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発情
「はぁ、ミケ疲れてるだろうけど、帰ってきたら抱いてもらうしかないか···今日、仕事だし」
そう、俺のこの微熱、熱りはミケの精液を受けなければ治まらない。
発情期間中は、身体が柔らかくなったり敏感になったりするものだけれど、それは我慢できる。
しかし、そもそもミケの精液を身体に受けなければ、正確には胎内に射精してもらえなければ俺には命の危険だってあるのだ。
多少疲れていてもミケには協力してもらう必要がある。
そのとき、玄関の扉が大きく開き部屋の中が日だまりの匂いで満たされる。
「ただいま!歩!」
夕日に輝く橙色の鬣に逞しい筋肉を惜しげもなく晒したタンクトップにニッカポッカを履いた出で立ちでミケは帰宅した。
「おかえり、今日もお疲れ様。飯?銭湯行く?」
俺は火照った身体を誤魔化してまずは、ミケの苦労を労おうと努力した。
「あーうーん、そうだな今日熱かったし、銭湯···いやまてよ」
そう言ったまま、ミケは俺の身体の匂いをかぎ始めた。
必然的にそうなれば、ミケの匂いを俺も嗅ぐ羽目になるわけで、オメガとしての俺の本能も抑えることが難しくなってくる。
「お前、発情期か。辛いだろ?ちょっと汗臭いけど、先に済まそうぜ」
言うが早いかミケは俺を連れて小さなアパートの寝間の敷きっぱなしの布団の上に俺を押し倒した。
「わりぃ、言い訳かも知んねぇけど俺も溜まってて」
口調と体躯には似合わない優しさで俺の服を脱がしていくミケ。
そんなミケと視線を合わせるだけで、俺は涙目になってくる。
「み、ミケ、はやくぅ」
俺は生まれたままの姿に剥かれると、ミケの首に腕を回してキスをねだった。
大きな濡れた黒い鼻、長い髭。
長くざらついた舌が俺の咥内を犯す。
「辛かったな、ごめんな気づいてやれなくて」
「ううん。おれ、さきにミケの気持ちよくする」
俺の言葉でミケは膝立ちになると俺の顔を跨いでズボンを寛げる。
そこには半分だけ大きくなった雄の象徴がそびえ立っていた。
俺は、愛おしげに先端に口づけると愛撫を始める。
ミケの好きなところ中心に、先端、雁首、裏筋を舐めあげ、咥えて舌で転がす。
「歩、すげぇいい」
俺は番の大切な逸物をゆっくりと味わい奉仕する。
もっとドライな関係のアルファとオメガも世の中には多いと言うが、俺たちは互いに心も身体も繋がっていて、愛し合っているのだ。
だからこうして発情期の営みも事務的ではなく、互いを慈しみ合うような営みを続けてきた。
「ミケのおいしいよぉ」
クチュ、と卑猥な音を立てながら奉仕を続ける俺にミケの亀頭がだんだんと膨らんできた。
数日間忙しくて溜めたままだというミケの熱い液体の上澄みを口に受けようと、思い切り先端を吸った。
「ん、イクっ、うっ」
ビクン、ビクンと跳ねるミケの逸物から絶対に口を離さないように咥えこんで、液体を啜る。
ひとしきり射精の終わったミケの逸物が口から抜けていくが、それは最初に奉仕するときより興奮してより大きく育っており、ミケが俺の奉仕に感じてくれたことが嬉しくてたまらない。
「ありがとな、歩。いつも気持ちよくしてくれて」
おでこにキスを落とされた。
汗で濡れた前髪をはらりと上げられて施されたそのキスは、蕩けるように優しく、そしてキスの瞬間に彼の鬣に埋まってしまった俺の鼻は確実にアルファのフェロモンを感じていた。
「さぁ、次は歩の番だ」
少しぐったりとした俺の身体を二、三回大きな手でさすり、ミケは胸の飾りを弄り脇腹をくすぐる。
「んっ、あっ、やっ」
「本当はしてほしいくせに」
いたずらっぽく微笑む彼の指の鉤爪は仕舞われ、さすられる全身が心地いい。
本来は種を付け、強引にでも子孫を残すだけの行為だというのに。
ミケとの行為には本当に心からの愛がある。
それを感じさせる愛撫だ。
「で、どうする?どの体位がいい?」
ミケはいつもそうやって俺のしたいようにしてくれる。
それに俺は顔を赤くしながら答えるのだ。
「きょ、今日はバックで···お願い」
力を振り絞りうつ伏せになると、ミケは腰を掴んでゆっくりと持ち上げてくれる。
「じゃあ挿れるぞ」
一度、アルファの匂いを嗅いだ俺の身体はすでにその硬直を直ぐにでも受け入れられる身体になっていて、ミケのその大きな逸物もたやすく迎え入れていく。
「やっぱり歩のナカはいいぞ。あったけぇ」
俺のナカはミケの形をぴったりと覚えていて、まるで鍵と鍵穴のようだ。
「おれも、きもちっ!」
そのまま、ゆさゆさと俺の気持ちいいところだけミケは抉ってくれる。
ミケはゆったりと俺を感じさせ、味わいながらそして何より慈しみながら、徐々に性感を高めていった。
「歩、そろそろ出すぞ」
「ふぅ、あぁぁあ!」
後ろからギュッと抱きしめながら最奥に精液を放出した。
「ん!んっ!あっ!」
ふぅ、とゆっくりと逸物を僕のナカから抜いていったミケ自身を俺はお掃除する。
「やめろ、いいから。んなことしなくても」
「いいの、お礼。ありがとう楽になったよ」
俺の生理的なオメガとしての昂ぶりはミケのおかげで大分楽になった。
そして、そのおかげで次の発情期まで、極度の熱に浮かされることはなくなったのだが、まだ発情期の期間中は身体が柔らかく性感帯も感じやすく普通に生活するには難儀な状態が続く。
なおかつ、雄のアルファのみならずベータのホルモンにも発情しやすくなってしまうため一般的なオメガは家に引きこもりがちになるという。
しかし、俺たちは事情が違う。
俺たちの安定した生活には金が必要で、それにはミケだけ後からでは不十分だと言うこと。
そこで、俺は考えついた。
このオメガの不利益な点を使って、商売をしようと。
ミケ以外とは子供が成せず、そして感じやすく、男たちを引きつけるフェロモンを放つ身体を使って家計を助けようと。
ミケには内緒にするつもりであったが、やはり俺たちのつながりの深さを考えると秘密にすることにはできなかった。
もちろん、相談するとミケは激怒して、止めた。
しかし、二人の間に置かれた家計簿、二人の夢。
子供の話をするうちにミケは涙ながらに頭を下げてきた。
『いいんだよ、俺が好きでやるんだから』
ちょうど一年前の話である。
それから、俺は発情期の度に街に出て春を売る。
巷のSNSではこぶ付きオメガが身体を売っていると話題になり、俺もしばらくして金が貯まるとスマフォ契約してSNSでも客を探すようになった。
それから、客がつくかはどうかの心配はいらなくなった。
今週も、そんな一週間が始まるんだと思ってボーッとしているとミケに背中をたたかれた。
「一発しちまったし、風呂屋行くか?今日は親方からスパ銭のサービス券をもらったんだ。そっちでゆっくりしてこようぜ」
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