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第7話
何故この人は由羅と同じ空間にいても平気でいられるのだろう。
この匂いを嗅いでも理性を保っていられるのか。そんな男がこの世にいるのか。普通なら、すぐさま目の色を変えて飛びかかってくるのに……。
「ま、積もる話は後だ。まずはメシにしよう、メシ。由羅も腹減ってるだろ?」
「いや、私は……」
「ああ、具合が悪いようならここまでメシ運ばせるぞ。どうする?」
「…………」
どうする……と言われたが、これ以上世話をかけるのも申し訳ない。由羅は寝台から下りた。今更ながら気付いたが、着ている服も変装用の野良着ではなく、動物の毛皮を縫い合わせた薄手の衣装になっていた。肌触りもよく動きやすい。
「こっちだ」
ライアルの案内で、由羅は大広間に連れて来られた。部屋の真ん中には大きな円卓があり、数名の男女が腰掛けて各々食事を採っていた。
「おお、ボス! 今から昼メシですかい?」
「おっと、少し遅かったっすね。ボスの好物『青鹿毛 のステーキ』、こいつが全部食っちまいました」
「この人たちの鯨飲馬食 は品がなくていけませんわ。優雅なお食事などできそうもありませんわね」
……などと、口々に話しかけてくる。由羅を見ても態度を変えることはなかった。
ライアルが大きく二度手を叩いた。
「これからここのオメガも一緒に食事する。気になるヤツは退席してくれ」
「おっ! そいつが噂のオメガですか!」
「オレ、若いオメガ見るの初めてだー!」
「オメガの男性は見た目も中性的なのですね。美人で羨ましいですわ」
オメガ、オメガ……と連呼されたが、会話の流れから明らかに由羅のことだとわかった。はっきりとした意味は不明だが、なんとなく性別に関係する単語のように思えた。そして、ライアル達が由羅の体質についてある程度の知識を持っていることもわかった。
食事中だった男女が一斉に席を立つ。
「ま、オレらはもう腹いっぱい食いましたんでね。今日はこれで退散します。あ、決して匂いがどうってわけじゃないんで」
「全然気にならないわけじゃないっすけど、変な事が起きたらマズいですし」
「気を悪くしないでくださいね、オメガさん。それではごきげんよう」
そう言って、三人は出て行ってしまった。匂いが気になったのは事実だろうが、手を出してしまう前にきちんと予防線を張れることに心底驚いた。そのせいか不快な気分にはならなかった。
今までの人たちとは全く違う……。
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