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わかれみち
家に帰り大鍋1つ分のカレーを平らげた俺とミケは睡魔に襲われていた。
特に、一日中力仕事をしているミケは、そのまま布団まで這っていき、寝息を立て始めてしまった。
俺も隣でと思った刹那、スマホの通知が鳴り響く。
SNSのメッセージだ。
『今日あたりから予定日だよね?ホ別4万円でどう?朝飯おごる』
そうだ、発情期の副業···
あんなことがあった後でも、俺は···
その決意に突き動かされ、俺はミケにお休みのキスを落とし数着しかない勝負下着を履いて家を出た。
買春の相手は何度か寝たことのある人物で、一見さんよりよっぽど信頼ができる。
俺は、いつもの待ち合わせ場所である新宿のファミリーレストランへと向かった。
気だるそうに、コーヒーをかき回している虎獣人のサラリーマン。
件の客である。
「歩くん、早かったね。何か飲む?」
「あ、あの結構です」
「つれないねぇ、何かあった?」
この人は、最初こそただの客だったけれど今では、世間話とちょっとした愚痴を言い合う仲に発展した。
「しつこいっす」
「まぁいいや。君の旦那君と一緒でネコ科の勘ってのが働いたんだけどね」
俺はしどろもどろになりながらも、話をそらすことにした。
「さっき、沈めてもらったんですけど今日一日目ですよ。高倉さん運がよかったっすね。今日は具合いいですよ。だから、早く行っちゃいましょうよ」
どこへとは言わない。
「ふーん、じゃあ行くか」
会計を済ませて、俺たちはこの目的におあつらえ向きのラブホテルに入った。
「はい、前金制でだもんね」
そういって、茶封筒に包まれた4万円を渡してきた高倉に感謝を伝えた。
「実は、俺ジムで風呂済ませてきたからもう始めたいんだけどいい?」
「俺も、風呂とか準備できてるんで、いいですよ」
俺は高倉の縞模様に甘えるように指を這わせ、服を脱がせる。
ミケ、ごめんと心の中で何度も何度も謝りながら。
「歩くんも刺激的な下着履くようになったね。フェロモンは充分出てるのに」
ベータの高倉にもオメガのフェロモンは充分に分かるようで、もうすでに雄の象徴はいきり立っている。
「高倉さん、脱がせてください」
そう言って、腰をくねらせる。
「仕方ない子だね」
脱がされると、露わになる性器ともうひとつにオメガとして性器と化した場所が恥ずかしくて、それを隠すように高倉にキスをねだる。
「今日は積極的だ」
縞模様にキスを落としていき、その大きな逸物を口に含む。
ミケのものとは少し違う形をしたそれに奉仕すると、高倉は心地よさそうに喘ぐ。
「ああ、いいよ歩くん」
頭の上に手がのせられて半ば無理矢理に上下させられ、口の中を縦横無尽に使われる。
これくらいなら可愛いものだ。
しばらくそうしているうちに、高倉は俺の頭を抱え込む。
彼の放出の宣言だ。
俺は意を決して準備する。
口の中に放出される熱い迸りを少しずつ飲み下すと、高倉はえらく満足そうに俺の頭を撫でた。
「ごめん、溜まってたんだ。すぐに本番いい?」
俺たち番を持ったオメガとのセックスの利点はナカの具合がいいこと。
そして、妊娠する心配がないことだ。
更に、人間と獣人は遺伝子レベルで構造が違うため、共通の性感染症を今のところ持っていないため、避妊具を付ける必要がないのだ。
「いいっすよ。体位は?」
事務的に聞く。
すると、そのさっぱりとした受け答えを気に入っているのか高倉は、一言で返す。
「騎乗位で」
「りょーかい」
俺は、高倉の逸物の上に跨がり一息に挿入した。
やっぱり、発情期間だから身体が柔らかくなっているのを感じる。
