその投げやりな答え方に広将は違和感を覚える。
「曲の方はオッケーが出たんだろ?」
「いや、もう少しテンポをスローにと言われた。アレンジし直して向こうさんに送って返事待ち。広将に相談しなくて悪かったと思ってるけど・・」
「へ?流石に仕事が早いな。つうか、あれ以上テンポをスローにって、あのキャラには合わない気がするけど。バラードってわけでもないんだし。原作者直々のオーダーなんだろ?よくわかんないや」
苦笑しながら広将は侑貴の隣に座った。
「じゃあ疲れただろ、今日は。ご飯は作ってやるから食って風呂入ってさっさと寝ろ。寝付くまで側にいてやるから」
「帰る・・の?泊まっていかないの?」
いつものように、いやいつも以上に甘えた声が出る。
「無理だよ、オレは明日も学校だし。いくら親公認の交際になったからって、というかだからこそちょっとは自重した方がいいと思うな」
最初が肝心だろ?と広将は微笑む。今までもこの恋人の部屋に泊まったことがないわけじゃない。もともと侑貴とその友人たちがやっていたバンドに加入してからは、曲作りのほとんどを侑貴と広将の二人で行っていたため、その作業のためにということでそれは広将の親も理解していた。
「侑貴のためにもさ、オレの親を安心させたいんだよ。今更、侑貴のことを遊び人だとか思わないだろうけどさ」
広将と恋人になるまでは、侑貴は性別問わず何人もと関係を持っていた。その中には侑貴の義理の叔父も含まれていた。
「オレの親たち はあの男のことも知っていたんだ。それでも侑貴のことをオレの親は本気で心配しているのは、侑貴も分かってるだろ?」
『侑貴くんの側に高瀬亮がいたからだよ、広将くん。や、侑貴くんの両親が亡くなった時、侑貴くんを我々が保護できなかったことも失敗ではあったのだけれど』
「本当だったら、オレと侑貴は義兄弟になってたかもな。んーそういう設定もBLだとアリなんだっけ?でも、オレは侑貴と音楽で出会えたことが嬉しいんだよ。音楽はオレの人生だから。その人生に、その・・大好きな人がぴったりハマってる今が幸せ」
それは本気の想い。だからこそ、都内有数の名門進学校に通いながらも、大学進学を望まないことを両親に告げた。自分の人生は侑貴と共に好きな音楽を作っていくこ と。ずっと侑貴の側にいること。
「仕事とオマエの世話に専念できるなんて、こんな幸せは他にないよ」
「だったら、今日はずっと側にいてよ。オレ、寂しくなるの分かってるから。今日は独り・・無理」
「!」
涙が出る。昼から抑えていた想いも溢れ出る。
「オレは・・本当に弱いから。だから、年下のオマエや直央にまで縋らなきゃ自分を保てない。なのに、なんでみんなオレを試そうとするんだよ。分かってるくせに・・くそ・・っ」
「何があった!?大学で?直央さんと?」
広将は哲人と同じ生徒会役員で、哲人の恋人の直央が侑貴と同じ大学に通っていることも知っている。
「オマエと直央さんに何があったんだ?それに・・」
侑貴を抱きしめる。
「ひろ・・まさ」
「ごめん、オレの気持ちばっか押し付けてごめん。でも試すなんてとんでもない。オレの気持ちはオマエに向かって真っすぐ・・」
「分かってるんだよ!」
突然、侑貴が叫ぶ。
「わかっ・・てんの。直央も真っ直ぐに哲人を想っているから、あんな対応になるんだって。揺れてるのはオレ。許されていないのは・・そうどうしても思っちゃう。広将のこと大好きで大好きで大好きで!こんなに想って、愛されて・・なのに弱いままのオレ・・最低」
こんなネガティブな言葉を本当は恋人に聞かせたくない、と侑貴は唇を噛みしめる。
「はあ・・もう、仕方がないな。好きだって気持ちだけじゃ乗り越えられないこともあるだろうって思ってたけど、考えていたよりも重症なんだな。オレも甘かった、考えが」
仕方がないと言い侑貴を抱きしめたまま、広将はスマートフォンを手にする。
「なっ、何を。どこに電話すんだよ」
「内田さんのとこだよ。仕事や運転中じゃなきゃいいんだけどな」
「は?何で内田さんに・・てか何かこの体勢辛い」
「うん、オレも同意。けど・・」
と、広将が微笑む。
「これ以上侑貴を不安にさせたくないし、オレも離したくない。けど、オレはやっぱ子供で。仕事がらみのことで侑貴は悩んでのに、オレにはちゃんと言えないってことは大人に頼らなきゃいけないんだと判断したまでのことさ」
