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第24話

……あんな馬鹿な事、言うんじゃなかった。 後の祭りと言うか……後悔先に立たずと言うか……。 どれだけ悔やんでもクラウスは戻って来ない。 俺がパルミナの子を『クラウスと俺の子』と言った途端、訂正する間もなくクラウスは怖い顔をして「寝てろ」とだけ言って屋敷を出て行ってしまった。 追いかけようにも弱った体は立ち上がる事も出来ない。 もう何時間立ったんだろう。 薄暗い部屋の中……。 精霊達だけが慰める様に側に来てくれる。 側に居て欲しいなんて言うから、これぐらいの冗談は笑って許してくれると思ったんだけどなぁ。 俺と子供できるのそんなに本気で怒るぐらい嫌なのなら側に居てなんて甘い言葉を言わないで欲しい。 クラウスの考えてる事分かんない。 『……ナカナイデ』 『ナカナイデ……』 それは、よく耳を澄ましていないと聞き逃してしまいそうな程の小さな小さな囁き。 どうやら精霊達の声の様だった。 今までもこうして話しかけてくれていたのだろうか? それともパルミナの花が咲いた事で喋れる様になったとか? 『ユーグアス モドッテクル』 「ユーグアス?」 ユーグアスって何だ? 『ユーグアス パルミナ ノ タカラモノ』 『タカラモノ ノ タカラモノ マモル』 『パルミナ ノ ネガイ』 「パルミナの宝物?」 ユーグアス……人の名前? パルミナの宝物……クラウスの話に出て来た王子の事か? 『ユーグアス カエッテキタ』 精霊の言葉通り玄関のドアが開かれる音がして忙しない足音と共に沢山の精霊を引き連れたクラウスが部屋へ飛び込んで来た。 「拓斗!!何を泣いてるんだ!?ゆっくり寝ていろと言っただろう」 飛びかかる様に抱きしめられたけど…… 「ゆっくりって……そんな言い方じゃなかったよね……凄い怒った顔で出て行ったし……」 『ユーグアス ケガ ナオス』 『……ユーグアス ムチャ バカリ』 よく見ればクラウスは擦り傷だらけで、精霊達が周りを飛び回り傷を治している。 どうやら精霊達はクラウスをユーグアスという人物と思っている様だ。 話の流れからユーグアスはパルミナと恋仲だった王子。 精霊達の話し方からあまり知性は無さそうだし……王子を守るというパルミナの意思に添って、クラウスを守っているのかも。 「お腹空いただろう?まずは簡単に食べれそうな物を持って来た……」 そう言うとクラウスは持っていた鞄の中から果物やらパンやらを取り出していく。 「ありがとう……でもそんなにお腹は……」 「何を言ってる!母体がちゃんと栄養を取らないと健康な子供が生まれないだろう!!」 「お……俺の子なんだろう?」 照れた様に真っ赤な顔でこちらを伺うクラウス……本気? 「ちゃんと責任は取る!」 力強く俺の手を握り、その瞳に宿る光に迷いは無い。 本気だっ!! 「いや……あれは冗「拓斗も生まれて来る子供も2人とも必ず幸せにするから……」 ……ヤバい……冗談でしたって言えない雰囲気だよ。 ダラダラと冷や汗が溢れ出た。 いや、木の実だよ? 普通本気にしないよね? 「拓斗……お前の世話は俺が全て見るから、早く元気になってくれ」 心の底から嬉しそうな笑顔を向けられて……俺はコクコクと頷くしか無かった。 ・・・・・・ クラウスは器用に何かの果物をナイフで剥いて一口大に切り分けていく。 「拓斗……口を開けて」 フォークに刺された果物を差し出されるけど……くすぐったい!! 「一人で食べられるから!!大丈夫!!」 「いいから……早く口を開けて」 「嬉しくて仕方ないのですよ。甘えてやって下さい」 クラウスの微笑みに逡巡していると扉が開いてセルリアさんが入ってきた。 「もう着いたのか。早かったな」 「死ぬ気で走れと指示されましたので……」 ドアの向こうを覗くとハリスさんとマリーさんが床に座り込み肩で息をしていた。 「身重のお前を移動させる訳に行かないからな……ここで生活出来る様に急いでマリーとハリスを連れて来た」 身重って俺は別に妊娠してないし……。 「いきなり屋敷に戻るなり『子供を授かった』と大騒ぎされた時には驚かされましたが……あんな幸せそうなクラウス様を見たのは初めてです……神子様、クラウス様を宜しくお願い致します」 セルリアさんは片膝をついて恭しく頭を下げた。 扉の向こうでマリーさんとハリスさんも頭を下げている……どうしよう……王子を謀った罪で殺されるかも……。 「ほら、拓斗……口を開けて」 クラウスは諦める事無く果物を押し付けて来る。 皆に見つめられ、ハードルが上がった。 こんな事ならさっさと食べておけば良かった。 「クラウス、恥ずかしいからいいって……王子様自らそんな……マリーさんとか……」 マリーさんなら母親に看病されている様な感じでまだいけそう。 「お恥ずかしい事なんて何もありませんわ!!神子様がお眠りになられている間、クラウス様はそれはもう献身的にお世話されて……お食事に、身を清める事から下の「うわぁぁぁっっ!!食べます!!頂きます!!」 慌ててクラウスの差し出す果物を口にした。 意識が無かったとは言え、俺はクラウスに何をさせてたんだ……!! 「あんなに真っ赤になられて神子様は本当に可愛らしい……パルミナの花が咲き……優しくて可愛らしい王妃を迎えられ……仲睦まじく、この国の未来は安泰ですわね」 「王妃!?」 俺の事か!? 「何を驚く?俺が王位を継げば拓斗が王妃だ。当然だろう?」 「いやいや……冷静になれって、俺男だから……」 男の王妃なんて誰も認めないって。 「神子で世継ぎも残し……文句を言うヤツなど誰もいない……寧ろ最高の王妃だと大歓迎されるだろう」 うん、うん……と頷き合う一同……。 どうしよう……。 今さら俺の子じゃないなんて言えない。 でも……このままじゃあ結婚させられて王妃にさせられてしまう。 全然、そんな柄じゃ無いって。 ……て、言うか子供が果実な事、誰か疑問に思えよ!! 俺の心の中の突っ込みも虚しく、皆生まれてくる子供の話で盛り上がっていた。

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