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第57話
「鈴!鈴!・・くそっ!切っちまいやがった。んだよ、明後日のことって。生野たちのライブのことか?けど、なんで鈴が・・」
スマホをテーブルに置いて涼平は唇をかみしめる。
『『明後日のことは了解した』それだけ内田さんに言ってくれればいいよ。後は涼平がちゃんと彼と話し合ってくれればいいだけだから』
「景が誰かに何かを頼んだのか?でもそんなこと景は一言も。鈴でさえ知ってることをなんで俺に言わない?俺は、恋人で唯一の家族のはずなのに。景がそう言ったのに」
内田景の実家はもちろん存在している、がほぼ没交渉だと聞いている。涼平も一度も会ったことがない。
「まあ、名門らしいから男の恋人なんて認めないだろうけど。哲人や直央さんとか生野の親みたいな奇特な人たちじゃないみたいだし」
「・・うちの家族・・とは言いたくないけどあの人たちは私に女装を教え込んだ人たちだからね、じゅうぶん奇特な人間だよ。つうか私は玩具にされてただけだから、もうこれ以上は関わる気もないし、涼平も会わなくていい。涼平だけが家族でいいんだ。てか、もしかして鈴ちゃんから電話?」
「っ!景・・起きてたのか?大丈夫?」
「・・目が覚めたら涼平がいないから泣きたくなっちゃったよ」
「えっ?」
「冗談のような、本音」
と、景は片目を瞑る。
「景・・」
「けっこう参ってたみたい。みっともないとこ見せちゃったね。てか、鈴ちゃん何て?」
「その前に」
と、涼平は景に近づく。
「はい?」
「着替えた方がいいです。汗びっしょりだもの」
そう言ってリビングを出ていき、すぐにタオルとパジャマを持って戻ってきた。
「シャワー浴びます?」
「ううん。ありがと・・うーん、いい奥さんて思っちゃってもいいのかなあ。こんなイケメンのお嫁さんがもらえるなんて幸せだな」
「はあ・・」
と、涼平は苦笑する。
「顔的には貴方の方が美人さんなのにな。あ、背中は俺が拭きますから」
「ありがと。それで鈴ちゃんは何を言ってきたわけ?」
「・・明後日のことは了解した。それを俺の口から景に伝えろって。鈴に何を頼んだんです?明後日って、ふるーるのライブのこと?なんで俺じゃなく鈴に頼むんですか?俺が貴方の・・」
「だから、鈴ちゃんも涼平も巻き込むつもりはなかったんだよ。だって二人とも退院したばっかなんだし。てか、まさか鈴ちゃんに接触するとは思わなかったな。何考えてんだろ、新田さん」
大きくため息をつきながら、景はともかくもと着替えを終える。
「新田さん?・・もしかして六道会(りくどうかい)の新田若頭のことですか?」
「そ。ライブハウスのあるあの辺はあそこのシマだしねえ。今回の件・・侑貴のハニートラップのこととかはヤクザも関わってるから。そんで涼平たちが入院中に襲ってきた輩のそれとかも、新田さん自身がいろいろやってくれる・・そこらへんは涼平も知ってたとは思うけど、直接は関与しないって取り決めになったたはずだよね?向こうのメンツもあるから」
「や、まあ・・けどハニトラとライブのことは俺は今日知った・・鈴はなぜか知ってたみたいだけど」
「そこは私も謎だったのだけど、情報源は新田さんてことなのかもね。どういう関係なんだろ、あの二人」
「さあ・・。俺と一緒の時しかあったことがないはずなんだけど。だいたい、大っぴらに付き合える人じゃないし」
涼平も首をかしげる。
「ヤクザと女子高生だもんね。・・パッと見ヤクザには絶対に見えない人だけど。あ、私は情報屋時代のよしみでね」
「・・黙ってれば普通にイケメンのビジネスマンですもんね、あの人。まあ実際にそうなんだけど。男の恋人がいるって噂もあるし」
「・・・涼平・・怒ってる?」
「ったく・・六道会の幹部を痴話喧嘩に巻き込める女子高生なんて普通いないんだがな。それに3年前のあのことも・・」
「涼平はなんでそんなに不機嫌なわけ?内田さんと話し合ったんでしょ。あの人の立場と自分の置かれてる状況。それを再確認した上で、新婚さんやったんじゃないの?」
