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第17話

拓斗も日毎に回復を見せ、日常が戻りつつあった……。 朝、部屋を出るといつもの様に拓斗がテラスのカウチに座って街を眺めている。 「おはよう、クラウス」 俺に気付いて柔らかな笑顔を向けてくれる。 「ああ、おはよう」 俺が毎朝このテラスでパルミナへ向けて祈りを捧げている事を知ってから拓斗も並んでパルミナへ祈りを捧げる様になった。 一心に祈りを捧げる真面目な横顔を盗み見る。 何を祈っているのだろうか? (拓斗が心穏やかに暮せる世界でありますように……) これ以上拓斗に不幸が降り掛からない様に祈りを捧げた。 「クラウス、あの光って何?」 急に問われ、拓斗の指差す方向を見たが何も無い。 まだ薄暗いこんな早朝から火を灯す家が有るとは思えないが……。 「光?どれのことだ?」 「どれって……あのパルミナの周りに集まってる……」 拓斗には何かが見えているのか?……神子にだけ視えるもの。 心当たりがあるとすれば……。 「……それは精霊かも知れないな」 「精霊?」 「神子は精霊に愛されると言われている。誰も精霊の姿を見た事が無いから、そうだとは言いきれないが……」 拓斗は指輪を眩しそうに見つめた。 拓斗の目には何が映っているのか。 「精霊かぁ……」 何かを目で追いかけような動作をして、拓斗は笑う。 「可愛い……小動物みたい」 「本当に精霊が見えてるのか……神子なんだな」 「もしかしてまだ俺を神子だって受け入れてくれてない?あ……愛し合って神の力が使える様になったんだろ?」 愛し合った……頬を染める神子の姿から視線を逸らしながら曖昧に笑った。 「……あぁ……拓斗が愛してくれたおかげでな……」 拓斗の唇が俺の唇へと触れた。 軽く触れる様な辿々しい口付け。 「クラウス……好き」 甘く囁かれる言葉。 俺を真っ直ぐに想ってくれるその視線は……今までの神子の物とは違う……カスタリスの薬の影響か? この期に及んでも……俺は疑ってしまう。 ここまで一途に愛情を向けて貰える様な自分ではないから……。 拓斗は……俺を好きだと思い込みたがっている様に見えたから……。 それでも拓斗からの甘い呪に……口付けを繰り返しながら、贖罪の様に好きだと繰り返した。 「お前にあんな態度を取っていたのに、こんな俺を愛してくれてありがとう……」 「……本当だよ。寂しかった……あの時の分もこれから埋めてくれよ?」 「……ああ」 やり直せる……やり直せるのだろうか? あどけなく笑う拓斗を胸の中に抱きしめた。 気付くな……気付かないでくれ……。 これからの俺を拓斗に全てを捧げるから……俺の側で笑い続けていてくれ。 ・・・・・・ 拓斗の願い通り、すれ違っていた間を埋める様に拓斗の側にいて、拓斗にせがまれるままに話をした。 俺は……拓斗の事を聞く事は出来なかった。 何がきっかけで思い出すかもわからない。 手探りで怯えながら……これを恋愛と呼べるのだろうか? 拓斗を愛しく思うのと同時に俺は拓斗に怯えていた。 愛というにはあまりにもぎこちない感情だった。 ある日、拓斗は神の力がみたいと言った。 正直ガバル達を倒した時以来使っていない。 上手く使えるだろうか? 拓斗を傷つけやしないだろうか? ……いや、この力は拓斗を守る為にある。 拓斗とパルミナの……愛の花を咲かせる為の力だ。 そう頭に強く信じ、拓斗の両手を取り手をかざすと……拓斗の手の中には土が溢れ、小さな木が生まれた。 小さなオレンジの花が甘い香りを放つ。 「すごいっ!!可愛い!!」 キラキラ目を輝かす拓斗にほっと胸を撫で下ろした。 拓斗はそれを土に埋めて、こちらを振り返った。 「なぁ……クラウス?」 「なんだ?」 「そろそろパルミナの花も見たくない?」 パルミナの花……肩に乗せられた拓斗の頭……拓斗に誘われているのはわかる……。 グラグラ頭が揺れ。 胃の内容物が迫り返る。 ガバルに手荒く扱われた拓斗の体。 完治は難しい……日常生活にも支障が出るのではないかと危ぶんだが、精霊達の加護かパルミナの加護か、拓斗は回復していった。 回復出来なかったのは俺の心。 拓斗に触れたい……そう思う度に拓斗の傷付いた姿が頭によみがえり、そして拓斗が真実に気付くのが怖くて触れる事が出来なかった。 しかし、ここで断る事は拓斗を傷付けてしまう……。 俺は……願ってしまった。 「クラウス?どうし……」 拓斗の手が俺に触れようとした時、真っ白な光が溢れた。 見覚えのある……光の渦……。 「何?この白い光の渦……」 「拓斗が現れた時と同じ物……きっと拓斗の世界への道だ……」 「え……?」 俺の願いが叶ってしまったのか……。 それともパルミナ……もしくは精霊達の意思か。 「俺は精霊に拓斗がお前の世界へ帰れる様にと願った……」 「いやだよ!俺はクラウスの側が良い!」 縋りつこうとした拓斗の体を光の渦へ向け押した。 「こんな国で起こった事は忘れて……お前はお前の世界で幸せになるんだ……」 よろめいた……拓斗の体が光の渦へ飲み込まれていく。 拓斗が心穏やかに暮せる世界……それは俺の側ではない。 元の世界へ帰ることが拓斗にとって幸せ……いや違う……俺が嘘をつく事に疲れてしまった。 だから……拓斗が思い出す前に、元の世界へ帰って欲しいと願ってしまった。 光の渦の向こうに拓斗の姿が見える。 「………っ!!」 こちらに向かって何かを叫ぶ拓斗。 最後に……暖かなその手に触れたい……拓斗の手に手を伸ばすが見えない壁に阻まれた。 「さよなら……」 最後に……もう一度だけと顔を寄せた……拓斗の顔が近づいて唇を合わせると、ゆっくりと……拓斗の姿と共に光は消えていった。 「全て忘れて……幸せになってくれ……」 頬を伝う涙を拭う事も忘れて……俺は空を見上げていた。 ガバルとの事を思い出す切っ掛けになってしまったら? そう思うと拓斗を抱くことが出来なかった。 俺は大切なものを蔑ろにして……奪われて、傷つけられた。 守れなかった愚かさを責める様に、拓斗は俺を愛してると微笑んだ。 拓斗の為の嘘は自分の為の嘘。 拓斗の嘘を見てみぬフリをしたのは自分の罪を隠すため。 俺といない方が幸せなんだと……どこまでも狡い自分。 全てが自分を正当化する言い訳。 俺は拓斗から逃げ出した。 メキメキと何かが軋む音が響き、拓斗の手の中で生まれた小さな木が見る間に根を、幹を、枝を成長させていく……。 「クラウス様っ!!何事ですか!?」 異変に気付いたセルリア達が駆けつけて来た。 「神子様はっ!?」 「……拓斗は……帰った」 精霊達は拓斗を傷つけた俺を殺すつもりなのだろうか……。 それならそれでも良いと思い、受け入れるつもりだったが……セルリア達に室内に運び込まれた。 木の幹が離宮を覆って光を遮っていく……暗くなった室内にただミシミシ、ギシギシと建物が軋む音だけが響いていく。 マリーは必死にパルミナへ祈り続けている。 ……殺すなら俺だけで良いだろう。 セルリアやマリー達まで巻き込まないでくれ。

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