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第18話
俺の全てを捧げると誓ったのに俺は逃げ出してしまった。
山頂に俺の罪を突き付けるかの様に大木が立っている。
音が止み、幹の隙間から脱け出した俺達が見た物は、離宮を飲み込んだ幾つもの幹が絡み合って一本の大木となった姿だった。
離宮と街を繋ぐ山道も大きな木の根が顔を剥き出しになっており……人を拒んだ。
何とか下山した俺達に……
「神子は……帰ったのか……」
父はそう一言溢すと……あとは何も聞かずにいてくれた。
もしかすると、気付いているのかもしれない……俺と拓斗は愛しあってなどいない……俺が神の子などではないと……。
それでも俺は神の子として祈りを捧げ続けている。
俺が神の子を止めると……拓斗の名を穢す事になる。
俺は神の子であり続けなければ行けなかった。
俺の罪の象徴は第2のパルミナとして崇められている。
人々の希望の笑顔が俺の心を締め付け続けた。
「クラウス様……あまり思い詰められませぬ様に……倒れてしまわれます」
立ち眩みに倒れかけた俺の体をセルリアが支えてくれた。
支えられたまま椅子へ身を預けると激しい倦怠感に襲われる。
「セルリア……俺がお前に、俺ではなく神子を守れと言っていたら……あんな事にはならなかっただろうか?」
「……いくらクラウス様のご命令でもそれはあり得ません……申し訳ありませんが俺の守るものは大切な姉の忘れ形見である貴方だけです……一度失敗してからもう二度とお側を離れないと決め手おります」
「そうか……」
離宮には俺の事を考慮して最低限の人数だけで生活をしていた。
拓斗を守れるのは俺だけだったのに、俺はその役目を放棄していた。
セルリアなら拓斗を守れたのではないかなんて……他人に責任を擦り付けるなんて最低だな……。
鈍痛を繰り返す頭を抱えたまま椅子に沈み込んだ。
拓斗の色……夜の闇に囚われ続けたい。
いっそ明けなければ良いのに今日も朝はやって来る。
重い体を引き摺りながら神殿に着くと王が待っていた。
応接室へ通され、人払いがされると王は重々しく口を開いた。
「クラウスよ……体調が芳しくないと聞くが……原因は神子が消えた事か?」
「神子の一件……全ては俺の不徳が原因。国民の希望の光を絶やしてしまい……申し訳ございません」
「自分だけを責めるでない……神子の件……一番罪深いのは儂だ……」
「いえ……王だけの罪ではございません。私も同罪です」
大神官が立ち上がり頭を下げた。
「儂もレイドナードも……本当にパルミナが花を咲かせるなど信じておらんかった……ただお前の前に神子が現れた……その事だけで価値が有った。お前が神の力を手に入れるかどうかは重要ではなかった」
父はそう言うと、窓の外……山頂に見える大木を仰いだ。
「どういう事ですか……あれだけ神子と花を咲かせろと仰っていながら……」
「皇太子の前に神子が現れた。それだけでお前が皇太子で有ることに文句を言う者はいなくなる……神子が生きていようがいまいが……元の世界へ戻ろうが、儂は神子の身に関心はなかった。ただお前が儂の後を継いでくれる事だけが願いだった」
王も大神官も神子を守る意思はなかった。
だからこそ離宮には護衛はセルリア一人。
神子は国の光……傷つける愚か者など居ないと思っていた。
「クラウス……代々、王と大神官のみが知る……パルミナの真実を……話そう……」
「パルミナの真実……ですか?」
・・・・・・
パルミナ……この世界の精霊を統べ、緑多きストロバオム国の森深くに住む大精霊。
慈愛に満ちた美しい精霊だった。
人々はパルミナを崇め、パルミナも自然を愛するストロバオム国の国民を愛していた。
ある年ストロバオム国に一人の王子が誕生した。
心優しき青年に成長した王子は山の中でパルミナと出会い、恋に落ちた。
パルミナへ真摯な愛を向ける王子にパルミナも愛しさを感じていた。
結ばれる事は無いが互いに愛情を向け合う2人。ストロバオム国は自然の恵みに満ちていた。
しかし……世界は戦争の時代へと突入していく。
ストロバオム国も戦乱の世に巻き込まれ、美しかった緑は燃やされ、多くの国民が血を流した。
王子も戦火に巻き込まれ命を落とした。
パルミナは深く悲しみ……悲しみは怒りへと変わり……全ての国が緑に飲み込まれ戦争どころではなくなった。
そうして戦争は終焉を迎えたが、力を暴走させたパルミナも消滅した。
守護者を失くしたストロバオム国民は強い憂慮に囚われ暗い闇が人々の間に広がった。
王はパルミナの住んでいた森から大木から株を切り取り、街の中心に植えた。
『パルミナは死んではおらぬ!永き眠りについただである!!遠き未来、パルミナの化身が現れ再びこの国にパルミナの愛を復活させるだろう!!それまで祈り続けるのだ!!光ある未来は必ず来る!!』
そして人々は希望を胸にその苗木と復興を目指した。
いつしかパルミナの化身は神子と呼ばれ、王子と神子の恋愛の要素も取り込まれつつ語り継がれていった。
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