「っ!」
気にするなと言って、広将はスマートフォンを耳に当てる。
「あ、内田さん?うん、今侑貴と一緒。今晩だけでいいんで、彼を預かってもらえます?オレの家族と相談の上、明日にはオレが引き取りますから」
「へっ?何を勝手なことを」
電話の向こうの相手も困惑しているのが分かる。
「内田さんもお忙しいのは分かってるし、涼平のこともあるからぶしつけなお願いなのは重々承知なんですけど、今の侑貴を一人にしたくはないんです。けど、オレとの今後のことと仕事のことを考えたら今夜は内田さんにお任せした方がいいと。・・はい、後2時間後ぐらいに侑貴のマンションに来ていただけますか。はい、お願いします」
「・・おい、どういうつもりだよ。何でオレが内田さんのとこにいかなきゃいけねえんだよ。オレはオマエと・・」
電話を切った広将の肩を掴んで強く揺らす。
「オマエ、オレを何だと・・」
「世界で一番大事な存在だよ。親にも正式に紹介したんだしな。や、オレの親にとってもオマエは特別な存在だ。だからこそ、ちゃんと内田さんに今の悩みを全部吐き出してくれ。あの人なら今のオレ以上に頼れる存在だろ?」
「オレは別に・・」
と、侑貴は顔を逸らす。
「頼りたい・・わけじゃ。だってオレの方が年上でバンドのリーダーで。でも、もう・・」
『ふふ、そういう穿った見方はやめてほしいな。直央は私にとっても大切な存在でね。キミこそ琉翔のことを知ってしまったのだろう?まったく、涼平も困ったやつだよ。まあ彼はもうペナルティは受けているけどね』
『鈴も直央も自分自身の運命は受け入れているよ。その上で哲人のために動いている。キミにはそこまでは求めていないよ。キミは日向に捉われてはいけない。キミの・・両親のようになっては、ね。それがキミの 生きる“意義”だ。キミを愛した少年と共にね』
『作者からのオーダーの内容はズバリ【父親】です。このキャラは原作ではボカシて表現されていますが、アニメでははっきりとした描写で父親を失います。そこんところの心情を歌詞にしてほしいのです』
(その設定はそんなに重要じゃなかったはずだ、原作では。なのに、キャラソンにまでするとか。原作ファンがキャラに求めているのはそういうとこじゃないのもわかっているはずなのに。だいたい、それをオレにオファーするなんて)
大学で栗原に言われたことと、事務所で原作者の代理人・・実は千里の母親なのだが・・に言われたことを思い出す。
(どうして“そんなことをオレに押し付ける”?)
「ごめん、結局そういう顔をさせてしまう」
「えっ?」
「オレはそういうとこがまだ分かってないんだ。だから、オマエは独りで悩む。そして泣く。悔しいけど、オレはまだ子供なんだ。こうやってオマエを抱くことができても」
「!・・広将・・あっ・・や・・あっ」
「オレはオマエの恋人だから。オマエに対して欲はいっぱいあるんだよ。そりゃあゲイじゃないけど、でもオマエを抱きたいってその・・常にってわけじゃないけど、思ってはいる」
そう言って、広将は顔を真っ赤にする。
「おま・・え、そういうキャラじゃないだ・・ろ。な・・んで、ああっ!ちょっ・・そんなに舐め・・」
いつの間にか服は脱がされ、気づくと相手も全裸になっていた。
「けっこうオレは嫉妬深いんだ。内田さんには頼りたいけど 、オマエの悩みを吐き出させたいけど、でも“全部”じゃない。オマエの“そういう”のを受け止めるのはオレだけでいい。・・好きなんだもの」
そう言って広将は顔を侑貴の下半身に移動させる。そして侑貴のソレを口に含む。
「っ・・やあ・・あっ。ちょっ・・な・・」
自分でも望んだことではあったが、それでも恋人のこの行動が信じられない。
「ああっ!そ、そんなに強く先っぽを吸われたら・・へ、変になっちゃう。はあ・・んん」
(もう・・とっくに変なんだけど。年下にこんなに気を使われて。凄く情けないの・・に凄く安心する。舐められて・・凄く・・感じちゃう)
ぢゅぶぢゅぶという音が響く。
「凄い・・気持ちイイ・・の。広将、フェラ上手すぎ。お、オレとしか経験ないっ・・て。・・っ!」
指が後孔に挿れられる。直にぐちゅぐちゅという淫らな音が聞こえてきた。
「はあ・・っ、いきなり・・くっ。や・・そこ・・感じ・・」
