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第54話
「どうした?北原に何か言われたのか?あいつ。けっこう毒を吐くからなあ。根は悪いやつじゃないんだけど。なにせ鈴が認めてる男だから」
景と涼平が今夜から二人で住むことになるマンションの部屋を出た後、侑貴は足早に歩いていた。広将は慌てて後を追う。
「ごめん、みんながいるからそう揉めないと思ったんだ・・っ」
「つまり・・」
広将のその言葉に侑貴は立ち止まり、不機嫌そうに振り返る。
「アイツがオレと合わないのはオマエには分かってたんだな」
「っ!・・けど、内田さんにも涼平にもオレたちはお世話になってるわけだし。鈴も一緒だから大丈夫だと・・」
いつになく不機嫌そうな声で答える侑貴の様子に、広将も顔色を変える。
「な、何を言われたの?北原がふるーるの前のベーシストのことを言ったから?でもそれは・・」
「オマエを認めてないファンがいるのも事実だ。曲調も変わったしな。それに・・アイツとオレが付き合ってるっていう噂も当時は少なからず流れていた。アイツが死んで直ぐにオマエがふるーるに加入したことで、変な憶測が流れたのも事実だ」
「・・それは知ってる。でも結果的にオレが今はオマエの恋人だ。親にも認められた。オマエには不本意な形でだったかもしれないけど、でもオマエに安心をあげたかったから」
『オレだって、本気の恋愛をしたっていいだろうがよ!家族に置いて逝かれたあの日から、家族を持つことは諦めてる。けど・・本気で誰かを好きになったって・・いいだろ。それが例え誰かの恋人でも、運命を感じたんなら、それに縋ったっていいだろ・・』
『じゃあ、どんな恋愛ならオレには許されるんだよ。誰なら・・オレを特別な存在にしてくれるんだよ!』
「オマエが元カレと一緒にいたときと違って、今のオレたちはメジャーデビューしたプロだ。スキャンダルを起こせば会社にもアニメ関係者にも迷惑をかけることになる」
「・・・」
「でも、オレが側にいなきゃオマエは幸せになれない。オマエは飲めない酒を飲んで泣くんだもの」
『これはオレの役目だからだろ。オマエの側にいて、オマエを理解してやれる存在がいないと、誰のためにもならないから』
「だから、親にも頼った。オレとオマエがああいう形で結びついてたのには驚いたけど、それを知ることは誰にも必要なことだったはずだ。きっかけをくれたのは鈴だ。それは侑貴も分かっているだろう?」
「・・鈴はあの七生って男が好きなのか?哲人とだいぶタイプ違うみたいだけど」
「え?・・や、そこんとこがいまいちはっきりしないんだけどさ 」
侑貴の問いに戸惑いながら広将は答える。
「スペック的には哲人と遜色ないというか、場合によってはそれ以上だよ。確か1年の秋にウチの学校に編入してきたんだけど、入試より数段難しいと言われているウチの編入試験をほぼ満点でクリアしたらしい。それなのに、普段の試験や模試では哲人より点数が低いんだ」
「つまり・・」
抑揚のない声で侑貴は言葉を紡ぐ。
「哲人はヤツにバカにされているわけだ。そしてそれを受け入れている。敵わないと分かっているから」
「侑貴!オマエ、何を言ってる。いくら侑貴でも哲人のことをそこまで悪くは・・」
「やっぱ広将も哲人が大事なんだな」
侑貴が吐き捨てるように言う。
「っ!」
「なんで・・だよ。鈴も直央も涼平も、広将まで哲人の何もかもを許す。涼平は哲人のために家族を失ったんだぞ」
「えっ?」
思いがけない侑貴の言葉に広将の顔色が変わる。
「どういう・・意味」
「その通りの意味だよ。オレの親が死んだのと似たようなもんだ。オマエと鈴の父親は事故だって言ってたけど、オレは亮から聞いているんだ、はっきりと。事件に巻き込まれて死んだんだと」
「な・・っ!」
困惑気な表情の広将に対して、侑貴は悲し気な表情になる。
「・・けど、それはもういいんだ。亮の言ってることが本当なのか嘘なのか・・そんなことも、もう。けど、哲人のソレと北原のあの態度だけはどうにも我慢がならねえんだ」
「だから、北原に何を言われたんだよ。北原はあれで空気を読む男だよ。少なくともオレのいる場で、オマエに毒を吐くなんてこと考えられない」
広将が侑貴の手を握って問う。
「オレは・・オレだけが“オマエの過去も未来もオマエ自身も受け入れる権利”を持ってるんだって自負してるんだ。だから・・だから言ってくれよ!北原に何を言われてオマエがそんなに傷ついているのか。オマエにそんな顔させるヤツ、俺は絶対許さないから」
「え・・」
「オマエ、怒るより悲しんでいるだろ?オマエのことちゃんと知らないヤツに、オマエを泣かせられたらそりゃ恋人して腹が立つだろうが。オレはオマエを愛しているんだから」
「・・・」
夜にはなっていたが、まだ人通りがある住宅街に二人はいる。奇跡の低音ボイスだとファンの間で言われているその声は本人が思っている以上に低く、けれど辺りに響き渡っている。
