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レイプ

言いながらミケはウェットティッシュで俺の身体を清めてくれる。 いつも行く銭湯はもう築40年以上のただの銭湯だが、俺たち二人がゆったりと浸かれるタイル張りの古式ゆかしい風呂桶が気に入っていた。 ただ、スーパー銭湯となると多種多様なバラエティ溢れるお風呂にサウナ、日常的に身体を酷使しているミケを労うためにもたまにはいいかもしれない。 なおのこと、サービス券まであるのだ。 断る理由もなく、夕食前に俺たちはそのスパ銭で汗を流すことにした。 並んで歩くだけで分かる体格差。 逞しいミケに細身の俺。 番である証拠の首もとの咬み跡を俺は隠さずに歩くことにしている。 この咬み跡がつけられ、俺たちが正式な番になったのは2年前、ちょうど自分たちの根城を確保した晩のことであった。 俺はその日を懐かしみながら、咬み跡に手を這わせながらミケの隣を歩く。 左手で、ポンポンとミケの手をたたくとそっとその手を握ってくれた。 街は夕暮れの喧噪に包まれていながらもどこか寂しくもある。 路地を何本か過ぎ、くねくねと回り、線路を越えて大通りに出る。 自動車の騒音と排気ガスにしかめ面をしながら、横断歩道を渡る。 先ほどから気になるのが、周囲からの視線である。 同性愛者を見るそれとはまた違った、好奇の視線、さげすむような視線、もう慣れっこではあるが俺たちアルファとオメガがこうして仲睦まじく歩く姿は、今のこの国ではまだ異様に見えるようだ。 特に俺たちは、ミケはアルファでは珍しい低所得者層。 そもそも、高所得者が多いアルファとオメガのカップルがこうして人目につく場所を人目につく方法で移動していること自体が珍しいのだ。 大抵はスモークガラスのかかった車で移動しているし、オメガだって首の傷跡を夏でも隠すような服装を好み、発情期だと気づかれない香水を振りまいているのだから。 そんなことを考えるうちに、ミケに手を引かれて到着したのは最近新装開店したスーパー銭湯「大志の湯」である。 下駄箱に靴を預けて、鍵と一緒にサービス券をフロントに見せる。 「お二人様ですね、こちらロッカーの鍵になります-」 気さくな笑顔でフロントの猫獣人の女性に見送られて、俺たちは男湯に向かう。 「やっぱり新しいところは綺麗だね」 「そうだなぁ、俺たちまだ行ったことはないけど、温泉旅館とかもこんな感じなのかねぇ」 そんな初々しい会話をしながらロッカールームに到着すると客入りはそこそこと言ったところで、人に獣人にそこそこの男たちが出入りしていた。 全員がベータのようである。 そんな、ある意味差別的な環境の中で俺たちは服を脱ぎ始める。 ミケが持ってきてくれたダッフルバッグには二人分のお風呂セットが詰め込まれていて、大きなバスタオルが二枚とハンドタオルが二枚、ミケのボディソープ『TheBigCatSaop SAVANNA』と俺のボディーソープ『いっぽん丸ごと全身ボディーソープ シトラスグリーン』が仲良く収まっていた。 俺たちはおのおの準備を整えると大浴場へと向かった。 「すげぇ、天井たけぇ、8つも風呂がある!」 ミケが感嘆の声を漏らした。 「スパと言うより湯屋に寄せてあるのかな、詳しくないけど」 洋風と言うよりは和風の木組みでできており、しっかりした梁を持つその大空間にはもくもくと湯気が立ちこめ、それだけで身体の疲れが癒やされるようだ。 「ほら、ミケ!かけ湯!かけ湯!」 俺は滾々と湧き出るかけ湯の浴槽から桶にお湯をとってミケに頭からかける。 「ん!ブはっ!おまっ!」 突然のことに驚くミケ。 それにしても濡れた獅子、妖艶である。 鬣はぴったりと頭蓋に張り付き、乾いているときは男らしい髪型は幾分か女性的に垂れ下がり、全身の体毛は鍛え上げられた肉体に密着する。 その相反する美しさに息をのんでいると、俺が桶を持つ手を柔らかなムチがパチーンと叩いた。 ミケの尻尾である。 「こらー!歩!」 「ミケは後ろが甘いっ!」 「こにゃろー!」 そして俺にも、大量のお湯が頭からかけられる。 