「・・んなわけないだろ。いいかげん、ふざけるのやめろって。景が・・オレもだけど、お前のことマジで心配してんの分かってるだろうがよ」
橘涼平は不機嫌な声を笠松鈴に向ける。
「それはボクのセリフなんだけどな。てか、もしかして内田さんと揉めたの?あの人の気持ちを涼平は一番・・“素直に”受け止められるはずなんだけど?」
「鈴!」
たまらず涼平は叫ぶ。
「本当にいいかげんにしてくれ!“分かっているなら”俺や景の気持ちも理解できてるはずだろ。昨日の電話だってそうだ。なんで、新田さんがお前に伝言を頼む?」
普通に考えてヤクザと女子高生の繋がりは無いよね?と涼平は疑問を口にする。
「だいたい、あの人は無茶なことは言わない人だろう。ヤクザのそれよりビジネスに徹する人だから」
「・・そんなことないよ。少なくとも“組織”を大切にしている。だから六道会でのし上がれたんだろ、あの人は。てか、ヤク ザじゃなかったら涼平的には憧れるタイプでしょ?」
「それは・・確かに」
と、涼平はうなづく。
「じゃ、ねえよ!や、確かにあの人は・・普通の一般人なら哲人に喜んで紹介するよ。“3年前”のことも無ければな。けれど、あの人は普通のヤクザでもない。なのに何で鈴は手を組んだ?3年前の真相を哲人に知られるリスクがあるんだぞ」
「・・ったく」
涼平の表情が怒っているそれではなく戸惑いの色の方が強いことを見て取り、鈴は深いため息をつく。
「なんでかなあ。複雑ではあるよ、確かに。涼平が内田さんを受け入れたらこうなっちゃうの分かってたんだけどねえ。ほんと涼平って・・」
「な、なんだよ。ひ、人の顔じろじろ見んなよ。・・オレだって景だって鈴のことを心配してたんだよ。そりゃあ、景の・・“アレ”もあれ・・だけど」
「しょうがないじゃん、内田さん美人だし。あの年齢なら普通に元カレがいたって、さ。あの人が“そういう”情報屋だってことも承知してたんでしょ?」
しょうがないヤツ、と言いながら鈴はついと涼平の頭を触る。
「ばっ、なにを・・」
「いまさらボクに髪を触られたくらいで何を顔を赤くしてんのさ。涼平が一番惚れてんのは内田さんでしょ。新田若頭に嫉妬するくらいに。・・そんなの意味無いのに」
「・・・」
「ところで・・涼平は3年前のことをどこまで把握してるわけ?」
「り・・ん」
そう笑いながら自分に尋ねる鈴の様子に涼平は複雑な表情になる。
「お前・・こそ、何を・・どこまで知ってる?や、ある程度のことは把握してるから景とも・・新田若頭とも知り合ったんだろうけど」
そう言いながら涼平は悲しそうな表情を鈴に向ける。
「・・わかってたよ?だから哲人との婚約解消も受け入れた。だってボクは哲人を守らなきゃいけないもの。・・壊れてるわけじゃない。だったら涼平の今の立場を作らない。確かに、直ちゃんが哲人との過去をまるっきり忘れていたのは誤算のうちに入るけど、ね」
「鈴!」
たまらず涼平は鈴の方を掴んで揺する。
「どうしてそんなに自分を傷つけたがる?直央さんの存在が8年前のことのみならず3年前のことにまで関係しているというなら、オレをハブにする理由もわかるけど」
「そういうネガティブさは涼平らしくないし、内田さんにも申し訳ないよ」
鈴は思わず息をつく。
「新田さんは・・あの時のこともそうだけど涼平が思っている以上にこっちの事情に関係している。ボクでも無視はできないんだ。そして哲人には説明できないことだしね。・・ボクにもリスクはあるんだよ。だから・・」
「なら何で一人で抱え込む?つうか、俺にはお前が俺や哲人を試しているようにも感じるんだけどな」
「・・・哲人はともかく。涼平は、ちゃんと内田さんと話し合えばいいだけだと思うけど?ボクも全部わかってるわけじゃないけど、七生とも揉めたみたいね。まあ、〆といたけどさ。あははは・・」
「そ、それだよ!」
あははと笑う鈴の方を涼平はむんずと掴む、
「痛いよ、りょ・・」