「どうした?オレの気持ちはやっぱオマエに届いてないか?悪いな、まだ慣れてないんだ。恋人に気持ちを伝えるってことに。オマエの作るラブソングの曲に詞を乗せるってことはできるんだけどな」
「お・・まえ・・」
照れたように頭をかきながら広将が言うその言葉が、今自分を殺しにかかってると侑貴は思った。
「今はオレがオマエの横で歌っているんだ。オマエの曲をオレの言葉で。それでも安心できないか?」
「や、安心ていうか・・哲人以上にもしかしたら天然なんじゃないかって事実にちょっと不安を感じてるよ、今」
「へ?」
マジ?といっきょに不安げな表情になった広将を見て、我知らず「ふっ」と声が出る。
「侑貴・・怒った?ごめん、オレ・・」
「いや、オマエのその声でオレも勘違いしてたっていうかアレなんだけど、オマエってまだ高校生だもんな。哲人や鈴がオマエをメディアになるべく出さずにいるのは学校のためでもあるけど、オマエ自身のためでもある。それが分かっているからオマエの親も協力的なんだろう」
本当は新人バンドとしてもっとプロモートするべきだし、事務所の方でもそういう方針だと思っていたのだが、なぜか広将に関してはライブ以外の露出は極力控えさせている。
(おそらく日向家の干渉のせいだろうがな。いくら原作者が一族の人間だからって、普通は製作委員会でどーのーこーのするもんだろうが。アニメの制作ってそんな軽いもんじゃないだろ。どんだけの労力と金が動いてると思ってんだよ。や、確かに広将は芸能人向きじゃないっていうか、今は・・守りたいっていうか)
「哲人にも何度も謝られたよ。将来のこと考えたら、本当はちゃんとアニメ雑誌とかネットとかに出た方がいいんだろって。有名人のご両親を見てるから分かっているってのもあるだろうし、オレがバンド活動してるのを知ってからけっこう勉強してくれたらしい。・・鈴が関わってるってのもあったみたいだけどね」
「哲人は・・やっぱ鈴のこと・・」
広将の言葉に侑貴は思わず呟く。もしかしたらと思っていたこと。自分も鈴のことはよく知っていたし、直央にも本気で魅かれていた。
「侑貴の好みは哲人の方かと思ってたんだよ」
と、広将が苦笑する。
『アンタたちと争うつもりもないわよ?お互いにショウは大事な仲間だしね。けど、直央くんのこともけっこう気に入っちゃったのよ。・・オトコを引き付ける雰囲気があるのよね、彼。そこんとこは鈴だってわかってたと思うけど?』
「不思議だな。確かに哲人は直央さんに夢中だよ。あの冷静な哲人が直央さんのことになると我を失くすんだ。‥羨ましいほどに愛されてる、直央さんは。オマエにもな」
「っ!どうし・・」
「侑貴だっていつも誰かに愛されていた。侑貴が本当に求めた愛じゃなかったかもしれないけど、侑貴に愛を求めた輩は確かにいたんだ。てか侑貴に近づいた人って男でも女でもミーハーな感じするのっていなかったろ?割ときちっとした感じっていうか。中身はどうかは知らないけどね。でも頼れる感じの人が好きなんだと思ってたんだ」
「哲人って・・頼れるのか?アイツが・・」
「はは・・侑貴のそういうとこが好きだよ」
自分の言葉に首をかしげる侑貴を見て、広将はつい微笑む
「オレだってそうだろ?オレはオマエより年下だし、オマエや哲人みたくドラマチックな人生も生きていないからな。それなりに苦労はしたつもりだったけど、オレの人生を決めてくれたのは哲人と侑貴だったから」
「は?」
「鈴がオレたちと哲人たちが似てるって言った時、オマエはいちいち否定してたけど、オレには納得できる部分がいっぱいあったんだ。で、直央さんに魅かれてたオマエがオレの気持ちを受け入れてくれたとき、けっこうほんとにホッとしたんだ」
「そう・・なのか?」
広将に思いがけず好きだと言われ、関係を持った時のことを思い出し侑貴は顔を赤くする。
「だって、侑貴は男にも女にもモテるじゃないか。オレはそうじゃなかったもの。侑貴の周りにいたような華やかな人たちとは違う。直央さんや哲人みたく人を引き付ける魅力があるわけでもない。だから、侑貴が誰と付き合っててもオレは口出しする気もなかったんだ。けど、侑貴は泣いた。寂しいって・・叫んだ」
「!・・」
「他の誰でもない、オレに頼ってくれた。それが嬉しくて・・やっとオレは素直になれた。侑貴の側にいられるってのがこんなにも幸せなことで。・・オレも、オマエに夢中なんだ。恋人でもあるけど“ふるーるのユーキ”のファンでもあるからさ、オレ」
「オマエも・・」
広将の言葉にますます顔を赤くしながら、侑貴は言葉を紡ぐ。
「十分目立ってるよ。・・そうだな、顔的にいえばオレの好みは侑貴よりは哲人の方だな。あんな男が本気で惚れるオトコに興味があった。というか、羨ましかったってのが正解に近いかな」
「羨ましかった?」