片方の手で双丘を揉みしだきながら指で中を掻きまわし、もう片方で勃立したソレを握って手を上下させる。
「余計なことを考えないで快感に集中してろよ。オレが頑張るから」
「な・・やあっ、ああ・・ん・・もっとその先・・」
「そう・・それでいい」
童顔に近いといっていい爽やかな顔立ちの割りに低すぎる広将の声が侑貴の耳に届く。
「やあ・・ん、その声もっと・・側で」
「ふふ、出会った頃は変だと言っていたのにな。似合わないって」
そう言いながら広将は片手を外し、顔を侑貴の耳に近づける。
「オレはオマエとしか経験が無い。自分のモノしか握ったことは無いし、男の身体を舐めるなんて趣味もない」
そう囁くように言いながら、耳たぶを甘噛みする。
「っ!や・・あ」
「そんなに締め付けてきたら、オレの指が痛いって」
「だ、だからその声が卑怯・・。オマエ、何か最近色気出てきたもの、声に。だから・・」
感じてしまう。この男の何もかもに。
(だから離れたくないのに。コイツも同じ思いのはずなのに。なんで、今夜は一緒にいてくれない・・)
一応“婚約したとはいえ”広将は高校生だ。そう何度も外泊していいものでもない。こんな関係を許してくれる広将の両親に嫌な思いもさせたくはない。
「ごめん・・もっと早くにオマエにちゃんと・・」
「ちゃんと、オレはオマエを守る。・・早く大人になりたいよ。セックスだけじゃなく、もっと精神的に・・。けど今はオレに素直に抱かれてほしい」
「つあっ・・やあ・・っ・・入って・・く・・」
「もっと力抜けって。きつくて・・オマエの感じるとこまで挿れられないだろ」
「嫌・・あっあっあっ・・わかった・・から。もっと奥・・まで」
後ろから攻められ、胸の頂を執拗に撫でられる。そして耳には“あの声”が届く。
「好き・・愛してる。だから今日だけはオレの言うことを聞いて。明日は親に頼んでオマエと一緒にいられるようにするから。オレだって・・オマエと一瞬でも離れたくないんだ」
「ば・・か」
情けなさのせいか、感じすぎているせいからか侑貴の目に涙が浮かぶ。
「熱すぎ・・なんだよ、オマエはなんもかんも。も、もうオレの中ぐちゃぐちゃで・・でもオマエでいっぱいにして・・」
「ふふ、加減はできないよ?」
侑貴の腰を高く上げさせ、より自分のソレを深く突き進める。内壁が締め付けてくるソレを無理やり押し分ける。
「ひっ、あっ、あ・・あっ・・やあっ、イイ!好きなようにしてくれて構わないから・・」
「じゃあ、侑貴はウチで預かるから。本当に君は送っていかなくていいんだな、広将」
「大丈夫ですよ。とにかく、内田さんは侑貴の話を聞いてあげてください。明日のことは後で連絡しますから」
「・・」
内田景の車の助手席に乗せられた侑貴は顔を俯かせていて、その表情は分からない。
「っとに・・ガキじゃないんだから。今日の打ち合わせの件も確認した。安心しろとはちょっと言えないけど、私もいろいろ手は尽くしてみるよ。どうせ、侑貴は一応は満たされたんだろ?」
にゃっと笑って、景は車のエンジンをかける。
「っ!・・敵わないですね、内田さんは」
「ばっ!正直に答えんなっ・・」
思わず真っ赤になった顔を侑貴は二人に見せる。
「ははっ。大丈夫、侑貴は通常運転だよ。じゃあ、気を付けて帰るんだよ広将」
「オレの一番大事な人をお願いします」
「はん、愛されてるねえ、侑貴は。だからって、広将は基本的に実家で家族と暮らしている高校生なんだから、いくら仕事のことがあるからって、何度もお泊りさせちゃいけないよ?哲人くんのとことは状況が違うんだから」
「アンタも涼平と一緒に住むんだろうが、あのマンションで。くそっ、どうしてオレばっか・・」
「・・」
悪態をつく侑貴のその様子を、景はちらりと見やる。
「寂しくなるんだよ、アイツがいないと。今までは平気だったのに、もう・・わけわかんねえよ」
「今回の仕事の内容に不満があるとかじゃなく、不信感を持ったんだろ?何があった?広将にも関係のあることだから、彼には言えなかったんだろ」
「・・父親」
問われて侑貴はそう呟く。
「えっ?」
「哲人の父親・・育ての方の父親でウチの大学の教授に直央が声をかけられていて、そしてオレも。でもあの人は何か隠している、哲人の父親として」
「はあ?どういう意味・・」
「わっかんねえよ!」
侑貴は声を荒げる。
「侑貴・・」