「お前と北原の関係だよ。あいつが1年の秋に編入してきたときから、お前は妙に仲良かったよな。けれど北原は哲人にはあからさまに敵意を向けていた。・・ずっと違和感を覚えていた。けど、鈴がそれでも幸せになれるならって。景も同じ考えだよ」
涼平は必死に言葉を紡ぐ。ちなみに二人がいるのは学校の裏庭。今まではこういう会話は生徒会室で行っていたが、引退が近づいた今『いつまでも居座るわけにはいかないだろ。後任の副会長が決まるまで引き継ぎもできないけどさ』
(って哲人が言うからこんなとこで話してるけど、ここって実はけっこう目につくんだよなあ。俺が告られてるとことか反対に鈴が告られてるとことか見てるもの。って、それはともかく・・)
「き、キスって!つうかわざわざ俺に言うってことは、けっこう本気ってことだろ?・・ぶっちゃけ複雑なんだけど」
「あら嫉妬?まあ、七生は涼平よりはイイ男だもんねえ。けどボクが愛しているのは哲人だけだし、七生も承知してるよ」
「なんで・・」
複雑そうな表情で涼平はため息をつく。
「何よ。涼平だって七生を怪しいと思ってるんでしょ。てか、本当は近づきたくないくらいの存在なんでしょ。けれど、3年前のことに決着をつけるためには必要なことだった。涼平と内田さんのためにも、ね」
そう話す鈴の表情は変わらない。涼平にはその心の奥底をのぞき込む自信が持てなかった。
「鈴・・お前の目的はいったい何なんだ?哲人が大切なんだろ?北原は哲人の敵にはならないのか?」
かろうじてこれだけを聞いた。が、鈴は少し微笑むだけだった。
「鈴・・っ!・・電話の音?誰の・・あ、俺か」
「涼平ってば、ますます哲人化してきたよ?日向の人間は恋人ができるとヘタレになるの?」
と、鈴は大きくため息をつく。
「景!だ、大丈夫?ちゃんと休めた?・・だってそんな慌てた声出すから。メモ置いておいたでしょう、テーブルに」
「内田さん?マジで朝声かけなかったわけ?」
慌てた様子の涼平に鈴はそう声をかける。
「だってぐっすり寝てたんだよ。だから・・あ、鈴だよ。や、哲人はいない。二人だけ・・や、違うってそんなんじゃ・・」
「え?もしかしてボクは勝手に修羅場に巻き込まれてんの?呼び出したの涼平だよ」
「ばっ、お前も変なこと言うなっての!あ、こっちの話。ちゃんと朝ご飯食べました?ああ、今起きたとこですか。じゃあちゃんと食べてくださいね。昨日の残り物がほとんどで悪いですけど・・って、何でそんな声出すんですか?別に怒ってるから黙って出てきたわけじゃなくて・・。てか怒ってもないしむしろ・・貴方が心配でだから・・でも・・」
そう言いながら涼平はチラと鈴の方を見る。
「?・・言いたいことがあるんならちゃんと彼に言いなよ。それこそ・・」
「俺も心残りだったけど、でも起こすのはしのびなかったから・・だからき、き・・」
「き・・?」
首をかしげる鈴を見て涼平は顔を赤くする。
「もしかして・・」
「キスは・・したんだ。もちろんそっと・・だけど。けど起きなかったから・・や、なるはやで帰るから。あ、向こうのマンションに行くのか。生野たちのために。で、でも泊まらないんだろ?夕飯作って待ってるから!」
「ふふふ・・」
電話を切った涼平の顔を鈴は笑いながら見つめる。
「こんな寒いとこに呼び出しておいて自分は熱々な気持ちになろうって?しかもさあボクにさんざん心配させておいて、キスもしてたとか。あははは・・・あははは・・・」
「り・・ん?」
「ボクと七生のキスのことぶつくさ言ってたくせに、自分は朝からちゃんとキスしてんだ?」
「や、だって俺と景は恋人同士で・・ちょっ、何を・・や、やめっ・・」
「で、橘が頬を押さえながら教室に入ってくるはめになったわけね。まあその前からけっこう注目を集めてたみたいだけど」
「涼平が自分で大声出すからだよ。だいたい大げさなんだよねえ、女の子に殴られたくらいでさ」
「女の子、ねえ」
と 呟きながら北原七生は自分の目の前の席に座ってうどんをすする鈴の恰好を眺める。
「それだけ男子の制服が似合ってるのにね」
