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第5話

 またか……と諦めの感情がよぎった。どいつもこいつも獣じみた欲望をぶつけることしかして来ない。馬鹿の一つ覚えみたいに、肉の塊を突っ込んで腰を振って、満足したら出て行く。その繰り返し。  くだらない。本当にくだらない……。 「……うごっ!」  その時、由羅を押さえつけていた男の一人が突然横に吹っ飛ばされた。何が起こったのかわからないまま、その男は少し離れた砂利の上で気を失った。 (え……?)  驚いて由羅は首を持ち上げた。何者かの影が素早く視界を横切った。武器を持っているようには見えなかったが、全身から雄々しい闘志が(ほとばし)っていた。 「な、なんだこいつは!」 「獣人(じゅうじん)か!? ぎゃあぁ!」  反撃する間もなく、他の男たちも次々に殴り飛ばされていく。男三人が相手でも全く怯むことなく、あっという間に全員叩きのめしてしまった。 「獣人(じゅうじん)ね……。久しぶりだぞ、そんな呼び方をされたのは」  息ひとつ乱さず、気絶した男たちを見下ろして言う。次いで、仰向けになったままの由羅に近づき、小さく笑みを漏らした。 「なるほど、やっぱりオメガの人間か。これはラッキーだぜ」 「……?」  由羅は目を細めて彼を見上げた。顔を見たかったが、月が逆光になっていてよく見えない。影の形からは若くたくましい男性を連想させたが、それだけでは彼が何者なのかわからなかった。追っ手を打ち負かしたところからして、猪俣の者ではなさそうだが。 「うっ……」  その時、再び吐き気がこみ上げてきて、由羅は反射的に身をよじった。川岸まで這いつくばり、咳き込みながら数回えずいた。身体も火照ってきて、熱いのに寒いという妙な感覚に陥ってくる。  意識が朦朧として、由羅はバシャッと川の中に倒れた。 「おい、大丈夫か!?」  若者が慌てて由羅を抱き起こしてくれる。せっかく顔が拝めるかと思ったのに、今度は視界がぼやけてしまってよく見えなかった。 「しっかりしろ! すぐ治療してやるからもう少し頑張れ!」  大丈夫です、お気遣いなく――そう言いたかったのに言葉にならなかった。  由羅はそのまま気を失った。

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