「哲人ばかりじゃなく鈴や涼平が守る人物だぜ?大物だろ、その事実だけで。だから、オレはオレでオマエがオレのこと大事にしてくれるのは本当に嬉しいんだ。・・でも、そんなオレに近づくのはロクなヤツがいない。オマエに見られたあの女は、以前オレに袖にされた音楽事務所が仕込んだヤツだ。例のアイドルグループの事務所ともつながりがあるところだから姑息なんだよな、やっぱ」
「・・・」
侑貴と広将のバンド「ふるーる 」は現在放送中のアニメ番組のエンディング曲を担当している。他にも劇中のBGMを何曲か侑貴が作っているのだ。
「もうすぐ2クール目の詳細が発表になるはずだ。そしたらおそらくいろんな憶測や噂が飛び交うことになる。広将にも誰かからの何らかの接触があると思う。極力オマエを露出させないようにはしているけど、けれど実力を世間に認識させるのも必要だと」
明後日にライブを行うことが予定されていた。一か月前に告知はされていて、SNSでも話題になっていた。
「事務所には許可を受けていることだけど、そうそう迷惑をかけられるものでもない。ハニトラの方は内田さんに処理してもらったんだけどな」
「だから今日は来たわけ?恩返しってことで」
「うん、まあ・・っ」
気が付くと自分の手は広将に握られていた。侑貴は慌てて辺りを見回す。
「ちょっ!そ、そういうとこだろうが、オレらが気をつけなきゃいけないとこは。オレはともかくオマエは学校のこともあるんだから。哲人たちに迷惑かけたくないんだろうがよ」
「やっぱさ、侑貴は優しいね。そういうとこ好きだよ。オレだけじゃなく、哲人たちのことまでちゃんと考えてくれるんだもの。凄いよね」
そう言いながら広将は侑貴の手を離さない。「広将?」と困惑気な侑貴の顔に口元を寄せていく。
「なっ・・な・・に」
「北原に何を言われたのか教えてくれ。こんなに優しいオマエを傷つけたことは、オレは本当に許せないんだ」
その低音ボイスが似合わない柔和な顔が、今は真剣で静かな怒りをたたえ ているように感じられた。
「っ!」
「北原は本当に頭のイイヤツだよ。そんで冗談で誰かを傷つけることなんてしない。でも侑貴が余計な事言ったとも思えない。確かにオレとはそんなには親しくはないけど、涼平が鈴とくっつけたがってたくらいだからね。信頼できるヤツだと思っていた」
「・・鈴は普通の男じゃ無理だからな。オマエだって少なからず知ってるとおり、鈴や涼平には裏の顔がある。本気で付き合うんならそれに巻き込まれるに価するヤツじゃないと、そもそも鈴と付き合うことはできない・・」
(鈴や涼平がオレたちの細かい事情まで話したとは思えない。日向の裏の部分にまで話が及ぶ事案だからな。つまり、それを知られてもかまわない立場にいる男なのか、あるいは鈴や涼平が 受け入れなければいけない相手なのか、もしくは・・)
日向にとっては利用すべき存在なのか。
(3つとも当てはまる可能性が高いな。・・くそっ!哲人が嫌う男と何で鈴をくっつけようとすんだよ、涼平のやつ。哲人を守るのが鈴と涼平の役目なんだろ?なのに・・まさかと思うけど、弱みを握られているとか?アイツ、押しが強そう・・っていうか無茶苦茶ごり押しなヤツだからなあ)
顔でいっても哲人や涼平より目立つ印象がある、と侑貴は思った。哲人も涼平も普通の高校生には無いオーラが備わっていることは侑貴も認めている。
(つうか、ヤクザと対等に戦う高校生だぜ?しかもナイフやハジキでさ。それも日本有数の財閥のお嬢様やお坊ちゃんが。普通にあり得ないだろうが。そんな 奴らを凌駕する同じ高校生ってだけでもアレなのに、オレを脅すとか。アイツ、絶対ヤバいことを知っている。オレや広将のためにはならない存在・・)
「・・貴?侑貴?・・どうした?ここじゃ言えないことなら、オマエの部屋でゆっくり話を聞くぞ?」
「は?オレの部屋・・って、何でだよ!」
「そ、そんなに驚くこと?」
侑貴のその反応に広将が困惑気な声をあげる。
「オレはオマエの恋人なんだから、オマエの部屋でくつろいだっていいだろ?だいたい、先日はオマエが望んだんだろうが」
『だったら、今日はずっと側にいてよ。オレ、寂しくなるの分かってるから。今日は独り・・無理』
『わかっ・・てんの。直央も真っ直ぐに哲人を想っているから、あんな対応になるんだって。揺れてるのはオレ。許されていないのは・・そう、どうしても思っちゃう。広将のこと大好きで大好きで大好きで!こんなに想って、愛されて・・なのに弱いままのオレ・・最低』
「侑貴にそこまで言わせて。けれど、オレはオマエを内田さんに任せてしまった」
『これ以上侑貴を不安にさせたくないし、オレも離したくない。けど、オレはやっぱ子供で。仕事がらみのことで侑貴は悩んでのに、オレにはちゃんと言えないってことは大人に頼らなきゃいけないんだと判断したまでのことさ』
