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第1話 酷いオトコ

 高校一年の時、明弘の誘いで部屋へ行き、キス以上の事をされそうになった。  でも、何故か心が拒絶反応をしてしまい、その先をする事は無かった。  そんな時だ。桃矢に恋人ができたと知ったのは。  相手は上流階級のαの女性らしい。  でも、それを桃矢本人から聞いたわけではない。明弘がそっと教えてくれたのだ。  桃矢に恋人ができたと知った春樹は、その夜、何故か心が少しモヤモヤしてしまい、全く眠れなかった。 「彼女とはどう?」  数日後。明弘に誘われ家に行くと、リビングに桃矢がいた。久しぶりに桃矢の顔を見て嬉しくなり、明弘がトイレに行っている間、そう唐突に聞いてしまった。  すると、桃矢は春樹のその発言を聞き、突然いつもよりも不機嫌になる。 「ハァ? 急に何?」 「いや、なんか気になって……。だって、桃矢って誰かと付き合うとか無理だと思ってたから……余程その子が特別なんだなって……思って……」 「特別? 別に顔がまぁまぁで、胸がでかいから付き合ってるだけで、そんな事思った事、一度もねーよ」 「うわっ、それ酷くない?」 「そうか? あっちだって同じようなもんだろ。俺の家がα血統だから執着してんだよ」 「そ、そんな事ないよ……。あ、αとか……Ωとか……関係ないよ……」 「関係ない? それ、お前が言う?」 「え……?」 「Ωで嬉しいって喜んでたじゃねーか」 「そ、それはだって……」 「だって? ハッ、よくそんな事言えるよな。兄貴と番になれるって喜んでたじゃねーか!」  桃矢は持っていたグラスをダンッと音を立てテーブルに置いた。その瞬間、中身が外に飛び散り、床が濡れる。 「この家はな、Ωなんて嫁、いらねーんだよ!」 「!」 「チッ……泣くなよ」  泣くな。よくそんな事が言える。 「桃矢って……ほんと……最低だね……っ」  最低最悪な男。Ωの春樹に、よくそんな冷たい事が言える。  桃矢はいつもそうだ。春樹には冷たい。冷たくて、酷い事ばかり言う。 「お……俺には明弘がいればいいもん。明弘が俺の事好きだって言ってくれてるから、それでいいもん」  番になりたいのは桃矢ではない。明弘だ。だから、そんな事を言われても傷付いたりなんかしない。 「ああそうかよ。勝手に番にでもなってろ!」  そう言って勢いよく立ち上がり、春樹の横を通ってリビングから出て行く桃矢。その残り香が虚しい。  甘い甘い桃矢の匂い。それが、いつも春樹の心を締め付けるのだ。 「桃矢の馬鹿……嫌いだ……っ」  桃矢に何か言われる度、桃矢の苛立つ顔を見る度、傷付く心。こんな想い、もうしたくない。  春樹はこの時から、早く、明弘と番になりたい。そう、強く強く思うようになる。  でも、春樹の思いは直ぐに叶う事はなく、季節だけが過ぎて行くのだった。

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