かけ湯として適温のお湯は心地よく、身体をすばやく清めてくれた。 そのまま、笑い合い幸せを実感しながら洗い場に向かう。 「ミケ、背中流してあげる」 「おう、サンキューな」 そう言って洗い場にしゃがんだ刹那。 「んっ、あっ」 「どうしたっ、歩?!」 尻に感じた違和感につい声を上げてしまった。 「ごめ、さっきのミケのが出てきちゃって」 「わりぃ、掻き出してなかったもんな」 オメガの身体が吸収しなかったミケの精液が太ももを伝う。 「ごめ、大丈夫だから」 誤魔化して、敏感になりつつある尻を大浴場の方に向けてミケの身体にボディーソープを垂らし、泡立て始めた。 大きな獣人の身体は洗い甲斐がある。 鬣を一気に泡立てて、手ぐしでゆっくりと地肌をマッサージする。 すると、ミケは心から気持ちよさそうに喉を鳴らしてくれる。 気持ちいいんだな、と思いながら今度は流れに乗ってそのまま背中をゴシゴシとこする。 「歩、最高っ、生き返るわ」 「へへ、いいとこ全部押さえってからね」 そうやって仲睦まじく背中を流しているときであった、先ほど大体を伝った精液をなぞるように不快な感触、明らかに獣人の爪先のようなものが身体を走る。 「ひゃぁっ!」 「どうした?」 「誰かに触られた!」 そう言って、後ろを振り向くがそこにあるのは湯煙と湯屋の喧噪だけである。 当の痴漢はそこには居なかった。 いや、そもそも痴漢かどうかも怪しい。 気のせいなのかもしれないと思っていたが、鬣を濡らしてしいたミケの耳は警戒心にピクピクと動き、不意に俺の身体を抱き寄せていた。 あの路上生活に等しい状況下で俺を守ってきたあのときのようである。 しかし、俺も大分強くなった。 「ミケ、大丈夫だよ。ほら続き」 無理矢理ミケを自分から引き剥がして身体を洗い続ける。 逞しいその身体にも、現場で何度か怪我をしたことのある傷跡が残っていて、痛ましい。 安全具を付けろと現場監督や親方から手渡された経費を家に入れて、自分は獣人だからと大丈夫だと高をくくっていた代償である。 その痛ましい傷跡に深い愛情を感じることは多々あるも、そのあと実際に事故を起こして大目玉を食らい、今ではきちんと安全第一を心がけている。 俺たちには確かに金が必要だ。 だがそれ以上に、絆が必要なんだと思わせるのがこの傷跡なのである。 尻尾の穂先まで綺麗に泡を落とし、その日の埃と汗が落ちるとそこに居るのはいつものミケより数段雄らしく、王者の風格を纏いながらも、いつものように太陽のように笑う獅子獣人であった。 「さ、次は歩むの番な」 言うが早いか、俺は椅子に座らせられて全身をガシガシと洗われる。 その大きな大きな獣人の手、毛皮は人肌を洗うのにピッタリで、あっという間に俺の身体の汚れも落ちて一皮むけたようにスッキリしていた。 「よっしゃ、じゃあ早速ザブンと風呂、入ろうぜ!」 すっかり気分上々になったミケに半ば抱えられ一番大きな風呂にダイブする。 ふぅと広げられたミケの腕の中にちんまりと収まった俺は俺で、足を伸ばしゆっくりとリラックスする。 「いい気持ちだなぁ、歩」 「そうだね、ミケ」 「幸せだな、親方に感謝しないと、だな」 うん、と頷いて目を閉じる。 ミケの匂いと、発情期の激しくはないけれど断続的に続く火照りと、お湯の温かさと幸福感が体中を支配する。 しばらく、浸かっているとミケが提案してきた。 「俺、あっちの電気風呂いってくるけど、行く?」 俺はあの低周波の電気風呂が苦手だった。 たとえ、ミケが一緒でも断るには十分で。 「ごめん、俺サウナ行ってくる」 「わかった、じゃあ程々のところでまた、集合しようぜ」 「のぼせるなよ」 「そっちもねー」 そう言って別れて、俺はサウナの扉を開けた。 小窓から見るに、人は居ないようで若干照明が抑えられたサウナはどこか雰囲気が違っていた。 何の気もなくサウナの扉を押して入ると、そこは思ったほどの高温ではなくちょうどいい温度と湿度に保たれていて、そこそこ長居はできそうだと直感した。 俺は、奥の方の椅子に腰掛けようと振り向いた瞬間。 「んっ!」 