『オマエは世界で一番大事な存在だよ。親にも正式に紹介したんだしな。や、オレの親にとってもオマエは特別な存在だ。だからこそ、ちゃんと内田さんに今の悩みを全部吐 き出してくれ。あの人なら今のオレ以上に頼れる存在だろ?』
「あの時のオレの判断は間違って無いし、内田さんにも感謝はしてる。オレが子供なのは事実だし。けど、オレは寂しくなっちまった」
「へっ?」
「・・侑貴は、ね」
と、広将は真剣な口調になる。
「何度も言ってるけど、その・・華やかで・・その・・儚げな印象なんだ」
「・・はい?」
広将の言葉に侑貴は困惑する。
「や・・華やかだってのは確かに言われた気はするけど、儚げって・・」
もともとビジュアルをウリにするつもりはなかった。自分をふるーる結成に誘った前のベーシストからは『音楽第一主義だから、オレ。・・けど、侑貴は自分の好きなように振舞っていいからね。自由に生きる侑貴の手が響かせる音がオレは好き』そう言われていた。
(その言葉が、当時のオレをいかしてくれた。オレの存在を明確にしてくれると・・思っていたのに。オレ自身がその想いを裏切った。だから・・)
「侑貴がオレの生きる指針になってくれてんだよ。んで、鈴は侑貴が哲人に似てるって言った。哲人もオレの道標なんだ。だから、オレは安心してオマエに言える」
「愛してるって」
「鈴・・ちゃん」
「はは、七生らしくないっての。ほんと、損な性格だよねえ。哲人みたく、バカになってもいいんだよ?たまには」
鈴はあははと笑う。
「涼平を許してあげて?そして侑貴も。・・真剣なんだ、みんな。そして誰も悪くない。責められるのはボクと日向る、という存在だもの。ほんと・・ごめん」
「・・なんで、鈴ちゃんがみんなの代弁者になっているのかしらねえ、困った子だわ」
と、七生は困惑気な表情になる。
「なら、何でアタシを橘や生野の彼氏に会わせたわけ?特に上村侑貴なんてアタシに敵意を露わにしてたじゃない。ま、橘の彼氏さんは流石に大人の対応だったけど」
「侑貴はともかく、いっちゃんを傷つけるのはボクが許さないよ。七生だっていっちゃんの誠実さは知ってるだろ。・・ボクたちが二度と持てないモノだ」
鈴の表情が険しくなる。七生は肩をすくめながら答える。
「どうして、鈴ちゃんはそういう哀しいことを言うのかしらねえ。それこそ生野や橘が鈴ちゃんのために頑張ってるのにアンタはそれを無下にしてるじゃない。アタシはそんなにダメな男かしら?」
「はあーっ」
鈴は大きくため息をついて、真剣な表情を七生に向ける。
「ボクは哲人のために生きてるわけで。七生だってそういう胡散臭いところが哲人に嫌われる理由じゃないの?」
「・・別に日向に好かれなくてもいいんだけど、アタシ。だいいち、あのド天然がアタシの本性に気づいてるとも思えないのよねえ。単に、さ」
と、ニャっとしながら七生が顔を近づけてくる。
「アタシへの嫉妬だと思うわよ?だって、ほんとに嬉しそうだったもの。アンタに連絡できるって知った時。・・なのに、あそこまで彼氏といちゃつけるのね、日向って。けど、それでもアンタの一番は・・」
「一番は、ボク自身だよ・・七生」
と、鈴は身体を引きながら呟く。
「ボク自身が諸悪の根源だと自覚しながら哲人や涼平の気持ちを利用して、ボクは行動している。七生、キミのことだってボクは・・」
「それを言うならアタシも、なんだけど?分かっててそんなこと言うんだもの、鈴ちゃんてズ・ル・イ」
おどけた調子でそう言いながら、七生は再び鈴に近づく。
「橘だってアンタのことを一番に考えてるわよ。あの美人な彼氏さんはそういうのも受け入れたわけでしょ?・・だから、そんな顔しないでよ。アタシならあの人の気持ちが理解できるのも、アンタは分かってるんでしょうが。・・ほんとに、もう」
自分でも思いがけないほどに優しい声音で喋っていると思って、七生はくくっと笑う。
「日向がアンタを大事に想ってることも周囲にダダ洩れだから、アンタも諦めがつかないのかもしれないけど、アンタは悪になり切れてないのよ。そうね、日向哲人を愛している限りは、ね」
けれど、その想いこそがこの少女をこの世に繋ぎとめているモノだと自分は知っているから。
(バカ・・みたいじゃねえか。日向はたぶんある程度は知っている。鈴が考えている以上に。アイツは本当に鈴を大事に思っているから。そして誰よりも頭がいいから。けれど、それでも・・)
「日向に遠慮は必要ないと思うけど?だって、アイツは彼氏と最高に幸せそうじゃない。だからさ、もう観念してアタシのものになりなさいよ」
口調はおどけてはいるが、顔は真剣なものになっている。もともと大人びた端正な容姿の七生が目の前に迫れば、大抵の女性は動揺して赤面するだろう。だが、鈴の表 情は変わらない。
「ここね」
「ん?」
「哲人と直ちゃんが殺されそうになった場所なんだよ。それがきっかけであの二人は付き合うようになったらしいよ」
「は?ここって・・川沿いのこの道で?殺されそうに・・って」