「あのアニメの原作者も日向の人間なんだろ?鈴や広将の父親たちも知らない何かのことで、オレを利用しようとしているんだ。くそっ」
翌日
「・・はあ、本当にここには一晩しかいなかったんだ?侑貴は」
「なんだかんだで広将の実家にも泊まらなかったしね。一度吐き出す必要はあったんだとは思うよ。けど・・」
と、内田景は困ったような表情になった。
「?」
「広将が今度は落ち込んじゃったみたいでね」
「へ?」
なんで?と橘涼平が自分の濡れた頭をタオルで拭きながら聞く。
「うーん、オレと話しただけで侑貴の気分が休まったのがなんていうか・・腑に落ちないというか?自分に頼ってはほしいけど、追い詰めたくもないと考えたんだろうけど、それでも彼も恋人の側にいたかったんだよ。というか・・不安、なんだろうね」
「!」
「広将も結構知らされたんだろ?8年前からの事件の裏側を。侑貴の事情と哲人くんの人生のことを」
「っ!」
恋人の言葉にどう反応していいかわからずに涼平は曖昧にうなづく。
「・・や、オレは鈴からはあの4人の前に哲人の本当の父親を引きずり出したってことしか聞いてなくて。どういう話になったとか、そもそも鈴がどうやっていろんなことを知ったのかわからないんです。いや・・」
鈴自身の情報網は確かに凄い、が哲人の父親のことはかなり日向の暗部に関わることらしく、その正体はずっと掴めていなかった。
「まあ、鈴のお父さんに曰く『別に存在は知られてもかまわなかったけど、こまごまとしたことは謎にしておきたい人物だから』ってことでまさかのアドレスゲットだったみたいですけどね」
(おそらく情報源は遠夜だろうけど・・鈴の父親が納得し、そして哲人の父親が受け入れたということは)
予想された行動だったのかもしれない。
(本当の標的は一体誰なんだ?黒幕も・・。鈴はオレには本当のことは言わない。オレは・・)
「涼平を信頼しているから、一緒に入院してたんでしょ。オレも頑張ったけど、鈴ちゃんにはいろいろ届かないみたい。ていうか、哲人くんは・・」
「オレたちが入院してから哲人が連絡してきたのは、三日前が初めてだったんです。というか、抜糸二日で退院する鈴も無茶なんですけどね。哲人の電話で元気がですぎたのか・・」
自分の心づかいは何なのだろうと、涼平は苦笑する。
(余計に気を回し過ぎなのか?惚れて傷つけた女だからって。でも、鈴に無茶をしてほしくないんだ、だから北原に)
彼なら自分たちの気持ちが誰よりわかるはずだからと、涼平は我知らず微笑む。
(それにアイツしかいないんだ、もう。鈴を本当に幸せにできる可能性のある男は)
「・・そんなに鈴ちゃんが心配?」
「へっ?」
「いや・・まあいいんだけどさ」
景は苦笑する。
「しょうがないよね、鈴ちゃんが相手だもの。彼女が直央くんに対して本当に嫉妬できないように。そういうの彼女なら分かってくれると思うから・・だからオレもガマンした。鈴ちゃんが心配なのはオレも一緒だしね」
「・・ごめん、オレの我儘で貴方に嫌な思いをさせた。本来なら鈴とは別の病室にも入れた。けど、鈴はかなり不安定になっていたし、哲人も頼れない。少なくとも一度は外敵に襲われるだろうとは予想していた。だから・・」
「分かってるって」
景は困ったような表情になる。
「鈴ちゃんは特別だから。ただ、鈴ちゃんはオレたちを・・ある意味拒絶してる・・よね」
「っ!・・どうして・・そう」
思うの?と聞こうとした涼平は景の表情を見て口をつぐむ。
「・・ごめん、鈴ちゃんのこと、それでもオレも救いたいと思ってる。それも・・」
“あの子”に頼まれたことなんだけどね、と景は心の中で呟く。その事実はまだ涼平には言うべきではないからと。
(侑貴も疑問を持ち始めている。だからこそ、侑貴はオレのところに来た。そのことももしかしたら鈴ちゃんの計画の一つ・・)
「や、なんだかんだ言って嫉妬乙なんだよね。だって二週間だよ?二週間。恋人が初恋の女の子と同じ病室に二人っきりって、やっぱ平静じゃいられないじゃん。この際だから言っちゃうけど、言っちゃうけど・・」
「け、景?」
突然、恋人の顔が真っ赤に染まったことに涼平は驚く。
「どうしたの?そんなに怒って・・」
「んもう、バカ!」
と言いながら、景が抱きつく。
「っ!・・わっ」
「ずっと我慢してんだからぁ。・・心配もしてた。ヤクザの出入りもあったんだろ?そんなの・・いくら二人が普通の高校生じゃないっていっても、怪我してんだから」
