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第10話

結局、妹もアプリも……ネコすら何処にも存在しなかった。 夢? ……違う。 俺の指には金色に輝く指輪がある。 クラウスは夢なんかじゃない。 地球上の何処かに存在するのならどこへだって飛んでいく。 だけどストロバオム国は遠い、遠いどこかの異世界。 追いかける手段すら分からない。 …………大丈夫…………。 俺にはクラウスに愛された記憶がある……。 この記憶だけで、俺はクラウスを想いながら生きていける。 何故俺がこの世界に戻されたのかは分からないけれど、遠い君を想って生きていく。 遠いこの場所から想うこの気持ちが……いつかパルミナの花を咲かす事が出来たらいいな。 ・・・・・・ 「お疲れさまでした~!!」 「気をつけてな!!」 事務所に声を掛けて職場を出た。 ペットホテルの仕事、今日のお客様は金色に見える毛にグリーンの瞳を持つ猫だった。 「可愛かったなぁ……あんな子欲しいなぁ……」 手に残る柔らかな感触を思い出して指をワキワキと動かした。 ツンと澄ました顔も、俺を見る怪訝な目もクラウスそっくり。 あんな子が家にいたら家から出られなくなってしまうかも。 明日また会える事に心を躍らせながら家路を急いだ。 今日も君のいない一日が終わっていく。 ……視界の端ですれ違った姿に俺は慌てて振り返った。 人波を縫って悠々と歩いていく後ろ姿……。 そっくりな姿なら他にも沢山いる……でも、髪を引っ張られる様な懐かしい感覚があり、俺はその姿を追った。 人にぶつからないように、小さな姿を見失わない様に必死に追いかけ曲がり角を曲がった時……その先に小さな影が此方を向いて俺を待っていた。 「ネ……ネコ……」 他猫のそら似かもしれないけれど……俺はゆっくりと近づいた。 『何の用だ……苗床』 「ネコ……お前喋れるのか……」 いろいろな事を経験して、猫が喋るぐらいでは驚かない。 むしろ会話が出来ることにホッとした。 「ネコ……お前ならクラウスの世界へ行く方法知ってるんじゃないのか?お願い……俺をあの世界へ連れていって」 『役立たずの苗床をか?何でそんな無駄な事をしなければならない』 「苗床って?」 『私はパルミナの分身。昔あの世界で戦争が起こり、パルミナは力を失った。今あの国に立っているのは、パルミナの脱け殻。パルミナの力は愛……愛を注がれなくなったパルミナは眠りにつく。眠りにつく前に私はこの世界へ送られた。私はパルミナの復活の為に此方の人間に種を植え、種を植えた人間をあの世界へ送り、新しいパルミナの芽を育てるための愛を育てる……』 俺の中にパルミナの種? 『お前はクラウスの幸せを願い、クラウスの願いが叶うようにと願った。クラウスはお前が元の世界へ戻る事を願った……分かるか?……お前ではパルミナを咲かせる事は出来なかった……お前が側にいることはクラウスの幸せではなかったと言うことだ』 俺が側にいる事が……クラウスの幸せ……ではない。クラウスは俺の愛が嬉しいと言ってくれたのに。 ドクドクと心臓が煩くなる。 「違う……クラウスは俺が元の世界へ帰りたいって言ってたから……」 二人でパルミナの花を咲かそうと誘った時のクラウスの青い顔……。 『お前がこの世界にいるという事は必要とされていないと言う事だ……分かったら、もう2度とあの世界へ行きたいなんて思わないことだ……私の力もあと僅か……無駄な人間を送る余裕など無い……パルミナが復活しなければ……私はあの世界へ帰れない』 見て見ぬ振りをしていた、俺がこの世界へ帰された理由を突きつけられ……心が悲鳴を上げる。 「クラウスは……俺を……愛してるって言ってくれたのに……」 俺は自分の体を抱き締めた。 『愛してると口にするぐらい私にも出来る』 クラウスが愛してくれた体。 愛を確かめあった……。 それだけが支えだったのに……クラウスは俺を必要としていない。 じゃあどうしてクラウスは俺を抱いてくれた? 「神の力だけが目的だった……?」 でもそれならば、俺をこの世界に戻した意味が分からない。 駄目だ……クラウスは俺を愛してくれたと思わなくちゃ……。 体がガタガタ震え始める。 俺は愛されたんだ……クラウスに……。 「クラウス……クラウス……」 側に居てよ……側に来て「愛してる」って言ってくれよ……。 自分の体を強く抱き締めた時、指輪が光り輝いた。 指輪から次々に光の粒が飛び出して俺の体を包んでいく。 「これは……精霊?」 集まった光が白い渦に変わっていく。 『精霊達!!何で!?わざわざその苗床を迎えに来たって言うの!?まさか……パルミナ!!」 ネコの姿が変化して、小さな子供に変わる……その姿は……。 「……美奈?」 「待って……待って!!僕も連れて行って!!パルミナに!!……ママに会いたいっ!!」 小さな手が伸ばされ……しかし、その手が俺に触れる前に視界は真っ白に染まった。 眩しさに閉じていた目を開くと……目の前にはキラキラ輝く大木。 「パルミナ……」 パルミナの周りを飛んでいた精霊達が集まってくる。 「お前達が俺を呼んだのか?」 応える様に俺の周りをぐるぐると舞い始める。 「……そうか……」 パルミナに抱き付いた俺の背後で何かが落ちる音がしてゆっくり振り返った。 目を見開いて固まる人物へ笑顔を向けた。 「ごめん……帰って来ちゃった……」 「拓斗っ!!」 強く抱きしめて来る腕に嫌がられてはいないな……と安心した。 大好きな人の腕に抱きしめられて……一筋……涙が頬を伝い落ちた。

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