七生は困惑する。
「町外れではあるけど、人通りはあるよね?」
「容赦ないんだよ。哲人は常にそういう状況にさらされてんの。もちろん、その周りの人間もね。けど、みんなは昔から哲人を守ってきた。哲人は特別だから。その哲人が日向から離れたのはボクの失態だ。ボクが・・哲人を泣かせた」
「えっ?」
どういう意味だと七生は訝しぐ。
「3年前、ボクが涼平に切られたことで哲人は責任を感じた。・・哲人ね、凄く泣いたの。ボクとの婚約解消のこともだろうけど、ボクに傷をつけたことを悔やんでた」
「・・・」
「七生ならわかるよね。哲人にそんな反応されたらボクがボク自身を許せなくなるってことも。そして・・」
そして鈴の表情に変化が現れる。
「哲人が本気でボクを心配してくれることも。けど、哲人は直ちゃんを愛した。哲人と一緒にいれば普通じゃいられなくなるのを分かっていても、それでも哲人と添い遂げるって言った直ちゃんを哲人は愛したんだ。悩みながらも、哲人は直ちゃんを信じた。直ちゃんに人生を委ねた。ボクの時は泣いたのにね」
「!」
「ボクは泣かせただけだけど、直ちゃんは哲人に生きる意味をあげたの。直ちゃんとなら哲人は運命を受け入れられるって思ったの。ボクじゃ・・ダメだったの」
「鈴!」
たまらずに七生は鈴を抱きしめる。今度は鈴もなされるがままになっている。
「やっぱりアタシでいいじゃない。アタシもアンタと同類・・っていうかそれ以上に悪だってこと知ってるでしょ。だから、アタシが今日“あのマンションに行った理由”もわかってるんでしょう。・・アタシを止められるのは鈴、アナタだけよ?」
「止めたら・・七生はどう生きてくわけ?」
「っ!」
鈴にそう言われ、七生は思わず躊躇する。
「な・・んで」
「七生の標的にはボクも含まれているよね?というか、ボクを殺さなきゃ日向一族を終わらせることはできないよ?」
「!・・まさか・・」
七生の顔色が変わる。
「最初からそのつもりでアタシを自分に近づけたわけ?あの文化祭の時もだ から・・」
「ボクのことはともかく。七生には復讐を諦めてもらいたいんだよ。あの高瀬亮も結局は哲人を殺せなかった。そればかりか、涼平の伯父を殺してくれた。その可能性はボクも考えていた。七生の思惑も外してくれる行動だったからね」
鈴の言葉に、七生は目を丸くする。
「鈴・・ちゃん、アンタの本心はどこにあるわけ?少なくとも上村侑貴はアタシに不信感を抱いていたわ。まあ、それでも・・」
と、七生は一瞬目を伏せる。そして上げたその目は、悲しみをたたえたものになっていた。
「気づかないのね、彼。ヒントもあげたのに。橘は納得しているの?アイツも関係者でしょ。3年前のあのことに」
「涼平には内田さんがついているからね。あの人はちゃんと受け入れた。そんなあの人だから、涼平も幸せになれると思ったの。ふるーるのことも、ね」
「・・過去は関係ない、ってことね」
七生が辛そうに呟く。
「違うよ、七生。罪は洗い流せないもの、どうしたって。だって心が覚えているもの。けれど、それでも愛してくれる人がいるってことは、その人はただの悪人だよ」
「ひろ・・まさ?なんで・・脱いでんの?」
侑貴がそう言いながら、慌てて広将に駆け寄る。が、広将は「ん?」と怪訝な表情になる。
「や、一緒に風呂入ろうと思って。ウチには連絡したしさ。明日は他のメンバーも一緒にリハだし、二人きりになれるのは今夜ぐらいだろ?勝手言ってアレだけど、先日は侑貴を泣かせちゃったから」
「泣いてねえよ!」
顔を真っ赤にして侑貴は怒鳴る。
「ていうか、明日はオマエは学校あんだろうが。卒業するまでは学業優先て契約・・」
「プライベートまで契約に縛られる気は無いよ」
そう言いながら広将は侑貴を強く抱きしめる。そして顔を近づける。
「言ったろ?輝いてるオマエが平凡なオレの恋人だって事実、オレだけじゃなく周りもちゃんと受け入れてないんだよ。だから、オマエにハニトラが仕掛けられるんだろ。そりゃ、堂々と付き合うわけにはいかないオレたちだけど悔しいなって。それに・・」
「オレに隙があったって言いたいんだろ」
侑貴は顔を横に向ける。
「遊び人はオレの代名詞みたいなもんだから、事務所からもそんなに言われなかったしな。けど、まさか大学にまでそんなのが送り込まれるとは思わなかった。ちょっと真面目に大学生やってただけなのにな」
「同じ大学の学生ってこと?」
まさかという思いで広将は聞く。侑貴は首を振って
「いや、声をかけられたのは大学の外。けど、むしろそっちの方が一般人も見てるからな。で、大学のすぐ側だったから、ウチの学生かもとは思ってしまった。そういうとこ突かれちゃったわけ」
と苦笑しながら答えた。
「オマエはSNSやんないから知らないだろうけど、オマエの人気って凄いんだぞ。オマエに個人的にTwitterやってほしいってリクがけっこう公式にもきてんだよ」