「や、それも狙いのうちで・・おかげで組織を二つ潰すことができたわけで。この後の仕事もやりやすく・・」
「だから!」
景が涼平の頭をぽかぽかと殴る。
「な、何を・・や、何でそんな可愛い・・」
「へっ?」
涼平の思いがけない言葉に景の手が止まる。「だって・・」と涼平は赤面した顔を恋人に向ける。
「久しぶりにこの部屋で貴方と二人きりになってドキドキしてたのに、急に子供みたいな仕草するから・・や、貴方はもともと可愛い人なのだけれど、今は多分怒りたかったんだろうなと思った・・のに」
何でそんな、と涼平は困惑気に答える。
「だから・・怒って・・るの。ずっと不安で、そんでそれなりのことは聞いてたし。なのに涼平はいつものごとく何でもないことのように話すし。涼平が強いのも知ってるし、そういう涼平がかっこいいなとも思っちゃってもう」
「ご、ごめんなさい!最初からの計画でもあったし、拳銃は撃てるくらいの体力はあっ・・」
「だから!」
「っ!」
今度は間髪入れずに室内に頬を叩かれた音が響いた。が、頬を押さえることもなく涼平は景の顔を見つめる。
「あ・・ご、ごめん。オレってば、なんてことを・・」
そう言いながら、景は涼平の顔に触れる。
「あ、冷やさなきゃ・・タオル濡らして・・」
「いいんだよ。オレ的に嬉しい景の反応なんだから」
「は?」
何言ってんの?と腰を浮かそうとする景 の肩を涼平が押える。
「あっ」
「オレを身近で心配してくれる人がいるって、やっぱ嬉しいなって。オレの存在そのものが罪だって思いがどうしても消えないから。だから無茶しちゃう。けれど、景が側にいてくれるならそれでいいやって・・なんか今思ったんだ」
「な!まだそんなこと考えて・・って、オレはそりゃあ・・ずっとずっと涼平と一緒にその・・それこそ一生」
景の顔がみるみるうちに赤くなっていく。
「罪だ・・なんて、そういうことは絶対にないから!もう無茶もさせない!どうしてもってなら、オレも一緒に闘う。・・こんな言葉使いたくないけど、涼平の闇を一緒に払う。だって・・だって・・」
「うん、オレも愛してる」
「えっ?」
「そう言おうとしてくれたんだろ?景は」
涼平の顔が近づく。
「り、涼平?」
「キス・・してくれないんですか?」
「・・はい?」
望んでいた言葉のはずなのに、なぜか戸惑ってしまう。
「だ、だって。そんなことしたら・・・身体」
相応のケガを負って入院したあげく、ヤクザの襲撃も受けている。本来なら一ヵ月は安静にしているべきだ、と景は目で訴える。が、口は違う言葉を声に出す。
「キスして・・抱きしめて・・ほしい。ずっと・・待ってた。会えるの、待ってた。二人でこの部屋で過ごせる時間を待ってた。最初から好きだった。きっかけは何であれ、一緒にいたいって思った・・んだ」
この現実いまを“彼女”はどう思うのだろうか。
(ちゃんと守るから。そして涼平と一緒に鈴ちゃんも。早く、この戦いを終わらせて。でも今は・・)
「大丈夫?身体大丈夫?キス・・はしたいけど、したらだって絶対・・」
既に自分の身体に変化は現れている。気づかう気持ちはもちろんあるのだけれど、相手の口から洩れる吐息が自分を酔わせていた。
「景は優しいから、自分の欲望通りに動けないでしょ?だから今日はオレが貴方を抱きます」
「は?な、何を言って・・。だって、涼平はノンケでしょ。ていうか涼平にそんなこと・・」
「だって」
と、涼平がぷくっと頬をくらます。
「・・何でそんな反応?」
「哲人だって直央さんが初めての相手のはずだ。生野もそうだけど、侑貴が相手だから。オレだってセックス自体貴方としか経験ないけど、哲人にできてオレにできないはずが無い」
「はい?」
「オレは確かに恋愛ごとには不器用だけど、貴方に対する気持ちは真剣なんだ。や・・鈴のことも別に哲人と張り合ったわけじゃないけど。なんだかんだで今はオレも哲人のために命かけてるんだし。そりゃあそれも鈴のためなのかもし・・あっ」
「ははっ、そんなに気張らなくてもいいのに」
つい笑って、景はそっと唇を相手のソレに触れさせる。
「!」
「どうしたって鈴ちゃんにそこら辺は勝てないなとは思ってるよ。だって鈴ちゃんは女のこ・・」
「違う!」
「っ!」