「やっぱり期間中の歩君は最高だね」
「ん、まって!でも動かないで!」
と言ったものの番でない者との交わりは、そう楽ではない。
「もう大丈夫そうじゃん」
そう言って、高倉は下から思いきり突き上げてきた。
人のことも考えないで。
「んっ!ひゃ!まだ、なれてないから!奥!だめ!感じ過ぎちゃう!」
「自分で好きで身体売ってるくせに、快感なれてないみたいなウブなとこ好きだよ」
そのまま身を起こした高倉と対面座位となり俺は快楽を逃がすために足と手を大きな虎に絡ませる。
もちろん、誤解されるような格好である。
「あ、そんなに感じちゃってくれてるの?じゃあもうちょっとサービスしようかな」
「まって!無理!無理だから!!!」
そのまま、容赦なく続く腰のグラインド。
「あっ、もう出してしまいそうだ」
「ナカに、出していいから!許して!」
「言われなくても!」
熱いものが放たれる。
胎内に、じっとりと。
俺とは何の関係もなく生命を生み出す兆しもないただの虎獣人の体液が。
その後、2ラウンドほど交わった後に、俺は高倉と向き合ってベッドに横たわった。
あと数分したら、帰らなくては。
俺は、どうしても商売相手とは朝だけは迎えたくなかった。
いくら朝食をおごると言われていても、おごられたことはない。
だから、始発の電車で家に帰りミケの隣に潜り込む。
「なぁ、歩。なんか悩んでんだろ」
「そりゃあね、オメガだし、発情期だし」
「そういう話じゃなくてよ、今日なんかあったろ?」
付き合いは薄くても身体を重ねる付き合いをしているから分かるのだろうか?
その嘘をつけそうにない視線に俺は仕方なく答えた。
「今日、旦那と行ったスパ銭でレイプされたんです。癪だったから金はぶんどりましたけど」
高倉はえらくびっくりしていた。
「金を取ったからって、レイプはレイプだ。そもそもこうして君と寝てる俺だって罪悪感があるのに。碌なやつじゃない」
「だったら、早く帰してくださいよ」
俺は、その問題提起そのものから、このご時世に買春で家計を支えているという事実に話が発展しないようにするために、帰り支度を始めた。
「朝飯、おごるよ?」
「結構です。いつもありがとうございます」
「おかたいなぁ、ナカはあんなに柔らかいのに。じゃあこれ、朝飯代」
そう言って高倉は財布から二千円を取り出して俺に押しつけてよこした。
実はこれもいつものことだ。
「いつもお気遣いありがとうございます」
俺は礼をして、ラブホテルをあとにした。
まだまだ夜の装いを呈している新宿を駆け抜け、始発電車に飛び乗るとそこには夜行バスや飛行機で東京に到着した旅行客が大荷物を持って乗車していた。
俺は身体一つで、旅行者の群れに紛れ込むようにして座席に座る。
うつらうつらと眠っていると、最寄り駅がアナウンスされて、俺は飛び起きた。
そのまま、改札を通り急いで家まで帰る。
アパートが見えてきたときに俺は異変に気づいた。
部屋に明かりがついているのだ。
ミケはまだ寝ているはず。
俺は急いで、階段を駆け上がり部屋に入るとそこには、美味しそうな匂いが立ちこめていた。
「おかえり、歩」
「ミケ、どうして?!」
味噌汁やだし巻き卵を器用に作るミケに俺は驚きを隠せずに問うた。
「おまえにも、あんのかなって。いやっていうか、俺の慢心だったのかなって、俺だけがお前を守れるって。俺もお前に守られてんのかなって。だから、お前の考えもやることも全部もう一度、受け止めてみようと思ってさ。俺、頭悪いから、役所の手続きひとつお前がいないとできないだろ?それでも、俺だけが一方的に歩を守っている気になっててさ、なんか馬鹿みたいじゃん。どっかでさ、俺もオメガを斜に構えてみてたのかもな、それもそれで恥ずかしくてよ。ごめんな歩」