「そう思ってるなら何でボクを口説くのさ、七生は」
「可愛いから?」
七尾はそう即答したが、鈴は納得できないという表情になる。
「なんで疑問形?七生こそどこまで本気かわかんないよ」
「あら、アタシはかなり本気で口説いてんだけどね、もう2年も。ていうか」
と、七生は立ち上がってテーブル越しに鈴の方へ体を近づける。
「近いよ、七生」
「だって鈴ちゃん、うどんの汁を服にこぼしてるんだもの。拭いてあげようと思ったの」
「!・・・」
「らしくないわね、けっこう動揺してる?もしかして。それとも・・っ!」
「七生・・ってば」
鈴は七生の顔をじっと見つめた。にこっと・・寂しそうに笑って。
「り・・んちゃん」
「七生の気持ちはありがたいけどね、けっこう本気で」
鈴は舌を出して「てへ」とおどけてみせる。
「けどね、哲人にとって本当に敵となるならボクは本気で殺る努力はするよ」
「・・ここは大勢の生徒がいる学食なんだから、そのセリフはやばいんじゃない?」
七尾もすぐに表情をにこやかなソレに変える。
「まあ、字面じゃなきゃわかんないけどさ。けど正直傷つくわね。だいたい、今日のことにはアタシだって巻き込まれているんだからね」
周りの視線がいまさらながらに物凄く痛いと七生は苦笑する。背も高く精悍な顔つきの七生は校内でも目立つ存在で、一人でも他人の視線を集める存在ではあった。が、
「二人してアタシの名前を大声で叫んだりするから、アタシと鈴ちゃんと橘の修羅場の末、橘が殴られたって話になってんだから」
「ボクは別に叫んでないと思うけどなあ。あ、涼平なら無駄に丈夫だからもう一回くらい殴っても。でも、内田さんの涙は見たくないからほどほどにね」
「・・アンタってほんと容赦ないわね。はあ・・・橘のファンだってけっこういるんだから、そんなのを敵に回すほどアタシも馬鹿じゃないし暇もないわ。鈴ちゃんだからこそ許されるのよ」
ともかくもと持っていたウエットティッシュで鈴の制服の汚れた部分を拭く。
「朝、部屋を出るとき何故か持って出ちゃったんだけど、役に立ってよかったわ。どう?日向はこんなことしてくれないでしょ? 」
「なんで、そこまで哲人と張り合うかなあ。確かに哲人は馬鹿だしヘタレだし変態だけど、最高の男なんだよ?」
何言ってんの、と笑いながらそれでも鈴は相手のなされるがままになっている。
「あら・・今日の鈴ちゃんは素直ね。キスの効果があったってことかしら」
「ふふ、七生は一言多いね。その絆創膏を剥がして更に傷を広げてあげてもいいんだけど?」
「っ!・・」
鈴の言葉に七生は一瞬顔色を変える。そして「ごめん」と謝罪の言葉を口にする。
「・・まいった、な。正直アタシも忘れていたんだけど」
「七生って、そんなドMだっけ?・・ボクね、けっこう真面目に七生のこと考えてるよ。いろんな意味でね。基準は・・それこそいろんな意味で哲人だけどね。・・殺すよ ?」
最後の一言はもちろん声が小さくはなっていたが、顔を寄せていた七生の耳には鈴の声ははっきり届いていた。
「やっぱり・・・」
「うん?」
「いや・・けど・・それでもアタシは鈴ちゃんが心配なのよ。そんでもって日向に憎さ倍増よ。アタシはいくらでも傷つけてあげられるけど、日向は違う次元にいるわけでしょ?それを‥本人は自覚もせずに」
日向哲人にカリスマ性があるのは承知している。哲人が本当は鈴を愛していたことも。鈴が何もかも承知で想いを貫こうとしていることも。
「アタシにはそんな恋愛は無理だわ。だからって鈴ちゃんを諦めるつもりもないのだけどね」
「七生みたいなイケメンにそこまで想われるのは光栄だけど、ボクはねいつだって本気なの。・・悪いとは思ってるよ?巻き込んだことは」
「鈴ちゃん、それどういう意味・・」
「けど、ボクの周りの人を傷つけるのは許さないよ。・・あの時のように、ね」
「っ!・・それを言われると・・アタシは降参するしかないじゃない」
はあーっと七生は大きくため息をつく。瞬間的にみせた殺気の灯った目を見てしまったから。