そこには人相の悪い狼獣人が座っていた。 まるで身を隠すように。 そして、獲物を狩るような視線に狼狽えながらも、驚いてしまったことに罪悪感を感じペコリと会釈する。 ニヤリと笑い返されて、虫唾が走った。 出よう。 そう思った刹那、腕を捕まれた。 「サウナは15分くらい入ってないと効果はないらしいぜ。オメガのお兄さん」 その一言で、全てを察した。 さっき、ミケの身体を洗って居たときに俺に痴漢を働いたものの正体を。 この狼獣人だ。 「離してください」 「嫌だね。旦那に種付けられたまま悦んでホイホイスパ銭に来るような淫乱オメガなんてちょうどいいオモチャじゃん。抵抗しなきゃ無事に返してやるよ」 嫌だ。 ミケ、助けて。 そう思いながら、もしこいつが俺に金を払うのならそれは今週俺が自ら進んでやる行為とさほど変わらないのではないかと言う疑問が頭をよぎる。 「さ、さんまんください。そしたら、あなたのすきなようにしてもいいです」 情けないと思った。 大事な番と壁一枚隔てただけで、こんなことを言う自分が情けなかった。 「ちょっと顔、よくみしてみ」 狼が俺の顎を掴んで面通しする。 「お前あれじゃん。SNSでウリやってるオメガじゃん。本物初めて見たわ。いいよ三万出すよ」 俺は奥歯がギシギシと鳴るくらい歯をかみしめた。 「好きなように、してください」 そう言うと、狼は突然、俺の唇を奪い咥内を蹂躙してきた。 生理的な嫌悪感に涙が溢れる。 そして、そのまま俺の髪の毛を掴み言った。 「壁に手を付け」 サウナの熱く湿った板に手をつくと、狼は何の躊躇もなく俺のアナルに自信の滾った逸物を挿入してきた。 「オメガの発情期ってこんなに具合がいいんだ、うひょー最高じゃん。大トロケツマンコってか?」 ヤクでもキメてやがんのかと言わんばかりのテンション。 「んっ、んっ、んっ、あっ」 尻の肉を掴んで、もみし抱きながら手前勝手に腰を振る狼は気持ちよさそうだった。 そして、そのときは直ぐに訪れて。 ナカに大量に出された。 「ふぅ、よかった。よかった」 「もういいでしょ?放っておいてください」 「つれねぇなぁ」 「で、支払いはちゃんとするよ。ロッカーの番号は?」 おれの腕の番号を狼は見た。 レイプまがいのことをしておいて、金を支払えばいいなんて当てつけだ。 「3025ね、じゃ、またご縁があれば」 そう言って出て行った狼獣人の後を追うように俺はサウナから飛び出し、洗い場に一直線。 嘔吐きながら、ナカに出された精液を掻き出した。 10分後、ミケと合流した。 俺は笑顔を取り繕って、ミケの後ろをついて回っていろんなお湯を回った。 ミケの匂いが、存在が俺を安心させる。 大浴場の時計も19時を回ったあたりだろうか? 俺たちは、脱衣所に戻ってきた。 バスタオルを出そうと、鍵を開けた途端、俺のロッカーの隙間から1万円札が三枚飛び出してきた。 俺は急いでそれを拾うが、隣にいるミケはえらく戸惑っているのが手に取るように分かる。 「何かあったのか?」 「ううん、別に」 「その金は?」 「その、ちょっと」 「仕事の約束でもあったとか?」 怒っているとかそういうのではない。 ミケはなにかを嘆いているような表情で俺を見下ろしていた。 「ごめん。サウナでその合意の上で···」 「お前はそんなやつじゃない!!!」 すごまれると、俺は弱い。 「またレイプされたんだろ!俺に気を遣って、強がって買ってくれるならいいとか言って、レイプされたんだろ!」 「ごめん」 「こんな金で大事なお前が!」 「ごめん、でも一円でも多く稼げれば···」 「もういい、分かったよ、ごめんね歩。帰ろ」 うなだれたミケについて俺は銭湯を後にした。 帰路についた後に交わされる何事もなかったかのような会話が逆に辛い。 ミケは、俺のカレーがどうとか現場がどうだったかとかいつも通りに話してくれる。 でも、そんなミケはどこか悲しそうで、同じように何もなかったかのように相づちを打つ俺も悲しかった。

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