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第19話※

拓斗は神子ではない……そもそも神子などいない。 パルミナの木もパルミナの花も……全てが国民に希望を持たせる為の嘘。 「じゃあ拓斗は何だったのですか……俺のあの力は……」 「それは儂らにも分からぬ……ただ神子ではないと知りながら、伝承に添える為に儂らはあの子を利用した。伝承通りクラウドと恋に落ちてくれればと打算し、逃がさぬよう離宮へ閉じ込めた……」 目眩がして頭を鈍器で殴られた様に痛んだ。 偽りの神子と言う存在を押し付けられながら……拓斗は俺を愛そうとしてくれた。 偽りの伝承の為に拓斗は傷つけられた。 重い体を立ち上がらせ扉へ向かった。 「クラウス、何処へ?」 「パルミナへ……祈りを捧げる時間です……」 真実はどうあれ……俺は偽りでも神の子として生きる他ない。 『神子は王子と愛し合い、神の力を与えて去って行った』 その筋書きを崩す訳にはいかない……。 国民はともかくマリーとハリスは拓斗の陵辱の痕を見ている。 俺がやったといった事を疑っていたが、俺に神の力が宿った事で二人は納得した。 俺が拓斗を犯した。 俺が拓斗に触れた。 俺が拓斗を愛した。 偽り続ければ真実になる。 拓斗……。 そうしてパルミナへの祈りを捧げる為に祈りの間の扉を開けて……全身が硬直した。 そこにいるはずのない黒に呼吸が止まる。 ゆっくりと振り向いた人物は……こちらへ笑顔を向けた。 「ごめん……帰って来ちゃった……」 何故ここに……? 本物……なのか? 「拓斗っ!!」 何でも良い……幻でも夢でも……この手で抱き締めたい。 父から聞かされた真実。 クラウスの私室へ通された。 クラウスがずっと過ごして来た場所……物珍しく周囲を見回す俺の横にクラウスが腰を下ろした。 「…………」 「…………」 ……何かを探る様に拓斗の視線は彷徨っている。 「「あの……」」 何を言おうとしたでもなく掛けた声が重なり……拓斗の言葉を待った。 「……元気……だった?」 元気……とは言えなかったが生きてはいた。 「ああ……まあ……拓斗は?」 「俺もまあ、それなりに……」 別れる前とは少し雰囲気の違う拓斗……そっちの世界で何があった? 「……拓斗は……」 俺の力はきっと精霊達が拓斗を守るために俺に力を貸してくれているんだろう……拓斗が戻って来たということは……。 「自分の世界へ戻っても俺を愛し続けてくれていたんだな……」 拓斗はまだ囚われ続けている。 「お前は元の世界へ帰る事が幸せなんだと……俺は自分の弱さをお前の所為にして逃げてしまった」 偽りの愛に囚われ続け元の世界でも幸せになれずにいたのだろう。俺に……俺の手でその鎖を裁ち切れと言うのか? 俺に出来るだろうか? それはきっと拓斗を傷つける事になる。 ……でも逆境の中でも笑顔で居られるぐらい拓斗は強い。 拓斗なら乗り越えてくれるかも知れない……。 乗り越えられないのは……俺。 「クラウスの弱さって?」 拓斗の手の上に震えそうな手を重ねて握りしめた。 「拓斗、パルミナの花を咲かそう。花が咲いた時……俺は強くなれる気がする」 「花を咲かそうって……良いの?」 探る瞳……俺が拓斗に触れる事に怯えていたのに気がついている。 「拓斗と愛を深めたい……どんな事にも負けないくらいの絆が欲しい……」 拓斗の強さを俺にも分けて……。 嘘でも偽りでも拓斗の愛を俺の中に刻み込んで欲しい。 「クラウス……俺も確かめたい……」 受け入れてくれる様に俺の首に腕を伸ばして来た体をそのままゆっくりソファーへ押し倒した。 ・・・・・・ そうして……俺は初めて拓斗と体を繋げた。 襲って来る不安感に押しつぶされそうな心を必死に奮い立たせながら拓斗の体に触れた。 情けないぐらい辿々しいのに、俺の愛撫を拓斗は優しく微笑みながら……受け入れてくれた。 拓斗の熱が俺を包み……感じた事のない安心感に包まれた。 俺の与えるものに応えてくれる拓斗が愛しい。 こんなにも愛していたのに何故気付けなかったんだろう。 いや……気付いていながら、拓斗の優しさに甘えていた。 出来る事ならば……このまま甘えていたい。 今度こそ……何があっても離さないから、逃げないから……俺の側に居て。 抱きしめて、深く繋がった2人の間に拓斗の吐き出した欲が温かく広がり……喜びに俺も拓斗の中で達した。 拓斗の笑顔につられ俺も口元が緩む。 「拓斗、愛してる」 ……俺の言葉に、拓斗の瞳から溢れ落ちた涙の意味は……。

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