遠くを見つめながら味噌汁をかき回すミケは何かを悟ったようだった。
「ごめん、俺もこうして金のためって身体を売り続けて、ミケを裏切り続けて。俺の身体と心はミケを必要としていて、何よりも何よりも愛してるのに」
その言葉を聞いた刹那だった。
ミケはガスコンロのつまみを全て消し、俺に迫ってくる。
「ミケ?」
怖かった。耳元で次の言葉を聞くまでは。
「俺も、狂おしいほどに愛してんだよ、お前のこと」
そのまま俺はひょいと担がれて布団に寝かしつけられた。
ミケの体毛と体温が残るその布団にかつてないほど、強引に仰向けに縫い付けられ、口付けられる。
やっぱり、番であるミケの香りに俺は弱い。
身体は芯から蕩け、直ぐにでもミケを受け入れられるようになっていく。
「んっ、らめっ!はげしっ!」
「ずっと前から、これくらいしたかった」
貪られるような捕食者らしい獰猛なキス。
そのあまりの激しさに咥内の性感帯が激しく刺激され全身が痙攣する。
「まだまだ、終わらないから、な。お前もこうされたかったろ?ずっと」
その問いかけに俺は頷くしかない。
俺は、このアルファともっと支配的な営みを求めていたからだ。
「もうこんなに身体が熟れている」
ミケは俺の胸の飾りを軽く噛みながら吸い上げる。
「いや、いやだって、そこは!」
「感じすぎて、嫌なんだろう?」
「ミケ、今日はいじわる!」
「俺だって妬いてたんだよ!」
再び、唇を奪われると、またしても全身を愛撫される。
触られ、爪を立てられ、舐め回され翻弄される。
そして、互いに生まれたままの姿になると、ミケは俺の後穴に舌を這わせた。
「ひゃぁ、それやめて!だめだって!感じすぎて怖いっ!」
黙ったまま、舌は穴の中にまで侵入してきた。
そのまま、ミケは俺の足を掴み大きく開かせると、挿れるぞといい俺の中に押し入ってきた。
「本当は、こうして、無理矢理にでも、俺としたかったんだろ!」
「ひゃぁっぁあ!」
膨大な熱量、愛の量。
容赦のない、腰の振り方に俺は本気で鳴かされる。
これまで、ミケは自信のケダモノにリミッターをかけていたのだと俺は実感した。
ミケを受け止めないと、と俺は思い必死にミケにしがみついて、快感を耐えた。
「くそっ、出すぞっ!歩、ナカに!!!」
「いいよ、一杯出して!ナカにミケの証、全部出して!」
こんなに奥を突かれたのは初めてかもしれない。
それくらい最奥にミケは熱い生命の証、本当の希望の証を吐き出した。
「ハァハァ」
「んっ、グス、はぁはぁ」
甘美な情事の気だるさといつも以上の疲労感に俺は意識を手放した。
きっと、起きたとき隣にミケは居ないのだろうと思って。
意識が覚醒する寸前、雨が屋根を叩く音がした。
なんだかんだ言って、俺は雨が好きだ。
雨が降っていると、ミケは俺を抱き寄せて暖をとってくれていたし、最近は雨が降るとミケの仕事は休みになる。
ふと、そのことに気づいて飛び上がるように起きると、そこにはミケが居た。
「おはよう、ごめんな激しくしすぎちゃって」
ゆっくりと俺の頭を撫でるミケ。
俺は、彼の腕の中に戻ると涙が溢れてきた。
「ねぇ、俺たち大丈夫なのかな」
「大丈夫だよ、いつもなんとかしてきただろ?」
そのあと、俺たちは昼頃まで眠り、温め直したミケの手料理を堪能した。
久しぶりに食べたミケの手料理。
大きめに切られた野菜、大味の味付けがいかにもミケらしくて俺をひどく安心させた。
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