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第9話

セルリアさん、ハリスさん、マリーさん…… みんな笑顔でクラウスに神の力が宿った事を祝福してくれる。 「神子様~っ!!」 「レイドナードさん、痛いですって……」 レイドナードさんに抱きつかれ……意外に力の強いレイドナードさんの包容は痛い。 駆けつけて来てくれたレイドナードさんはずっと興奮して涙を流し続けている。 王様にも呼ばれているらしいけど、俺の体調が調うまで駄目だと、クラウスが断ってくれているみたいだ。 「レイドナード……拓斗に触るな」 「これはこれは……嫉妬を覚えられたのですね……ご立派になられて……」 また涙ぐむレイドナードさんの襟首をクラウスが引っ張り、俺は解放されて安堵の息を吐いた。 嫌じゃないけど、腰がしんどかった。 「大丈夫か?拓斗」 カウチに座る俺の横にクラウスは腰を下ろして、俺を守る様に腰に手を添えた。 「大丈夫だよ、そんなにやわじゃないし……」 俺が笑いかけるとクラウスも笑い返してくれる。 「神子様!!パルミナが花を咲かせる日をお待ちしておりますぞ!!」 レイドナードさんの号泣にまた二人で顔を見合わせて笑った。 ・・・・・・ 離れていた間の空白を埋める様に俺はクラウスに話をねだった。 出会ってから一緒に暮らしている間、クラウスが何を思い、何をしていたのか……。 クラウスは部屋に閉じこもっている間、ずっとお城の仕事をしていたらしい。 何の仕事か詳しく教えてくれたけど……税の話とかお金の話をされたけど理解は出来なかった。 女の人は書類やらを届けてくれていたみたいだ。 「誤解してた……ごめん。王子様って大変なんだな」 「いや、俺も話していなかったから……そもそも王子の仕事と言う訳ではないし」 王様がのんびりした人で不安だったからクラウスが自主的に動いていただけだって。 なんだかんだ言ってお父さんの事、好きなんだ。 俺の中でクラウスという人物像が積み上がって行く……知れば知るほど好きになる……。 はっきり言葉にはしないけれど、周りでクラウスを支えている人達に対する感謝と敬意を読み取る事が出来て……分かりづらいけどクラウスはちゃんと愛情を持ってる……あ。 「クラウス、そういえばガバルって……」 俺の言葉にクラウスの肩が大きく跳ねた。 「ガバルは……神子誘拐の罪で地方へ飛ばされた」 俺の目を見ない。 もしかしたら、もっと酷い罰を与えられてるのを俺が気を使わない様に隠してくれてるのかも? クラウスは意外に嘘が下手っぽい。 でも俺の為についてくれている嘘なら騙されたままでいよう。 「そっか……ならもう安心だな……そうだ!俺まだクラウスの力見てない!!神の力見せて?」 「俺のか……?」 神の力って魔法みたいなもんかな? 魔法を直に見られるって、いかにの異世界来ましたって気がするよな。 ワクワク待っていると、クラウスは少し考えて、俺の両手を水を掬う様な形にした。 クラウスが手をかざすと……手の中に土が溢れ、小さな芽が顔を出したかと思うと、あっという間に小さな木になった。 ミニ盆栽みたいなそれは、可愛らしいオレンジの花を咲かせて、花が咲く瞬間にとても甘い香りを放つ。 「すごいっ!!可愛い!!」 木の魔法と聞いていたけどこんなメルヘンな物だったなんて。 どこからか精霊達が集まって来て羽を休めるかの様に木に止まる。 キラキラ光って小さなクリスマスツリーみたいになった。 それを土に埋めてやると、精霊達がさらに集まって来る。 パルミナの花ってどんな花なんだろう。 パルミナは未だ花を咲かせていない。 「なぁ……クラウス?」 「なんだ?」 「そろそろパルミナの花も見たくない?」 クラウスの肩にぴったりとくっついた。 俺の精一杯のアピール。 自分から抱いてくれとは、なかなか男同士で言い辛い。 愛してるという言葉は毎日くれるし、優しくしてくれる。 それでもキスは唇を合わせるだけだし、セックスは……あれ以来していない。 痛くても我慢出来る。 ただクラウスを感じたい。 そっとクラウスの顔を見上げると……。 真っ青な顔のクラウス。 「クラウス?どうし……」 クラウスに触れようとした時、木に集まっていた精霊達が真っ白な光を放った。 「何?この白い光の渦……」 「拓斗が現れた時と同じ物……きっと拓斗の世界への道だ……」 「え……?」 差し出そうとしていた手を慌てて引っ込めた。 何で今さら帰り道が……。 「俺は精霊に拓斗がお前の世界へ帰れる様にと願った」 「いやだよ!俺はクラウスの側が良い!」 クラウスに縋ろうとした俺の体をクラウスが押した。 「こんな国で起こった事は忘れて……お前はお前の世界で幸せになるんだ……」 二、三歩よろめいて……俺の体は光の渦へ飲み込まれていく……。 光が消えて……そこは俺の家の洗面所だった。 全て……夢? ネコがチロチロと手を舐めてくる。 その手にはあの指輪が輝いていて、夢ではないと証明している。 どうして……クラウスッ!! 立ち上がると鏡に向こうの世界が写っている。 クラウスはただ静かに此方を見ている。 「どうして!?お前は俺の運命の相手じゃなかったのかよ!?結婚して末永く幸せに暮すんじゃなかったのかよ!?」 鏡に向かって叫ぶ俺に、いつものシニカルな笑みではなく、優しく……寂しそうな笑顔を見せる。 鏡に縋り付いた俺の手にクラウスの手が重ねられ……。 ゆっくりとクラウスの唇が動いた。 『さ・よ・な・ら』 さよなら……。 呆然と言葉の意味を反芻する俺の目から涙が一筋こぼれ落ちた。 クラウスの顔が近づいて来て……俺も顔を寄せる。 最後のキスは固く冷たいキスだった……。 鏡は……もう俺の泣き顔しか映していない。 「俺はお前の側に居たい……側に居させてよ……クラウス」 戻りたい……クラウスの側へ……。 でもどうしたら……そうだ!あのアプリ!! そばに落ちていたスマホに気付きすぐに立ち上げた。 日付はあの日のまま……。 アプリはどこにも見つからない。 「何を一人で騒いで……何?その恰好、パーティー?何で泣いてるの?」 久しぶりに見た母に懐かしさが込み上げるが、今はそれどころではない。 「母さん!あいつは!?」 「あいつ?あいつって誰よ」 「あいつだよ!!あいつ!!あの……あいつは……え?」 あいつって誰だ? あいつ……俺にアプリを見せて来た……あいつは、あいつは……。 「俺の……妹の……」 「妹?あなたに妹なんていないじゃない。馬鹿な事言ってないで早く準備しないと遅刻するわよ」 母はそう言うと扉を閉めた。

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