「や、オレは・・別に呟くこともないしな。オレの日常なんてほとんどが学校だし仕事のことなら公式が告知すればいいんだし。てか、アカウントあるにはあるんだよ。鈴にむりやり作らされたんだ」
「マジ!?」
初耳だぞと侑貴は驚く。
「といっても、生徒会のツイートを見るくらいしか使ってないんだけどな。・・そいや、公式の方へのリプなんて見てなかったな。なんでか、自分とは関係ないと思ってしまった」
「当事者だぞ、オマエは!ったく・・もう少し自分の立場を考えろよ。オレが・・オレの過去が悪いんだけどさ」
そう言って侑貴は俯く。そして呟く。
「もしかして・・哲人もこんな気持ちだったの・・か?」
「へっ?」
どういう意味かわからず広将は困惑する。
「哲人もいろいろあるんだってことだよ。んで、直央がああいうヤツだから・・。それでも、いざとなったら哲人は直央を頼った・・助けを求めたんだ。オレもそうだもの」
「侑貴・・」
「け、けど!きょ、今日は帰れよな!明日は学校が終わってから夜までリハなんだから、無駄に疲れる必要は・・」
「恋人同士が仲良くすることって無駄に疲れることなのか?」
「はっ?・・っ!」
気づいた時には恋人の顔は驚くほどすぐ側にあった。
「広将、顔が近・・うっ」
もう何度となくかわした口づけが、今日はいつも以上に熱く感じる。
「っ・・く・・ん」
知らず知らずのうちに相手の背中に手を回していた。それに気づき広将はより深く舌を差し入れ念入りに絡ませてくる。
「あっ・・んふ。ああ・・や」
侑貴は自分の身体に明確な変化が現れたことを知り慌てる。
「ちょっ、駄目・・だって。確かに最近はその・・だったけど」
やっとの思いで身体を離す。
「ダメなのか?この間はオレが拒否しちゃったから・・。侑貴を傷つけたなって・・だから」
「だ、だから!んな顔すんなって、違うって!」
広将がどんと落ち込んだ表情になったのを見て、侑貴は再び慌てる。そして自分の下半身に広将の手を導く。
「!」
「あんだけ身体密着させてたんだから分かってただろうがよ。つうか、あんなキスくらいでこうなってしまうオレが信じられないっていうか」
顔を赤くしながら、今度は自分から相手に顔を近づける。
「ごめん、オレがバカなことを言ったから、オマエが戸惑っちゃったそういのが一番ダメなの分かってて・・オマエに安心させなきゃいけないの年上のオレだから」
『遊び人はオレの代名詞みたいなもんだから』
「今は違・・うんだ。そりゃあ真面目なオレが嫌だっていうファンもいる。オレにハニトラしかけた子も言ってたよ」
『な・・んだ、つまんないの。ユーキってそういう人じゃなかったじゃん。もっと楽しい人だったじゃん。なんなの?メジャーになったら守りに入ったわけ?曲だって・・』
「インディーズの時とは変わったって言われた。アイドルとどう違うのって。なのに、何でオレたちの方が評価が上なんだって。けっこうグサッときたんだ」
自覚がなかったわけじゃないんだけどな、と侑貴は小さく笑う。
「そんなとこにあの曲の話がきた。オレも一応原作は読んでるからな。鈴とは涼平を通じて知り合いだったし・・まあ何か企ん・・訳ありだなとも思ったけどノッてみようかと思ったんだ。・・亮も反対はしなかったしな」
「・・・」
「ごめ・・ん」
侑貴のその言葉に広将の表情が微かに歪んだことに気づき、自分は目を伏せる。
「ごめん、もうその名前は出さないよ。会うことが無いとは正直言えないけど、でもアイツはいずれ殺されるはずだから。完全に用済みになれば・・」
「けど、哲人を助けたんだろ?高瀬亮は。そして、涼平の代わりに仇をとった。・・そういうことだろ?」
「っ!・・ごめん、オマエにはそういう世界は見せたくなかったんだけどな」
侑貴はうなだれながら答える。
『一人にしてくれって言いたいけど、もう親に言っちまったんだろ、オレの部屋に泊まるって。・・バカだな、オマエみたいなクソ真面目な男がオレなんかに関わるから、アイツらの裏の姿まで知ることになっちまった』
『亮のこと憎んでたって言っただろ。けど、オレはアイツに・・それこそ昨日も抱かれていた。離れられないと思えるほどに感じていたんだ。だから、寂しいのとホッとしているので半々てとこさ。オレのほうこそ最低なん だ。けれど広将、オマエだけは駄目だ。もちろん嫌いじゃない・・好き、だけど』
「それでも、鈴と涼平はオレたちを結び付けた。大丈夫だと思ったから。だからオレに哲人の父親も見せた。たぶん、それも必要なことだったんだろうな。オレの父親は哲人の実父と同級生だった。オマエや鈴の父親もな」
「鈴の父親・・か」
侑貴は呟く。
(確かに度胸や懐の深さからいっても、鈴の父親がああでも不思議じゃない。鈴の母親だって、あの夫にしてこの妻ありだ。日本有数の五つ星ホテルのオーナー夫妻だってのにな。けど、いくら日向一族だからって鈴のやってることは普通じゃない。娘にあれだけ身体を傷つけさせて平気・・じゃないかもしれないけど、させるがままの親なんて・・)