(やっぱ似てるな、遠夜のソレと。これで親子じゃなかったら何だっていうんだってくらいに。けど・・)
「鈴ちゃんはどこからどこまで受け入れるつもりなの?何度も言ってるけどアタシは無駄なことはしない主義なの。その分執着心は強いのよ、自分で言うのもアレだけどね。・・真実を知りたいって思いも人一倍よ?」
「うーん・・」
鈴は困ったような笑顔を見せる。
「!」
「たぶん、ボクを一番理解できるのは七生なんだろうけどね。でもほら、初めて出会った時からボクたちってさ、殺意むき出しだったじゃない?哲人と直ちゃんもそういう感じだったみたいだけど。ゲイとゲイ嫌いの男の組み合わせだったから」
「・・それでも、今の二人はあんなに愛し合っているじゃない。アタシたちだって・・」
「真実がわかっても?涼平は七生を許しているみたいだけど、たぶん周りがそこに付け入る可能性がある。そうなったらボクが動くしかないもの」
「・・・ほんと誰よ、アンタをそこまで追い込んだのは。まあ、アタシの責任もないわけじゃないけど。メンドクサイ相手を好きになっちゃったな」
はあ~とわざとらしくため息をつく七生の頬に鈴は手を添える。
「だからそういうことされると男は勘違いしちゃうんだってば」
「ボク的には七生の首に傷をつけた相手のことの方に関心があるんだけどね。ボクの知ってる人?」
「へっ?・・」
「まさか・・ヤクザじゃないよね?一度一緒にいるとこ見たことあるんだけど」
鈴はそう言って首をかしげる。
「っ!・・ほんとに・・もう・・」
自分でも思いがけないほどに顔が赤くなっていくのがわかる。
「ほんと、日向の神経がわかんないわあ。こんな可愛い子との婚約を解消するとか。・・もっと違う出会いだったらアタシの運命も変わっていたのかしらね」
今は場合によっては本気で鈴と殺りあわなければいけない運命なのだけど、と心の中で嘆く。
(この子とならそんなことでも楽しめそうだけどさ)
「ていうか、鈴ちゃんも相手の素性を知ってるってことよね?あまり前に出る人じゃないんだけどな。鈴ちゃんの交友関係の広さにお兄さんは脱帽だよ」
「新田さんもそうだけど、あの人・・あ、名前知らないや。秘書さんてボク呼んでたから」
あははは、と鈴は笑う。
「何で有能なのにヤクザなんてものをやってんのかな って思うけど、やっぱ新田さんの魅力故・・なのかなあ」
「その名前を堂々と出せる鈴ちゃんはマジの大物だよ。そしてあの二人と付き合える女子高生をアタシは他に知らないわね。でも、二人の間にそういう関係は無いわよ?もちろんアタシともね。イケメンだとは思うけど」
日向一族とヤクザの繋がりは、七生は今の立場になる前からよく知っていた。
(それこそ、涼平以上に日向に縛られているようなもんだからなあ。逃がしてくれた父さんには悪いとは・・思わないな。好き勝手に生きて好き勝手にオレを生み出して好き勝手にオレが今の立場になる状況を作って死んだ人だから。戻ってくるしかなかったじゃん、生きる意味を・・見つけるために)
自分は結局この少女をどうしたいのだろう と七生は考える。
(彼女が本当に遠夜の娘だとして、だったらアタシの正体を知ってそうだけど、2年もアタシを泳がせることはしないとも思うのよねえ。なにせアタシは人殺しなわけだしさ)
もちろん私怨で殺めたことは無い。が、殺したい相手はいる。
(なのに、その殺人だけはすぐ邪魔が入るのはなぜなのかしら?いまさら失うものなんてないはずなのに、どうしても出来ない・・)
「七生ってさ、一応バイだよね?んでイケメンの知り合いいっぱいいるよね。何でボクに固執するの?」
「へ?迷惑?」
突然そう言われ七生はついそう答えてしまう。
「あ、や・・」
「何をきょどってんのさ、七生らしくない。迷惑だったら一緒にいないよ?てか、放課後デートしようよ」
「・・ はい?」
To Be Continued
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