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第23話
「花……咲いたね」
白い小さな花。
一輪だけだけど花が咲いた。
俺の中にあったクラウスヘの想い。
ちょっとは本物だったって事かな?
俺にしがみついていたクラウスの腕に力がこもった。
「クラウス?」
クラウスは顔を上げない。
叱られるのを待つ子供みたいに体に力を入れて固まっている。
「……すまない。この花はきっとパルミナじゃない……パルミナはとうの昔に消滅していた。復活なんてしない。パルミナの花も神子の言い伝えも全ては王家が国民に希望を与える為に吐いた嘘だったんだ」
「全部嘘?……教えて……本当の事、全部」
もうこれ以上、嘘を吐くのも嘘を吐かれるのもこりごりだ。
真実が知りたい……大丈夫もう一生分の涙は流して来た。
クラウスは躊躇いながら、言葉を選びながら……真実を教えてくれた。
・・・・・・
神子なんてただの希望……。
パルミナは復活しない……じゃあ美奈は……あの子はどうなる?
この国の伝承を信じ、力を削って神子として俺を送ったのに……。
地球で一人……消えていく?
闇の中で抱いた温もりを思い出し……涙が溢れた。
「……拓斗ごめん……ごめん」
俺が泣いた理由を勘違いしたのかクラウスに抱きしめられた。
クラウスも神子の真実は知らなかった。
いきなり俺を押し付けられて被害者だろうに……。
「拓斗が帰りたいと言うなら、一度は帰れたんだ、何とかして方法を探す。拓斗がこの世界で暮したいというなら、不自由無い生活を約束するから……もう泣かないでくれ」
泣いていたのは別の理由だったけれど、必死に俺に謝るクラウスに申し訳なくなって必死に涙を隠して笑顔を作った。
「じゃあいっぱい、わがまま聞いて貰わなきゃな」
「……やはり拓斗は強いな……」
クラウスは少し寂しそうに笑った。
強くなんかは無いんだけど……ただのやせ我慢だし……何となく気まずくて少し視線をそらした。
仄かな明かりしか無い薄暗い室内に光りの粒が一つ二つと集まって来る。
精霊達は花にの周りを囲う様に飛んでいる。
「精霊達が集まって来てる……」
クラウスが精霊達に手を伸ばすとクラウスの手に精霊達がすり寄った。
「クラウスにも見えるのか?」
前は見えないって言ってたのに。
「この離宮に来てから……指輪の場所を教えて貰って……」
「指輪って?」
「黒い……指輪」
急にクラウスの顔が真っ赤に染まった。
「俺ので良かったんだよな?俺に……その……お前の色をくれようとしてたんだよな?」
探る様な……願う様に横目で見上げて来る……こんな顔も出来るんだ。
思わず吹き出してしまった。
「笑うなっ!!……あ……セルリアにあげるつもりだった……とかか?」
「何でそこでセルリアさんが出てくるんだよ」
「セルリアと楽しそうに指輪を選んでたから……」
これは本当に誰だ?
拗ねた様に俺の膝に顔を埋める姿は俺の知ってるクラウスの姿ではない。
……俺は長い間眠っていたみたいだけど、その間に何があったんだ?
「まさか……ガ……」
顔を上げたクラウスは何かを言いかけて、止めた。
「まさか、何?」
「いや……何でもない……」
何を言いたかったのか分からないけど、あの指輪がクラウスの手に渡った事が嬉しかった。
直接拒否された訳じゃなかったけど……誰にも受け取って貰えない指輪が受け入れて貰えない自分そのものみたいな気がして何処かにやってしまっていた。
「クラウスのだよ……そっか……受け取って貰えたんだ。良かった」
「……木になってしまったが……この木が拓斗を目覚めさせてくれた」
指輪がこの木に……?
クラウスの力で生えたものだと思ってた。
精霊はそうしている間にもどんどん集まって来ていて、部屋の中が昼間の様に明るくなる程の精霊が飛び回っている。
その光に照らされて、俺とクラウスが見守る前で花は散り……そして後には大きな果実が残った。精霊達は嬉しそうに実の周りを飛び交っている。
その実を近くで見ようと大層立派になった指輪から指を引き抜き、立ち上がろうとした体はぐらりと揺れた。
「ありがと……」
ベッドから落ちそうになった所をクラウスに助けられてしまった。
「ずっと寝たきりだったんだ。筋力が落ちていて当然だろう」
「実を近くで見たくて……」
クラウスに支えられながら実に頬を寄せると……鼓動が聞こえる。
命の鼓動……。
「美奈……」
「ミナ?」
帰って来れたんだ。
パルミナの子供ということは……この地に再び大精霊が誕生する。
精霊達はそれを祝福する為に集まって来ていたのか。
この木こそ正真正銘、第2のパルミナの木。
不思議そうに俺の様子を伺っていたクラウス。
ちょっとした悪戯心とこの世界に振り回されたちょっとした復讐。
今度は俺がこの世界を騙してやろうかな……俺とクラウスの指輪から出来た木だし、あながち間違ってはいない……軽い気持ちで実を抱きながらクラウスに笑いかけた。
「クラウス……パルミナの実……俺とクラウスの子供だね」
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