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先生と補習
放課後である。進捗の遅れている僕はひとり、今日は部活動もない体育館で体操服で健ちゃんを待っている。健ちゃんは約束の時間から数分後、デスクワークを終えてやっと体育館に入ってきた。いつものジャージ姿。
「悪いな、糸魚川。仕事が詰まっててちょっと遅れた」
「もー、健ちゃんが言い出したんだから、約束はちゃんと守ってよね」
「だから、学校で先生のことを『健ちゃん』て呼ぶなっつうの」
「二人っきりだからいいじゃーん? マットは出しておいたよ」
「おっ、準備が良いな」
ということで僕たちは、開脚後転や壁倒立の特訓に入る。授業中も一人自主練していただけあって、開脚後転は補習開始ほどなくして完成したが、そのあとの壁倒立が曲者だった。壁際にマットをずらして健ちゃんに足を支えてもらうという約束で、僕は一生懸命床をけって倒立しようとするも、腕の力も勢いもなくその場に崩れ落ちてしまうことが続く。十五分ほど特訓を続けて一旦休憩ということになって、マットに座った健ちゃんに僕は、ピトッと寄り添った。そう僕は、健ちゃんのことが好きなのだ。小学生時代、健ちゃんの部屋に一度上がってから僕はそこに入り浸りまくって、健ちゃんに取り入っては仲の良い兄弟くらいの仲にはなっている。僕は、男の人を好きになるタイプらしい。クラスで交わされる女子の話やエロ本の話に興味が沸かず、クラスメートたちとの距離を感じている最中、健ちゃんの健康的な身体を見てドキドキすることに気が付いては、僕はそのことを知った。そして健ちゃんも……、
「ねー健ちゃん?」
「な、なんだ糸魚川、くっつくな」
「健ちゃんって、ショタコンなんでしょ?」
「だっ、だから、誰がショタコンだっての!!」
「小学生のころね。僕、健ちゃんの部屋でエッチな本見つけちゃったんだよねぇ」
ニマニマ笑って美少年顔で、健ちゃんの胸筋を人差し指で突っつきながら、である。健ちゃんは顔面蒼白で、僕がそんな、健ちゃんの部屋を漁るなんて思ってもみなかったらしくて全身を凍り付かせている。
「今考えたら女子の好きな、ボーイズラブってジャンルの本だった」
「い、いいいいいい、いといがわ、それは昔の話、で、」
「嘘、健ちゃん僕のことだって、時々いやらしい目で見てるもん。子供は敏感なんだよ?」
「いやいやいや! それはない!! 俺、ホモじゃなくて腐男子だし!!」
「ふだんし?」
「あっ……いや何でも」
僕には知らない単語を出した健ちゃんに、僕は美少年顔でこてりと首を傾げる。その間にも健ちゃんの乳首のあたりを人差し指でこねこねする。続けていると、健ちゃんの小さなぽっちが硬くなってくる。
「い、糸魚川……シャレにならん。やめろ、」
「健ちゃんも僕の触りたい? いーよ触っても、ほらっ」
ペロン、と僕は素肌の上の体操服をめくって見せる。そこにはぷくりと桃色で可愛らしい、僕の両乳首がもちろん鎮座していて。
「っ、」
「ほらほら、健ちゃんの大好きな、美少年のちくびだよー?」
健ちゃんは唾を飲み干して、想像以上に血眼になって僕の胸元を凝視している。から、僕はおかしくなって自分で自分の乳首を軽くつまんで引っ張る(別に感じたりはしないけど)。
「ほらぁ、健ちゃんそういう、ここのフェチなんでしょ? 健ちゃん家のエッチな本でもそういうシーンばっかりだったもん」
「れ、怜太……」
「あはっ、下の名前で呼んでくれたぁ。健ちゃん今ちょっと冷静じゃないでしょ?」
「れいたっ!!」
がばっと健ちゃんが、僕に覆いかぶさろうとしたその瞬間であった。がららっと体育館の扉が開いて、もう一人の体育の女教師(女子担当)が僕たちだけの空間に割って入ってきたのであった。ずざーっと健ちゃんは、急遽襲いかかる方向を変えて、マットの上にその顔面を擦り付けるようにする。僕もぱっとめくっていた体操服から手を離して、その身を正して先生に挨拶をする。
「皆藤せんせい、こんにちは」
「おや、ああ。そういえば今日は補習だったんですね、進捗状況はどうですか?」
「かっ、皆藤先生……いやあハハ、糸魚川がなかなか倒立が出来なくてですね」
「教えの遅れで生徒たちに不協和が生まれてはいけませんからね。堂川先生も熱心で結構です」
「あ、ありがとうございます」
かくして僕たちの甘い時間は引き裂かれて、その後もボールを片付けに来ただけの皆藤先生は僕達の補習を見学していったから、僕の健ちゃん誘惑大作戦はその日は失敗に終わったのだった。
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