涼平が景の肩を掴んで叫ぶ。突然の強い口調に景の表情も変わる。
「ごめ・・」
「オレは前にも言ったけど貴方の顔が凄く好みで!だから男とか女とか関係なくて・・普通に貴方に好意を持って・・だから・・勝手なこと言ってるの分かってもいるんだけど、一緒にいられるんならずっと抱きしめていたくて」
鈴が好きだという気持ちも消えることがないけれど、それでも景に恋してしまったからと告げて、今度は涼平の方から口づける。
「ん・・っん・・ふっ」
「っあ・・ああ」
久しぶりに味わう恋人の舌は甘美な快感をお互いの身体にも伝える。
「りょ・・へい・・ダ・・メ」
「ダメなんて言われても、オレはずっと口を寂しくさせてたんだ。だからもっと・・」
ああ、これが自分の本性なのかと顔を赤くしながらも、涼平の舌は動きを止められずにいる。
「あっ・・ああ あ」
手を器用に動かして、相手の服を脱がせる。景の身体がビクッと震える。
「寒い?」
「う、ううん。・・まさか、涼平にそんなこと言われるとは思ってなかったから。なんか・・恥ずかしい」
そう言った途端、胸の頂に温かいものが触れる。気づくとそこに涼平の顔があった。
「ひっ・・あああん。ちょっ、涼平・・あんた硬派キャラでしょ・・うが」
自分としてはそこに魅かれた部分もあったのに、と景は恨めし気な表情になる。
「へっ、マジ!?・・でも、だって・・や、ごめん!」
景の言葉に慌てて涼平は相手の身体から離れる。
「ち、違うよ。た、ただのテレ隠しだってば!んもう・・涼平のそういうクソ真面目なとこも結局は好きなんだけどさあ」
居住まいを正しながら景は苦笑する。が、直ぐに表情を改める。
「涼平」
「は、はい!」
「何でそんなかしこまってんの?オレ、怒ってるとかじゃないのに。むしろ、そういう涼平見られて嬉しいんだけど、やっぱなんか調子狂うっていうか。や、嬉しかったし感じちゃったんだけど・・やっぱダメ!」
そう言いながら景はぐいと顔を近づける。
「け、景?」
「オレはそりゃあ最初から女装姿だったし、初めての時もそうだったし、涼平の心の準備を無視して涼平の初めてをもらっちゃっ・・」
「そ、そんなこと言わなくていいから!あの時はもう貴方に惚れてたし。それにあの時あの店で会ったのはたまたまで。そのことにも運命感じてたし」
『まさか、君と女装姿で会うとは思ってなかったんだけど・ ・君はどうして一人でケーキ食べてたわけ?』
『・・墓参り・・だったんです。本当はお盆のころに行くつもりだったんですけど、今年はいろいろ忙しくて・・』
『あっ、そうだったの。ご家族?』
『妹・・です』
「違う・・んだ」
「えっ?」
「本当は・・いや、正直賭けだった。一応調べてはいたけれど、涼平とあの日あそこで出会えるかは。ちなみに、オレに声をかけてきた男は仕込みじゃないんだけどね」
ふふ、と微笑む。
「自信・・ほんとは今でも無いんだ。だから侑貴の気持ちわかる。オレも侑貴もゲイってわけじゃなく、そういう意味じゃバイてわけでもない。ただ、いたずらに誰にでも身体を与え求めてきた。いろんな理由で。・・初めて本気で愛せた相手が優しくて真面目で・・男に情欲を感じるような人じゃないじゃないけど、それでも・・」
あの時の判断に間違いはなかったと。自分はこんなにこの人を求めて、彼も自分を愛してくれる。
「自分でつかみ取った運命なら、一生の安心ではあるだろ?例えそれで辛い目にあったとしてもさ」
「・・辛い目になんか合わせないよ」
と、涼平は呟く。真剣な顔で。
「もう、オレは間違わないから。だから・・」
「ほんと、涼平は真面目よね」
『や、オレは最初から貴方の・・景の顔が好みだと思ってた・・っ!』
『女って意識もしてたけど、でも男だってわかってたし・・だから・・』
「オレに素直に抱かれてくれたこともそうだけど、ちゃんと自分の気持ちも最初から言ってくれた。鈴ちゃんへの想いも。愛おしくて、この人とならどんな人生でも歩んでいけると思ったの。けど、年上のプライドとかはあるわけよ」
と、景は照れたように笑う。
「そ、そんなの・・」
「だって涼平かっこいいんだもん!けど、別に女装してたからって心は女ってわけじゃないし、男として涼平に頼られたい気持ちもあるの。だから・・」
「オレを抱きたい?」
「えっ?」
涼平の声色が変わる。
「オレはそれでいいよ」
元の優し気な声に戻って涼平は微笑む。