「・ ・広将はさ、まあオレもゲイってわけじゃないけどノンケじゃん。やっぱ鈴みたいな女の子が本当は好みだろ?あいつは性格とかはともかく胸はまあ凄いしな」
「はっ?・・や、確かにオレは鈴に好意は持ってた。胸もそりゃあ、まあ。性格もさっぱりとして付き合いやすかったし。でも、鈴はどうしたって哲人が好きだから・・」
「っ・・て・・」
照れたように笑う広将を見て、侑貴はホッとする自分を感じる。同時に複雑な気持ちにもなる。
「ばーか。また余計な事考えてんだろ。オレは侑貴が好きなんだよ。どんな状況が発覚しても、たとえ胸がぺったんこでもオレの好きな人は・・この粒を舐めて感じさせたいと思う相手は侑貴だけなんだよ」
「だ、だからオマエがその顔でそんなセリフを 言うなって!・・っ・・あん」
戸惑いと抗議の声をあげながらも、つい感じてしまう。
「やあ・・あ・・ん。だ、ダメ・・まだ・・」
「さっきは中途半端だったろ?焦らされるのは嫌いだって言ってたじゃないか。ちゃんとオレなりに感じさせるから・・ちょっとおとなしくしててくれる?まだホントに慣れてないんだからさ、オレ」
「!・・そ、その声で言う・・な」
中性的な容姿の侑貴の声は男性の割りに高いが曲によっては低い声も出せる。対してどちらかというと童顔だと言われる広将の声は渋いほどに低いもの。
『声変わりしたら途端にこの声でさ。みんなが「えっ?」て顔になるから声を出すのが嫌だったんだ。でもそれじゃ寂しいから、だから楽器で気持ちを伝えられたらっ て思った』
(こいつが苦労して手に入れた場所。それは哲人の助けもあったからであって、オレは・・。それにこいつが望んだのは『普通』。でももう・・無理、かな)
そう思いながら自分の胸に口をつけている恋人の背中に腕を回す。
「ゆう・・き」
「やめんなよ。オレは確かに中途半端は嫌いなんだ。そ、それに・・」
と、侑貴は顔を赤くする。
「オマエの舌使い、絶対上手いもの。なんで・・なの?オレみたいなの、何でオマエが・・側にいてくれるんだよ」
「えーっと、オレは褒められているんだよね?ふふ、侑貴がね・・」
そして広将は侑貴の耳元に口を寄せようとして、思い直したように少し身体を起こす。
「・・?」
「あのね、オレに自信を持たせてくれる?」「・・どういう意味?」
「オレの愛撫で侑貴が感じてくれるとこをちゃんと見たいんだよ。だって、オレは・・」
と言いながら、侑貴の勃立したソレを握る。
「ちょっ、まっ・・」
「自分の以外は侑貴のしか触ったことないんだからな」
「そ、そんなこと言わなくて・・いい。てか・・その・・そんな優しくじゃなくて・・いい・・あっ」
「ふふ・・仰せのままに」
にやっと笑って、広将は手に力を込める。それでも、あくまでも優しい手つきだ。
「ほんとに、もう・・」
広将はとことんまで優しい男なのだと、侑貴は苦笑する。同時に胸の苦しさも感じてしまう。
(外見も中身も惚れてる女は多いだろうな。その気になれば普通に女を口説けるだろうに。なのに、恋人がオレだなんて)
「やっぱ、手よりこっちの方がいいか?」
「へっ?・・あん・・っ」
突然、自分のソレが温かいものに包まれ、久しぶりの感覚に身体が震える。
「やっ・・あっ・・あん。そ、そこ・・い」
ぐちゅぐちゅという音が響く。気が付くと自分の性器は相手の口の中にいれられ、後孔には指が挿れられていた。
「はあ・・んん。もぉ・・い・・」
(嘘ぉ・・いくらなんでも早・・・。つか、こいつ何でこんなにフェラも上手いんだって。中も、イイとこばっか擦りやがって・・)
真面目だけど親しみやすそう・・というのがファンの間で言われている広将の印象だ。侑貴もそれは間違いではないと思っている。こういう関係になっても。
(なのに、遊び人キャラだったオレが何でこうも毎回コイツに煽られなきゃいけねえんだよ。オレの方が年上だってのに、いつも流されて・・でも)
どうしても感じてしまう。今までに何人もの相手から受けた愛撫よりも何倍も。
「あっ、ああ!す、好き・・そこ・・もっと擦っ・・。やあ・・ん、イッちゃうの嫌・・」
“普通”を広将にあげられないことを申し訳なく思いながらも、広将が与えてくれる快感がとても好きすぎてこの時間だけが永遠に続けばいいのにと願ってしまう。
「大丈夫だよ。今夜はずっと側にいるから。愛しているよ」
「へっ?や・・イッちゃ・・」
「挿れていいよね。その前にオレのも舐めてくれる?」
「あ・・うん」
素直に広将のソレを侑貴は口に含む。
(絶対、オレのより大きいだよな、顔に似合わず。くそっ・・でも、何でこんなに美味しく思えちゃうんだよ)
女性も男性も相手にしてきた侑貴ではあったが、未だにフェラはする方もされる方も好きではない。
(どうしてかな。やっぱ初恋の相手だから?)
