6 / 31
第6話
背中に柔らかな布の感触があった。周りもどことなく暖かい。
由羅はゆっくり瞼 を開けた。最初に目に入ったのは、豪奢 な模様が描かれている天井だった。よく見たら、それは天井ではなく寝台に繋がっている天蓋 の裏側のようだった。
(どこだ、ここは……)
重い腕をどうにか動かし、ゆるゆると起き上がる。首を回して周りを見てみたが、部屋にあるのは見慣れない家具ばかりだった。机は普通のものより脚が長く、椅子も――多分、椅子だと思うが――由羅が認識しているものより遥かに横幅が広い。座り心地もよさそうだ。
窓は障子ではなく透明な板がはめ込まれており、明るい光が直接室内に射し込んでいた。
(……本当にどこなんだ、ここは?)
異国にでも来てしまったのか、私は……?
「気が付いたか」
顔を上げ、声のした方に目をやる。
長身で肩幅の広い青年が入室してきた。鬣 のような金髪と、少し陽に焼けた浅黒い肌が印象的だった。一目で自分を助けてくれた人だとわかった。あの時は顔が見えなかったが、思った以上に容姿も整っていて好感が持てた。
すると、彼はやや苦笑しながら部屋全体を見回した。
「しっかしお前、相変わらずフェロモン強いな。今はヒート状態じゃないんだろ?」
「は……?」
「年頃のオメガってこんなに匂いが強かったのか……。これはガチのヒートの時は我慢するの大変だな」
「……???」
何を言われているのかわからない。「フェロモン」だの「ヒート」だの「オメガ」だの、由羅の知らない言葉ばかりだ。やはり異国に来てしまったのかもしれない。
すると男性がひらひらと手を振った。
「ああ、悪い。先に名乗るべきだったな。俺はライアル、獅子の民出身のベインだ。よろしくな」
「は、はあ……」
「で、お前は?」
「……由羅」
「由羅か。お前、人間だよな? 猪俣出身なのか?」
「いや……あそこには囚われていただけだ」
「囚われて? じゃあ逃げてきたってことか?」
「……そんなところだ」
「そうか……。大変だったな」
そう言ったきり、閉口してしまったライアル。もっと追及されるかなと思ったが、それ以上詮索されることはなかった。全てを察したように視線を泳がせ、次に取り出す言葉を選んでいるようだった。
(それにしても、妙だな……)
ともだちにシェアしよう!