「オレは存外不器用だから。貴方がしたいようにオレの側で生きてくれるのがやっぱいいなって。だから・・」
そして呟く。
「オレを愛してください」
「あっあっあっ・・そんなに舐め・・耳だってオレ・・弱いみ た・・ああっ!」
形のいいと恋人が評した耳。それが今は赤く染まっている。
「なんで・・」
「だって好きだもの、涼平の耳。なんか優しい味がする」
「んなわけ・・やあっ、息が熱くて・・」
「ふふ、想いは熱いもの。・・首から胸からほんと愛おしいの」
景の顔は首筋に移る。丹念に首筋を舐めてはいるが、手は既に涼平の性器に触れていた。
「ごめん、もうこれに触りたくてしょうがなかった。いつかは、コレをオレの中に挿れたいと思うけど、今は口で我慢して」
深く咥えて涎で潤いを与える。
「はあっ・・やあ・・イイ。凄く・・貴方じゃ・・ないと」
「もしかして入院中に自分でシテたの?」
涼平は硬派ではあるが、がちがちというわけはない。少なくとも同級生の日向哲人よりは恋愛や異性への接し方などは常識的な考えを持っている。そして性的なものには控えめではあるがそれなりの見識はある。
「り、鈴がいるのにそれは無理・・。アイツを汚したいなんて絶対に思わないし、それに・・言ったでしょう?」
頬を上気させて涼平は景の顔を真っ直ぐに見つめる。
「涼平・・」
「オレは貴方に愛されたいんです。貴方じゃなきゃオレのこんな姿・・見せられない」
そう言いながら涼平は自分のソレに触れている相手の手を掴む。
「っ!・・り、涼平!?」
「動かしてもらえますか、貴方の手で快感が欲しいんです。こんなこと、ほんとは恥ずかしいんだけど、でも・・」
そして顔を相手の耳に近づける。「っ!」
「確かに身体が疼いたことは多々あったけど、それは貴方とのことを思い出したからで。別にセックスばかりしたいわけじゃないけど、でも貴方と一緒に気持ちよくもなりたくて・・だから、貴方に愛されたい」
「・・無駄に正直になっちゃったのね、涼平は。そんなかっこいい顔と声で言うことがこんなに可愛いだなんて反則だよ」
涼平のソレをしごく景の手に力が込められる。
「あっ」
「・・優しく出来なくなっちゃうよ、もともと何もかも涼平の方が強いんだから。たぶん・・性欲も」
「やあ・・っ・・いい・・も・・っと・・」
思えば最初に景に抱かれた時から、自分はこうだったように思う。
「あっ、あっ・・そんなに強く・・」
「うん、もうぐちゃぐちゃだね、前は。もう後ろにも欲しい?」
自分も先走りをほとばせながら景が聞く。
「ほ・・しい」
そう言って、涼平はせつなそうに腰をくねらせる。
「ふふ、こんなオトコをオレから離すわけにはいかないよね。いっぱい泣く人が出そうだもの」
「い、挿れ・・て」
指が挿れられ、涼平の口から喘ぎ声がとめどなく発せられる。
「あああっ・・やあ・・ん・・・そ、そこ・・・イイ!」
こんな声を言葉を出すようになった自分が信じられないという気持ちもある。が、誰かに本気で愛されれば・・
(人も変わる・・や、本来のオレってこうだったのかなあ。だって、本当に気持ちイイ)
「も、もっと奥ま・・」
「だって、涼平は今朝がたまで入院してたんだよ?煽っておいて言うのも何だけど、少なからず傷負ってたよね。入院中も戦って・・でもオレも不安になっちゃって。ごめん・・でも気持ちイイ?」
「いい・・貴方を感じれていい・・だからもう・・貴方自身を・・」
己への挿入を目と言葉で促す。
「ごめん、貴方の思うような男じゃなかった・・かもしれないけど、ほし・・くて。でも・・貴方じゃないと」
「いいの、涼平はオレだけを感じてくれれば。・・愛してくれれば」
涼平の鈴への想いを自分自身が凌駕できる自信がないのが情けないけど、と景は心の中で苦笑する。
「オレも結局はこういうオトコだよ。とにかく今は涼平が欲しい」
自分の指が入ったままの涼平の中は熱くぐちゅぐちゅという音が聞こえる。それを確認して景は指を引き抜く。
「楽にしてていいから。とにかく涼平の中も外もオレが独占したいだけだから」
と、ウィンクする。
「ていうか、涼平のその反応は普通の男子高校生のソレだよ。だから気にしないで。やっぱ涼平は最初からオレの好きなとおりの人だよ」
だから、と囁きながら景は涼平の耳たぶをぺろりと舐める。
「け、景!」