初めて会った8年前からの自分と相手の境遇の違いを思い、正直落ち込む気分にもなる。
「侑貴はほんと優しいね。こんなに懸命にオレを感じさせてくれようとして。頭、撫でていい?」
「!・・ばっ、そんなこといちいち聞かなくったって・・」
思わず口を離して怒鳴ってしまう。
「っ!ご、ごめん・・そういうつもりじゃなくて。そ、その・・」
慌ててもう一度大きく勃立したソレを手に取る。「つか、マジで大きい・・」
思わず喉がごくりとなる。幾度となく自分の身体の中に受け入れたモノだが、優し気なその顔と割りに痩せ気味な身体からは想像できない猛々しさに改めて驚く。
「あ、やっぱ恥ずかしいな、そんなに見つめられると。いつもちゃんと受け入れてくれるけど、痛くない?なるべく優しくしてるんだけど、気持ちよすぎてさ、あはは」
「広将・・」
「えっとぉ・・改めて言うのも恥ずかしいんだけど、オマエを抱いていい?・・愛してる」
「なっ、オレはもう別に・・けど、その前にその・・」
「ん?さっき指で十分にほぐしたか・・」
「違げえわ!っとにもう・・」
呆れながらも赤くなった顔を侑貴は戻せずにいた。
「どうした?まだ足りない?」
「・・りない」
「ごめん、オレって鈍感だからちゃんと言ってくれなきゃわから・・」
「鈍感つうか、天然だろうがよ。オマエの方がよほど哲人に似てるわ、そこら辺は。オレだって早く挿れられたいよ、でもその前に」
と、侑貴は上目遣いで広将を見る。
「侑貴?」
「言ったじゃん、さっき。頭を撫でていいかって。な・・んで、そんなこと。オレの方が年上なのに・・バカ・・」
自分でも思いがけないほどに恨めし気な気持ちになる。そんな侑貴を広将はじっと見ていたがやがて手を伸ばしてきた。
「ごめん、そんなに不安だった?侑貴が側にいてくれって言ったのに、内田さんに任せてしまったこと。もう、あんなことしないから。・・侑貴を守らなきゃいけないもの、オレは」
「えっ?」
どういう意味だと聞こうとして、唇が唇で塞がれる。
「っ・・・う」
そのまま、硬いものが自分の下半身に当てられた。
「っ!」
「悪い、後でいっぱい撫でるからさ。もう侑貴の中に挿れさせて」
「あ・・ん。やあ・・ん、おっきぃ・・の。凄・・い」
「痛かったら言って。でも・・オレもあんま我慢できそうにな・・い」
侑貴の腰を浮かして、広将は自分のソレをより奥に進めようとする。
「あ・・ん、ソコ・・当たって・・擦れ・・やあ・・ん」
「気持ちいいなら、もう少し大きい声出してもいいよ。隣の部屋の人出かけてるから」
「はあっ?オマエ、余裕が無いとか言いながら、何でそんなチェックを‥イイ!」
広将の言葉に呆れて思わず力を抜いた瞬間、自分の中をソレが貫く。
「ああ!あっ、あっ・・・奥に当たっ・・だめ、きちゃう!」
「イキそう?オレも・・そんなに締め付けるから・・もう」
「だ、誰のせいだと。だ、だからそんなに激しく動かす・・な。ほんとに・・もう」
ばか・・・守るのはオレじゃなきゃダメなんだって。
待ってるだけじゃ・・また失っちゃう。
誰よりも、特別なの・・に。
「キスは受け入れてくれたのに、アタシの気持ちは置いてきぼりにしちゃうのね、あの子。まだ、アタシの覚悟が足りてないってことかしら。まあ、いろいろ失敗しちゃったしね」
一瞬の口づけの後、黙って歩き出した鈴の後を追いかけることもせずに七生はその場で呟き続ける。
「そろそろ消されちゃうかしらね、アタシ。鈴だけは守りたかったっていのは本心なのだけれど・・それすらも信じられない?そんな殺気をアタシに向けて」
そしてゆっくりと振り返り、相手の名前を呼ぶ。
「ねえ、黒木遠夜?」
「・・・」
彼の目は冷たい光をたたえていた
To Be Continued
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