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第8話
柔らかな場所へ体が沈み込む感覚に意識が浮上していく。
誰かが手を握ってくれている。
「ん……クラウス」
目の前にクラウスを見つけてしがみついた。
腰に激痛が走ったが、その痛みさえ、クラウスが与えてくれたと物だと思うと愛おしい。
「ここ……殴られたのか?俺のせいで……すまなかった」
「平気……クラウスが愛してくれたから……それだけで俺、幸せ……」
頬に添えられたクラウスの手にすり寄ると、抱き締められて耳元で「愛してる」と何度も囁いてくれた。
……肩口がジワリ、ジワリと濡れていく……。
「クラウス?何で泣いてるの?」
後悔しているのだろうか?
「……俺も……お前の愛が嬉しくて……」
クラウスの涙まじりの笑顔に嬉しくなる
「え……へへっ……俺がクラウスの事を好きなの……クラウスは嬉しい?……そっか……」
クラウス……愛してくれてありがとう……幸福感に包まれクラウスの頭を撫で続けた。
・・・・・・
目が覚めると見覚えの無い部屋に居た。
ベッドと机、机の上には書類が山積みになっている。
……ここは何処だろう?
周囲を見回していると扉が開いて……マリーさんが入ってきた。
「マリーさん……ここは?」
「クラウス様の自室ですわ……」
そう言うマリーさんの顔は涙を隠そうとして震えている。
悪い知らせ……とか?
クラウスはどこに行ったんだ?
辺りを見回してもクラウスの姿は無い。
「マリーさん、クラウスはどこ?」
「神の子としてお勤めに参っておられます!!神子様!ありがとうございます!!私……私……クラウス様がお幸せになられることをどれだけ願っていたことか!!」
感極まった様に号泣するマリーさんに抱きつかれ……腰が痛んだ。
「神の子って事は……パルミナの力がクラウスに?」
「クラウス様に神子様の愛を与えて下さったのでしょう?二人の愛がパルミナの花を咲かすのも近いのですね!」
『パルミナが花を咲かせる時、神子が現れ王子と運命を共にする。王子と神子の愛のみがパルミナの花を咲かせる』
俺と……クラウスの愛。
思わず赤面して顔がにやける。
「あらあら……お幸せそうですこと……さぁ!スープをお持ち致しましたので、クラウス様がお戻りになられる前に元気になっておきましょう!!」
マリーさんの笑顔とスープの優しさに心は幸せいっぱい満たされた。
早くクラウスに会いたい。
会ってもっともっと言葉を交わして、クラウスと愛を確かめ合いたい。
お腹も満たされベッドの上で微睡んでいると馬車の音が聞こえてきた。
クラウスだ!
ゆっくり体を起こして出迎えようとしたが、腰に痛みが走り床にへたり込んでしまった。
早く迎えに行きたいのに……ハイハイするようにゆっくり床を進んで行く。
「何をしているんだ!!」
扉を開けたクラウスが慌てて駆け寄り手を貸してくれる。
「早くクラウスに会いたくて……夢じゃなかったって……確かめたかった」
クラウスに抱き付くと、優しく抱き上げられてベッドへ下ろされる。
「無茶をしないでくれ……」
心配そうな表情が同じで、あの事が夢じゃないって教えてくれる。
「クラウス……あの……」
キスして欲しいなぁ~なんて……どう言ったら良いかモジモジしているとクラウスの唇が額に触れた。
「お前はまだ本調子じゃ無いんだ。ゆっくり休んでいてくれ」
「う……うん……なぁ……クラウス……」
離れていこうとするクラウスの袖を引っ張る。
「何だ?」
「名前……呼んで欲しいなぁって……あの時みたいに拓斗って呼んで欲しい」
「タクト……」
「……クラウス」
付き合いたては名前を呼び合うだけで幸せだって聞いた事があるけど、本当だ。
クラウスに名前を呼ばれる度に、クラウスの名前を呼ぶ度にドキドキが積もっていく。
相変わらず俺はテラスのカウチに座っている。
クラウスの部屋の扉が開いた。
「おはよう、クラウス」
「ああ、おはよう」
クラウスが側に来てハグしてくれる。
朝早くクラウスはこのテラスでパルミナへ向けて祈りを捧げる。
それは今までもずっと行われていたらしい。
俺はこの時間いつも寝ていたから気付かなかった。
今は2人で並んでパルミナへ祈りを捧げる様になった。
俺は何を祈っていいのか分からないのでいつも願い事をする。
(クラウスが沢山の人に愛されて幸せになれます様に……)
目を閉じて静かに祈るクラウスの横顔。
クラウスは何を祈っているのだろう?
(クラウス祈りが通じます様に……)
祈りに応える様に街中の光がパルミナへ集まっていく。
「クラウス、あの光って何?」
前から疑問に思っていた事をやっと聞けた。
「光?どれのことだ?」
「どれって……あのパルミナの周りに集まってる……」
クラウスの表情は、本当に見えてないみたいだ。
この世界は色んな物がキラキラ輝いていて綺麗だと思ってたけど、俺にだけ見えてたのか……。
「……それは精霊かも知れないな」
「精霊?」
「神子は精霊に愛されると言われている。誰も精霊の姿を見た事が無いから、そうだとは言いきれないが……」
指輪に宿る光を見る。
キラキラ輝きながら指輪を光らせている。
「精霊かぁ……」
俺の声に応える様に光が浮き上がり俺の髪を引っ張った。
この感覚……そっか、あれは危険な事を教えてくれていたのか。
折角教えてくれてたのに気付かなくてごめんな。
指で突ついてみると小鳥が手に止まる様に指に乗っかった。
「可愛い……小動物みたい」
「本当に精霊が見えてるのか……神子なんだな」
「もしかしてまだ俺を神子だって受け入れてくれてない?あ……愛し合って神の力が使える様になったんだろ?」
愛し合ったとか自分で言って照れる。
「……あぁ……拓斗が愛してくれたおかげでな……」
クラウスの笑顔が嬉しくて……形の良い唇に唇を重ねてキスを交わした。
「クラウス……好き」
見つめ合い何度も口付けを交わし、好きだと呟く。
「お前にあんな態度を取っていたのに、こんな俺を愛してくれてありがとう……」
「……本当だよ。寂しかった……あの時の分もこれから埋めてくれよ?」
「……ああ」
胸の中に抱きしめられて、クラウスの鼓動が聞こえる。
ドッドッドッ……と、早いリズムで刻まれるそれを心地よく聞いていた。
今ならアレを受け取って貰えるかも……。
アレはどこにやったっけ?
2人の周りには、いつのまにか光が集まってきていて、祝福する様に楽しげに踊っていた。
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