「ふふ、挿れるよ」
「あっ・・くっ」
景のその女性のような綺麗な顔に似つかわしくないと思えるほどに大きく勃立したソレが、自分の中に入ってきて思わず力が入ってしまう。
「っう」
「ごめん、もう十分に濡れてると思ったんだけど」
「そ、そうじゃない・・だってやっぱ景って・・こんなに美人なのに物凄く・・オトコで。改めて・・」
自分は男に抱かれているのだと自覚する。
「け・・ど。 ああ!感じ・・ちゃう。いっぱい擦れて・・そ、そこ・・そんなに突かないで・・へ、変になっちゃ・・う」
自分が一人で暮らしていた一軒家に一緒に住み始めて一か月。身体を繋げたのは本当に数えるほど。
「ふふ、涼平の感じるとこは何か最初からわかっちゃったの。不思議だなって思うけど、これが恋ってことかなって」
景は笑顔のまま腰を動かす。
「やあ・・っ、景・・景・・どうし・・て」
この人が自分の前に現れたのかと。
(鈴は、いったい何のために。どうして、オレとこの人を近づけさせた。オレが本気でこの人に溺れる確信なんてなかったはずなのに)
『オレじゃ、多分鈴ちゃんには敵わない。彼女より多くの経験を重ねているというのに、情けないんだけど。涼平が鈴ちゃんのこと好きなのはよくわかる。けど、それでもオレは涼平が好きなんだよ。一人でいてほしくはないんだ。勝手な・・想いだけど』
(景だけじゃない。鈴もオレも勝手・・で。けど、今はこの時は・・この快感がすごく・・て。どうして・・出る・・恥ずかしいのに、イヤラシイ声も中身も出ちゃ・・う)
「そんなに締め付けて・・ふふ。もう我慢しなくていいから。愛されているのはオレもだから。セックスしてるんだもの、いやらしくなってもいいじゃない。てかそうじゃないと、オレが照れちゃう。だって・・本気で恋してる相手にはやっぱ、さ」
そう言いながらも、景は涼平の胸の小さい粒を舌で執拗に舐める。
「言ってることとヤッてることが・・違・・う・・じゃない・ ・で・・はあ!あああ、そんなにぺろぺろされ・・ひいっ」
全身に快感が走る。(まだ・・信じられない。オレがこんな・・)
「オレしか知らない、涼平の弱点・・だよね?」
景が囁く。涼平は小さく頷いた。
「あ、そ・・そう。貴方だけ・・オレのこんな姿・・貴方にしか・・ああっ!お、奥まで入って・・痺れ・・る」
「キス・・しよ」
その言葉にも直ぐに頷く。そして自分から口づけていく。
「ふ・・う。ん・・・っ」
舌はもっと深く入れられ、そして下半身にも重くて硬いものが更に深く突き進んだのを感じる。
「はあっ・・やあ・・っ。そ、それ以上は」
「だって、締め付けてんの涼平の方だよ。こっちが痛いくらい。オレのお腹に当たってるコッチも、もうぐちょ ぐちょだ」
景の腰の動きがゆっくりになる。
「やあ・・・ん」
今までの積極的な行為が嘘のような散漫な動きに、涼平の腰がせつなげに揺れる。
「嫌・・こんな・・の」
「ふふ、悪い身体になっちゃったね。そうさせちゃったのはオレだろうけど」
笑ってはいるが、本心では申し訳ないと思っている。本来の彼はただ同級生の女の子に恋している高校生男子だったのだから。
「・・さっき言ったでしょ、優しくはできないって。オレは本気で涼平を愛しているから」
10も年下の高校生に縋りたくなる。自分の弱さをセックスという形で相手に投げてしまいたくなる。
「だって恋人だもの」
そう言って今度は肩に口づける。えっ?という表情の涼平に景は少し悲しそうに答 える。
「傷・・残っちゃうね。けっこう激しくヤラレたんだやっぱ」
「!・・ごめん・・なさい。弾がかすった後に切りつけられたんだけど、思ったよりも深手になっちゃったみたいで。でも・・今は続けて。イケないままの方が辛いよ」
涼平は静かに微笑む。今の本音が本当にそうだから。テレながらもしっかりとした口調で答える。
「ふふふ・・ほんと、オレの恋人は可愛いな。こんなにかっこいい顔してんのに、可愛い声で感じてくれる」
「ひっ!あっ、そ・・だって・・わ、わざとでしょ。そこばっか激しく擦っ・・イイっ!」
涼平が悲鳴のような声を上げる。
「や・・あっあっあっ・・前もそんなに擦られたら出ちゃう・・やあっ」
To Be Continued
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