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第6話

山道を下る馬車。 何も喋らずに外を眺める横顔をずっと盗み見ていた。 こうしていると来たばかりの日と同じで……早朝の出来事が嘘の様だ。 実は夢だったりするのだろうか? いつも強気なクラウスが見せた弱い部分に母性本能が働いたのか……クラウスが気になって仕方が無い。 こうやってずっと見ていると……クラウスは本当に綺麗な顔をしていると思う。 シャープな顎のラインも気怠そうに細められたグリーン目に掛かる金色の前髪が憂いを帯びていて……。 「何だ……?」 不躾な視線がバレて睨まれたけど、その瞳にすらドキドキしている。 「……何でもない」 ……うわぁ、俺って単純……。 俺は……きっと……クラウスに恋に落ちた。 そう自覚すると、クラウスと買い物とか窮屈そうだと思っていたのに、楽しくて仕方ない。 セルリアさんは空気になってくれているし、俺もクラウスもフードを被っているので誰も王子と神子だと気付かない。 クラウスという名前は良くある名前らしいし、クラウスは俺の名前を呼ばないしな。 露店で売っている物が珍しく、おねだりしてみたけれど、どれも『くだらない』と斬り捨てられる。 それでも答えが帰ってくる事が楽しくてあれもこれもねだってみた。 突っぱねられるのが嬉しいとか、俺はこんなにM属性だったか? 「お兄さん、買ってってよ。俺が端正込めて作ったんだ。お守りにどう?」 小さな子供が道の端に敷物を広げて何かを売っていた。 こんな小さな子も商売をしてるんだ。 「へぇ~……綺麗な指輪だね」 「そんな物が欲しいのか?ガラス玉だ。石としての価値も何も無いぞ?」 「そんな物って言うなよ。綺麗じゃん」 なぜか後ろ髪を引かれるというか、指輪がキラキラ輝いて見えて、俺はクラウスを無視して座り込み街の子供が売る指輪を吟味した。 「これ何で出来てんの?」 「木を削って色を着けてるんだよ。全ての木はパルミナ様の子ども。木は幸せを運んでくれるんだから!金持ってるのを見せつけるだけの金や銀の指輪より価値があるよ」 「……セルリア、お前に任す」 「はっ……」 男の子の言葉にクラウスはムッとして店を離れ、後ろのベンチに座った。 待っていてはくれるみたいだけど……クラウスに命令され、空気になっていたセルリアさんが側に来てくれた。 俺は……クラウスと買い物を楽しみたかったのに……。 金色に輝く指輪の中に緑のガラスが埋め込まれた物が目に付き、手に取る。 クラウスみたいだ……。 「クラウス様……みたいですね」 覗き込んで来たセルリアさんにズバリ言い当てられて指輪を戻した。 「買われないのですか?」 「……バレバレじゃん」 「そういう事に鈍い方なので……むしろあからさまなアピールの方が宜しいかと……」 これは……俺の気持ちは完全にセルリアさんにバレてるな。 これだけはしゃいでれば当然か。 クラウスへのアピールかぁ……。 「白い手に良くお似合いですよ」 「そ……そうかなぁ?」 セルリアさんに諭され、その気になって金の指輪を手に取った。 「セルリアさん……もうひとつ買っても良い?」 「どうぞ、お好きな物をお選び下さい」 「……クラウスには言わないで下さいね」 気持ち悪いと取り上げられて捨てられてしまうのは嫌だ。 金色の指輪ともう1つ一緒に買って貰って、ベンチでうんざりと仰け反って座る王子様の元へ戻った。 「お待たせ」 「遅い……指輪は権力を誇示する為の物だ。そんな屑みたいな指輪に何の意味がある」 さっきの男の子の言葉を根に持ってるな。 「気に入ったから買ったんだよ。クラウスに強要してる訳じゃ無いんだから良いだろ?」 俺は金色の指輪を左手の薬指へ嵌めた。 常にクラウスが側に居てくれる様な感覚に、俺はほくそ笑んだ。 一緒に買った黒い指輪。 俺の髪の色。 いつかクラウスに渡せる日が来たら良いな……。 そっとポケットへしまいこんだ。 「そんな物に金を出すより武器を買え。自分の身ぐらい自分で守るんだ」 ……色気無いなぁ。 「え……やだよ。人を斬るなんて出来ないし」 「お優しい事だな……自分の命が危なくなっても同じ事が言えるのか?」 「それは……」 「持っていろ……俺は自分の身を危険にさらしてまでお前を助けるつもりはない」 簡素な鞘に入った短剣を投げられた。 「……俺……一応神子なんだろ?……もうちょっと大事に扱ってもバチは当たらないと思うぞ……」 文句を言いながらも、初めてクラウスからプレゼントを貰った事に口許がにやけるのを隠しながら大事に胸に抱き込んだ。 「ふん、神子だろうが何だろうが俺の足を引っ張るなら置いていく」 うう……もうちょっと……もう少しだけで良いから優しくされたい。 「ちょっ!ちょっと待ってよ!!置いてくなよ!」 遠くなるクラウスの背中を必死に追いかけた。

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